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五 レイノルド様の従者
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そう、レイノルド様は魔法はないけれどスキルがとてつもなく多いのだ。
恐らく無数にあるスキルを使われているのだろう。
無事に王宮の外に出ると、辻馬車のような質素な馬車が待ち構えていた。
「レイノルド様。遅かったですね。何かあったのかと心配しました」
御者台から私達とそう変わらない歳の青年が声をかけてきた。
「いろいろとあってね」
レイノルド様が彼にそう言ってから私を地面に降ろした。足が震えていたけどなんとか立つことができた。
「それで、アゼリア嬢はこれからどうするつもりだ? 行くところがあればそこまで送って行こう」
私はその言葉に直ぐには答えられなかった。私の沈黙をレイノルド様はなんとなく察したようで、
「とりあえず一緒に乗って、ここでゆっくり話せない。追手も心配だ」
私は促されるがまま馬車に乗り込んだ。
「とりあえず、急いで馬車を出してくれ。追われている」
レイノルド様が外に声をかけると馬車は急ぎ走り出した。
「御者は俺の乳兄弟のアドニスだ。ここまでくればほぼ大丈夫だろう」
「あの、その、レイノルド様のお世話になるはずではなかったのですが……、すみません」
なんと言ってよいのか分からず。頭を下げた。
窓から見ると城下町はこれから夕闇を纏い、昼間とは別の喧騒が包み始めていた。
「……ロータス公爵家には寄った方がいいか?」
レイノルド様が言いにくそうに尋ねてくれた。
ご自分の方こそ大変なのに私の心配をしてくださる。弟のリーダイ様より絶対この方の方がこの国のためには良かったのではとまで思ってしまった。
私も追い出されるのにね。
私は首を左右に振った。
「いいえ」
もっと持ち物を取りに戻りたいけれどきっと門前払いをされるに決まっている。それに気が変わってやっぱり王家の側妃にするとか言って監禁なんてされても困る。
私は自分の今後について、記憶の底にあるラノベとかゲームを思い返していた。
もちろん、この世界と同じような話に心当たりはない。
でも確か追放された悪役令嬢は修道院に行くことになり、途中で盗賊に扮した婚約者の手下に襲われて死亡するか、娼館落ちのパターンが多いのだけは思い出した。
「でも、この姿ではどうしようもないので、ドレスやアクセサリーを換金できるところで降ろしていただけるとありがたいです」
すると馬車の中に妙な沈黙が下りた。
え? 何かおかしなことを言ったかしら?
だって、真っ赤な社交界用のドレスで村や町を歩く訳にはいかない。
それに宿代だって、食事代だって必要だし、ドレスや宝石を売れば当面の間は大丈夫だと思う。アゼリアだったら癇癪を起こしていたかもしれないけどね。
「あ、ダメでしたらどこでも」
沈黙が非難だと感じて、レイノルド様におずおずと申し出ると彼はため息をついた。
「……悪いけど、君のことは知らない仲ではないからこのまま見捨てて行って何かあった時に目覚めが良くない」
レイノルド様が困った様子で私を見つめる。
「じゃあ、冒険者ギルドへ案内していただけませんか?」
「冒険者ギルド? 君のようなご令嬢が一体…」
「とりあえず、金銭を手に入れないといけませんから。案内してくださらないなら結構です。確か王都の南の方だったかと思います」
私は窓から外を見た。私の家は高位貴族だから、王宮に近い。ギルドの方まではあまり出かけたことはなかった。
「待って、そんなところに何の用事だ。まさか冒険者になるとか言うんじゃないな?」
私は黙って頷いた。
「そのつもりです。だって、これからの生活費を稼がないと」
私の言葉にレイノルド様は大きくため息をついた。
「……緋色に金糸や宝石をふんだんに使用した最上級のドレスに艶やかな金髪の頭の上には極上の細工が施されたティアラ。手には特注品の金の扇子に靴は金のピンヒールで冒険者になるとか、多分そんな令嬢はアゼリア嬢以外に見たことがない。相変わらず、不思議な女性だ」
レイノルド様はじっと私をご覧になった。
「お嫌でしたら、ここで降りますけど」
「そんなつもりじゃ……。だけど俺はなるべく早く王都から出たいと思っている。そしてできるだけ遠くに逃げるつもりだ」
レイノルド様の言葉に自分もリーダイ王子が何をしてくるか分からないことを感じた。
それに先ほどの追手もレイノルド様だけとは限らない。私も対象に入っているかもしれない。
「私もそうするつもりです」
「では、一緒に逃げるということで構わないのか? 君の安全が確保できるところまでだ。ドレスの換金は直ぐにはできないかもしれないが、着る服とかはどうにか手配しよう」
「そんな、そこまでしていただくのは申し訳ないです」
私がそう言うと、レイノルド様は少し複雑な表情を浮かべていた。
「……あのアゼリア嬢がそんな殊勝なことを言うなんて、リーダイとの婚約破棄がよっぽど堪えたんだね」
レイノルド様は勝手に想像を膨らませてくれたのかそんなことを口にした。
そうとってもらえると今までの私の行動と違ってもおかしくないと思ってもらえる。これは誤解させておいた方が得策だ。
そう思って私は頷いた。
「……そうか、君は何も悪くない。リーダイが悪いよ。だけどここでそんなことを言っても仕方ないな。これからは嫌な思い出があるシエナ王国を離れ新天地へ目指そう」
レイノルド様が再度御者台に向けて急ぐようにと声を張り上げた。
恐らく無数にあるスキルを使われているのだろう。
無事に王宮の外に出ると、辻馬車のような質素な馬車が待ち構えていた。
「レイノルド様。遅かったですね。何かあったのかと心配しました」
御者台から私達とそう変わらない歳の青年が声をかけてきた。
「いろいろとあってね」
レイノルド様が彼にそう言ってから私を地面に降ろした。足が震えていたけどなんとか立つことができた。
「それで、アゼリア嬢はこれからどうするつもりだ? 行くところがあればそこまで送って行こう」
私はその言葉に直ぐには答えられなかった。私の沈黙をレイノルド様はなんとなく察したようで、
「とりあえず一緒に乗って、ここでゆっくり話せない。追手も心配だ」
私は促されるがまま馬車に乗り込んだ。
「とりあえず、急いで馬車を出してくれ。追われている」
レイノルド様が外に声をかけると馬車は急ぎ走り出した。
「御者は俺の乳兄弟のアドニスだ。ここまでくればほぼ大丈夫だろう」
「あの、その、レイノルド様のお世話になるはずではなかったのですが……、すみません」
なんと言ってよいのか分からず。頭を下げた。
窓から見ると城下町はこれから夕闇を纏い、昼間とは別の喧騒が包み始めていた。
「……ロータス公爵家には寄った方がいいか?」
レイノルド様が言いにくそうに尋ねてくれた。
ご自分の方こそ大変なのに私の心配をしてくださる。弟のリーダイ様より絶対この方の方がこの国のためには良かったのではとまで思ってしまった。
私も追い出されるのにね。
私は首を左右に振った。
「いいえ」
もっと持ち物を取りに戻りたいけれどきっと門前払いをされるに決まっている。それに気が変わってやっぱり王家の側妃にするとか言って監禁なんてされても困る。
私は自分の今後について、記憶の底にあるラノベとかゲームを思い返していた。
もちろん、この世界と同じような話に心当たりはない。
でも確か追放された悪役令嬢は修道院に行くことになり、途中で盗賊に扮した婚約者の手下に襲われて死亡するか、娼館落ちのパターンが多いのだけは思い出した。
「でも、この姿ではどうしようもないので、ドレスやアクセサリーを換金できるところで降ろしていただけるとありがたいです」
すると馬車の中に妙な沈黙が下りた。
え? 何かおかしなことを言ったかしら?
だって、真っ赤な社交界用のドレスで村や町を歩く訳にはいかない。
それに宿代だって、食事代だって必要だし、ドレスや宝石を売れば当面の間は大丈夫だと思う。アゼリアだったら癇癪を起こしていたかもしれないけどね。
「あ、ダメでしたらどこでも」
沈黙が非難だと感じて、レイノルド様におずおずと申し出ると彼はため息をついた。
「……悪いけど、君のことは知らない仲ではないからこのまま見捨てて行って何かあった時に目覚めが良くない」
レイノルド様が困った様子で私を見つめる。
「じゃあ、冒険者ギルドへ案内していただけませんか?」
「冒険者ギルド? 君のようなご令嬢が一体…」
「とりあえず、金銭を手に入れないといけませんから。案内してくださらないなら結構です。確か王都の南の方だったかと思います」
私は窓から外を見た。私の家は高位貴族だから、王宮に近い。ギルドの方まではあまり出かけたことはなかった。
「待って、そんなところに何の用事だ。まさか冒険者になるとか言うんじゃないな?」
私は黙って頷いた。
「そのつもりです。だって、これからの生活費を稼がないと」
私の言葉にレイノルド様は大きくため息をついた。
「……緋色に金糸や宝石をふんだんに使用した最上級のドレスに艶やかな金髪の頭の上には極上の細工が施されたティアラ。手には特注品の金の扇子に靴は金のピンヒールで冒険者になるとか、多分そんな令嬢はアゼリア嬢以外に見たことがない。相変わらず、不思議な女性だ」
レイノルド様はじっと私をご覧になった。
「お嫌でしたら、ここで降りますけど」
「そんなつもりじゃ……。だけど俺はなるべく早く王都から出たいと思っている。そしてできるだけ遠くに逃げるつもりだ」
レイノルド様の言葉に自分もリーダイ王子が何をしてくるか分からないことを感じた。
それに先ほどの追手もレイノルド様だけとは限らない。私も対象に入っているかもしれない。
「私もそうするつもりです」
「では、一緒に逃げるということで構わないのか? 君の安全が確保できるところまでだ。ドレスの換金は直ぐにはできないかもしれないが、着る服とかはどうにか手配しよう」
「そんな、そこまでしていただくのは申し訳ないです」
私がそう言うと、レイノルド様は少し複雑な表情を浮かべていた。
「……あのアゼリア嬢がそんな殊勝なことを言うなんて、リーダイとの婚約破棄がよっぽど堪えたんだね」
レイノルド様は勝手に想像を膨らませてくれたのかそんなことを口にした。
そうとってもらえると今までの私の行動と違ってもおかしくないと思ってもらえる。これは誤解させておいた方が得策だ。
そう思って私は頷いた。
「……そうか、君は何も悪くない。リーダイが悪いよ。だけどここでそんなことを言っても仕方ないな。これからは嫌な思い出があるシエナ王国を離れ新天地へ目指そう」
レイノルド様が再度御者台に向けて急ぐようにと声を張り上げた。
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