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八 馬車から幌馬車へ
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馬車が緩やかに止まり、外に出るようにうながされた。
「アゼリア嬢には私がこれからすることは他言無用にして欲しい。その代わり君が納得するまで手助けをすることを約束する」
「は、はい」
外に出るとそこはもう王都の城壁の外側で田園地帯と樹木が生い茂っていた。
城壁周辺もボロボロの姿の住民等があてどもなく彷徨っていた
そこを過ぎて森や田園がある街道から少し外れ木々の間で隠れるように馬車は止まった。
辺はすっかり夜になっていた。
あの宴からとんでもないことになってしまった。
今朝はまだ高位の貴族令嬢だったのに今や国から追われるただの小娘。
「ここからは目立たないように幌馬車に変える。それに君もそのドレスから着替えた方がいい」
レイノルド様がそう言うと何やら手をかざすと馬車が消えた。
「き、消えたんですけど?!」
「いや、大丈夫だ」
次の瞬間、レイノルド様が再び手を振ると目の前にはみすぼらしい幌馬車が現れていた。
「え? どういう……。レイノルド様、ひょっとして魔法が使え……」
「いや、スキルだ。便利だろう? アイテムを収納できるんだ」
レイノルド様はにこりと笑みを浮かべた。
ああ、アイテムボックスとかいうスキル!
手に持つことなく、自分の空間にアイテムを収納できるスキル。とても重宝されている。
鞄などに付与されていることが多く便利な物だ。上限はさまざまだけど。
この世界には魔法以外にスキルもある。ただしあくまでも魔法を使える人の方が優れているとされている。
魔法は絶対視されどんなちゃちい魔法でも使える人は優遇されている。
なんでも昔魔王軍が人間を攻めて来たとき光魔法で追い払ったという伝説が残っているからだ。
魔法を使える者は憧れの存在で大切にされている。
スキルは主に職業の選択に用いられ、スキルは大方特殊なものでなければ誰でも身に付けることができる。
下位スキルを購入したり、そういう技術職に就いたりすると自然に身に付いたりする。
例えば大工仕事や料理、掃除などのスキルだ。これらの生活スキルはたくさんある。
スキル屋から買うことができるし、料理屋や鍛冶屋に就職すればそこで徒弟制度を利用してスキルを得ることもできるようになっている。
日常で使っているとスキルが身に付くこともある。大概の人がなんらかのスキルを持つことができる。
そこは魔法と違うところだ。
魔法は先天的なもので生まれた時に決まっている。先ほどのレイノルド様が王族を追放されるのは魔法が使えないからというのは貴族ではよくあることだった。
だから高位貴族ほど魔法が使えることになっている。
魔法の基本は火土風水の四大魔法と呼ばれるものとその上位存在の光と闇魔法がある。
これはとても稀有な魔法で王家は特に癒しや魔を払う光魔法を望んでいた。
ただ、現王族には光魔法を持つ王族はいない。貴族の中にも。
その中でアゼリアは光魔法の持ち主だった。だから王子の婚約者になっていて王家に取り込まれていたのだ。
アゼリアは我儘だけど天与の才があった。
だけど我慢ができないので訓練とか練習をあまりしなかったのでレベル一のままで正直何も使えない。明かりを灯すくらい。
「それじゃあ。この幌馬車の中の使い方を説明しておくよ」
私はレイノルド様に手を取られて幌馬車の中へと乗り込んだ。
素通しではなく場所の後方と前方に出入り口の扉が付いているだけのなんの変哲もない幌馬車だった。農家とか使ってそうな感じの古びた木目の箱型の荷馬車。でも屋根があるので雨の時でも中で過ごせそうな感じ。
「それでこの扉を開けると……」
そう言ってレイノルド様が前方の扉を内側に開くと中は樽とか置いてある普通の内部だった。
「そして、この扉を横に引くと」
そう言ってレイノルド様が扉を横に引くように開けると、その先は先ほどの樽とかあったところではなく、赤い絨毯が敷いてある廊下と部屋が見えたのだった。
廊下の両側には部屋らしき扉が左右に五つずつあった。廊下の先にはまた扉がある。
なんだか距離感がおかしくなりそうだった。
「は? これは一体どういう……」
困惑しながらレイノルド様に尋ねると、彼は構わず説明を続けた。
「扉を横に引くとこちらの空間、押し開けると普通の馬車の後方に戻るから」
「えっ……」
さっきから変な声しか出せなかったけれどレイノルド様は聞き流してくれた。
「後でこの設備の説明もするから、今は着替えて休んだ方がいい。良かったらこれを」
そうしてレイノルド様のアイテムボックスから出されたのはシンプルなワンピースドレスとフード付きのコートだった。
「えっ? これって……」
鑑定眼で視るとどちらもモンスタードロップ品だった。思わず声が出てしまった。
「いえ、ありがとうございます。働いて返します」
レイノルド様は不思議そうにしていたが、私はペコリと頭を下げた。
ワンピースドレスの方は着ても庶民と思われる感じだけどフード付きのコートがヤバかった。
見た目は派手でないのになんかいっぱい付与されてました。
物理的攻撃軽減、炎の耐性、氷の耐性、魔法攻撃軽減、体力増加……。
それもダンジョン出土品で階層ボスモンスターのレア物だ。レイノルド様が手に入れたのだろうか。
私の鑑定眼にはだいたいの価値も表示されていた。
このコート一つで金貨三百枚って、一体どれだけ働いたら稼げるのだろう?
「君の部屋は俺の隣でニ番を使って」
そうして私はなんだか分からないままレイノルド様に案内されて幌馬車の内部の部屋へ入った。
「アゼリア嬢には私がこれからすることは他言無用にして欲しい。その代わり君が納得するまで手助けをすることを約束する」
「は、はい」
外に出るとそこはもう王都の城壁の外側で田園地帯と樹木が生い茂っていた。
城壁周辺もボロボロの姿の住民等があてどもなく彷徨っていた
そこを過ぎて森や田園がある街道から少し外れ木々の間で隠れるように馬車は止まった。
辺はすっかり夜になっていた。
あの宴からとんでもないことになってしまった。
今朝はまだ高位の貴族令嬢だったのに今や国から追われるただの小娘。
「ここからは目立たないように幌馬車に変える。それに君もそのドレスから着替えた方がいい」
レイノルド様がそう言うと何やら手をかざすと馬車が消えた。
「き、消えたんですけど?!」
「いや、大丈夫だ」
次の瞬間、レイノルド様が再び手を振ると目の前にはみすぼらしい幌馬車が現れていた。
「え? どういう……。レイノルド様、ひょっとして魔法が使え……」
「いや、スキルだ。便利だろう? アイテムを収納できるんだ」
レイノルド様はにこりと笑みを浮かべた。
ああ、アイテムボックスとかいうスキル!
手に持つことなく、自分の空間にアイテムを収納できるスキル。とても重宝されている。
鞄などに付与されていることが多く便利な物だ。上限はさまざまだけど。
この世界には魔法以外にスキルもある。ただしあくまでも魔法を使える人の方が優れているとされている。
魔法は絶対視されどんなちゃちい魔法でも使える人は優遇されている。
なんでも昔魔王軍が人間を攻めて来たとき光魔法で追い払ったという伝説が残っているからだ。
魔法を使える者は憧れの存在で大切にされている。
スキルは主に職業の選択に用いられ、スキルは大方特殊なものでなければ誰でも身に付けることができる。
下位スキルを購入したり、そういう技術職に就いたりすると自然に身に付いたりする。
例えば大工仕事や料理、掃除などのスキルだ。これらの生活スキルはたくさんある。
スキル屋から買うことができるし、料理屋や鍛冶屋に就職すればそこで徒弟制度を利用してスキルを得ることもできるようになっている。
日常で使っているとスキルが身に付くこともある。大概の人がなんらかのスキルを持つことができる。
そこは魔法と違うところだ。
魔法は先天的なもので生まれた時に決まっている。先ほどのレイノルド様が王族を追放されるのは魔法が使えないからというのは貴族ではよくあることだった。
だから高位貴族ほど魔法が使えることになっている。
魔法の基本は火土風水の四大魔法と呼ばれるものとその上位存在の光と闇魔法がある。
これはとても稀有な魔法で王家は特に癒しや魔を払う光魔法を望んでいた。
ただ、現王族には光魔法を持つ王族はいない。貴族の中にも。
その中でアゼリアは光魔法の持ち主だった。だから王子の婚約者になっていて王家に取り込まれていたのだ。
アゼリアは我儘だけど天与の才があった。
だけど我慢ができないので訓練とか練習をあまりしなかったのでレベル一のままで正直何も使えない。明かりを灯すくらい。
「それじゃあ。この幌馬車の中の使い方を説明しておくよ」
私はレイノルド様に手を取られて幌馬車の中へと乗り込んだ。
素通しではなく場所の後方と前方に出入り口の扉が付いているだけのなんの変哲もない幌馬車だった。農家とか使ってそうな感じの古びた木目の箱型の荷馬車。でも屋根があるので雨の時でも中で過ごせそうな感じ。
「それでこの扉を開けると……」
そう言ってレイノルド様が前方の扉を内側に開くと中は樽とか置いてある普通の内部だった。
「そして、この扉を横に引くと」
そう言ってレイノルド様が扉を横に引くように開けると、その先は先ほどの樽とかあったところではなく、赤い絨毯が敷いてある廊下と部屋が見えたのだった。
廊下の両側には部屋らしき扉が左右に五つずつあった。廊下の先にはまた扉がある。
なんだか距離感がおかしくなりそうだった。
「は? これは一体どういう……」
困惑しながらレイノルド様に尋ねると、彼は構わず説明を続けた。
「扉を横に引くとこちらの空間、押し開けると普通の馬車の後方に戻るから」
「えっ……」
さっきから変な声しか出せなかったけれどレイノルド様は聞き流してくれた。
「後でこの設備の説明もするから、今は着替えて休んだ方がいい。良かったらこれを」
そうしてレイノルド様のアイテムボックスから出されたのはシンプルなワンピースドレスとフード付きのコートだった。
「えっ? これって……」
鑑定眼で視るとどちらもモンスタードロップ品だった。思わず声が出てしまった。
「いえ、ありがとうございます。働いて返します」
レイノルド様は不思議そうにしていたが、私はペコリと頭を下げた。
ワンピースドレスの方は着ても庶民と思われる感じだけどフード付きのコートがヤバかった。
見た目は派手でないのになんかいっぱい付与されてました。
物理的攻撃軽減、炎の耐性、氷の耐性、魔法攻撃軽減、体力増加……。
それもダンジョン出土品で階層ボスモンスターのレア物だ。レイノルド様が手に入れたのだろうか。
私の鑑定眼にはだいたいの価値も表示されていた。
このコート一つで金貨三百枚って、一体どれだけ働いたら稼げるのだろう?
「君の部屋は俺の隣でニ番を使って」
そうして私はなんだか分からないままレイノルド様に案内されて幌馬車の内部の部屋へ入った。
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