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第一章 覚 醒

三十五 アラス様と中庭で

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 このまでは私は帝国皇帝の妃などという笑えない事態になる。それは無理だと思う。

 王女という肩書があるけれど今の中身は庶民なの。根はドがつくほどの庶民になっている。例えて言うなら食後のお茶は紅茶でなくてほうじ茶。抹茶でもなくて出がらしの番茶。

 だからご遠慮いたします。全力で。

 だけど――、


 その後の晩餐は穏やかに終わった。まあ、お食事中にする話題でもないしね。とりあえず、お食事中は保留にしてもらった。

 そして、彼の部屋が用意できるまで何故か私がお相手をすることになり、月が美しかったので中庭へと案内した。今はなんとアラス様と二人きりなのよ。

 でも、まあ、私は恋愛対象とするにはまだ小さいし? 次期帝国皇帝たるアラス様がそんな私においたをすることを心配する人もいないと思う。

 月明りで明るい中庭を二人でゆったりと散策していた。ふとアラス様が歩みを止めた。私は怪訝そうに見上げるとアラス様は真摯な表情をなさっていた。

「本当なら、そなたに帝国の重石を背負わすつもりはなかったのだ。そなたの小さな肩に乗せられているモノが少しでも軽くなって憂いを晴らせるならと、それだけだったのだが……」

 アラス様は私の前で片膝をついて見上げるようにしてきた。月の光の下で幻想的な雰囲気と相まってただならぬ雰囲気になっている! アラス様の瞳に星の光が宿っているように見える。

「――だが、そなたのような者はいない。いや、これからもそなたのような人は見つからぬ」

 ……こ、これって、何気にマズイのではないかろうか。

 アラス様のあまりの真摯さにその場を茶化して誤魔化すことも出来ず。私は星の光を宿したその紅い瞳を見返すだけだった。

 ――アラス様のことは嫌いではない。寧ろ推しキャラだった。だけど今の自分ではどうしたらよいのか分からない。今までリア充は爆発したことなど無かった。皆無。虚無。虚無僧。

「もし、余の隣にいるのも、顔を見るのも嫌いと言うなら諦めよう。但し、それができるかどうか分からぬがな」

「そ、それはありません! あの、その嫌いとかではなく……」

 ――寧ろ好みのドストライクでございます!

 あの覇王とも喚ばれるほどのイケメン皇帝アラス様の悲し気な言葉と様子についほだされて、

「とても頼りにして好ましいと」

 気が付いたら私は飛んでもない告白めいた言葉を返してしまっていた。

 ……だ、だって、現実でこんなシチュエーションは無かったのよ。

 アラス様の悲しそうな姿に申し訳なさすぎで、つい口がその……。

 アラス様は驚いたように見上げてきたが、口元には笑みが浮かんでいた。

「では……」

 もう、開き直るしかない。

「そうですね。わたくしも戴冠式は拝見してみたいです。それに新しい魔道船にもとても興味がありますわ。……ですが、私の体も随分良くなりましたけれど、そのような長旅ではどうなるか分かりません。それでも宜しければ参りましょう」

 私が言い終わるや否や、ぎゅっとアラス様に抱き締められていたのだ。

「ありがとう。礼を言う。確かにそなたの体は心配だな。どうにか負担にならないように考えよう」

 ――あぁぁぁ、こんな筈では。

 
 でも、帝国に行けばきっと国民や貴族達は他国の姫との婚儀など反対しているかもしれない。きっとそう。アラス様にお似合いの令嬢とかが出てきて私に嫌がらせとか婚約破棄とかあるかも。

 そんな暢気なことを私は考えていた。


 そして、私の助言により開発された魔道船に乗って帝国へと旅立つことになった。両親や兄からは最初は反対されてとても心配されたが、ゆくゆくは帝国へと輿入れが決まっているからと最後には納得してくれた。


「これがそうなのですね」

 目の前にはあの薔薇伝に出てくる魔道船があった。私の下手な絵でも伝わったみたいで私は感動して見上げていた。

「そなたのお陰だ。我が帝国は何処よりも早く強い船を造ることができた。ただ、まだ試作段階だ。それに貴重な魔石や機材を使っているので量産はできない」

「そうなのですね。それでも……、これがあればきっと」

 ――闇の神との聖戦に臨むことが出来る。そのためには飛行術式の組み換え理論さえ分かれば。


 私はアラス様と共に魔道船に乗せられる限りの護衛兵等と帝国へと向かったのだった。

 


 薔薇伝 第一章 覚醒編 了 
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