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22 メルティア嬢とエイベル
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「アニー」
エイベルの声が聞こえる。
薄く目を開けるとどうやら医務室のようだった。
「……エイベルか、お前、執務はどうなっているんだ」
「最初の一声がそれだなんて……、あなたは、もう仕方がない人ですね」
エイベルの声が震えていた。凍てついたと言われているくせに、泣きそうな顔で笑うなよ。全く困った奴だな
サニーライト師の術が行われた後、この医務室に私は運ばれたそうな。そしてエイベルは暇があれば付き添っていたらしい。
本当に困った部下だ。ああ、もう部下ではないか。それでもこうしてもう一度話せるのは嬉しい。
サニーライト師や王宮侍医から自宅に戻っても良いと許可がおりた。
「あらあら、面白い結果になったわね。普通なら本体の記憶のみになるはずなのに、よっぽどアニー隊長の記憶が強烈なのね」
サニーライト師によってメルティア嬢の記憶と私の意識は融合された。
そのため高熱が出てあの後しばらく王宮の医務室でお世話になってしまった。
私のケースは稀なこととして王宮の魔術記録に秘匿して残されることになるだろう。
融合の結果は私の記憶も残っていて、メルティア嬢の記憶もあるという状態だ。
しかし、意識は……。
どうやら私、アニー・フィードとしての性格の方がよほど強烈なもので影響が強かったらしい。
残念ながらメルティア嬢のような控えめで気弱な令嬢にはなれなかった。
意識と記憶はアニーの方が強すぎたようだった。
男爵家の迎えを待っていたがエイベルがやってきた。
「男爵家までお送りいたします」
「そうか。よろしく頼む」
私の返事にエイベルがくすりと笑った。
「それは令嬢の言葉でありませんね」
「くっ、つい、気をつけますわ」
お互い笑いながら用意してもらった馬車で男爵家に向かった。男爵夫妻は玄関で待っていてくれた。メルティアは愛される娘だ。
私はお母様に抱きついた。
「お母様! お父様!」
「お帰り、メルティ!」
口々に帰ったことを喜びあった。
エイベルがいるので応接室へ案内された。
「……それでは、メルティの記憶は戻ったのですね」
「ええ、でも性格的なものはアニー隊長の影響を受けてしまって、以前のような性格ではなくなったみたい」
私は両親にそう説明する。家族としての記憶もある。アニー・フィードとしての記憶も……。私は少し気まずく感じた。するとお母様が私に微笑んでくれた。
「ふふ。メルティとアニー隊長の二人の娘ができたと思えばいいのね」
「そうだな」
お父様も頷いていた。私は思わず二人に抱きついてしまった。
「……私は母を知らない。親に捨てられた子でした。初めて父と母と呼べる存在です。これから父、母と思っていても良いでしょうか?」
「ええ、あのアニー隊長を娘にできるのね。私も誇りに思うわ。これからもよろしくね。メルティ」
「お前はこれからも大事な娘だ。私達の」
「……ありがとうございます。精一杯務めさせていただきます」
「ふふ。甘えてくれればいいのよ」
そんな私達をエイベルは優しく見守ってくれていた。
「良かった。アニー、いえメルティア嬢」
「ありがとう。エイベル。お前には本当に世話になった」
「それは令嬢の口調ではありませんよ。アニー」
「お前だって、いつまでもそう呼ぶものではありませんわ」
ふふと二人で笑い合った。
エイベルも遅くならないうちに帰るというので玄関まで見送りに付き添った。
馬車に乗り込むにエイベルが首に下げていたネックレスからあの指輪を取り出した。
「この指輪は、お返します。あなたに持っていて欲しい。なんならそのまま結婚しましょう」
にこにこと横でエイベルは笑っていた。
「結婚って、まあ、はあ、私は……、いや、そうか、今は貴族の男爵令嬢だし、お父様や、お母様もとても乗り気でしたね」
英勇と言われていたけれどやはり平民で孤児だったアニー・フィードより貴族同士だから貴族社会でも大きな反対はないと説明された。
私は両親の方を振り返って見ると遠くから二人はにこにこと私達を見守っていた。私は令嬢らしくない低い声で、
「……それに関してはそのまた後日詳しく話そうじゃないか」
「令嬢らしくですよ」
エイベルがいちいち指摘してきた。
――ええい。うるさい。そもそもお前が、こんなところでそんな大事な話を持ち出したからだろう?
「え、ええとそのことに関しては後ほど話し合いませんか?」
「分かりました。ではまた、愛しい人」
そう囁くと頬にキスをしやがった。両親からあら、まあとか声が聞こえた。
……恥ずかしいじゃないか!
エイベルは余裕な感じで馬車に乗り込んだ。ええい。いずれは……。
「ああ、そうだ。エイベル。私の墓参りをさせて欲しい」
私がそう言うとエイベルは目を丸くしてやや苦い表情を見せた。
「それは……」
「気持ちの区切りをつけたいんだ」
「まあ、それなら……」
ドアを閉める間際にもう一つ。
「それともう一度、お前を愛してもいいだろうか?」
「え? あ、アニー!?」
戸惑ったエイベルの声が響きながら馬車のドアは閉じた。
一矢報いることができたようだ。私は少し溜飲を下げながら走り去る馬車を見送った。
きっとまたあいつと一緒に楽しい生活がこれからも続くことを信じて。
エイベルの声が聞こえる。
薄く目を開けるとどうやら医務室のようだった。
「……エイベルか、お前、執務はどうなっているんだ」
「最初の一声がそれだなんて……、あなたは、もう仕方がない人ですね」
エイベルの声が震えていた。凍てついたと言われているくせに、泣きそうな顔で笑うなよ。全く困った奴だな
サニーライト師の術が行われた後、この医務室に私は運ばれたそうな。そしてエイベルは暇があれば付き添っていたらしい。
本当に困った部下だ。ああ、もう部下ではないか。それでもこうしてもう一度話せるのは嬉しい。
サニーライト師や王宮侍医から自宅に戻っても良いと許可がおりた。
「あらあら、面白い結果になったわね。普通なら本体の記憶のみになるはずなのに、よっぽどアニー隊長の記憶が強烈なのね」
サニーライト師によってメルティア嬢の記憶と私の意識は融合された。
そのため高熱が出てあの後しばらく王宮の医務室でお世話になってしまった。
私のケースは稀なこととして王宮の魔術記録に秘匿して残されることになるだろう。
融合の結果は私の記憶も残っていて、メルティア嬢の記憶もあるという状態だ。
しかし、意識は……。
どうやら私、アニー・フィードとしての性格の方がよほど強烈なもので影響が強かったらしい。
残念ながらメルティア嬢のような控えめで気弱な令嬢にはなれなかった。
意識と記憶はアニーの方が強すぎたようだった。
男爵家の迎えを待っていたがエイベルがやってきた。
「男爵家までお送りいたします」
「そうか。よろしく頼む」
私の返事にエイベルがくすりと笑った。
「それは令嬢の言葉でありませんね」
「くっ、つい、気をつけますわ」
お互い笑いながら用意してもらった馬車で男爵家に向かった。男爵夫妻は玄関で待っていてくれた。メルティアは愛される娘だ。
私はお母様に抱きついた。
「お母様! お父様!」
「お帰り、メルティ!」
口々に帰ったことを喜びあった。
エイベルがいるので応接室へ案内された。
「……それでは、メルティの記憶は戻ったのですね」
「ええ、でも性格的なものはアニー隊長の影響を受けてしまって、以前のような性格ではなくなったみたい」
私は両親にそう説明する。家族としての記憶もある。アニー・フィードとしての記憶も……。私は少し気まずく感じた。するとお母様が私に微笑んでくれた。
「ふふ。メルティとアニー隊長の二人の娘ができたと思えばいいのね」
「そうだな」
お父様も頷いていた。私は思わず二人に抱きついてしまった。
「……私は母を知らない。親に捨てられた子でした。初めて父と母と呼べる存在です。これから父、母と思っていても良いでしょうか?」
「ええ、あのアニー隊長を娘にできるのね。私も誇りに思うわ。これからもよろしくね。メルティ」
「お前はこれからも大事な娘だ。私達の」
「……ありがとうございます。精一杯務めさせていただきます」
「ふふ。甘えてくれればいいのよ」
そんな私達をエイベルは優しく見守ってくれていた。
「良かった。アニー、いえメルティア嬢」
「ありがとう。エイベル。お前には本当に世話になった」
「それは令嬢の口調ではありませんよ。アニー」
「お前だって、いつまでもそう呼ぶものではありませんわ」
ふふと二人で笑い合った。
エイベルも遅くならないうちに帰るというので玄関まで見送りに付き添った。
馬車に乗り込むにエイベルが首に下げていたネックレスからあの指輪を取り出した。
「この指輪は、お返します。あなたに持っていて欲しい。なんならそのまま結婚しましょう」
にこにこと横でエイベルは笑っていた。
「結婚って、まあ、はあ、私は……、いや、そうか、今は貴族の男爵令嬢だし、お父様や、お母様もとても乗り気でしたね」
英勇と言われていたけれどやはり平民で孤児だったアニー・フィードより貴族同士だから貴族社会でも大きな反対はないと説明された。
私は両親の方を振り返って見ると遠くから二人はにこにこと私達を見守っていた。私は令嬢らしくない低い声で、
「……それに関してはそのまた後日詳しく話そうじゃないか」
「令嬢らしくですよ」
エイベルがいちいち指摘してきた。
――ええい。うるさい。そもそもお前が、こんなところでそんな大事な話を持ち出したからだろう?
「え、ええとそのことに関しては後ほど話し合いませんか?」
「分かりました。ではまた、愛しい人」
そう囁くと頬にキスをしやがった。両親からあら、まあとか声が聞こえた。
……恥ずかしいじゃないか!
エイベルは余裕な感じで馬車に乗り込んだ。ええい。いずれは……。
「ああ、そうだ。エイベル。私の墓参りをさせて欲しい」
私がそう言うとエイベルは目を丸くしてやや苦い表情を見せた。
「それは……」
「気持ちの区切りをつけたいんだ」
「まあ、それなら……」
ドアを閉める間際にもう一つ。
「それともう一度、お前を愛してもいいだろうか?」
「え? あ、アニー!?」
戸惑ったエイベルの声が響きながら馬車のドアは閉じた。
一矢報いることができたようだ。私は少し溜飲を下げながら走り去る馬車を見送った。
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