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13 エイベルとアニー
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「それでどうして私は死んだんだ?」
「……翌日出勤してこないので宿舎に行ったら、官舎のあなたの部屋にある階段の下で、血まみれで床に倒れて冷たくなっていた。酔って足を滑らせて頭を強く打ったのが原因でした」
エイベルの顔が歪んだ。あのときを思い出してしまったのだろう。もう一度彼は私を強く抱き締めていた。
「あの時、部屋まで、いや、一緒に眠れば良かったと何度も考えました」
「エイベルのせいじゃない。私が少し飲みすぎただけだ。嫌な思いをさせてしまった」
「孤児院の方であなたの遺体を埋葬するといってくれたけれど俺が無理を言って引き取って葬儀と埋葬を行いました」
「まだ理解できないが、私の墓があるのだな」
「……ええ、俺の家に」
「一度見に行かなければならないな。エイベルにはとても世話になった」
「それで、アニーこそどうしてこんなことに?」
「それが全く分からない。気がつけば、このお嬢さんの体に入っていた」
エイベルが私を抱き締めたままぴくりと動いた。
「ふふ。アニーの口調だ」
「止めてくれ。エイベル。いちいち指摘はいらない」
「アニー、あなたがいない世界は……、これ以上、耐えられそうになかった」
思いつめたような元部下の顔色は良くなかった。だからかけてやる言葉を選んだ。
「馬鹿か……。しっかりしてくれ。私がいなくなったことぐらいで世界が終わりはしないさ。エイベルは今や騎士団の総副隊長補佐様なんだろ? 偉くなったものだ。遅くなったが、改めておめでとう」
「アニー……」
なんとか動く手でぽんと彼の背中を叩いた。
「それより、もしよければ調査に力を貸して欲しい」
「調査?」
「どうして私がこのようになったのか? これからもこの状態なのか、全く何も分からないんだ」
「この状態とは……」
「この体は男爵令嬢であるメルティア・ソードラーンのものだ。だが、今の私は何故かメルティアとしての記憶はない。魂というのか、記憶にあるのはアニー・フィードのものだ。紛れもなく」
「分かりました。一緒に調べましょう。ああ、それにはアニーにもお願いがあります」
「なんだ?」
「検証するには一緒にいろいろと出掛けたり、部屋でこうして二人きりになって話をしたりするでしょう。こんな話は大勢に知らせる訳にはいかない。二人きりでいても良い理由が必要です」
「ああ、そうだな。それで?」
「俺と婚約をしましょう。そうすれば二人きりでも煩く言われません。そう、もう結婚すればいいのです」
「はああぁぁ!? エイベル、正気か?」
「至って。まともですよ。あなたを失ってから正気でいられるとは思っていなかったけれどね」
ごほん。ごほんと離れたところから男爵の咳払いが聞こえてきた。
確かに、この姿なら、アニーとエイベルの時のようにはいかない。
一緒にいる理由か。
それにメルティアは男爵令嬢とはいえ貴族令嬢でそれも古い名門である。変わった噂は後々困ることになるだろう。平民アニーとエイベルでは身分の差がありすぎたが、メルティアとしてならそこまでの障害はないかもしれない。
「……分かった。ただ、メルティア嬢の意識が戻ったらその契約は解消だぞ。メルティア嬢に悪いからな」
「ええ、アニー。いえメルティア嬢」
にやりと笑うとエイベルは早速男爵に話をするため部屋から出て行った。
こうしてあっという間に今の私、メルティア・ソードラーンとエイベル・コートナーの婚約は決まってしまった。
「……翌日出勤してこないので宿舎に行ったら、官舎のあなたの部屋にある階段の下で、血まみれで床に倒れて冷たくなっていた。酔って足を滑らせて頭を強く打ったのが原因でした」
エイベルの顔が歪んだ。あのときを思い出してしまったのだろう。もう一度彼は私を強く抱き締めていた。
「あの時、部屋まで、いや、一緒に眠れば良かったと何度も考えました」
「エイベルのせいじゃない。私が少し飲みすぎただけだ。嫌な思いをさせてしまった」
「孤児院の方であなたの遺体を埋葬するといってくれたけれど俺が無理を言って引き取って葬儀と埋葬を行いました」
「まだ理解できないが、私の墓があるのだな」
「……ええ、俺の家に」
「一度見に行かなければならないな。エイベルにはとても世話になった」
「それで、アニーこそどうしてこんなことに?」
「それが全く分からない。気がつけば、このお嬢さんの体に入っていた」
エイベルが私を抱き締めたままぴくりと動いた。
「ふふ。アニーの口調だ」
「止めてくれ。エイベル。いちいち指摘はいらない」
「アニー、あなたがいない世界は……、これ以上、耐えられそうになかった」
思いつめたような元部下の顔色は良くなかった。だからかけてやる言葉を選んだ。
「馬鹿か……。しっかりしてくれ。私がいなくなったことぐらいで世界が終わりはしないさ。エイベルは今や騎士団の総副隊長補佐様なんだろ? 偉くなったものだ。遅くなったが、改めておめでとう」
「アニー……」
なんとか動く手でぽんと彼の背中を叩いた。
「それより、もしよければ調査に力を貸して欲しい」
「調査?」
「どうして私がこのようになったのか? これからもこの状態なのか、全く何も分からないんだ」
「この状態とは……」
「この体は男爵令嬢であるメルティア・ソードラーンのものだ。だが、今の私は何故かメルティアとしての記憶はない。魂というのか、記憶にあるのはアニー・フィードのものだ。紛れもなく」
「分かりました。一緒に調べましょう。ああ、それにはアニーにもお願いがあります」
「なんだ?」
「検証するには一緒にいろいろと出掛けたり、部屋でこうして二人きりになって話をしたりするでしょう。こんな話は大勢に知らせる訳にはいかない。二人きりでいても良い理由が必要です」
「ああ、そうだな。それで?」
「俺と婚約をしましょう。そうすれば二人きりでも煩く言われません。そう、もう結婚すればいいのです」
「はああぁぁ!? エイベル、正気か?」
「至って。まともですよ。あなたを失ってから正気でいられるとは思っていなかったけれどね」
ごほん。ごほんと離れたところから男爵の咳払いが聞こえてきた。
確かに、この姿なら、アニーとエイベルの時のようにはいかない。
一緒にいる理由か。
それにメルティアは男爵令嬢とはいえ貴族令嬢でそれも古い名門である。変わった噂は後々困ることになるだろう。平民アニーとエイベルでは身分の差がありすぎたが、メルティアとしてならそこまでの障害はないかもしれない。
「……分かった。ただ、メルティア嬢の意識が戻ったらその契約は解消だぞ。メルティア嬢に悪いからな」
「ええ、アニー。いえメルティア嬢」
にやりと笑うとエイベルは早速男爵に話をするため部屋から出て行った。
こうしてあっという間に今の私、メルティア・ソードラーンとエイベル・コートナーの婚約は決まってしまった。
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