【完】転生令嬢の婚約は借金の返済に ~ヤンデレかイケおじかそれが問題ですわ~

えとう蜜夏☆コミカライズ中

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十六 消えた婚約者(ロラン視点)

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「クレアはとても美しいな。ドレスも良く似合っていた」

 彼女が普段のドレスに着替えるのを待つ間に俺はクレアを最初に見かけた時を思い返していた。



 あれは伯爵家の夜会だったように思う。

 夜会にお忍びで参加される第二王子の護衛をしていたときだった。

 最初彼女を見たとき妖精かと思うほどとても美しい少女だった。

 輝く月の光のような長い淡い金髪の髪と夢見るような瞳。

 一目惚れだった。

 しかし、護衛している王子の側を離れるわけにはいかない。それでも必死で彼女の動向を伺っていた。



 これが恋というものだと知ったのは後になってからだった。




 後日、友人知人のつてで探すと、彼女はその夜、デビューしたばかりのホーソン子爵令嬢のクレアだと聞いた。

 俺の家も宰相補佐をしているが、あくまで平民だ。身分の差は明らかだった。

 クレアが貴族令嬢なのは分かっていたけれどやはり身分が違いすぎた。

 俺の失恋は確定したかに思えた。



 叶わぬならばせめて一目だけでも。

 彼女がパートナーを見つけて幸せな姿を見たら諦められるかもしれない。

 そんなことを考えながら彼女の姿を探した。



 ――でも彼女はどこにも現れない。

 慣れない社交界に作り笑いをして参加した。

 幸い父上が宰相補佐なので、上位の社交界の招待状も手に入った。

 それでも彼女には会えなかった。

 群がってくるのは姦しい貴族令嬢ばかり、一方的に自分のことを話して体を押し付けてくる。

 生まれたときに母を亡くしているから正直女性をどう扱っていいのか分からない。

 それも気を抜いているとどこかの茂みや客室に連れ込まれそうになった。

 本当に彼女達は深窓の令嬢方なのだろうか!? 




 そんな目にばかりあったので、彼女を探すのにもすっかり嫌気がさしてきた頃。

 彼女のことは本当は幻であったのではないかと思うようになっていた。

 彼女の噂話さえ聞こえてこないのだ。
 
 もしかしたら、あれから直ぐに婚約でもしたのかもしれない。あれほどの美人なら仕方ない。



「坊ちゃま。少しはお食事を召し上がらないと」

 乳母が心配するほど俺は食事さえも喉を通らないほど彼女に焦がれていた。

「夜会で会えないなら……」



 気がついたら俺は知人から聞いた彼女の館まで馬を走らせていた。

 でも、そこにいたのは着飾った令嬢ではなく、ドレスにエプロンを着けて館の掃除や庭仕事をする彼女の姿。

 そんな姿も美しかった。どの令嬢よりずっと……。



 恋焦がれたクレアの姿を見ることが出来たので俺は少し自分を取り戻すことが出来た。

 それから休みの度に彼女の館まで馬を走らせて遠くから様子を伺っていた。偶然を装って話かけようとしていた。

 ふと見ると子爵家は古めかしい由緒有りそうな建物だったが、明らかに手入れが必要だと思われるところばかりだった。

 何かクレアのためにできることはないかと考え、俺は家に戻ると父上に妻にしたい女性がいるとはっきり切り出した。

 そして、相手の家の状態を調べて欲しいということまでお願いした。

 父上は驚いたものの、普段から好きなようにして良いと言われていたので俺の申し出を快諾してくれた。



 結果、ホーソン子爵家は莫大な借金を背負っていたのだった。

 ――これでは夜会どころか普段の食事さえままならないではないか?

 質素なドレスで庭仕事や館の掃除をしていたクレアを思い返した。

 どうにかしたいと再び館の周りをうろうろしていると明らかに借金の取り立て人と思われる者達が彼女の家を訪れていた。



 俺は再び父上に頭を下げた。

 父からは出世払いにしては額が大きいぞなどと笑われたがどうしても彼女を助けたかった。

 交渉は父が前面に進めてくれた。まさかそれでクレアが父上の後妻になると勘違いしていたとは……。




「それにしても、遅いな。様子を見てきてくれないか?」

 俺はお針子の一人にそう頼んだ。

 今日は他にもクレアを一緒に出掛けたいところが一杯あった。

 直ぐにお針子が青ざめた顔をして戻ってきた。

「それが、クレア様は既に着替えられてもうここを出られたそうです」

「何だと? そんなはずは……」

「申し上げにくいのですが、クレア様はお召し替えのときに溜息ばかりをなされていたそうです。どうやら意に添わぬ婚約が……」

「そんなことはない! 失礼する!」

 お針子の言葉に俺はつい声を荒げてしまった。

 ――逃げ出すほどクレアは俺と結婚するのが嫌だったのか? 

 内心の動揺を面に出さないように俺は出口へと向かおうとしたが、クレアの衣装室も覗いてみた。

 勿論そこにはもう誰もいなかった。だが、俺は光るものを見つけて足早にそこに近づいた。

 カーテンの裾に引っ掛かるようにして落ちていたイヤリング……。

 それは紛れもなくクレアの物だった。俺が選んだので間違いなかった。

「これは……」

 マダムも騒ぎを聞きつけてやってきたので訊ねるとドレスの手直しをしていたのでクレアの出ていく姿は見ていないとのことだった。

 無理やりなら騒ぐだろう。だが、そんな様子は無かった。

 マダムもお針子も大きな物音はしなかったと申し立てた。

 俺も近くにいたので気がつかないはずはない。やはりクレアが自ら婚約を嫌がって……。

 ――だが、王宮で一人で夜中まで掃除をしていたクレアの姿を思い出す。

 どんな状況であっても誠実にするべきことを取り組んでいた彼女だ。

 借金の返済の代わりだと分かっている婚姻を嫌だからと逃げるような人ではない。

「王宮へ! 大至急だ。父上にご報告をしなければ!」

 俺は乗ってきた馬車に飛び乗ると叫んでいた。
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