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02 侯爵令息エイベル(出会い編)
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王国騎士団は団や隊ごとにそれぞれ役割があり、第一騎士団は王家所属で彼らは王宮警備や王家や高位貴族を警護するエリート集団とされており、隊員は貴族や騎士学校で優秀な成績の者で構成されていた。
第二騎士団は遠征が主で対魔獣特にスタンピードや辺境地の防衛をする遊撃部隊となっている。騎士団の中でもここは特に実力重視で貴族は魔法を使えるので自然と対魔獣部隊へと入ることが多い。平民、貴族を問わない構成員となっている。
第三騎士団は街などを守る騎士や各貴族領地の騎士団員の集まりである。その性質上第二と第三騎士団は平民の占める割合も多くなっていた。実戦向きの部隊に仕上がっている。
今の私は城下町の治安を守る第三騎士団の隊長を任されていた。
私だってスタンピードで功労をあげるまではただの隊員だった。
こうしてエイベルと昼食を取りながら、彼と初めて出会った時を思い出していた。
エイベルが第二部隊に配属になったとき、周囲はざわめいたものだ。
私はその時二十三歳、エイベルが二十歳で、私は第二部隊の隊長補佐を任されるまでになっていた。
あの日、第三騎士団第二隊長の執務室に呼ばれてエイベルと顔を合わせた。
「アニー、彼は今日からうちの隊に入隊するエイベル・コートナーだ」
隊長から紹介されて彼がこちらを見た。癖のない銀髪に印象的なアッシュブルーの瞳の超絶イケメンだった。どう見ても貴族階級の人間だと感じた。
「私は第二部隊隊長補佐のアニー・フィードです」
そういって右手を胸に当てて彼らに騎士式の礼をすると咳払いしつつ隊長は私を見遣った。
「こほん。彼は騎士学校を優秀な成績で卒業し二年の研修を終えてこちらに入隊することになった。本来なら第一騎士団に配属となる予定だったのが本人の強い意向もあって第三騎士団での勤務となった。アニー、君に新人研修を任せる。頼むぞ」
隊長がそう言うとエイベルに先に退室を促した。続いて出ようとする私を隊長は呼び止めた。
「アニー、手短に説明しておく。彼はコートナー侯爵家の次男だ」
「え? バリバリお貴族様じゃないですか。どうしてうちの隊なんかに。第一の、それもあの顔なら近衛部隊でしょう」
「そうなのだが、侯爵家の意向も第一騎士団となっていたのだが、騎士学校時代に彼を巡っていろいろあって、本人の強い希望もあってここになったようだ」
「それにしたって、貴族なら第二の遊撃隊だって……、あそこは貴族を欲しがっている」
「それを本人も希望していたのだが、侯爵家当主の意向として危険な部隊はだめだと」
「はあ? 危険がない騎士団なんて、それこそ第一の近衛部隊でしょう。王家や行事の警備中心で……」
でもそれを本人は嫌がっている。高位貴族階級の彼が実戦重視の第二を希望するほどの何かがあったのだろうか。
「そうなのだが。アニー、君なら彼を見てどう思った?」
「どうも、典型的なお貴族様のお坊ちゃんだなあとか。あ、不敬罪になりますかね?」
「はは、さすが、鬼と呼ばれている隊長補佐のアニー・フィードだな。あの顔を見てのぼせ上がらないとは。まあ、それで安心した」
「はあ。見目はお綺麗ですが、自分には関係ないのでどうにも関心はあまり……」
歯に何か挟まったような物言いの隊長に嫌な予感がしつつそっと距離を測る。
「彼はその容貌のせいで彼は女性がかなり苦手になっていてね。それで男性が多い部門を希望したのだが……」
「まあ、あれだけお綺麗ならさぞかしおモテになったでしょうねぇ。今現在もでしょう? まさか、女性が苦手なといっている彼に何をさせようと思っているのですか。嫌ですよ」
――先手を打っておこう。
「話が早いな。まあ、いずれ、直ぐにでも彼は第一騎士団へ異動になるだろう。それまで世話をしてやってくれ。どうも危なかっしいところがあるようだ」
「隊長補佐として新人指導は行いますが、それだけですよ?」
私はやれやれと肩を竦めて見せた。
「平民の女性にして隊長補佐まで出世したアニーだ。あの容貌に動揺しないだけでも頼もしい。それではよろしくな」
「了解しました。隊長」
面倒なことになったなと思いつつ私は礼をすると朝礼へと向かった。そこで隊長から部隊の皆にエイベルを紹介された。
「……騎士学校を卒業後、所定の研修を終えて、本日第三騎士団に配属になったエイベル・コートナーだ」
「エイベル・コートナーです。よろしくお願いします」
隊長の言葉を受けてエイベルが胸に手を当てて騎士式の礼をした。すると見計らったようなやじが飛んだ。
「けっ、高位貴族のお坊ちゃまがこんな庶民の部隊に来るなんて、何かやらかしたんじゃないのか?」
「綺麗な顔して来るところ間違ったんじゃないですかぁ?! それか男じゃなくて女とか。ぎゃははっ」
「そうそう、それにここには男だか女だか分からないのがもう既にいるけどな!」
それに同意するように大きな笑い声が周囲から起こった。
女である私に対する当て擦りも含まれていた。腹が立ったがこれくらいでいちいち言い返していると日が暮れる。
この部隊は特に平民が多い荒くれ部隊だ。そうでないと王都とはいえ下町の喧騒を抑える役割が出来るはずはない。毒にはさらなる猛毒を持って制する方が早いからだ。
エイベルはそちらを一瞥しただけだった。彼の紹介が終わると隊列に並ぶように言いそれに彼は大人しく従ってように見えた。だが、途中、彼に女じゃないのかと言った隊員へいきなり殴り掛かっていた。
「なっ!?」
隊長や他の隊員、殴られた当の隊員まで驚いた。もちろん私もだ。殴られて茫然と床に倒れた隊員へエイベルは冷笑を浮かべていた。見ているものを薄ら寒くさせるようなものだった。いや、ひょっとしたら彼は貴族だから水魔法か風魔法で周囲を冷却していてもおかしくはない。
「お前の顔も綺麗にしてやるよ。俺以上に綺麗な顔になるまでな!」
冷静沈着に見えたエイベルのハートは燃えるタイプだったようだ。
――着火点が低い低い!
とはいえこちらの団員も荒くれ揃いの実力者だ。やられてばかりでなく直ぐに起き上がり殴り返していた。
それから周囲は囃し立てるやつ、何故か他の団員同士で殴り合う奴も出て、エイベルの初顔合わせはとんでもない騒ぎになった。
着任早々エイベルは反省房行きになっていた。
だが、それで高位貴族と思われて一線を引かれそうになったエイベルと周囲の者との垣根は消えたようだった。まあ、初日に反省房に入るくらいだからな。
団長も彼を扱いかねて、隊から浮きがちだった私と良く組ませていた。彼はさすが紳士に育てられたのか、私に暴言を吐くことはなく。むしろ途中から私の方が庇われていたように思う。
第二騎士団は遠征が主で対魔獣特にスタンピードや辺境地の防衛をする遊撃部隊となっている。騎士団の中でもここは特に実力重視で貴族は魔法を使えるので自然と対魔獣部隊へと入ることが多い。平民、貴族を問わない構成員となっている。
第三騎士団は街などを守る騎士や各貴族領地の騎士団員の集まりである。その性質上第二と第三騎士団は平民の占める割合も多くなっていた。実戦向きの部隊に仕上がっている。
今の私は城下町の治安を守る第三騎士団の隊長を任されていた。
私だってスタンピードで功労をあげるまではただの隊員だった。
こうしてエイベルと昼食を取りながら、彼と初めて出会った時を思い出していた。
エイベルが第二部隊に配属になったとき、周囲はざわめいたものだ。
私はその時二十三歳、エイベルが二十歳で、私は第二部隊の隊長補佐を任されるまでになっていた。
あの日、第三騎士団第二隊長の執務室に呼ばれてエイベルと顔を合わせた。
「アニー、彼は今日からうちの隊に入隊するエイベル・コートナーだ」
隊長から紹介されて彼がこちらを見た。癖のない銀髪に印象的なアッシュブルーの瞳の超絶イケメンだった。どう見ても貴族階級の人間だと感じた。
「私は第二部隊隊長補佐のアニー・フィードです」
そういって右手を胸に当てて彼らに騎士式の礼をすると咳払いしつつ隊長は私を見遣った。
「こほん。彼は騎士学校を優秀な成績で卒業し二年の研修を終えてこちらに入隊することになった。本来なら第一騎士団に配属となる予定だったのが本人の強い意向もあって第三騎士団での勤務となった。アニー、君に新人研修を任せる。頼むぞ」
隊長がそう言うとエイベルに先に退室を促した。続いて出ようとする私を隊長は呼び止めた。
「アニー、手短に説明しておく。彼はコートナー侯爵家の次男だ」
「え? バリバリお貴族様じゃないですか。どうしてうちの隊なんかに。第一の、それもあの顔なら近衛部隊でしょう」
「そうなのだが、侯爵家の意向も第一騎士団となっていたのだが、騎士学校時代に彼を巡っていろいろあって、本人の強い希望もあってここになったようだ」
「それにしたって、貴族なら第二の遊撃隊だって……、あそこは貴族を欲しがっている」
「それを本人も希望していたのだが、侯爵家当主の意向として危険な部隊はだめだと」
「はあ? 危険がない騎士団なんて、それこそ第一の近衛部隊でしょう。王家や行事の警備中心で……」
でもそれを本人は嫌がっている。高位貴族階級の彼が実戦重視の第二を希望するほどの何かがあったのだろうか。
「そうなのだが。アニー、君なら彼を見てどう思った?」
「どうも、典型的なお貴族様のお坊ちゃんだなあとか。あ、不敬罪になりますかね?」
「はは、さすが、鬼と呼ばれている隊長補佐のアニー・フィードだな。あの顔を見てのぼせ上がらないとは。まあ、それで安心した」
「はあ。見目はお綺麗ですが、自分には関係ないのでどうにも関心はあまり……」
歯に何か挟まったような物言いの隊長に嫌な予感がしつつそっと距離を測る。
「彼はその容貌のせいで彼は女性がかなり苦手になっていてね。それで男性が多い部門を希望したのだが……」
「まあ、あれだけお綺麗ならさぞかしおモテになったでしょうねぇ。今現在もでしょう? まさか、女性が苦手なといっている彼に何をさせようと思っているのですか。嫌ですよ」
――先手を打っておこう。
「話が早いな。まあ、いずれ、直ぐにでも彼は第一騎士団へ異動になるだろう。それまで世話をしてやってくれ。どうも危なかっしいところがあるようだ」
「隊長補佐として新人指導は行いますが、それだけですよ?」
私はやれやれと肩を竦めて見せた。
「平民の女性にして隊長補佐まで出世したアニーだ。あの容貌に動揺しないだけでも頼もしい。それではよろしくな」
「了解しました。隊長」
面倒なことになったなと思いつつ私は礼をすると朝礼へと向かった。そこで隊長から部隊の皆にエイベルを紹介された。
「……騎士学校を卒業後、所定の研修を終えて、本日第三騎士団に配属になったエイベル・コートナーだ」
「エイベル・コートナーです。よろしくお願いします」
隊長の言葉を受けてエイベルが胸に手を当てて騎士式の礼をした。すると見計らったようなやじが飛んだ。
「けっ、高位貴族のお坊ちゃまがこんな庶民の部隊に来るなんて、何かやらかしたんじゃないのか?」
「綺麗な顔して来るところ間違ったんじゃないですかぁ?! それか男じゃなくて女とか。ぎゃははっ」
「そうそう、それにここには男だか女だか分からないのがもう既にいるけどな!」
それに同意するように大きな笑い声が周囲から起こった。
女である私に対する当て擦りも含まれていた。腹が立ったがこれくらいでいちいち言い返していると日が暮れる。
この部隊は特に平民が多い荒くれ部隊だ。そうでないと王都とはいえ下町の喧騒を抑える役割が出来るはずはない。毒にはさらなる猛毒を持って制する方が早いからだ。
エイベルはそちらを一瞥しただけだった。彼の紹介が終わると隊列に並ぶように言いそれに彼は大人しく従ってように見えた。だが、途中、彼に女じゃないのかと言った隊員へいきなり殴り掛かっていた。
「なっ!?」
隊長や他の隊員、殴られた当の隊員まで驚いた。もちろん私もだ。殴られて茫然と床に倒れた隊員へエイベルは冷笑を浮かべていた。見ているものを薄ら寒くさせるようなものだった。いや、ひょっとしたら彼は貴族だから水魔法か風魔法で周囲を冷却していてもおかしくはない。
「お前の顔も綺麗にしてやるよ。俺以上に綺麗な顔になるまでな!」
冷静沈着に見えたエイベルのハートは燃えるタイプだったようだ。
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とはいえこちらの団員も荒くれ揃いの実力者だ。やられてばかりでなく直ぐに起き上がり殴り返していた。
それから周囲は囃し立てるやつ、何故か他の団員同士で殴り合う奴も出て、エイベルの初顔合わせはとんでもない騒ぎになった。
着任早々エイベルは反省房行きになっていた。
だが、それで高位貴族と思われて一線を引かれそうになったエイベルと周囲の者との垣根は消えたようだった。まあ、初日に反省房に入るくらいだからな。
団長も彼を扱いかねて、隊から浮きがちだった私と良く組ませていた。彼はさすが紳士に育てられたのか、私に暴言を吐くことはなく。むしろ途中から私の方が庇われていたように思う。
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