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02 弟の婚約話
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翌日、私は領地から送られてきた書類に目を通していた。
十年前に大嵐が発生しそれは領地の収穫前の作物をダメにし、更には領地の各所に土砂災害まで起きて、その復旧に傾きかけた伯爵家だったけれど今年はなんとか明るい見通しが立ちそうになったところだった。
これで弟のサイモンにお嫁さんを迎えることが出来そうでほっと一息をついていたところに父から言われたのは、
「リリエラ。悪いけど家を出て行ってくれないか? ほら、サイモンに花嫁を迎えるだろ。お前みたいな嫁にいき遅れた姉が家にいると相手だっていろいろとやりにくいに違いない。お前だってそうだろう。伯爵家の領地に引きこもってもらってもいいが、正直さっさとどこかの後妻にでも嫁にいってくれれば助かる」
少し申し訳なさそうな口調ではあるが、今までの私の働きを無駄にされた言い方に私は膝から力が抜けそうになっていた。
「嫁き遅れって、お父様、そんな言い方、私がどれだけ伯爵家の執務を……」
「そうだよ。姉さん」
「サイモン」
お父様の後ろから弟のサイモンが顔を出した。私はサイモンがお父様の言ったことを理不尽だと言い返してくれるものだと信じていた。
小さい頃に母を亡くしてから私は自分の結婚を後回しにして必死に育ててきた私にとって大事な弟だった。弟は私のそれまでの苦労を知っているはず。私はサイモンに救いを求めようとした。
「姉さんはいつも眉間に皺寄せて怒ってばっかりだから僕のロエが姉さんを見たら怖がるんじゃないかな」
だけど、サイモンは苦笑しながら眉間に皺を寄せて私の真似をしながらそんなことを言ってきたのだった。
それを見て唖然としつつ、弟に縋り付きそうになっていた手をなんとか収めた。
私は段々怒りとどうしようもない情けなさが湧いてきた。
――結婚適齢期に自分のしたいことを我慢して、サイモンの学費から、食生活、衣食住を世話してきたのにこんな扱いって……。
それでも今まで丹精込めて育ててきた弟に対する情とあまりの情けなさに何も言うことが出来なかった。
「あんまりです! 旦那様も坊ちゃんも、どれだけお嬢様が伯爵家で頑張ってこられたのか……」
マーゴが非難の声を上げると父も弟も気まずそうな顔をしていた。
「いいのよ。マーゴ。本当のことだから」
「そ、そうだよ! 姉さんが悪いんだよ。口うるさいし、厳しいし」
サイモンはそう言いながら部屋から出て行った。私はふらつきながらどうにか自室まで戻った。
私はこのブルーレイク伯爵家の長女として生まれて、家族は父と八歳下の弟のサイモンがいる。
母はサイモンを生んでから病気がちになり、サイモンが三歳の時に亡くなってしまった。
母は最後のときに泣きながら跡取りのサイモンを頼むと私の手を握った。
それは私が十一歳の時で貴族の令嬢として社交界にデビューする前のことだった。
私は母の最後の頼みと思い弟を守らなければと誓ったのだった。
結局いろいろあって社交界にデビューはせず、ただ幼い弟を育てるのに必死だった毎日。
母が亡くなって気落ちした父は酒浸りの日々で頼りにならず、領地の経営なども私が途中から代理で行ってきたのだった。
十年前、私が十六歳の時、領地が災害に見舞われ、復興の指示だって、執事や領民の話を聞いて必死でやってきて、なんとか借金せず、赤字にならないぎりぎりのところで踏ん張ってやっと回復してきたところだったのに。
先日、弟のサイモンは十八歳を迎え、大人の仲間入りを果たした。
貴族の子弟の通う学園を卒業し、学園で知り合った男爵令嬢のロエさんと婚約までしたそうだ。
そうだとはサイモンが家族に相談もなく勝手に婚約してしまい、私達には事後報告だったからだ。
父は怒ったものの結局は弟に甘いのでサイモンの言う通りに婚約を認めてしまった。
まあ、貧乏な伯爵家に嫁にきてもらえるだけでもありがたいと思わないとね。
それでも相談くらいして欲しかった。家族なのに、いいえ、私は母親代わりに頑張ってきたのに。
私はまだサイモンの婚約者に会わせてもらったこともないのでどんな令嬢か知らない。
そもそも私は学園に通う金銭的、時間的な余裕もなく、更に社交界にもデビューしていなかったので貴族子弟の知り合いは殆どいない。それでも弟だけはなんとか学園に通わせたいと精一杯頑張っていたのに。
十年前に大嵐が発生しそれは領地の収穫前の作物をダメにし、更には領地の各所に土砂災害まで起きて、その復旧に傾きかけた伯爵家だったけれど今年はなんとか明るい見通しが立ちそうになったところだった。
これで弟のサイモンにお嫁さんを迎えることが出来そうでほっと一息をついていたところに父から言われたのは、
「リリエラ。悪いけど家を出て行ってくれないか? ほら、サイモンに花嫁を迎えるだろ。お前みたいな嫁にいき遅れた姉が家にいると相手だっていろいろとやりにくいに違いない。お前だってそうだろう。伯爵家の領地に引きこもってもらってもいいが、正直さっさとどこかの後妻にでも嫁にいってくれれば助かる」
少し申し訳なさそうな口調ではあるが、今までの私の働きを無駄にされた言い方に私は膝から力が抜けそうになっていた。
「嫁き遅れって、お父様、そんな言い方、私がどれだけ伯爵家の執務を……」
「そうだよ。姉さん」
「サイモン」
お父様の後ろから弟のサイモンが顔を出した。私はサイモンがお父様の言ったことを理不尽だと言い返してくれるものだと信じていた。
小さい頃に母を亡くしてから私は自分の結婚を後回しにして必死に育ててきた私にとって大事な弟だった。弟は私のそれまでの苦労を知っているはず。私はサイモンに救いを求めようとした。
「姉さんはいつも眉間に皺寄せて怒ってばっかりだから僕のロエが姉さんを見たら怖がるんじゃないかな」
だけど、サイモンは苦笑しながら眉間に皺を寄せて私の真似をしながらそんなことを言ってきたのだった。
それを見て唖然としつつ、弟に縋り付きそうになっていた手をなんとか収めた。
私は段々怒りとどうしようもない情けなさが湧いてきた。
――結婚適齢期に自分のしたいことを我慢して、サイモンの学費から、食生活、衣食住を世話してきたのにこんな扱いって……。
それでも今まで丹精込めて育ててきた弟に対する情とあまりの情けなさに何も言うことが出来なかった。
「あんまりです! 旦那様も坊ちゃんも、どれだけお嬢様が伯爵家で頑張ってこられたのか……」
マーゴが非難の声を上げると父も弟も気まずそうな顔をしていた。
「いいのよ。マーゴ。本当のことだから」
「そ、そうだよ! 姉さんが悪いんだよ。口うるさいし、厳しいし」
サイモンはそう言いながら部屋から出て行った。私はふらつきながらどうにか自室まで戻った。
私はこのブルーレイク伯爵家の長女として生まれて、家族は父と八歳下の弟のサイモンがいる。
母はサイモンを生んでから病気がちになり、サイモンが三歳の時に亡くなってしまった。
母は最後のときに泣きながら跡取りのサイモンを頼むと私の手を握った。
それは私が十一歳の時で貴族の令嬢として社交界にデビューする前のことだった。
私は母の最後の頼みと思い弟を守らなければと誓ったのだった。
結局いろいろあって社交界にデビューはせず、ただ幼い弟を育てるのに必死だった毎日。
母が亡くなって気落ちした父は酒浸りの日々で頼りにならず、領地の経営なども私が途中から代理で行ってきたのだった。
十年前、私が十六歳の時、領地が災害に見舞われ、復興の指示だって、執事や領民の話を聞いて必死でやってきて、なんとか借金せず、赤字にならないぎりぎりのところで踏ん張ってやっと回復してきたところだったのに。
先日、弟のサイモンは十八歳を迎え、大人の仲間入りを果たした。
貴族の子弟の通う学園を卒業し、学園で知り合った男爵令嬢のロエさんと婚約までしたそうだ。
そうだとはサイモンが家族に相談もなく勝手に婚約してしまい、私達には事後報告だったからだ。
父は怒ったものの結局は弟に甘いのでサイモンの言う通りに婚約を認めてしまった。
まあ、貧乏な伯爵家に嫁にきてもらえるだけでもありがたいと思わないとね。
それでも相談くらいして欲しかった。家族なのに、いいえ、私は母親代わりに頑張ってきたのに。
私はまだサイモンの婚約者に会わせてもらったこともないのでどんな令嬢か知らない。
そもそも私は学園に通う金銭的、時間的な余裕もなく、更に社交界にもデビューしていなかったので貴族子弟の知り合いは殆どいない。それでも弟だけはなんとか学園に通わせたいと精一杯頑張っていたのに。
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