18 / 22
18 ガラム・ソードラーン男爵
しおりを挟む
ミルドの話を終えてから後日、エイベルと男爵夫妻と一緒にミルドから聞いた話をすることに決めた。
「コートナー侯爵家令息、いやエイベル殿。一体改まってお話とは……」
「うふふ。エイベル様。嬉しゅうございますわ」
困惑する男爵とは対照的に満面の笑みを浮かべるローナ夫人。二人に私から切り出した。
「実はお話したいことがあります」
マギーも近くに控えている。
「お話って、最近のメルティは何か他人行儀だねぇ」
男爵はおっとりとしつつも確信めいた発言をした。
「そうねぇ。まるで大人の女性を相手にしているみたいだわ。メルティも大人になったのね。最近体調も良いみたいで。安心したわ。これなら貴族学院も社交界にデビューしても大丈夫そうね」
しみじみと語るローナ夫人と見ながら、私は話し始めた。
「実はメルティア嬢は倒れてから、私は別人になったのです。メルティアの中に別の人の意識を取り込んでいます」
「は? メルティは一体何を言い出したのだ……」
当惑している男爵に私は説明を続けた。
「実はメルティア嬢は願いが叶うというネックレスを手に入れ、そして、彼女はどうやらアニー隊長になりたいと願っていたようなのです」
「ど、どどどどういうことだ?」
混乱してしまった男爵に今度はマギーが付け加えた。
「旦那様。メルティアお嬢様の仰っていることに間違いはありません。お嬢様が街の占い師にそのネックレスを買いに行かれた際に同行しておりましたから、それに私はお側でおつかえしております。目覚めてからのお嬢様は以前のお嬢様ではないと感じておりました」
「で、では、今のメルティアはメルティアではないのだと?」
長年メルティア嬢付きの侍女をしていたマギーの言葉に男爵は動揺していた。エイベルはそのまま説明を続けた。
「正確に言えば、その占い師の鑑定によると死んで彷徨っていたアニー隊長の魂がメルティア嬢の願いに捉われて合わさってしまったようです」
男爵は座っていたソファーからずるずると滑り落ちてしまった。ローナ夫人は言葉もなくプルプルと体を震わせて蒼ざめていた。
「じゃあ。メルティ、……私の娘の魂はどうなったのだ?!」
「占い師のミルドの鑑定では望みが叶ったメルティア嬢は満足して融合した魂の奥で眠りについている状態だと説明してくれました」
「そんな!」
ローナ夫人が悲鳴を上げて倒れそうになったので男爵は夫人を支えつつこちらを見た。
「……だから、私がメルティア嬢のように振舞うのは難しいのです。アニーとしての記憶しかありませんから」
「……」
夫人を支えながら、男爵は黙り込んでいた。
「気持ち悪いとか気に入らないと思われるなら出て行きますので」
「出て……。だが、その体はメルティなのだろう? 意識が、魂が、と言っても」
「ええ、それは間違いなく。この体はメルティア嬢のものです」
だが、中身が違うとなればまた違うだろう。
「どちらにせよ。アニーの行き場がなければ私が引き取ります。いずれは結婚するつもりですので、一緒に住むのが早くなるだけですから」
横で黙って聞いていたエイベルが男爵夫妻に話した。
それは聞いてないぞ。エイベル? あとで裏庭まで来い。ゆっくりそのことについて拳で話そう。いいな?
夫婦はお互いを見合わせて黙り込んでしまった。
「……」
いっそ罵倒されたるほうが気は楽かもしれない。
「コートナー侯爵家令息、いやエイベル殿。一体改まってお話とは……」
「うふふ。エイベル様。嬉しゅうございますわ」
困惑する男爵とは対照的に満面の笑みを浮かべるローナ夫人。二人に私から切り出した。
「実はお話したいことがあります」
マギーも近くに控えている。
「お話って、最近のメルティは何か他人行儀だねぇ」
男爵はおっとりとしつつも確信めいた発言をした。
「そうねぇ。まるで大人の女性を相手にしているみたいだわ。メルティも大人になったのね。最近体調も良いみたいで。安心したわ。これなら貴族学院も社交界にデビューしても大丈夫そうね」
しみじみと語るローナ夫人と見ながら、私は話し始めた。
「実はメルティア嬢は倒れてから、私は別人になったのです。メルティアの中に別の人の意識を取り込んでいます」
「は? メルティは一体何を言い出したのだ……」
当惑している男爵に私は説明を続けた。
「実はメルティア嬢は願いが叶うというネックレスを手に入れ、そして、彼女はどうやらアニー隊長になりたいと願っていたようなのです」
「ど、どどどどういうことだ?」
混乱してしまった男爵に今度はマギーが付け加えた。
「旦那様。メルティアお嬢様の仰っていることに間違いはありません。お嬢様が街の占い師にそのネックレスを買いに行かれた際に同行しておりましたから、それに私はお側でおつかえしております。目覚めてからのお嬢様は以前のお嬢様ではないと感じておりました」
「で、では、今のメルティアはメルティアではないのだと?」
長年メルティア嬢付きの侍女をしていたマギーの言葉に男爵は動揺していた。エイベルはそのまま説明を続けた。
「正確に言えば、その占い師の鑑定によると死んで彷徨っていたアニー隊長の魂がメルティア嬢の願いに捉われて合わさってしまったようです」
男爵は座っていたソファーからずるずると滑り落ちてしまった。ローナ夫人は言葉もなくプルプルと体を震わせて蒼ざめていた。
「じゃあ。メルティ、……私の娘の魂はどうなったのだ?!」
「占い師のミルドの鑑定では望みが叶ったメルティア嬢は満足して融合した魂の奥で眠りについている状態だと説明してくれました」
「そんな!」
ローナ夫人が悲鳴を上げて倒れそうになったので男爵は夫人を支えつつこちらを見た。
「……だから、私がメルティア嬢のように振舞うのは難しいのです。アニーとしての記憶しかありませんから」
「……」
夫人を支えながら、男爵は黙り込んでいた。
「気持ち悪いとか気に入らないと思われるなら出て行きますので」
「出て……。だが、その体はメルティなのだろう? 意識が、魂が、と言っても」
「ええ、それは間違いなく。この体はメルティア嬢のものです」
だが、中身が違うとなればまた違うだろう。
「どちらにせよ。アニーの行き場がなければ私が引き取ります。いずれは結婚するつもりですので、一緒に住むのが早くなるだけですから」
横で黙って聞いていたエイベルが男爵夫妻に話した。
それは聞いてないぞ。エイベル? あとで裏庭まで来い。ゆっくりそのことについて拳で話そう。いいな?
夫婦はお互いを見合わせて黙り込んでしまった。
「……」
いっそ罵倒されたるほうが気は楽かもしれない。
0
お気に入りに追加
122
あなたにおすすめの小説

乙女ゲームは見守るだけで良かったのに
冬野月子
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した私。
ゲームにはほとんど出ないモブ。
でもモブだから、純粋に楽しめる。
リアルに推しを拝める喜びを噛みしめながら、目の前で繰り広げられている悪役令嬢の断罪劇を観客として見守っていたのに。
———どうして『彼』はこちらへ向かってくるの?!
全三話。
「小説家になろう」にも投稿しています。
タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒―
私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。
「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」
その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。
※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った
五色ひわ
恋愛
辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。アメリアは真実を確かめるため、3年ぶりに王都へと旅立った。
※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話
根暗令嬢の華麗なる転身
しろねこ。
恋愛
「来なきゃよかったな」
ミューズは茶会が嫌いだった。
茶会デビューを果たしたものの、人から不細工と言われたショックから笑顔になれず、しまいには根暗令嬢と陰で呼ばれるようになった。
公爵家の次女に産まれ、キレイな母と実直な父、優しい姉に囲まれ幸せに暮らしていた。
何不自由なく、暮らしていた。
家族からも愛されて育った。
それを壊したのは悪意ある言葉。
「あんな不細工な令嬢見たことない」
それなのに今回の茶会だけは断れなかった。
父から絶対に参加してほしいという言われた茶会は特別で、第一王子と第二王子が来るものだ。
婚約者選びのものとして。
国王直々の声掛けに娘思いの父も断れず…
応援して頂けると嬉しいです(*´ω`*)
ハピエン大好き、完全自己満、ご都合主義の作者による作品です。
同名主人公にてアナザーワールド的に別な作品も書いています。
立場や環境が違えども、幸せになって欲しいという思いで作品を書いています。
一部リンクしてるところもあり、他作品を見て頂ければよりキャラへの理解が深まって楽しいかと思います。
描写的なものに不安があるため、お気をつけ下さい。
ゆるりとお楽しみください。
こちら小説家になろうさん、カクヨムさんにも投稿させてもらっています。
第12回ネット小説大賞コミック部門入賞・コミカライズ企画進行「婚約破棄ですか? それなら昨日成立しましたよ、ご存知ありませんでしたか?」完結
まほりろ
恋愛
第12回ネット小説大賞コミック部門入賞・コミカライズ企画進行中。
コミカライズ化がスタートしましたらこちらの作品は非公開にします。
「アリシア・フィルタ貴様との婚約を破棄する!」
イエーガー公爵家の令息レイモンド様が言い放った。レイモンド様の腕には男爵家の令嬢ミランダ様がいた。ミランダ様はピンクのふわふわした髪に赤い大きな瞳、小柄な体躯で庇護欲をそそる美少女。
対する私は銀色の髪に紫の瞳、表情が表に出にくく能面姫と呼ばれています。
レイモンド様がミランダ様に惹かれても仕方ありませんね……ですが。
「貴様は俺が心優しく美しいミランダに好意を抱いたことに嫉妬し、ミランダの教科書を破いたり、階段から突き落とすなどの狼藉を……」
「あの、ちょっとよろしいですか?」
「なんだ!」
レイモンド様が眉間にしわを寄せ私を睨む。
「婚約破棄ですか? 婚約破棄なら昨日成立しましたが、ご存知ありませんでしたか?」
私の言葉にレイモンド様とミランダ様は顔を見合わせ絶句した。
全31話、約43,000文字、完結済み。
他サイトにもアップしています。
小説家になろう、日間ランキング異世界恋愛2位!総合2位!
pixivウィークリーランキング2位に入った作品です。
アルファポリス、恋愛2位、総合2位、HOTランキング2位に入った作品です。
2021/10/23アルファポリス完結ランキング4位に入ってました。ありがとうございます。
「Copyright(C)2021-九十九沢まほろ」
芋女の私になぜか完璧貴公子の伯爵令息が声をかけてきます。
ありま氷炎
恋愛
貧乏男爵令嬢のマギーは、学園を好成績で卒業し文官になることを夢見ている。
そんな彼女は学園では浮いた存在。野暮ったい容姿からも芋女と陰で呼ばれていた。
しかしある日、女子に人気の伯爵令息が声をかけてきて。そこから始まる彼女の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる