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第一章 覚 醒
十四 未来の皇帝陛下
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アスラン様と改めて挨拶を交わす。
「どうそ、よろしくお願いしますわ」
「実に興味深いリトル・レディですね。ふふっ」
「貴様、王女様への不敬な態度は許されない。弁えよ」
「これは失礼いたしました。ご不快を与えましたら、申し訳ありません」
バルドの叱責にもアスラン様は穏やかな対応だった。
――これで皇帝様? 確かに、彼は俺様皇帝ってタイプではなかったけれど揺るがない魔道帝国のトップが謝るとか考えられない。
それにしてもあの豪強な技が見てみたいわ。流鉄斬とか大地割りとか! いつか見せてもらえることを期待しよう。
「しかし、入団試験で五人抜きどころか、あれは凄かった」
どうやら皇帝様は既に何かやらかしていたらしい。騎士団員を五人勝ち抜けば実技は合格なのだけどアスラン様のあまりの剣技に試験抜きで最後は乱闘戦になったそうだ。
「そうだな。いずれは名をもっと馳せるに違いない」
「お誉めいただき、光栄であります」
気負うことなく応じるアスラン様にガラハド卿とお兄様が感服されている。流石、皇帝陛下。
「頼りにします。是非私も剣技を見てみたいですわ」
私はにこりと微笑んで見せた。
アスラン様は早速バルド達の寝起きしている部屋へと案内された。女性なら私側の部屋が使えるのだけど。
その夜のこと。すやすやと休んでいると揺り起こされた。
「うにゃ、地震……」
だけど眼前には皇帝陛下が私を抱き起していた。
「な、どう、どうしてアラス様が……」
「やはり、知っていたか」
冒険者アスランの紅い瞳が妖しく光っていた。寝惚けた頭で必死に考えるが、何も思いつきはしない。
「何のことしょう。それにこんな夜半に部屋に忍び込めるなんて……」
「このような警備の緩い部屋などどこからでも入れる。だが、そなたは私の本当の名を何故知っているのだ」
――そう、本当の彼の名はアラス・エードラムなのよ。公式設定がそうなの。エードラム魔道帝国の皇帝で剣聖とも称えられる当代随一の剣士様。それと私は他にも思い出したことがあった。
「それに魔道船のことも。あれはまだ構想段階だ。私以外に知る者はいない。一体そなたは何者なのか?」
「私は……。エイリー・グレーネの王女リルアです」
「子ども相手に脅したくはないが……」
きらりと闇の中で光ったと思うとそれは私の喉元に突き付けられていた。どうやら短剣のようだった。
「さあ、言え。どこまでエイリー・グレーネは知っているのか。そなたのような子どもまで油断ならぬとはとんだ古き王国だ」
「い、いいえ。お父様達は御存じありません。それは私の記憶の中に……」
「何だと? 記憶とは」
「その、夢で見たんです」
……子どもの言い訳のようだけど嘘は言っていない。あれは夢に近いと思う。実際はいろいろと違うし。
「夢……」
アラス様の短剣を持った手がゆっくりと降ろされた。短剣で刺されるのは避けられたようだった。
「では夢の中ではどうなのだ」
「どうとは……。それはどこまでを仰るのか……」
「そなたが知っている我が帝国のことでいい」
「私が知っている。そうですね。……エードラム帝国は魔道機械で世界を席巻しました。様々な魔道具を国が率先して開発していて、それこそ魔道船とかもそうです。そして、あなたはエードラムの皇帝陛下でした」
「皇帝だと?」
アラス様は声を押し殺して肩を震わせて笑っていた。
「ばかな。私は正妃の皇子だが四番目で、上には正妃の兄が一人と妾腹の兄が二人いるぞ。現段階で私が帝国の皇位に就くことはありえない。父である皇帝陛下も健在だ。だからこうして冒険者として身を立てている。だが、そなたの夢がどこまで……」
……そう、今の段階ではアラス様は皇太子の一人かもしれない。でも私の知っているのは――。
「それは私にも確かかと言われても分かりません。夢の中で見たものですから。ただ、今から十年後、あなたはエードラム魔道帝国の皇帝であることを私は知っているだけです」
――世界の進歩を促す国、そして、世界の安寧をもたらす鍵となる国。だから、闇落ちなんてさせないもんね。
「面白い。実に面白いよ。小さな姫君。そなたの言葉しかと受け止めた。今暫く、側で見定めようではないか」
「面白くなんて……、あなたが皇帝としてエードラムを率いないといけないのです」
「ほう、そなたはまだ面白い話を知っているようだな」
……だけど眠いのです。今宵はここまでにしとうございます。
私はまたうつらうつらと夢の中へ。未来の皇帝陛下の押し殺した笑い声を子守歌代わりにして。
「良い夢をリトル・レディ」
……そう、私が思い出したのは、公式設定ではアラス様が帝国皇帝となるのは十六歳のとき、だから今の年齢なのよね。こんなところで居ていいのでしょうか。
皇帝に就くときの経緯までは公式設定には載ってはいなかったけれど第四皇子だったら、確かに帝位に就くのは難しいわよね。どうなるのかしらね。
「どうそ、よろしくお願いしますわ」
「実に興味深いリトル・レディですね。ふふっ」
「貴様、王女様への不敬な態度は許されない。弁えよ」
「これは失礼いたしました。ご不快を与えましたら、申し訳ありません」
バルドの叱責にもアスラン様は穏やかな対応だった。
――これで皇帝様? 確かに、彼は俺様皇帝ってタイプではなかったけれど揺るがない魔道帝国のトップが謝るとか考えられない。
それにしてもあの豪強な技が見てみたいわ。流鉄斬とか大地割りとか! いつか見せてもらえることを期待しよう。
「しかし、入団試験で五人抜きどころか、あれは凄かった」
どうやら皇帝様は既に何かやらかしていたらしい。騎士団員を五人勝ち抜けば実技は合格なのだけどアスラン様のあまりの剣技に試験抜きで最後は乱闘戦になったそうだ。
「そうだな。いずれは名をもっと馳せるに違いない」
「お誉めいただき、光栄であります」
気負うことなく応じるアスラン様にガラハド卿とお兄様が感服されている。流石、皇帝陛下。
「頼りにします。是非私も剣技を見てみたいですわ」
私はにこりと微笑んで見せた。
アスラン様は早速バルド達の寝起きしている部屋へと案内された。女性なら私側の部屋が使えるのだけど。
その夜のこと。すやすやと休んでいると揺り起こされた。
「うにゃ、地震……」
だけど眼前には皇帝陛下が私を抱き起していた。
「な、どう、どうしてアラス様が……」
「やはり、知っていたか」
冒険者アスランの紅い瞳が妖しく光っていた。寝惚けた頭で必死に考えるが、何も思いつきはしない。
「何のことしょう。それにこんな夜半に部屋に忍び込めるなんて……」
「このような警備の緩い部屋などどこからでも入れる。だが、そなたは私の本当の名を何故知っているのだ」
――そう、本当の彼の名はアラス・エードラムなのよ。公式設定がそうなの。エードラム魔道帝国の皇帝で剣聖とも称えられる当代随一の剣士様。それと私は他にも思い出したことがあった。
「それに魔道船のことも。あれはまだ構想段階だ。私以外に知る者はいない。一体そなたは何者なのか?」
「私は……。エイリー・グレーネの王女リルアです」
「子ども相手に脅したくはないが……」
きらりと闇の中で光ったと思うとそれは私の喉元に突き付けられていた。どうやら短剣のようだった。
「さあ、言え。どこまでエイリー・グレーネは知っているのか。そなたのような子どもまで油断ならぬとはとんだ古き王国だ」
「い、いいえ。お父様達は御存じありません。それは私の記憶の中に……」
「何だと? 記憶とは」
「その、夢で見たんです」
……子どもの言い訳のようだけど嘘は言っていない。あれは夢に近いと思う。実際はいろいろと違うし。
「夢……」
アラス様の短剣を持った手がゆっくりと降ろされた。短剣で刺されるのは避けられたようだった。
「では夢の中ではどうなのだ」
「どうとは……。それはどこまでを仰るのか……」
「そなたが知っている我が帝国のことでいい」
「私が知っている。そうですね。……エードラム帝国は魔道機械で世界を席巻しました。様々な魔道具を国が率先して開発していて、それこそ魔道船とかもそうです。そして、あなたはエードラムの皇帝陛下でした」
「皇帝だと?」
アラス様は声を押し殺して肩を震わせて笑っていた。
「ばかな。私は正妃の皇子だが四番目で、上には正妃の兄が一人と妾腹の兄が二人いるぞ。現段階で私が帝国の皇位に就くことはありえない。父である皇帝陛下も健在だ。だからこうして冒険者として身を立てている。だが、そなたの夢がどこまで……」
……そう、今の段階ではアラス様は皇太子の一人かもしれない。でも私の知っているのは――。
「それは私にも確かかと言われても分かりません。夢の中で見たものですから。ただ、今から十年後、あなたはエードラム魔道帝国の皇帝であることを私は知っているだけです」
――世界の進歩を促す国、そして、世界の安寧をもたらす鍵となる国。だから、闇落ちなんてさせないもんね。
「面白い。実に面白いよ。小さな姫君。そなたの言葉しかと受け止めた。今暫く、側で見定めようではないか」
「面白くなんて……、あなたが皇帝としてエードラムを率いないといけないのです」
「ほう、そなたはまだ面白い話を知っているようだな」
……だけど眠いのです。今宵はここまでにしとうございます。
私はまたうつらうつらと夢の中へ。未来の皇帝陛下の押し殺した笑い声を子守歌代わりにして。
「良い夢をリトル・レディ」
……そう、私が思い出したのは、公式設定ではアラス様が帝国皇帝となるのは十六歳のとき、だから今の年齢なのよね。こんなところで居ていいのでしょうか。
皇帝に就くときの経緯までは公式設定には載ってはいなかったけれど第四皇子だったら、確かに帝位に就くのは難しいわよね。どうなるのかしらね。
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