26 / 40
第一章 覚 醒
二十五 忍び寄るもの
しおりを挟む
西の樹海の街の冒険者ギルドの前でハーレムパーティを見つけたけれどその中の一人の女性があり得ないほどの大荷物を背中に背負っていた。その人の服装もボロボロで顔も全身泥まみれの酷い有様だった。辛うじて女性と分かるのは結った長い髪と緩やかな体のラインだった。
侮蔑の表情に罵声を浴びせたあと、さっさと先に行くパーティメンバーの後ろから大荷物を背負っても確かな足取りでその人はついていった。
――まあ、なんて酷いの……。それでも通りすがりの者にパーティメンバーへ口出しはできないしね。
冒険者は危険な仕事だから本人の意思が強く尊重されるのでギルドでさえ口を挟むのは憚られるところがある。というのを元冒険者が出した手記を読んだことで知っている。
ガラハド卿が先頭で中に入るとギルドの中は活気に溢れていて外で感じた暗い闇のような靄は感じられなかった。
「よお! ガラハド。子守りは大変だな」
ずかずかと大声で男性が近寄って来た。
「やあ、サブマス。相変わらず元気そうだな。しかし、失礼なことを申すではない。不敬罪で吊るし上げるぞ」
「はいはい。上でギルマスがお待ちだぜ」
ガラハド卿の窘めは全く堪えていないようだった。彼の隣を通り過ぎるとき、一際強い視線を感じた上に私にだけ分かるように呟いた。
「……へえ、こんな小さいのがねぇ。エードラムの紐付きかよ」
――何だか失礼な人。サブマスと言うことはこの西の樹海の街のギルドで二番目に偉いということじゃない。それも実務的なことはこの人が握っていてもおかしくないのに。
ギルド二階のギルドマスターの部屋に近づくほど闇は濃くなっていた。
……何だか暗い。照明をもっとつけた方が良いのではなくて?
マスターの部屋を開けるともっと酷かった。まるで瘴気のようなものまでギルドマスターから漏れ出しているように見えたのだった。
私はその黒い霧のようなもので気分が一層悪くなるのをぐっと我慢していた。ガラハド卿はそんなものなど見えないようにギルドマスターに挨拶をしていた。本当に見えてないのかも知れない。
お兄様は私の様子を覗っているので私の気分が悪いのに気がついたと思う。だけどこの視界の悪さに気がついてはいないようだった。
「王子様方、ようこそ我がギルドにいらっしゃいました」
穏やかに微笑むギルマスはとても美しい容貌の人だったけれど底知れぬ不気味なものを感じた。そしてなにより瘴気と言っていいほどの黒い何かがギルマスの体から溢れだしていたのだ。
でも、誰もそれに気がついてなさそう。
気が遠くなりそうだったけれどバタンとドアを開ける大きな音がして辛うじて正気に戻れた。するとそこにはあの失礼だったサブマスが入ってきた。
「よう、邪魔するぜ」
サブマスが入ってくると部屋の闇が急速に消えていく。何なの? この人は。
「よう、そこの王女様に来客だ。連れて行くぜ」
「いくらサブマスでも自由過ぎるぞ」
ギルマスの抗議もどこ吹く風といった様子で私に近づいた。傍でいるお兄様とバルドが警戒する。
「あんたの安全を絶対に保障する。それに気分が良くないのだろう? 騙されたと思ってついてこい」
私がお兄様とガラハド卿にどうしていいのか目線を送った。
「サブマスが言うのは理解できるが、確かにリルアは少し疲れてはいる。バルド、一緒について行ってくれ」
「はっ、畏まりました」
バルドともう二人ほど騎士団からの護衛が付き添った。ギルマスの部屋を離れると気分も楽になった。そして、階下に私が呼ばれた意味が分かった。
こんなところにいるはずのない人物がいたからだった。
「やあ、私の姫君」
「まさか、アラ……」
階下の一室に案内されて行くと既に先客がいて、笑顔でアラス様から挨拶をされてしまった。バルドは気がついて礼を取る。騎士団は戸惑いを見せたがバルドに倣った。
「ここでは冒険者アスランだ」
「お前はお姫様を追っかけてきたんだよな。嘘みてえだが。あのお前がねえ。同性愛説を通り越してロリだったとは……」
「ろ……、ど……」
「いろいろ違う! 失礼な。私は……」
「はいはい。それでエードラム帝国の紐付きのお嬢ちゃんはお疲れだから少し休ませてやりな」
サブマスは揶揄うようにアラス様に言う。以前からの知り合いのようでお互いに気安い感じだった。あのアラス様がいじられていた。
部屋にはサブマス、私の護衛騎士、バルド、アラス様。
――紐付きって、どういう意味なの? こ、婚約は便宜上で……。
「姫君、腹立たしい気持ちはとても分かるがこれでも現役のSSクラスの冒険者なのだ。許してやってくれ」
「アスラン様がそう仰るなら……。仕方ありませんわね。それでどうしてこちらに」
「いや、もともとこの街に訪問予定だったが、そなたが行くと聞いて繰り上げてやってきたのだ」
「まあそうなのですか」
モンスターの以上氾濫が聞こえていったのかしら? 今まで冒険者だったと仰っていたなら気になるわよね。
「それより、そなたの具合は良くないようだな。どれ」
そう言うとアラス様は恐れ多くも私を膝の上に抱っこをしたのだ。
侮蔑の表情に罵声を浴びせたあと、さっさと先に行くパーティメンバーの後ろから大荷物を背負っても確かな足取りでその人はついていった。
――まあ、なんて酷いの……。それでも通りすがりの者にパーティメンバーへ口出しはできないしね。
冒険者は危険な仕事だから本人の意思が強く尊重されるのでギルドでさえ口を挟むのは憚られるところがある。というのを元冒険者が出した手記を読んだことで知っている。
ガラハド卿が先頭で中に入るとギルドの中は活気に溢れていて外で感じた暗い闇のような靄は感じられなかった。
「よお! ガラハド。子守りは大変だな」
ずかずかと大声で男性が近寄って来た。
「やあ、サブマス。相変わらず元気そうだな。しかし、失礼なことを申すではない。不敬罪で吊るし上げるぞ」
「はいはい。上でギルマスがお待ちだぜ」
ガラハド卿の窘めは全く堪えていないようだった。彼の隣を通り過ぎるとき、一際強い視線を感じた上に私にだけ分かるように呟いた。
「……へえ、こんな小さいのがねぇ。エードラムの紐付きかよ」
――何だか失礼な人。サブマスと言うことはこの西の樹海の街のギルドで二番目に偉いということじゃない。それも実務的なことはこの人が握っていてもおかしくないのに。
ギルド二階のギルドマスターの部屋に近づくほど闇は濃くなっていた。
……何だか暗い。照明をもっとつけた方が良いのではなくて?
マスターの部屋を開けるともっと酷かった。まるで瘴気のようなものまでギルドマスターから漏れ出しているように見えたのだった。
私はその黒い霧のようなもので気分が一層悪くなるのをぐっと我慢していた。ガラハド卿はそんなものなど見えないようにギルドマスターに挨拶をしていた。本当に見えてないのかも知れない。
お兄様は私の様子を覗っているので私の気分が悪いのに気がついたと思う。だけどこの視界の悪さに気がついてはいないようだった。
「王子様方、ようこそ我がギルドにいらっしゃいました」
穏やかに微笑むギルマスはとても美しい容貌の人だったけれど底知れぬ不気味なものを感じた。そしてなにより瘴気と言っていいほどの黒い何かがギルマスの体から溢れだしていたのだ。
でも、誰もそれに気がついてなさそう。
気が遠くなりそうだったけれどバタンとドアを開ける大きな音がして辛うじて正気に戻れた。するとそこにはあの失礼だったサブマスが入ってきた。
「よう、邪魔するぜ」
サブマスが入ってくると部屋の闇が急速に消えていく。何なの? この人は。
「よう、そこの王女様に来客だ。連れて行くぜ」
「いくらサブマスでも自由過ぎるぞ」
ギルマスの抗議もどこ吹く風といった様子で私に近づいた。傍でいるお兄様とバルドが警戒する。
「あんたの安全を絶対に保障する。それに気分が良くないのだろう? 騙されたと思ってついてこい」
私がお兄様とガラハド卿にどうしていいのか目線を送った。
「サブマスが言うのは理解できるが、確かにリルアは少し疲れてはいる。バルド、一緒について行ってくれ」
「はっ、畏まりました」
バルドともう二人ほど騎士団からの護衛が付き添った。ギルマスの部屋を離れると気分も楽になった。そして、階下に私が呼ばれた意味が分かった。
こんなところにいるはずのない人物がいたからだった。
「やあ、私の姫君」
「まさか、アラ……」
階下の一室に案内されて行くと既に先客がいて、笑顔でアラス様から挨拶をされてしまった。バルドは気がついて礼を取る。騎士団は戸惑いを見せたがバルドに倣った。
「ここでは冒険者アスランだ」
「お前はお姫様を追っかけてきたんだよな。嘘みてえだが。あのお前がねえ。同性愛説を通り越してロリだったとは……」
「ろ……、ど……」
「いろいろ違う! 失礼な。私は……」
「はいはい。それでエードラム帝国の紐付きのお嬢ちゃんはお疲れだから少し休ませてやりな」
サブマスは揶揄うようにアラス様に言う。以前からの知り合いのようでお互いに気安い感じだった。あのアラス様がいじられていた。
部屋にはサブマス、私の護衛騎士、バルド、アラス様。
――紐付きって、どういう意味なの? こ、婚約は便宜上で……。
「姫君、腹立たしい気持ちはとても分かるがこれでも現役のSSクラスの冒険者なのだ。許してやってくれ」
「アスラン様がそう仰るなら……。仕方ありませんわね。それでどうしてこちらに」
「いや、もともとこの街に訪問予定だったが、そなたが行くと聞いて繰り上げてやってきたのだ」
「まあそうなのですか」
モンスターの以上氾濫が聞こえていったのかしら? 今まで冒険者だったと仰っていたなら気になるわよね。
「それより、そなたの具合は良くないようだな。どれ」
そう言うとアラス様は恐れ多くも私を膝の上に抱っこをしたのだ。
0
お気に入りに追加
191
あなたにおすすめの小説
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
冤罪で自殺未遂にまで追いやられた俺が、潔白だと皆が気付くまで
一本橋
恋愛
ある日、密かに想いを寄せていた相手が痴漢にあった。
その犯人は俺だったらしい。
見覚えのない疑惑をかけられ、必死に否定するが周りからの反応は冷たいものだった。
罵倒する者、蔑む者、中には憎悪をたぎらせる者さえいた。
噂はすぐに広まり、あろうことかネットにまで晒されてしまった。
その矛先は家族にまで向き、次第にメチャクチャになっていく。
慕ってくれていた妹すらからも拒絶され、人生に絶望した俺は、自ずと歩道橋へ引き寄せられるのだった──
異世界ハーレム漫遊記
けんもも
ファンタジー
ある日、突然異世界に紛れ込んだ主人公。
異世界の知識が何もないまま、最初に出会った、兎族の美少女と旅をし、成長しながら、異世界転移物のお約束、主人公のチート能力によって、これまたお約束の、ハーレム状態になりながら、転生した異世界の謎を解明していきます。
異世界に転生!堪能させて頂きます
葵沙良
ファンタジー
遠宮 鈴霞(とおみやりんか)28歳。
大手企業の庶務課に勤める普通のOL。
今日は何時もの残業が無く、定時で帰宅途中の交差点そばのバス停で事件は起きた━━━━。
ハンドルを切り損なった車が、高校生3人と鈴霞のいるバス停に突っ込んできたのだ!
死んだと思ったのに、目を覚ました場所は白い空間。
女神様から、地球の輪廻に戻るか異世界アークスライドへ転生するか聞かれたのだった。
「せっかくの異世界、チャンスが有るなら行きますとも!堪能させて頂きます♪」
笑いあり涙あり?シリアスあり。トラブルに巻き込まれたり⁉
鈴霞にとって楽しい異世界ライフになるのか⁉
趣味の域で書いておりますので、雑な部分があるかも知れませんが、楽しく読んで頂けたら嬉しいです。戦闘シーンも出来るだけ頑張って書いていきたいと思います。
こちらは《改訂版》です。現在、加筆・修正を大幅に行っています。なので、不定期投稿です。
何の予告もなく修正等行う場合が有りますので、ご容赦下さいm(__)m
転生してギルドの社畜になったけど、S級冒険者の女辺境伯にスカウトされたので退職して領地開拓します。今更戻って来いって言われてももう婿です
途上の土
ファンタジー
『ブラック企業の社畜」ならぬ『ブラックギルドのギル畜』 ハルトはふとしたきっかけで前世の記憶を取り戻す。
ギルドにこき使われ、碌に評価もされず、虐げられる毎日に必死に耐えていたが、憧れのS 級冒険者マリアに逆プロポーズされ、ハルトは寿退社(?)することに。
前世の記憶と鑑定チートを頼りにハルトは領地開拓に動き出す。
ハルトはただの官僚としてスカウトされただけと思っていたのに、いきなり両親に紹介されて——
一方、ハルトが抜けて彼の仕事をカバーできる者がおらず冒険者ギルドは大慌て。ハルトを脅して戻って来させようとするが——
ハルトの笑顔が人々を動かし、それが発展に繋がっていく。
色々問題はあるけれど、きっと大丈夫! だって、うちの妻、人類最強ですから!
※中世ヨーロッパの村落、都市、制度等を参考にしておりますが、当然そのまんまではないので、史実とは差異があります。ご了承ください
※カクヨムにも掲載しています。現在【異世界ファンタジー週間18位】
俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる