上 下
36 / 49

三十六 ヒロイン計画

しおりを挟む
 ガブちゃんが来てから充実した別荘ライフを私は楽しんでいた。但し、お兄様からは外に出るのは禁止されてしまった。日焼けしちゃうからね。だからもっぱら居間でおしゃべりをしている。それも楽しいの。

 だけどガブちゃんはミーシャ商会の名代として来ているらしく、この町の商業ギルドに呼ばれて顔を出しに行ったり、商談に参加したりと結構忙しそう。そんなガブちゃんを見て私も頑張ろうという気になってきたわ。だからガブちゃんがいないときはお兄様のところで何かお手伝いをしようと執務室に入ってみた。

「どうしたのだ? アーシア、遊び飽きたのか?」

「お兄様のお手伝いをしようかと思いまして。私にも何か出来ることはありませんか?」

「お前がそんなことを言い出すとは……。そうか、ミーシャ商会のお嬢さんだな。彼女はどうやらこの町でミーシャ商会の事業のことをいろいろと手伝っているようだな」

「ガブちゃんがそんなことを……」

 初めて会ったときは、攻略ルートのことしか叫んでなかったから、成長したわねぇ……。

「まあ、お前は近日にも我が家にお見えになられるアベル王太子様のお相手と港の開講式では王太子様の横でテープカットをしてもらう予定だ」

「王太子様の横で、テープカット……」

 そんなことするなんて無理無理。そうだわ。ジョーゼットが来てくれたら代わればいいのよ。

「そのためにミーシャ商会には特別なドレスを仕立てて届けてもらったのだ」

 確かにガブちゃんが来るときにドレスとか手袋などのアクセサリーを一緒にもってきてくれた。ガブちゃんはお店のお手伝いをするのね。乙女ゲームじゃなくて経営シュミュレーションにでも変えるつもり?





 そんなことを考えていたら町での戦利品を持ってガブちゃんが戻ってきた。

「海辺の町だからいろいろ変わったものがあったし、それに小さいながら町の細部までいろいろと行き届いている。あなたのお兄さんやり手よね」

「私の、というよりガブちゃんのお兄さんじゃないの。でも、ガブちゃんもお店の手伝い頑張っているのね。『ゆるハー』攻略者の陥落に忙しいと思ってたわ」

「……流石にログアウトできないゲームなんてある筈ないじゃん」

 そう言うとガブちゃんはうちの使用人の方を見遣ったので、私は黙って肯いてみせた。ガブちゃんは私の耳元に口を寄せてきた。

「まあ、記憶が蘇ったときはちょっとハイテンション状態だったけどさあ。私も段々とここが『ゆるハー』に似た世界かもしれないと思うようになってきちゃって。ゲームとはいろいろ違うところもあるし。だけど逆ハー狙いとは別に家業だって盛り上げたいじゃない? チートってやつ? それにイケメンと結婚もしたいし」

 言い終わるとガブちゃんは客間に戦利品を並べてくれた。その中でも一番可愛い貝殻のネックレスを見せてくれた。

「――あとね、これがあるならカメオが作れる筈」

「カメオ?」

 正直言われてもピンとこない。

「ほら、貝に肖像画とか描かれてて、ブローチに良くあるやつよ」

「そうなの?」

「中世じゃあ、貴族が作らせて高級品なんだから……」

 私は特に興味も沸かずガブちゃんのその話を聞いていた。すると私の両手をぎゅっと握ってきた。

「――だから、ルーク様との仲を取り持ってよね」

「え? だって、ここ『ゆるハー』に似てるから、ルークお兄様とは兄妹の可能性があるんじゃない?」

「それもどうだか分からないじゃない。そもそもあんたの評判だって。彗星の如く現れた第二の王太子妃候補って? そんな展開『ゆるハー』に無かったじゃん。新聞のトップを見て吹きだしたんだからね」

「あー、あれね」

 私は連日書きたてる新聞のゴシップ欄にかなりウンザリしていた。あんな根の葉もない噂話ばかり。深窓の麗しい侯爵令嬢って誰の事? 私か?

「ローレン公爵家の焦りなんて煽られて、気をつけなさいよ」

「な、どうして?」

「バカじゃないの? 向うからしたらあなたはぽっと出てきたライバル候補、こんな瀬戸際にね。最悪暗殺なんてされかねないじゃん」

「暗殺……。でもジョーゼットもここに来てくれるのよ。それに向うの別荘に招かれてるし。そもそも私が王太子なんて冗談キツイ」

 ガブちゃんと話していると楽しい夏のバカンスが殺戮めいたものになってしまった。

「だから、早くこの取り違えをリークしてよ。ガブちゃん。『ゆるハー』での展開ってどうだった?」

「あ、あれ思い出そうとしたけど。エンドロールに毛の生えたような感じでしょ?」

「やっぱり……」

「まあ、考えておく、判明するのはお互い早い方が良いしね」

「お願いするわ」

 任せなさいと元気に言うガブちゃんに私は期待して、ジョーゼットとのことを考えた。ライバル役になっている私。さぞかしあの可憐な表情を曇らせていることだろう。ひょっとしたら泣いているかもしれない。でも、この混乱を招いたのはルークお兄様だし。早い所この取り違えのことに気が付いて貰って本来の方に戻るように正してもらった方がいいわよね。

 悪いことにジョーゼットがうちにやってくるのはテープカットの後、折角代わってもらうという私の計画が頓挫してしまった。

 王太子様はお忙しいので開会式の前後しかいらっしゃらない。ジョーゼットと王太子様の仲を取り持つつもりがますます泥沼になっている。いっそ、ガブちゃんの逆ハー計画に協力した方がいいかもね。
しおりを挟む
感想 28

あなたにおすすめの小説

罠にはめられた公爵令嬢~今度は私が報復する番です

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
ファンタジー
【私と私の家族の命を奪ったのは一体誰?】 私には婚約中の王子がいた。 ある夜のこと、内密で王子から城に呼び出されると、彼は見知らぬ女性と共に私を待ち受けていた。 そして突然告げられた一方的な婚約破棄。しかし二人の婚約は政略的なものであり、とてもでは無いが受け入れられるものではなかった。そこで婚約破棄の件は持ち帰らせてもらうことにしたその帰り道。突然馬車が襲われ、逃げる途中で私は滝に落下してしまう。 次に目覚めた場所は粗末な小屋の中で、私を助けたという青年が側にいた。そして彼の話で私は驚愕の事実を知ることになる。 目覚めた世界は10年後であり、家族は反逆罪で全員処刑されていた。更に驚くべきことに蘇った身体は全く別人の女性であった。 名前も素性も分からないこの身体で、自分と家族の命を奪った相手に必ず報復することに私は決めた――。 ※他サイトでも投稿中

命がけの恋~13回目のデスループを回避する為、婚約者の『護衛騎士』を攻略する

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
<死のループから抜け出す為、今から貴方を攻略させて頂きます。> 全く気乗りがしないのに王子の婚約者候補として城に招かれた私。気づけば鐘の音色と共に、花畑の中で彼の『護衛騎士』に剣で胸を貫かれていた。薄れゆく意識の中・・これが12回目の死であることに気づきながら死んでいく私。けれど次の瞬間何故かベッドの中で目が覚めた。そして時間が戻っている事を知る。そこで今度は殺されない為に、私は彼を『攻略』することを心に決めた―。 ※「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。

悪役令嬢はモブ化した

F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。 しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す! 領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。 「……なんなのこれは。意味がわからないわ」 乙女ゲームのシナリオはこわい。 *注*誰にも前世の記憶はありません。 ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。 性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。 作者の趣味100%でダンジョンが出ました。

運命に勝てない当て馬令嬢の幕引き。

ぽんぽこ狸
恋愛
 気高き公爵家令嬢オリヴィアの護衛騎士であるテオは、ある日、主に天啓を受けたと打ち明けられた。  その内容は運命の女神の聖女として召喚されたマイという少女と、オリヴィアの婚約者であるカルステンをめぐって死闘を繰り広げ命を失うというものだったらしい。  だからこそ、オリヴィアはもう何も望まない。テオは立場を失うオリヴィアの事は忘れて、自らの道を歩むようにと言われてしまう。  しかし、そんなことは出来るはずもなく、テオも将来の王妃をめぐる運命の争いの中に巻き込まれていくのだった。  五万文字いかない程度のお話です。さくっと終わりますので読者様の暇つぶしになればと思います。

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

乙女ゲームの正しい進め方

みおな
恋愛
 乙女ゲームの世界に転生しました。 目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。  私はこの乙女ゲームが大好きでした。 心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。  だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。  彼らには幸せになってもらいたいですから。

神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!

カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。 前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。 全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!

侯爵令嬢の置き土産

ひろたひかる
恋愛
侯爵令嬢マリエは婚約者であるドナルドから婚約を解消すると告げられた。マリエは動揺しつつも了承し、「私は忘れません」と言い置いて去っていった。***婚約破棄ネタですが、悪役令嬢とか転生、乙女ゲーとかの要素は皆無です。***今のところ本編を一話、別視点で一話の二話の投稿を予定しています。さくっと終わります。 「小説家になろう」でも同一の内容で投稿しております。

処理中です...