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十三 何かの勘違いでしょうか?
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「ご心配とお手間を煩わせてしまって申し訳ありませんわ」
私はできるだけ可憐な声で申し訳なさそうに言いました。
だって、本当に可憐ですの。私の見た目はね。淡い金髪に薄青の瞳で、ウエストなんて細い、細い。これは正統派ヒロインの特徴ですよね。あら、ヒロインって何のことかしら? 時々変な記憶が混じってしまいますわね。
だから、これはなんとしても結婚のお披露目のパーティーの席では可憐に「あっ」と一声上げて旦那さまの腕の中で倒れなくちゃいけないわ。
「本当に大丈夫なのか?」
やや機嫌の良くない声で私達の間にロラン様が割って入ってきました。彼の手には薄青色のドレスがありました。とても速いので用意がいいのですね。
「ロランが付いていながらどういうことだね」
「俺は急に警備要請があってそちらの方に回っていたんだ」
「ふう。困ったことなったようだな。クレアさんには十分なお詫びをしないといけないよ。一体どうしてこんなことになったのかね。王宮の夜会でこのようなことが起きるなど……」
「……調べてみます。俺の失態です」
やや厳しい口調のエドワード様と眉間に深い皺を刻んだロラン様を眺めながら私はドレスに袖を通すことまではできそうでしたけれどやっぱり後ろは止められません。
「い、いえ、ロラン様は助けてくださったので……」
ロラン様がこちらをご覧になるとその憂い顔は親子だからかエドワード様に良く似ていました。
はっ、いけない。つい見惚れていました。義理の息子になる方なのに。
「お礼を申し上げるのが遅くなりましたわ。ロラン様には池から助けていただいて、それに替えのドレスまで、何から何までありがとうございました」
私の言葉にロラン様はああと低く返してきました。ここのところロラン様と関わってきたので彼がシャイな方だと分かってきましたわ。
「いくら拭いて着替えても、そのままでは気持ち悪いだろう。我が家の湯を使うといい。ロラン、送って差し上げなさい」
「……分かりました。父上」
「きゃっ」
ロラン様がいきなりこちらにやって来て私を軽々と抱き上げてしまいました。中途半端に着ているドレスがずれ落ちそうですわ。
「どうした……」
そうして、ロラン様は私の肩まではだけた姿をご覧になると真っ赤になられました。
「おや、これは……。陰で手伝って差し上げなさい」
エドワード様に言われてロラン様に衝立の陰に再び戻されそうになりましたので私は慌てて叫びました。
「い、いえ。薬師さんとか旦那様になられる方以外の殿方に肌を見せる訳にはいきませんわ!」
だって、それでこの婚約が無しになると住むところも何もなくなりますもの。疑われることはしてはなりませんわ。特に義理の関係なんて……。
「は?」
奇妙な声を出してロラン様は硬直なされました。危うく私は落とされそうな感じでした。エドワード様もやや目を見開いて驚いているようすでした。
――もしかして貴族令嬢の貞操観念を疑っていらっしゃるのかしら? 私は今どきの令嬢のように恋愛遊戯はいたしておりませんわ。
「これはこれは……。ロラン、どういうことかね?」
「ち、父上こそ……」
ロラン様は私をそっと降ろした。
「君に聞くけど。夫になるのは誰だ?」
「え? 私は借金のかたにエドワード様の後妻になるのでは……」
ロラン様の悲痛めいた深い溜息とエドワード様の押し殺した笑いに私は訳も分からず混乱してしまいました。
「ロラン、警備は私の方で代わりを手配しておこう。仕事より大事なことがあるようだぞ。もう、今日は二人で家に戻りなさい。家の方が近いので使うといい」
「それがいいですよ。クレアさんもこんなことがあったのでしばらくお休みした方がよいでしょう」
そう薬師さんにも言われて私は王宮近くのエドワード様の館へと行くことになりました。ロラン様の近衛服の上着を肩から掛けて後ろは簡単に留めただけです。
ロラン様は馬車の中では無言で腕を組んで目を閉じておりました。その雰囲気はぴりぴりして声を掛けるのも
憚られました。
私はできるだけ可憐な声で申し訳なさそうに言いました。
だって、本当に可憐ですの。私の見た目はね。淡い金髪に薄青の瞳で、ウエストなんて細い、細い。これは正統派ヒロインの特徴ですよね。あら、ヒロインって何のことかしら? 時々変な記憶が混じってしまいますわね。
だから、これはなんとしても結婚のお披露目のパーティーの席では可憐に「あっ」と一声上げて旦那さまの腕の中で倒れなくちゃいけないわ。
「本当に大丈夫なのか?」
やや機嫌の良くない声で私達の間にロラン様が割って入ってきました。彼の手には薄青色のドレスがありました。とても速いので用意がいいのですね。
「ロランが付いていながらどういうことだね」
「俺は急に警備要請があってそちらの方に回っていたんだ」
「ふう。困ったことなったようだな。クレアさんには十分なお詫びをしないといけないよ。一体どうしてこんなことになったのかね。王宮の夜会でこのようなことが起きるなど……」
「……調べてみます。俺の失態です」
やや厳しい口調のエドワード様と眉間に深い皺を刻んだロラン様を眺めながら私はドレスに袖を通すことまではできそうでしたけれどやっぱり後ろは止められません。
「い、いえ、ロラン様は助けてくださったので……」
ロラン様がこちらをご覧になるとその憂い顔は親子だからかエドワード様に良く似ていました。
はっ、いけない。つい見惚れていました。義理の息子になる方なのに。
「お礼を申し上げるのが遅くなりましたわ。ロラン様には池から助けていただいて、それに替えのドレスまで、何から何までありがとうございました」
私の言葉にロラン様はああと低く返してきました。ここのところロラン様と関わってきたので彼がシャイな方だと分かってきましたわ。
「いくら拭いて着替えても、そのままでは気持ち悪いだろう。我が家の湯を使うといい。ロラン、送って差し上げなさい」
「……分かりました。父上」
「きゃっ」
ロラン様がいきなりこちらにやって来て私を軽々と抱き上げてしまいました。中途半端に着ているドレスがずれ落ちそうですわ。
「どうした……」
そうして、ロラン様は私の肩まではだけた姿をご覧になると真っ赤になられました。
「おや、これは……。陰で手伝って差し上げなさい」
エドワード様に言われてロラン様に衝立の陰に再び戻されそうになりましたので私は慌てて叫びました。
「い、いえ。薬師さんとか旦那様になられる方以外の殿方に肌を見せる訳にはいきませんわ!」
だって、それでこの婚約が無しになると住むところも何もなくなりますもの。疑われることはしてはなりませんわ。特に義理の関係なんて……。
「は?」
奇妙な声を出してロラン様は硬直なされました。危うく私は落とされそうな感じでした。エドワード様もやや目を見開いて驚いているようすでした。
――もしかして貴族令嬢の貞操観念を疑っていらっしゃるのかしら? 私は今どきの令嬢のように恋愛遊戯はいたしておりませんわ。
「これはこれは……。ロラン、どういうことかね?」
「ち、父上こそ……」
ロラン様は私をそっと降ろした。
「君に聞くけど。夫になるのは誰だ?」
「え? 私は借金のかたにエドワード様の後妻になるのでは……」
ロラン様の悲痛めいた深い溜息とエドワード様の押し殺した笑いに私は訳も分からず混乱してしまいました。
「ロラン、警備は私の方で代わりを手配しておこう。仕事より大事なことがあるようだぞ。もう、今日は二人で家に戻りなさい。家の方が近いので使うといい」
「それがいいですよ。クレアさんもこんなことがあったのでしばらくお休みした方がよいでしょう」
そう薬師さんにも言われて私は王宮近くのエドワード様の館へと行くことになりました。ロラン様の近衛服の上着を肩から掛けて後ろは簡単に留めただけです。
ロラン様は馬車の中では無言で腕を組んで目を閉じておりました。その雰囲気はぴりぴりして声を掛けるのも
憚られました。
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