【完】ある日、ヒロインと成り代わりまして~鬼隊長と呼ばれた私が可憐な男爵令嬢に成り代わり、イケメンの元部下に絆される~

えとう蜜夏☆コミカライズ中

文字の大きさ
上 下
10 / 22

10 アニー元隊長

しおりを挟む
 翌朝、自分であるはずのアニーがどうなったか確かめるべく騎士団へと行きたかった。
 メルティアとして目覚めて三週間は経っていた。
 アニーの方はどうなっているのだろう?
 最後の記憶はいつのも懇親会の飲みの帰りだった。
 それにエイベルがどうなっているのか知りたい。
 だが、二週間の寝たきり、元々体が丈夫でないメルティア嬢は目覚めてから、熱が出てさらに一週間寝て過ごすことになった。メルティアとしての体になったこの状態から既に三週間が経ってしまった。
 やっと外出許可が出たので、早速騎士団へ確かめに行きたかった。
 幸いこのソードラーン男爵家は騎士団、それも第二騎士団の寮から近かった。
 更にいつも行く馴染みの食堂や居酒屋から、そして王城からも近い。
 それだけソードラーン男爵家は古くからの名門の貴族だったということだ。
「お嬢様。いくらなんでも外出許可が出て直ぐ騎士団に行きたいなど……」
 マギーが心配そうに尋ねてきた。マギーはメルティアを仕えるというだけでなく妹のような感じで心配してくれている。メルティアもマギーを慕っていたと日記を読んで感じる。
「どうしても確かめたいことがあるから」
「はあ、まあ、お嬢様は確かにアニー隊長に助けられたことがありますけどね」
「?! それはいつ?」
 自分の名前を意外なところで聞いて驚いた。まだ日記は最後まで読み切れていなかった。
「ええ? おかしなお嬢様ですね。そう、あれは倒れられる前くらい、あのときもあの糞スニーザが、あ、いえ子爵令息に絡まれていたところを助けられていたじゃありませんか。私が急いで駆けつける前に助け出していただきましたよ」
 ……そういえば、そんなことがあったな。
「じゃ、じゃあ。お礼に行きたいな」
「本当に変なお嬢様ですわね。あのときもそう言いながら、騎士団の殿方が怖いとお礼を渡せずお帰りになったのに」
 そんなにメルティアはシャイなお嬢様なのか? まあ、体は弱かったようだ。風邪一つひいたことのない私には分からない。それにこの体になって分かったことがある。彼女の体調不良は……。
「ええ、でも無作法はいけないと思います。お礼の品を用意してください」
「でも、確かアニー隊長はもう亡くなられたはずです」
「は?」
 マギーが思い出しながら言った言葉に私は理解できなかった。私が死んでいる?
「いや、ちょっと待って」
「そう言えば丁度お嬢様が倒れられた日と同じでしたね。後日魔道具新聞の一面トップでしたから」
 魔道具新聞とは魔力で動く魔道具の一つでクリスタル状の薄い板に今日の出来事や事件などが映し出される。もちろん住民への広報媒介として使われるため、安価で提供されているので多く普及していた。
「そんな……」
「アニー隊長の葬儀は先週広場で済まされていますよ。献花台もまだあるかと」
「じゃあ、献花台にも行きたい。ああ、やっぱり騎士隊へのお礼も……、あのとき他にもいらしたから」
 お願いと無理やり頼み込むとマギーは不承不承準備をしてくれた。
 そうして私が不可解な状態になって一月後、やっと騎士団を訪れることができたのだった。その前に私の献花台とやらを……。
 街の広場に確かに花にまみれた献花台が設置してあった……。私の大きな肖像画に周囲には花で埋もれていた。
「若いのに……」「街を守ってくれた英勇だ」と道行く人が話しているのが聞こえた。
 それを見ても私は他人事のように感じていた。
 ふらつくと支えてくれたマギーと護衛たちが館に帰ろうと促すのを断わり、騎士団の街の詰め所へと向かった。詰め所には懐かしい部下達がいたが、
「面会ですか? ソードラーン男爵家のご令嬢が……」
 いつもは荒くれ者達だからぞんざいな言葉使いなのだか、今の私を見ると丁寧な態度と言葉遣いになっていた。私は内心彼らのギャップに吹き出しそうになっていた。
「あの、以前助けていただいた、アニー隊長にお礼を申し上げたくて……」
 そうしてマギーに用意してくれたバスケットを差し出した。中身はお菓子と手巾だ。食べ物は受け付けてもらえないのは分かっていたので、常時必要なリネン類も用意してもらった。
「ああ、アニー隊長は……」
 彼らは一様に口ごもり暗い表情になった。
「では隊長補佐のエイベル様、いえコートナー卿は?」
 そう言うと彼らはますます困惑していた。
 何があったのだ? まあ私だってこんなことになっている。
貴族令嬢の体に乗り移り、体は既に死んだことになっていたのだ。エイベルだってあれから何かあったのかもしれない。
「コートナー卿は王国騎士団の総副団長補佐になられております」
「は?」
 私が驚きのあまり素が出てしまった。
「第二部隊にいたはずでは? アニー隊長の補佐で……」
「ええ、コートナー卿、彼は先週付けで異動になっています」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

乙女ゲームは見守るだけで良かったのに

冬野月子
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した私。 ゲームにはほとんど出ないモブ。 でもモブだから、純粋に楽しめる。 リアルに推しを拝める喜びを噛みしめながら、目の前で繰り広げられている悪役令嬢の断罪劇を観客として見守っていたのに。 ———どうして『彼』はこちらへ向かってくるの?! 全三話。 「小説家になろう」にも投稿しています。

あなた方には後悔してもらいます!

風見ゆうみ
恋愛
私、リサ・ミノワーズは小国ではありますが、ミドノワール国の第2王女です。 私の国では代々、王の子供であれば、性別や生まれの早い遅いは関係なく、成人近くになると王となるべき人の胸元に国花が浮き出ると言われていました。 国花は今まで、長男や長女にしか現れなかったそうですので、次女である私は、姉に比べて母からはとても冷遇されておりました。 それは私が17歳の誕生日を迎えた日の事、パーティー会場の外で姉の婚約者と私の婚約者が姉を取り合い、喧嘩をしていたのです。 婚約破棄を受け入れ、部屋に戻り1人で泣いていると、私の胸元に国花が浮き出てしまったじゃないですか! お父様にその事を知らせに行くと、そこには隣国の国王陛下もいらっしゃいました。 事情を知った陛下が息子である第2王子を婚約者兼協力者として私に紹介して下さる事に! 彼と一緒に元婚約者達を後悔させてやろうと思います! ※史実とは関係ない異世界の世界観であり、話の中での色々な設定は話の都合、展開の為のご都合主義、ゆるい設定ですので、そんな世界なのだとご了承いただいた上でお読み下さいませ。 ※話が合わない場合は閉じていただきますよう、お願い致します。

タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒― 私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。 「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」 その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。 ※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】あなたのいない世界、うふふ。

やまぐちこはる
恋愛
17歳のヨヌク子爵家令嬢アニエラは栗毛に栗色の瞳の穏やかな令嬢だった。近衛騎士で伯爵家三男、かつ騎士爵を賜るトーソルド・ロイリーと幼少から婚約しており、成人とともに政略的な結婚をした。 しかしトーソルドには恋人がおり、結婚式のあと、初夜を迎える前に出たまま戻ることもなく、一人ロイリー騎士爵家を切り盛りするはめになる。 とはいえ、アニエラにはさほどの不満はない。結婚前だって殆ど会うこともなかったのだから。 =========== 感想は一件づつ個別のお返事ができなくなっておりますが、有り難く拝読しております。 4万文字ほどの作品で、最終話まで予約投稿済です。お楽しみいただけましたら幸いでございます。

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った

五色ひわ
恋愛
 辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。アメリアは真実を確かめるため、3年ぶりに王都へと旅立った。 ※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話

処理中です...