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19 ローナ男爵夫人
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沈黙はローナ夫人が破った。
「とにかく、体はメルティアで、意識はアニー隊長。そして意識の底にはメルティアがいると……」
ローナ夫人の言葉にエイベルが続けた。
「詳しくは王宮魔法使いの鑑定にかけなければならないかと思いますが。概ねその通りだと思われます」
エイベルの言葉に男爵が顔色を変えた。
「王宮魔法使いの鑑定だなんて、お願いしてもいつになるやら……」
「ああ、それなら我が家でよろしければお手伝いさせていただきますよ」
「コートナー侯爵家の方なら、ですが私達のためにそこまでしていただく謂れはありませんが……」
男爵がおずおずと申し出る。
「私がアニー隊長を引きとりました。彼女は自分の家で眠っております」
「まあ、コートナー卿は、そのアニー隊長とはどういった間柄でしたの」
ローナ夫人が夫に身を寄せながら尋ねてきた。
「自分はアニー隊長の補佐を務めておりました」
エイベルはそう言うと私を見た。私はエイベルに頷いて見せると彼に意図は伝わったようだった。
「……アニー隊長とは恋人、いいえ結婚の約束をしていました」
「んまああ! アニー隊長の秘密の恋でしたの?!」
ローナ夫人は一気に喜色を浮かべていた。
私は何も言わずエイベルに任せた。ずるいかもしれないが貴族階級の話し方などできそうにない。
「王宮へ行かれるなら自分もアニーに付き添わせていただきたい。そして……、願えるなら彼女との婚姻も許していただけたらと願います」
「んまあ、まあ、なんてことでしょう!」
ローナ夫人は感極まったような声を上げた。男爵は咳払いをすると。
「ごほん。ええとコートナー卿、メルティとの結婚のお話はまた後ほどゆっくりといたしましょう。とりあえずは、王宮での段取りはお願いいたます」
そういうと男爵は頭を下げた。ひと先ずはこれで何とかなりそうだった。もっと頭ごなしに否定されるかと思っていたが。
「……コートナー卿はアニー隊長と密かに婚約していた。では、メルティに求婚されたときにはこのことはご存じだったのですが? それで、メルティに求婚したのでしょうか?」
ローナ夫人の問いにエイベルはじっと夫人を見つめた。じりじりとした何かを二人から感じる。
「ええ、もちろん。ここに来るときはアニー隊長ではないかと私も半信半疑でしたが、一緒にいて話せば話すほどアニー隊長としか思えなくなりました」
「……」
エイベルの言葉に男爵夫妻は黙り込んでしまった。私はお二人に頭を下げた。
「エイベルのことは信用して欲しい。彼はとても優秀で何事も真摯に務めることのできる人だ。一緒に死線もかいくぐってきた。だから、どうか……」
「アニ、いや、メルティア嬢……」
エイベルの声が震えている。そして、ぎゅっと手を握り締めてきた。私は宥めるように彼の腕を触れていた。
「自分はメルティア嬢の不利になることはいたしません。側で居られればそれだけで充分なのです」
エイベルは男爵夫妻へそう懇願した。
「男爵夫人。私もメルティア嬢の不幸を望まない。彼女の意識を出られるように考えたい。メルティア嬢が戻ったなら、エイベルとの婚約話も白紙にできるように契約しておいて構わない」
「……そこまでおっしゃるならお二人にお任せいたしましょう。コートナー卿、……アニー隊長。私は私の娘を守りたいだけですの」
ローナ夫人はやや寂し気に微笑みを浮かべた。私のせいではないとしても彼らの娘の体を乗っ取ったようなものだ。私は二人に頭を下げた。
メルティア嬢、あなたならどうしたいのか。私に何が出来る?
「とにかく、体はメルティアで、意識はアニー隊長。そして意識の底にはメルティアがいると……」
ローナ夫人の言葉にエイベルが続けた。
「詳しくは王宮魔法使いの鑑定にかけなければならないかと思いますが。概ねその通りだと思われます」
エイベルの言葉に男爵が顔色を変えた。
「王宮魔法使いの鑑定だなんて、お願いしてもいつになるやら……」
「ああ、それなら我が家でよろしければお手伝いさせていただきますよ」
「コートナー侯爵家の方なら、ですが私達のためにそこまでしていただく謂れはありませんが……」
男爵がおずおずと申し出る。
「私がアニー隊長を引きとりました。彼女は自分の家で眠っております」
「まあ、コートナー卿は、そのアニー隊長とはどういった間柄でしたの」
ローナ夫人が夫に身を寄せながら尋ねてきた。
「自分はアニー隊長の補佐を務めておりました」
エイベルはそう言うと私を見た。私はエイベルに頷いて見せると彼に意図は伝わったようだった。
「……アニー隊長とは恋人、いいえ結婚の約束をしていました」
「んまああ! アニー隊長の秘密の恋でしたの?!」
ローナ夫人は一気に喜色を浮かべていた。
私は何も言わずエイベルに任せた。ずるいかもしれないが貴族階級の話し方などできそうにない。
「王宮へ行かれるなら自分もアニーに付き添わせていただきたい。そして……、願えるなら彼女との婚姻も許していただけたらと願います」
「んまあ、まあ、なんてことでしょう!」
ローナ夫人は感極まったような声を上げた。男爵は咳払いをすると。
「ごほん。ええとコートナー卿、メルティとの結婚のお話はまた後ほどゆっくりといたしましょう。とりあえずは、王宮での段取りはお願いいたます」
そういうと男爵は頭を下げた。ひと先ずはこれで何とかなりそうだった。もっと頭ごなしに否定されるかと思っていたが。
「……コートナー卿はアニー隊長と密かに婚約していた。では、メルティに求婚されたときにはこのことはご存じだったのですが? それで、メルティに求婚したのでしょうか?」
ローナ夫人の問いにエイベルはじっと夫人を見つめた。じりじりとした何かを二人から感じる。
「ええ、もちろん。ここに来るときはアニー隊長ではないかと私も半信半疑でしたが、一緒にいて話せば話すほどアニー隊長としか思えなくなりました」
「……」
エイベルの言葉に男爵夫妻は黙り込んでしまった。私はお二人に頭を下げた。
「エイベルのことは信用して欲しい。彼はとても優秀で何事も真摯に務めることのできる人だ。一緒に死線もかいくぐってきた。だから、どうか……」
「アニ、いや、メルティア嬢……」
エイベルの声が震えている。そして、ぎゅっと手を握り締めてきた。私は宥めるように彼の腕を触れていた。
「自分はメルティア嬢の不利になることはいたしません。側で居られればそれだけで充分なのです」
エイベルは男爵夫妻へそう懇願した。
「男爵夫人。私もメルティア嬢の不幸を望まない。彼女の意識を出られるように考えたい。メルティア嬢が戻ったなら、エイベルとの婚約話も白紙にできるように契約しておいて構わない」
「……そこまでおっしゃるならお二人にお任せいたしましょう。コートナー卿、……アニー隊長。私は私の娘を守りたいだけですの」
ローナ夫人はやや寂し気に微笑みを浮かべた。私のせいではないとしても彼らの娘の体を乗っ取ったようなものだ。私は二人に頭を下げた。
メルティア嬢、あなたならどうしたいのか。私に何が出来る?
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