2 / 20
二 これが転生というもの
しおりを挟む
エドワード様がいらしてから数日後、私は今朝もいつものように子爵領内にある近くの教会へ奉仕活動に向かっているところでした。その途中で背後から荒々しい蹄の音と悲鳴が響き渡ってきたのです。
「きゃあああ、誰か?!」
見る間に砂ぼこりが舞い上がり、どかどかと荒々しい馬の足音が間近に聞こえてきました。誰かが馬が暴走したと叫んでいましたけれど私は何が起こったのかも分からずどこか遠くに感じていました。
最早、暴れ馬は逃れられないほど私の近くまで来ていて、周囲からの罵声やら怒声とも分からないものを聞きながら、私は地面に叩きつけられていました。全身の激しい痛みと共に意識は真っ暗闇に飲み込まれてしまったのです。
『あちゃー。こっちのルートじゃないんだけど。あーあ、ステータスが足りなかったのかなあ、ううっ。スチル回収し損ねてるぅ。〇〇〇〇〇様攻略まであとちょっとだったのに……。痛恨』
何故かそれは私のようでした。そこでは今まで見たことがない四角い光る板に向かって私は一人でぶつぶつ呟いていたのです。一人で話すなんて恐ろしいことですわ。
そして、その夢の中では私は既に三十歳後半という歳になっていて、使用人のようにお仕事もしていましたのよ。なんだか、男のようなズボンを履いて髪も肩までととても短くてまるで男性のようでした。
でも、その私はとても楽しそうでしたの。光り輝く板の中にはまるで動く紙芝居のようにいろいろな場面が出てきましたし、まるで王子様のような方までもたくさん出てきていましたの。
攻略とやらをしているのですのよ。それもなんと男性と仲良く過ごして愛の告白するの。そんなことはとても恥ずかしいことで普通なら考えられないことですわ。男性に告白なんて娼婦でもあるまいし、普通は男性から求婚するものなのですよ。
それでも板の中のイケメン達に私は次々と語りかけていました。どうやら今度は周回プレイとかいうものを目指すそうですの。出てくる男性の全員と仲良くなると逆ハーレムエンドなんてものもあるみたいですわ。なんという乱れたことなのでしょう。ああ、神様。お許しください。
……でも、それはとてもとても楽しゅうございましたの!
「クレアお嬢さまぁぁ」
おいおいと泣く聞き覚えのある声に私は目が覚めてしまいました。
今さっき見ていたのは一体なんだったのでしょう? とても良かったところなのに残念だわ……。
私はやや混乱しつつ返事をしようとして体の痛みに気がつきました。
「あっ、うう、痛い」
「お嬢様! 良かった。気がつかれましたか」
顔を覗き込んでいたのは教会の顔馴染みのシスターでした。彼女から私は暴走馬に蹴られそうになって倒れたのだと聞かされました。そして、運よくかすり傷で助かったらしいのです。
でも、代わりになんだか変な記憶が甦ってしまいました。ええ、おーえるさんとやらの記憶です。
そうするとクレアだけの意識のときは婚姻を貴族の義務と思って特別な感慨も持たなかったものですが、アラ腐ォーおーえるとやらの記憶が少し甦った今の私にとって両親とそう変わらない年のエドワード様と結婚することは全く問題ありませんでした。
むしろ、ウエルカムな気持ちになっていました。
だってね。エドワード様は言うなれば素敵なおじ様でしたの。誰も居なければ声を大にして叫びたいくらい。ただのおじ様ではありませんのよ。彼は間違いなくイケおじ。イケおじなのですよぉぉ!
あら、嫌ですわ。品位が無くなっていますわね。子爵令嬢ともあろうものが、こほん。
確か噂では彼は若い頃から白銀の髪らしく、その上薄い琥珀の瞳。金と銀のスペシャルな色合いなのです。切れ長で涼しげな目元に薄くやや皮肉げな口元が大人の魅力を醸し出していますの。端正な顔立ちで奥様を亡くされたせいか少し翳りのある感じの表情。それはもうアラ腐ォーだった私のドストライクというものでした。
奥様を亡くされてからずっと一人でいらっしゃるところも高ポイントです。一途な方なんて素敵。息子さんはもう成人して別に館を構えているみたいだし。うふふふ。
「きゃあああ、誰か?!」
見る間に砂ぼこりが舞い上がり、どかどかと荒々しい馬の足音が間近に聞こえてきました。誰かが馬が暴走したと叫んでいましたけれど私は何が起こったのかも分からずどこか遠くに感じていました。
最早、暴れ馬は逃れられないほど私の近くまで来ていて、周囲からの罵声やら怒声とも分からないものを聞きながら、私は地面に叩きつけられていました。全身の激しい痛みと共に意識は真っ暗闇に飲み込まれてしまったのです。
『あちゃー。こっちのルートじゃないんだけど。あーあ、ステータスが足りなかったのかなあ、ううっ。スチル回収し損ねてるぅ。〇〇〇〇〇様攻略まであとちょっとだったのに……。痛恨』
何故かそれは私のようでした。そこでは今まで見たことがない四角い光る板に向かって私は一人でぶつぶつ呟いていたのです。一人で話すなんて恐ろしいことですわ。
そして、その夢の中では私は既に三十歳後半という歳になっていて、使用人のようにお仕事もしていましたのよ。なんだか、男のようなズボンを履いて髪も肩までととても短くてまるで男性のようでした。
でも、その私はとても楽しそうでしたの。光り輝く板の中にはまるで動く紙芝居のようにいろいろな場面が出てきましたし、まるで王子様のような方までもたくさん出てきていましたの。
攻略とやらをしているのですのよ。それもなんと男性と仲良く過ごして愛の告白するの。そんなことはとても恥ずかしいことで普通なら考えられないことですわ。男性に告白なんて娼婦でもあるまいし、普通は男性から求婚するものなのですよ。
それでも板の中のイケメン達に私は次々と語りかけていました。どうやら今度は周回プレイとかいうものを目指すそうですの。出てくる男性の全員と仲良くなると逆ハーレムエンドなんてものもあるみたいですわ。なんという乱れたことなのでしょう。ああ、神様。お許しください。
……でも、それはとてもとても楽しゅうございましたの!
「クレアお嬢さまぁぁ」
おいおいと泣く聞き覚えのある声に私は目が覚めてしまいました。
今さっき見ていたのは一体なんだったのでしょう? とても良かったところなのに残念だわ……。
私はやや混乱しつつ返事をしようとして体の痛みに気がつきました。
「あっ、うう、痛い」
「お嬢様! 良かった。気がつかれましたか」
顔を覗き込んでいたのは教会の顔馴染みのシスターでした。彼女から私は暴走馬に蹴られそうになって倒れたのだと聞かされました。そして、運よくかすり傷で助かったらしいのです。
でも、代わりになんだか変な記憶が甦ってしまいました。ええ、おーえるさんとやらの記憶です。
そうするとクレアだけの意識のときは婚姻を貴族の義務と思って特別な感慨も持たなかったものですが、アラ腐ォーおーえるとやらの記憶が少し甦った今の私にとって両親とそう変わらない年のエドワード様と結婚することは全く問題ありませんでした。
むしろ、ウエルカムな気持ちになっていました。
だってね。エドワード様は言うなれば素敵なおじ様でしたの。誰も居なければ声を大にして叫びたいくらい。ただのおじ様ではありませんのよ。彼は間違いなくイケおじ。イケおじなのですよぉぉ!
あら、嫌ですわ。品位が無くなっていますわね。子爵令嬢ともあろうものが、こほん。
確か噂では彼は若い頃から白銀の髪らしく、その上薄い琥珀の瞳。金と銀のスペシャルな色合いなのです。切れ長で涼しげな目元に薄くやや皮肉げな口元が大人の魅力を醸し出していますの。端正な顔立ちで奥様を亡くされたせいか少し翳りのある感じの表情。それはもうアラ腐ォーだった私のドストライクというものでした。
奥様を亡くされてからずっと一人でいらっしゃるところも高ポイントです。一途な方なんて素敵。息子さんはもう成人して別に館を構えているみたいだし。うふふふ。
1
お気に入りに追加
196
あなたにおすすめの小説
月が隠れるとき
いちい千冬
恋愛
ヒュイス王国のお城で、夜会が始まります。
その最中にどうやら王子様が婚約破棄を宣言するようです。悪役に仕立て上げられると分かっているので帰りますね。
という感じで始まる、婚約破棄話とその顛末。全8話。⇒9話になりました。
小説家になろう様で上げていた「月が隠れるとき」シリーズの短編を加筆修正し、連載っぽく仕立て直したものです。

本格RPGの世界に転生しました。艱難辛苦の冒険なんてお断りです!
九重
恋愛
読書とビーズアクセサリー作りが趣味の聖奈は、大好きなファンタジーゲームの世界に転生した。
しかし、このゲームは本格的なRPG。ヒロインに待っているのは、波瀾万丈、艱難辛苦を乗り越える冒険の旅だった。
「そんな旅、全力でお断りや!」
これは、聖奈が、将来敵になる魔獣の子を拾って育てたり、同じくラスボスになる王子様と仲良くなったり、妖精騎士(フェアリーナイト)を従えたり、自分自身の魔法の腕をとことん磨いてチートになったりするお話。
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

忙しい男
菅井群青
恋愛
付き合っていた彼氏に別れを告げた。忙しいという彼を信じていたけれど、私から別れを告げる前に……きっと私は半分捨てられていたんだ。
「私のことなんてもうなんとも思ってないくせに」
「お前は一体俺の何を見て言ってる──お前は、俺を知らな過ぎる」
すれ違う想いはどうしてこうも上手くいかないのか。いつだって思うことはただ一つ、愛おしいという気持ちだ。
※ハッピーエンドです
かなりやきもきさせてしまうと思います。
どうか温かい目でみてやってくださいね。
※本編完結しました(2019/07/15)
スピンオフ &番外編
【泣く背中】 菊田夫妻のストーリーを追加しました(2019/08/19)
改稿 (2020/01/01)
本編のみカクヨムさんでも公開しました。
悪女と言われた令嬢は隣国の王妃の座をお金で買う!
naturalsoft
恋愛
隣国のエスタナ帝国では七人の妃を娶る習わしがあった。日月火水木金土の曜日を司る七人の妃を選び、日曜が最上の正室であり月→土の順にランクが下がる。
これは過去に毎日誰の妃の下に向かうのか、熾烈な後宮争いがあり、多くの妃や子供が陰謀により亡くなった事で制定された制度であった。無論、その日に妃の下に向かうかどうかは皇帝が決めるが、溺愛している妃がいても、その曜日以外は訪れる事が禁じられていた。
そして今回、隣の国から妃として連れてこられた一人の悪女によって物語が始まる──
※キャライラストは専用ソフトを使った自作です。
※地図は専用ソフトを使い自作です。
※背景素材は一部有料版の素材を使わせて頂いております。転載禁止

【完結】儚げ超絶美少女の王女様、うっかり貧乏騎士(中身・王子)を餌付けして、(自称)冒険の旅に出る。
buchi
恋愛
末っ子王女のティナは、膨大な魔法力があるのに家族から評価されないのが不満。生まれた時からの婚約者、隣国の王太子エドとも婚約破棄されたティナは、古城に引きこもり、魔力でポーションを売り出して、ウサギ印ブランドとして徐々に有名に。ある日、ティナは、ポーションを売りに街へ行ってガリガリに痩せた貧乏騎士を拾ってきてしまう。お城で飼ううちに騎士はすっかり懐いて結婚してくれといい出す始末。私は王女様なのよ?あれこれあって、冒険の旅に繰り出すティナと渋々付いて行く騎士ことエド。街でティナは(王女のままではまずいので)二十五歳に変身、氷の美貌と評判の騎士団長に見染められ熱愛され、騎士団長と娘の結婚を狙う公爵家に襲撃される……一体どう収拾がつくのか、もし、よかったら読んでください。13万字程度。
悪役断罪?そもそも何かしましたか?
SHIN
恋愛
明日から王城に最終王妃教育のために登城する、懇談会パーティーに参加中の私の目の前では多人数の男性に囲まれてちやほやされている少女がいた。
男性はたしか婚約者がいたり妻がいたりするのだけど、良いのかしら。
あら、あそこに居ますのは第二王子では、ないですか。
えっ、婚約破棄?別に構いませんが、怒られますよ。
勘違い王子と企み少女に巻き込まれたある少女の話し。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる