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二 これが転生というもの
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エドワード様がいらしてから数日後、私は今朝もいつものように子爵領内にある近くの教会へ奉仕活動に向かっているところでした。その途中で背後から荒々しい蹄の音と悲鳴が響き渡ってきたのです。
「きゃあああ、誰か?!」
見る間に砂ぼこりが舞い上がり、どかどかと荒々しい馬の足音が間近に聞こえてきました。誰かが馬が暴走したと叫んでいましたけれど私は何が起こったのかも分からずどこか遠くに感じていました。
最早、暴れ馬は逃れられないほど私の近くまで来ていて、周囲からの罵声やら怒声とも分からないものを聞きながら、私は地面に叩きつけられていました。全身の激しい痛みと共に意識は真っ暗闇に飲み込まれてしまったのです。
『あちゃー。こっちのルートじゃないんだけど。あーあ、ステータスが足りなかったのかなあ、ううっ。スチル回収し損ねてるぅ。〇〇〇〇〇様攻略まであとちょっとだったのに……。痛恨』
何故かそれは私のようでした。そこでは今まで見たことがない四角い光る板に向かって私は一人でぶつぶつ呟いていたのです。一人で話すなんて恐ろしいことですわ。
そして、その夢の中では私は既に三十歳後半という歳になっていて、使用人のようにお仕事もしていましたのよ。なんだか、男のようなズボンを履いて髪も肩までととても短くてまるで男性のようでした。
でも、その私はとても楽しそうでしたの。光り輝く板の中にはまるで動く紙芝居のようにいろいろな場面が出てきましたし、まるで王子様のような方までもたくさん出てきていましたの。
攻略とやらをしているのですのよ。それもなんと男性と仲良く過ごして愛の告白するの。そんなことはとても恥ずかしいことで普通なら考えられないことですわ。男性に告白なんて娼婦でもあるまいし、普通は男性から求婚するものなのですよ。
それでも板の中のイケメン達に私は次々と語りかけていました。どうやら今度は周回プレイとかいうものを目指すそうですの。出てくる男性の全員と仲良くなると逆ハーレムエンドなんてものもあるみたいですわ。なんという乱れたことなのでしょう。ああ、神様。お許しください。
……でも、それはとてもとても楽しゅうございましたの!
「クレアお嬢さまぁぁ」
おいおいと泣く聞き覚えのある声に私は目が覚めてしまいました。
今さっき見ていたのは一体なんだったのでしょう? とても良かったところなのに残念だわ……。
私はやや混乱しつつ返事をしようとして体の痛みに気がつきました。
「あっ、うう、痛い」
「お嬢様! 良かった。気がつかれましたか」
顔を覗き込んでいたのは教会の顔馴染みのシスターでした。彼女から私は暴走馬に蹴られそうになって倒れたのだと聞かされました。そして、運よくかすり傷で助かったらしいのです。
でも、代わりになんだか変な記憶が甦ってしまいました。ええ、おーえるさんとやらの記憶です。
そうするとクレアだけの意識のときは婚姻を貴族の義務と思って特別な感慨も持たなかったものですが、アラ腐ォーおーえるとやらの記憶が少し甦った今の私にとって両親とそう変わらない年のエドワード様と結婚することは全く問題ありませんでした。
むしろ、ウエルカムな気持ちになっていました。
だってね。エドワード様は言うなれば素敵なおじ様でしたの。誰も居なければ声を大にして叫びたいくらい。ただのおじ様ではありませんのよ。彼は間違いなくイケおじ。イケおじなのですよぉぉ!
あら、嫌ですわ。品位が無くなっていますわね。子爵令嬢ともあろうものが、こほん。
確か噂では彼は若い頃から白銀の髪らしく、その上薄い琥珀の瞳。金と銀のスペシャルな色合いなのです。切れ長で涼しげな目元に薄くやや皮肉げな口元が大人の魅力を醸し出していますの。端正な顔立ちで奥様を亡くされたせいか少し翳りのある感じの表情。それはもうアラ腐ォーだった私のドストライクというものでした。
奥様を亡くされてからずっと一人でいらっしゃるところも高ポイントです。一途な方なんて素敵。息子さんはもう成人して別に館を構えているみたいだし。うふふふ。
「きゃあああ、誰か?!」
見る間に砂ぼこりが舞い上がり、どかどかと荒々しい馬の足音が間近に聞こえてきました。誰かが馬が暴走したと叫んでいましたけれど私は何が起こったのかも分からずどこか遠くに感じていました。
最早、暴れ馬は逃れられないほど私の近くまで来ていて、周囲からの罵声やら怒声とも分からないものを聞きながら、私は地面に叩きつけられていました。全身の激しい痛みと共に意識は真っ暗闇に飲み込まれてしまったのです。
『あちゃー。こっちのルートじゃないんだけど。あーあ、ステータスが足りなかったのかなあ、ううっ。スチル回収し損ねてるぅ。〇〇〇〇〇様攻略まであとちょっとだったのに……。痛恨』
何故かそれは私のようでした。そこでは今まで見たことがない四角い光る板に向かって私は一人でぶつぶつ呟いていたのです。一人で話すなんて恐ろしいことですわ。
そして、その夢の中では私は既に三十歳後半という歳になっていて、使用人のようにお仕事もしていましたのよ。なんだか、男のようなズボンを履いて髪も肩までととても短くてまるで男性のようでした。
でも、その私はとても楽しそうでしたの。光り輝く板の中にはまるで動く紙芝居のようにいろいろな場面が出てきましたし、まるで王子様のような方までもたくさん出てきていましたの。
攻略とやらをしているのですのよ。それもなんと男性と仲良く過ごして愛の告白するの。そんなことはとても恥ずかしいことで普通なら考えられないことですわ。男性に告白なんて娼婦でもあるまいし、普通は男性から求婚するものなのですよ。
それでも板の中のイケメン達に私は次々と語りかけていました。どうやら今度は周回プレイとかいうものを目指すそうですの。出てくる男性の全員と仲良くなると逆ハーレムエンドなんてものもあるみたいですわ。なんという乱れたことなのでしょう。ああ、神様。お許しください。
……でも、それはとてもとても楽しゅうございましたの!
「クレアお嬢さまぁぁ」
おいおいと泣く聞き覚えのある声に私は目が覚めてしまいました。
今さっき見ていたのは一体なんだったのでしょう? とても良かったところなのに残念だわ……。
私はやや混乱しつつ返事をしようとして体の痛みに気がつきました。
「あっ、うう、痛い」
「お嬢様! 良かった。気がつかれましたか」
顔を覗き込んでいたのは教会の顔馴染みのシスターでした。彼女から私は暴走馬に蹴られそうになって倒れたのだと聞かされました。そして、運よくかすり傷で助かったらしいのです。
でも、代わりになんだか変な記憶が甦ってしまいました。ええ、おーえるさんとやらの記憶です。
そうするとクレアだけの意識のときは婚姻を貴族の義務と思って特別な感慨も持たなかったものですが、アラ腐ォーおーえるとやらの記憶が少し甦った今の私にとって両親とそう変わらない年のエドワード様と結婚することは全く問題ありませんでした。
むしろ、ウエルカムな気持ちになっていました。
だってね。エドワード様は言うなれば素敵なおじ様でしたの。誰も居なければ声を大にして叫びたいくらい。ただのおじ様ではありませんのよ。彼は間違いなくイケおじ。イケおじなのですよぉぉ!
あら、嫌ですわ。品位が無くなっていますわね。子爵令嬢ともあろうものが、こほん。
確か噂では彼は若い頃から白銀の髪らしく、その上薄い琥珀の瞳。金と銀のスペシャルな色合いなのです。切れ長で涼しげな目元に薄くやや皮肉げな口元が大人の魅力を醸し出していますの。端正な顔立ちで奥様を亡くされたせいか少し翳りのある感じの表情。それはもうアラ腐ォーだった私のドストライクというものでした。
奥様を亡くされてからずっと一人でいらっしゃるところも高ポイントです。一途な方なんて素敵。息子さんはもう成人して別に館を構えているみたいだし。うふふふ。
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