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七 令嬢方の嫌がらせ?
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なんとか広間の掃除も終わり、私はロラン様にお礼を言いました。
「ロラン様のお陰で終わりました。ありがとうございました」
不審者と思われていたのじゃなくて、義理の母を見つけたので一緒に手伝うという、なんて孝行息子なのでしょう。これで将来の後妻生活も安泰ですわね。
だって若い継母を嫌っていじめたり、夫の死亡後に遺産相続権を取り上げて追い出したりするのはドラマでは定番ですものね。
……あら? ドラマって何かしら? この頃記憶のおかしいときがありますの。私はまだ十代なのに三十歳だったなんて思うとこがありますの。おかしいですわね。
「あ、ああ、それにしても、君一人でどうしてこんなところを、普通は……」
ロラン様はぶつぶつと鎧越しに呟いていました。鎧越しだからよく聞こえません。
「そう言えば、クレアの身の回りの侍女はどうしたのだ。貴族の子女には付き添いがいるはずだが」
「え、ええ。ちょっと具合を悪くして……。でも、大丈夫ですわ」
本当はおりません。ずっと昔から侍女はいないのです。私の侍女より今日の食事に事欠く有様でしたもの。仕方がありませんわ。
「そうか、何かあったら俺に相談しろ」
「はい。ご心配おかけしますわ」
私は疲れていましたけどロラン様の心遣いが嬉しく満面の笑みを浮かべました。するとガシャンとまた鎧が高々と鳴りました。
翌日、再び引継ぎのときに女官長補佐が私を見て渋い顔をなさいました。
「クレアさん。あなたは昨日仕事をさぼりましたね」
「えっ? それは……」
もしかして、ロラン様に少し手伝ってもらったのがいけなかったのかしら?
令嬢方のくすくす笑いが聞こえてきます。私は少し青ざめていました。
「あの、ロ……」
ここでロラン様のことを出してご迷惑をかけてはいけないわ。彼は善意でしてくださったもの。それに家族になったあと気まずくなるのも嫌です。だから私は言いかけたものの黙るしかありませんでした。
「……私は第二広間と申し上げたはずです。広間は埃と汚れがそのままでしたよ」
「え? ええ?」
第三と聞いていましたけれど?
「あらぁ。貧乏子爵家のご令嬢はどこで何をなさっていたのかしらねぇ」
メアリー様の声に幾人かの令嬢の声でいやあねぇなどと聞こえてきました。
「私は第三と確かにお聞きして……」
女官長補佐は私の言葉にじろりと睨んで黙殺してしまいました。
「で、では早速、そちらに……」
「もうそこは終わりました。メアリーさんのお力ですよ。使用人総出でしてくださいました」
「……」
「感謝の言葉は?」
「あ、ありがとうございます。メアリー様」
言いがかりにしては大掛かりなことですが元平和の国の人間としてつい謝ってしまうのは身についていました。それにしても確かに第三だったと思います。それにメアリー様の仕掛けてきたのなら女官長補佐まで買収済みということになります。
でも、そこまでして一体何の益があるというのでしょうか?
私は名門とは言え借金で没落寸前、平民の婿をとるので社交界のランクは下がります。上級の社交界に呼ばれることは少なくなります。よくて上流の中くらいというところでしょうか。社交界にもランクがありますから。
「ふふふ。大したことはありませんわ。でも今日の広間は大事な行事があるので掃除が行き届いてないと大変なことになっていたでしょうね」
もう、これぞ悪役令嬢と言った風情でメアリー様は佇んでおりました。周囲のご令嬢方は彼女を誉め称えておりました。よく見るとそうではない方もいらっしゃるので少し安心しました。私も今日のノルマを渡されたのでそちらに向かいました。
今日は洗濯物の洗い場です。また知らないところですわね。一体どこにあるのでしょうか?
「まああ、洗濯場ですって?」
メアリー様は何故か苦い顔をなさっておりましたが、私は関わりたくなくてさっさと部屋をでることにしました。
幾人かに訊ねて洗濯場に着きました。
途中、訊ねた何人かには嫌そうな顔をされました。そんなに嫌な場所なのでしょうか……。
「あれまあ、細っこい子が来たねえ。大丈夫かい」
そこには逞しいおかんが……。ところでおかんって何のことです?
ふくよかな女性がスカートの裾を捲り上げておりました。
城の半地下のような場所で石造りの洗い場でしたが意外と暖かく清潔でした。
「あの初めてでどうしたらよいのか」
「あんたどうみても上流のお嬢さんだけど下女とか侍女は連れてきてないのかい?」
「没落した貧乏家なので、でも精一杯頑張りますわ!」
私は胸を張って元気に言いました。すると女性は目を丸くしたものの、
「へえ、威勢がいいじゃないか。見た目と違うねえ。気に入ったよ」
そういうと洗い場の流れを教えてくれました。
「確かに調理場には負けるけれどあたしらだっていないと大変なんだよ。汚い下着やドレスで威厳が保てるかってさ! けっ」
開けっぴろげなおかんに私も気分がアゲアゲになりました。
「衣食住知って礼節を知るものですものね。着るものは大事ですもの」
「そうさ。ほれ、さっさとスカートを捲り上げなっ!」
「はい!」
私達のやり取りで他の方も楽しい笑い声が上がります。雰囲気は凄く良いのですがかなりの重労働です。確かに軽いと難しいですわ。
「ロラン様のお陰で終わりました。ありがとうございました」
不審者と思われていたのじゃなくて、義理の母を見つけたので一緒に手伝うという、なんて孝行息子なのでしょう。これで将来の後妻生活も安泰ですわね。
だって若い継母を嫌っていじめたり、夫の死亡後に遺産相続権を取り上げて追い出したりするのはドラマでは定番ですものね。
……あら? ドラマって何かしら? この頃記憶のおかしいときがありますの。私はまだ十代なのに三十歳だったなんて思うとこがありますの。おかしいですわね。
「あ、ああ、それにしても、君一人でどうしてこんなところを、普通は……」
ロラン様はぶつぶつと鎧越しに呟いていました。鎧越しだからよく聞こえません。
「そう言えば、クレアの身の回りの侍女はどうしたのだ。貴族の子女には付き添いがいるはずだが」
「え、ええ。ちょっと具合を悪くして……。でも、大丈夫ですわ」
本当はおりません。ずっと昔から侍女はいないのです。私の侍女より今日の食事に事欠く有様でしたもの。仕方がありませんわ。
「そうか、何かあったら俺に相談しろ」
「はい。ご心配おかけしますわ」
私は疲れていましたけどロラン様の心遣いが嬉しく満面の笑みを浮かべました。するとガシャンとまた鎧が高々と鳴りました。
翌日、再び引継ぎのときに女官長補佐が私を見て渋い顔をなさいました。
「クレアさん。あなたは昨日仕事をさぼりましたね」
「えっ? それは……」
もしかして、ロラン様に少し手伝ってもらったのがいけなかったのかしら?
令嬢方のくすくす笑いが聞こえてきます。私は少し青ざめていました。
「あの、ロ……」
ここでロラン様のことを出してご迷惑をかけてはいけないわ。彼は善意でしてくださったもの。それに家族になったあと気まずくなるのも嫌です。だから私は言いかけたものの黙るしかありませんでした。
「……私は第二広間と申し上げたはずです。広間は埃と汚れがそのままでしたよ」
「え? ええ?」
第三と聞いていましたけれど?
「あらぁ。貧乏子爵家のご令嬢はどこで何をなさっていたのかしらねぇ」
メアリー様の声に幾人かの令嬢の声でいやあねぇなどと聞こえてきました。
「私は第三と確かにお聞きして……」
女官長補佐は私の言葉にじろりと睨んで黙殺してしまいました。
「で、では早速、そちらに……」
「もうそこは終わりました。メアリーさんのお力ですよ。使用人総出でしてくださいました」
「……」
「感謝の言葉は?」
「あ、ありがとうございます。メアリー様」
言いがかりにしては大掛かりなことですが元平和の国の人間としてつい謝ってしまうのは身についていました。それにしても確かに第三だったと思います。それにメアリー様の仕掛けてきたのなら女官長補佐まで買収済みということになります。
でも、そこまでして一体何の益があるというのでしょうか?
私は名門とは言え借金で没落寸前、平民の婿をとるので社交界のランクは下がります。上級の社交界に呼ばれることは少なくなります。よくて上流の中くらいというところでしょうか。社交界にもランクがありますから。
「ふふふ。大したことはありませんわ。でも今日の広間は大事な行事があるので掃除が行き届いてないと大変なことになっていたでしょうね」
もう、これぞ悪役令嬢と言った風情でメアリー様は佇んでおりました。周囲のご令嬢方は彼女を誉め称えておりました。よく見るとそうではない方もいらっしゃるので少し安心しました。私も今日のノルマを渡されたのでそちらに向かいました。
今日は洗濯物の洗い場です。また知らないところですわね。一体どこにあるのでしょうか?
「まああ、洗濯場ですって?」
メアリー様は何故か苦い顔をなさっておりましたが、私は関わりたくなくてさっさと部屋をでることにしました。
幾人かに訊ねて洗濯場に着きました。
途中、訊ねた何人かには嫌そうな顔をされました。そんなに嫌な場所なのでしょうか……。
「あれまあ、細っこい子が来たねえ。大丈夫かい」
そこには逞しいおかんが……。ところでおかんって何のことです?
ふくよかな女性がスカートの裾を捲り上げておりました。
城の半地下のような場所で石造りの洗い場でしたが意外と暖かく清潔でした。
「あの初めてでどうしたらよいのか」
「あんたどうみても上流のお嬢さんだけど下女とか侍女は連れてきてないのかい?」
「没落した貧乏家なので、でも精一杯頑張りますわ!」
私は胸を張って元気に言いました。すると女性は目を丸くしたものの、
「へえ、威勢がいいじゃないか。見た目と違うねえ。気に入ったよ」
そういうと洗い場の流れを教えてくれました。
「確かに調理場には負けるけれどあたしらだっていないと大変なんだよ。汚い下着やドレスで威厳が保てるかってさ! けっ」
開けっぴろげなおかんに私も気分がアゲアゲになりました。
「衣食住知って礼節を知るものですものね。着るものは大事ですもの」
「そうさ。ほれ、さっさとスカートを捲り上げなっ!」
「はい!」
私達のやり取りで他の方も楽しい笑い声が上がります。雰囲気は凄く良いのですがかなりの重労働です。確かに軽いと難しいですわ。
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