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14 子爵令息 スニーザ
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それから程なくして私、ソードラーン男爵令嬢のメルティアとコートナー侯爵家次男のエイベルとの婚約が社交界で発表された。
メルティアは一人娘だから、エイベルが婿入りという順当なもので反対意見は無く社交界で概ね好意的に受け入れられていたようだった。
ソードラーン男爵家は建国以来の名門で男爵家といいながら王宮に出入りも許されているほどの名家だったのだ。
だが、ある日、マルナート子爵令息のスニーザというヤツが突然男爵家を訪れた。
両親は不在で、応接室に向かうとスニーザとやらが私を見て駆け寄った。
「メルティ! コートナー侯爵家と婚約とは一体どういうことなんだ!」
「マルナート子爵令息様。ごきげんよう。お約束もなく訪問されるとは貴族としてどうかと思われますが、それに婚約者でもないので愛称で呼ばないでください。ああ、いちいち指摘することが多すぎる」
「なっ。メルティのくせに生意気だぞ! お前は僕の言うことを聞いていればいいんだ!」
「はあ? 一体どうしてそうなるのでしょう?」
子どものような言い草に私は笑いそうになりながらもするりと受け流しておいた。
スニーザは私の手首を握ろうとしてきたが、もちろん指一本触れさせもしない。
これくらいの動きはメルティアの体でも避けられる。私を掴むことができない苛立ちからスニーザは怒鳴り散らした。
「メルティは僕のなんだ! 誰にも渡さない!」
「そもそもメルティア嬢は誰のものでもありませんが、メルティア自身のものであります。でも婚約したからエイベルのものか。ふむ」
「メルティ?!」
スニーザは狂ったかのように手を伸ばしてきたが、私はすっと間合いをとって離れたのでバランスを崩して派手に床に転んでしまった。スニーザは何度も私を掴み損ねたせいで横たわったまま苛立たし気に手足をバタバタさせていた。
「この僕を拒絶したら男爵家がどうなるか知っているだろう!?」
卑怯なことを言い出したが、スニーザの言うことなど気にしない。
社交界デビューをしていないメルティア嬢なら黙らせることができたのだろうけれど、鬼隊長の私にそんな脅しなど利きはしない。
「さあ、知りませんね。それに私はエイベル様という侯爵家の立派な方と婚約できましたからね。そうそう、エイベル様は騎士団の副総団長補佐でもあられます。何かなさるおつもりならば、侯爵家と騎士団を敵に回すお覚悟をしておいた方がよろしいでしょうね」
「くっ……」
悔しそうに顔を歪めて拳を震わせているスニーザを眺めていると少しは溜飲が下がった。
貴族にありがちな地位でのマウントで引き下がればいいのだが。
今までは子爵家のスニーザが男爵家のメルティア嬢を貶めてきたが、どう考えてもたかが子爵家のスニーザと名門中の名門の侯爵家の令息であるエイベルとでは格が違い過ぎる。
「それに小さい頃から、メルティア嬢を虐めておいて、今更何をおっしゃるのやら、ちゃんちゃらおかしい」
日記にはメルティアはスニーザからされた嫌なことを書き綴っていた。
「そ、それはメルティアが可愛いからっ! 好き過ぎてどうしたらいいのか分からなかったんだ!」
「可愛い? そう思うなら、優しくすれば良かったのに。あれはどう考えても虐めでしょう。好きだったとは全く思えませんけどねぇ」
きっぱりと言い切るとスニーザ顔色が真っ青になった。絶望しきった表情のスニーのザは口をパクパクと開けているだけだった。
「違う! 僕はっ、メルティが好きで……」
「だから、それがどうしたというのでしょう。私は既にコートナー侯爵家のエイベル様と婚約しております。そもそも愛称で呼ばないでくれますか? 気持ち悪い」
そう言ってスニーザを見遣るととうとう彼は半泣きになっていた。
「そんな! メルティは……、メルティは僕のものなのに!」
そう叫ぶとスニーザは立ち上がりなりふり構わず私に掴み掛ってきたので、あっさりと躱しながら、足を引っかけてやった。
確かにこんなふうに迫られると体術や防御も出来ない魔法も碌に使えないメルティアはさぞかし怖かっただろう。
「め、メルティ? うわああぁ……」
スニーザは叫び声を上げて再び無様に転げた。身体強化を施した私にはなんら怖くない。
実はメルティアは魔力量が少ないのではなく、多すぎて逆に感知されず、更には上手くコントロール出来なかったのだ。
それに多すぎる魔力は時に魔力酔いを起こして体調を崩したり寝込んだりすることが多いのだ。高位貴族にはありがちなのだが、男爵家なのでそこまで気が回らなかったようだ。
侍女の目を盗んで自分がアニーの時にしていた日課をこなし始めた時にメルティア嬢の魔力の流れの不具合に気がついた。メルティアは幼少期から魔力量は豊富だがそれを使いこなすことができず、両親も苦慮していたようだった。跡取り娘のために高価な治療方法も探していたこともある。
貴族なら幼少期や生まれた時に魔力検査がなされ、成人する時に魔力が無ければ平民へと身分を落とされる決まりだ。
魔力が無いだけで貴族から平民に落とされるのがこの国のルール。
貴族はいろいろと優遇されているが、その代わりにこうした厳しいルールが適用され、有事の時は魔法を持って国や住民を守ることになっている。
「さあ、用件はそれだけなら、どうぞお帰りください。私の婚約者はエイベルです。あなたではありません。これからもう二度とお約束なしで来ないでくださいね。ああ、約束してきてももう会うつもりはありませんが」
そう言ってドアを開けて出て行くように促した。スニーザは信じられないといった表情をしていたが、男爵家の護衛や家令も駆けつけたのですごすごと帰っていった。
「君は僕のメルティじゃない……」
そんな言葉を残して。
メルティアは一人娘だから、エイベルが婿入りという順当なもので反対意見は無く社交界で概ね好意的に受け入れられていたようだった。
ソードラーン男爵家は建国以来の名門で男爵家といいながら王宮に出入りも許されているほどの名家だったのだ。
だが、ある日、マルナート子爵令息のスニーザというヤツが突然男爵家を訪れた。
両親は不在で、応接室に向かうとスニーザとやらが私を見て駆け寄った。
「メルティ! コートナー侯爵家と婚約とは一体どういうことなんだ!」
「マルナート子爵令息様。ごきげんよう。お約束もなく訪問されるとは貴族としてどうかと思われますが、それに婚約者でもないので愛称で呼ばないでください。ああ、いちいち指摘することが多すぎる」
「なっ。メルティのくせに生意気だぞ! お前は僕の言うことを聞いていればいいんだ!」
「はあ? 一体どうしてそうなるのでしょう?」
子どものような言い草に私は笑いそうになりながらもするりと受け流しておいた。
スニーザは私の手首を握ろうとしてきたが、もちろん指一本触れさせもしない。
これくらいの動きはメルティアの体でも避けられる。私を掴むことができない苛立ちからスニーザは怒鳴り散らした。
「メルティは僕のなんだ! 誰にも渡さない!」
「そもそもメルティア嬢は誰のものでもありませんが、メルティア自身のものであります。でも婚約したからエイベルのものか。ふむ」
「メルティ?!」
スニーザは狂ったかのように手を伸ばしてきたが、私はすっと間合いをとって離れたのでバランスを崩して派手に床に転んでしまった。スニーザは何度も私を掴み損ねたせいで横たわったまま苛立たし気に手足をバタバタさせていた。
「この僕を拒絶したら男爵家がどうなるか知っているだろう!?」
卑怯なことを言い出したが、スニーザの言うことなど気にしない。
社交界デビューをしていないメルティア嬢なら黙らせることができたのだろうけれど、鬼隊長の私にそんな脅しなど利きはしない。
「さあ、知りませんね。それに私はエイベル様という侯爵家の立派な方と婚約できましたからね。そうそう、エイベル様は騎士団の副総団長補佐でもあられます。何かなさるおつもりならば、侯爵家と騎士団を敵に回すお覚悟をしておいた方がよろしいでしょうね」
「くっ……」
悔しそうに顔を歪めて拳を震わせているスニーザを眺めていると少しは溜飲が下がった。
貴族にありがちな地位でのマウントで引き下がればいいのだが。
今までは子爵家のスニーザが男爵家のメルティア嬢を貶めてきたが、どう考えてもたかが子爵家のスニーザと名門中の名門の侯爵家の令息であるエイベルとでは格が違い過ぎる。
「それに小さい頃から、メルティア嬢を虐めておいて、今更何をおっしゃるのやら、ちゃんちゃらおかしい」
日記にはメルティアはスニーザからされた嫌なことを書き綴っていた。
「そ、それはメルティアが可愛いからっ! 好き過ぎてどうしたらいいのか分からなかったんだ!」
「可愛い? そう思うなら、優しくすれば良かったのに。あれはどう考えても虐めでしょう。好きだったとは全く思えませんけどねぇ」
きっぱりと言い切るとスニーザ顔色が真っ青になった。絶望しきった表情のスニーのザは口をパクパクと開けているだけだった。
「違う! 僕はっ、メルティが好きで……」
「だから、それがどうしたというのでしょう。私は既にコートナー侯爵家のエイベル様と婚約しております。そもそも愛称で呼ばないでくれますか? 気持ち悪い」
そう言ってスニーザを見遣るととうとう彼は半泣きになっていた。
「そんな! メルティは……、メルティは僕のものなのに!」
そう叫ぶとスニーザは立ち上がりなりふり構わず私に掴み掛ってきたので、あっさりと躱しながら、足を引っかけてやった。
確かにこんなふうに迫られると体術や防御も出来ない魔法も碌に使えないメルティアはさぞかし怖かっただろう。
「め、メルティ? うわああぁ……」
スニーザは叫び声を上げて再び無様に転げた。身体強化を施した私にはなんら怖くない。
実はメルティアは魔力量が少ないのではなく、多すぎて逆に感知されず、更には上手くコントロール出来なかったのだ。
それに多すぎる魔力は時に魔力酔いを起こして体調を崩したり寝込んだりすることが多いのだ。高位貴族にはありがちなのだが、男爵家なのでそこまで気が回らなかったようだ。
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そう言ってドアを開けて出て行くように促した。スニーザは信じられないといった表情をしていたが、男爵家の護衛や家令も駆けつけたのですごすごと帰っていった。
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そんな言葉を残して。
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