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17 憧れのアニー隊長
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「ということは、メルティア嬢とアニー隊長の魂は一緒ということですか、でも今まで話した感じからメルティア嬢の意識や記憶は無いようですよ?」
私はただ驚いた声を上げるしかなかったが、エイベルは冷静な声で横から説明をしてくれた。
「ええ、魂の奥の方でアニーさんへ主導権を渡して眠っているようです。彼女はアニー隊長になれたことで満足して眠っています」
ミルドの言葉に一同は押し黙った。マギーがわずかに震えているのを感じる。あなたの大事なお嬢様がこうなってしまって申し訳ないな。
「はあ……、それではどうやってメルティア嬢は元に戻れますか?」
今度は私以外が驚いていた。だってそうだろう。元に戻してやらないと。
「アニー、それは……」
エイベルの苦しそうな表情に心が痛くなるがミルドも同じように苦悩の表情を浮かべていた。
「……それは難しいかもしれません」
「はあ? 寝ているなら起こせばいいだけじゃないか」
「寝ていると表現しましたが、深層意識に溶け込んでいるようなものです。あってないものと申しましょうか」
「なんだか分からないな」
がしがしと綺麗に結い上げてくれた頭を掻きむしった。
「アニー」
「メルティアお嬢様」
同時に私の手を握られて止められてしまった。
「では、このままだということか? アニーの意識のままメルティア嬢の体でこれから過ごすということなのか」
「……このような例は今まで聞いたことはありません。王宮の魔法使い達へこの事例をご報告して研究の対象として経過を見守るしかないでしょう」
「うげっ。それは勘弁してくれ。魔法使いの玩具になるつもりはない」
私は知っている魔法使い達を思い出してつい声を出してしまった。
「ですが、解決法が見つかるかもしれません」
「……それはこちらに任せていただけますか? 遅くなりましたが、俺はコートナー侯爵家のエイベルと申します。俺の方から王宮魔法使いへの報告のことはどうにかできるだろう」
「まあ、コートナー侯爵家の方でしたか。そうですね。それならば問題はありませんわね」
エイベルとミルドの間で何か無言のやり取りがあった。そうか、そもそも貴族は全て魔法使いでもあるだからむやみに敵を作ると大変なことになる。平民だったから気がつかなかった。隊で居た時も貴族対応はエイベルに丸投げしていた。
私達はその後また何かあればお互い知らせるということで店を出た。馬車に乗りこむと。
「マギー、今まで済まなかった」
私はマギーに頭を下げた。
「いえ、お嬢様に頭を下げていただくなんて恐れ多いです! おやめください」
マギーに止められたが私は頭を下げたまま動かなかった。
「……では、もう、私のお嬢様はいらっしゃらないのですか」
ぽつりと漏らしたマギーの言葉に私は更に深く頭を下げた。その時、がたんと馬車が大きく揺れた。揺れた体を横からエイベルが支えてくれた。
「アニー」
心配そうなエイベルを見返す。いつもそうだった。エイベルはさりげなく私をサポートしてくれていた。お前はいつも……。
私は頭を上げてマギーを見つめた。
「さっきの説明のようにメルティア嬢は何故か私になりたいと望んでしまったようだ。そして、……この体はメルティア嬢に間違いはない。意識はいずれメルティア嬢に戻るかもしれない。このままかもしれない。それでもマギーは私に仕えてくれるだろうか?」
マギーと暫く見つめ合ったのち、マギーは目を閉じた。マギーの目元から一筋の涙が零れて光った。とても悲しくて美しいものだった。
「……ええ、私でよろしければ、メルティア様とアニー隊長のお二人にお仕えさせていただきましょう」
「良かった! マギー!」
事情を知って助けてくれる仲間が欲しい。このようなメルティア嬢として生活していくならば。それに私が消えたときにも……。
マギーに抱き着いたまま私はエイベルに注意をした。
「それとエイベルには気をつけてもらわないと、お前はさっきも私のことをアニーと呼んでいた。今のこの体はメルティア嬢だ。間違えるな」
「つっ、気をつけます。ア、いえ、メルティア嬢」
エイベルは微笑みを深めた。
私はただ驚いた声を上げるしかなかったが、エイベルは冷静な声で横から説明をしてくれた。
「ええ、魂の奥の方でアニーさんへ主導権を渡して眠っているようです。彼女はアニー隊長になれたことで満足して眠っています」
ミルドの言葉に一同は押し黙った。マギーがわずかに震えているのを感じる。あなたの大事なお嬢様がこうなってしまって申し訳ないな。
「はあ……、それではどうやってメルティア嬢は元に戻れますか?」
今度は私以外が驚いていた。だってそうだろう。元に戻してやらないと。
「アニー、それは……」
エイベルの苦しそうな表情に心が痛くなるがミルドも同じように苦悩の表情を浮かべていた。
「……それは難しいかもしれません」
「はあ? 寝ているなら起こせばいいだけじゃないか」
「寝ていると表現しましたが、深層意識に溶け込んでいるようなものです。あってないものと申しましょうか」
「なんだか分からないな」
がしがしと綺麗に結い上げてくれた頭を掻きむしった。
「アニー」
「メルティアお嬢様」
同時に私の手を握られて止められてしまった。
「では、このままだということか? アニーの意識のままメルティア嬢の体でこれから過ごすということなのか」
「……このような例は今まで聞いたことはありません。王宮の魔法使い達へこの事例をご報告して研究の対象として経過を見守るしかないでしょう」
「うげっ。それは勘弁してくれ。魔法使いの玩具になるつもりはない」
私は知っている魔法使い達を思い出してつい声を出してしまった。
「ですが、解決法が見つかるかもしれません」
「……それはこちらに任せていただけますか? 遅くなりましたが、俺はコートナー侯爵家のエイベルと申します。俺の方から王宮魔法使いへの報告のことはどうにかできるだろう」
「まあ、コートナー侯爵家の方でしたか。そうですね。それならば問題はありませんわね」
エイベルとミルドの間で何か無言のやり取りがあった。そうか、そもそも貴族は全て魔法使いでもあるだからむやみに敵を作ると大変なことになる。平民だったから気がつかなかった。隊で居た時も貴族対応はエイベルに丸投げしていた。
私達はその後また何かあればお互い知らせるということで店を出た。馬車に乗りこむと。
「マギー、今まで済まなかった」
私はマギーに頭を下げた。
「いえ、お嬢様に頭を下げていただくなんて恐れ多いです! おやめください」
マギーに止められたが私は頭を下げたまま動かなかった。
「……では、もう、私のお嬢様はいらっしゃらないのですか」
ぽつりと漏らしたマギーの言葉に私は更に深く頭を下げた。その時、がたんと馬車が大きく揺れた。揺れた体を横からエイベルが支えてくれた。
「アニー」
心配そうなエイベルを見返す。いつもそうだった。エイベルはさりげなく私をサポートしてくれていた。お前はいつも……。
私は頭を上げてマギーを見つめた。
「さっきの説明のようにメルティア嬢は何故か私になりたいと望んでしまったようだ。そして、……この体はメルティア嬢に間違いはない。意識はいずれメルティア嬢に戻るかもしれない。このままかもしれない。それでもマギーは私に仕えてくれるだろうか?」
マギーと暫く見つめ合ったのち、マギーは目を閉じた。マギーの目元から一筋の涙が零れて光った。とても悲しくて美しいものだった。
「……ええ、私でよろしければ、メルティア様とアニー隊長のお二人にお仕えさせていただきましょう」
「良かった! マギー!」
事情を知って助けてくれる仲間が欲しい。このようなメルティア嬢として生活していくならば。それに私が消えたときにも……。
マギーに抱き着いたまま私はエイベルに注意をした。
「それとエイベルには気をつけてもらわないと、お前はさっきも私のことをアニーと呼んでいた。今のこの体はメルティア嬢だ。間違えるな」
「つっ、気をつけます。ア、いえ、メルティア嬢」
エイベルは微笑みを深めた。
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