上 下
13 / 49

十三 ラプソディー・イン・ヒロイン

しおりを挟む
 無事、朗読や演奏なども終わり、それぞれの家族は帰宅することになった。両親を玄関まで見送ろうとすると何故かユリアンに呼び止められた。まるで待ち伏せしていたみたい。まさかね。

 両親は気を利かせたようにさり気なく私をユリアンの方に押しやってくれた。だから彼とは向かい合うことに。こうして近くに寄るのは久しぶりだからちょっとドキドキしますね。これを機会にじっくりと今のユリアンを見てリアルユリアン人形を作ろうなんて思ってませんよ? ちょっとだけ思ってるけど。

 二人で話そうとするのだけど少し離れたところにいるルークお兄様からの視線が突き刺さるように痛い。

 ユリアンは少し笑みを浮かべて私に話しかけてきて、その表情はすっかり大人びていた。

「……アーシア、久しぶりに会えて嬉しかったよ。今度は夜会にも一緒に参加しないか? いい加減、私から花やお菓子以外も受け取って欲しい……」

 ユリアンが寂しそうにそんなことを言ったの。――はい? そもそも私はあなたからはそれしか贈って貰っていませんけどね? 知らないわよ。

 私は頭の中で盛大に疑問符を浮かべてしまった。そこに何故かこほんとルークお兄様の咳払いがして口を挟んできた。

「正式に婚約披露をしてからでないとそれ以外の物を受け取れる訳がないだろう? 君は社交界のマナーさえもしらないのかね? これだから格下の家柄の者は……」

 ――お兄様! 今なんと仰いましたか? ユリアンと私は婚約しているのではありませんか? それにお兄様のその言い方だと、もしや、お兄様がユリアンからの贈り物をシャットアウトしていたということですか?

 お兄様の言葉でユリアンがその怜悧な眉を歪めていた。

「では、婚約披露の日取りを……」

「ちっ……半人前のくせに……。いや、失礼。我々は急いでいるのでね。ユリアン、君もお連れがお待ちかねのようだよ」

 ――お、お兄様?     何を? 今、それに舌打ちとかしませんでした? 紳士は人前で舌打ちするのはどうかと思います。

 そこへ、ヒロインのガブリエラちゃんがユリアンにぶつかりそうな勢いで駆け寄ってきた。

「ユリアン、もう終わったから、早く学園に帰りましょう? きゃあ、とってもイケメン! 是非お近づきになりたいですぅ! 私はガブリエラ・ミーシャと言います。どうぞよろしく! きゃ、言っちゃった。恥ずかしい」

 無邪気そうな笑顔でガブリエラちゃんはユリアンの腕を取りつつ、なんとお兄様に声を掛けたのだ。ルークお兄様は少し驚いたようだけど直ぐに貴公子然とした笑みを浮かべて答えた。流石、王国社交界を陰で暗躍しているお兄様だわ。

「失礼ですが、ミーシャというとミーシャ商会のご令嬢でしょうか? あの商会にこのような可愛らしいお嬢さんがいらしたとは……」

 ガブリエラちゃんはルークお兄様の偽りの微笑と言葉にすっかりハートを打ち抜かれてしまったみたい。目までハートが飛んでいる。器用な子だわ。いえ、やっぱり、恐ろしい子……。ルークお兄様にそのようなことを言えるなんて。

「うちを知ってるなんて嬉しいです。是非お店にも来てくださいね! 素敵な方なので特別にお安くしますよ。きゃ、そんなこと言ったらまたうちの者に叱られちゃう」

 最後にてへぺろと言いながらガブリエラちゃんはお兄様の方に手を伸ばそうとしていた。お兄様は終始穏やかな微笑で誤魔化しているようだけど周囲に素早く視線を送っていた。彼女への対処法を探しているのだと私の<お兄様レーダー>がそう告げていた。

「――ああ、君達はプリムラ学園のお友達を待たせているのではありませんか? あちらで彼らが待ちかねている様子ですよ」

 お兄様はさり気なくガブリエラちゃんの手に掴まらぬように器用に避けていた。そして、生徒会のメンバーの方を指示していた。流石ですわ。お兄様。ガブリエラちゃんは不思議に思ったようだけど気が付いていないみたいね。

「えぇぇ? そんなのもうどうでもいいというかぁ。今日はお兄様にお会いできるチャンスなんだし……」

「ミーシャ君。君は何を言って……。それに先程から失礼だよ。彼は侯爵家の方なのにそのような態度はどうかと……。ルーク様、後日また改めてお伺い致します。今日はこれで失礼致しますね」

 ユリアンはぶつぶつ言うガブリエラちゃんの腕を引っ張って行ってしまった。ガブリエラちゃんはユリアンの方を恨めしげに見ていたけどね。ユリアンは時折名残惜しそうに私に視線を送ってきていた。

 ――あれ? どういうこと? ユリアンからそんな視線を受ける価値は私にはございません。私は後三年後には立派な庶民でなのです。お貴族様のユリアンとは身分違いになるの。これこそ許されないゲームになるよね。……くすん。

 ルークお兄様と両親のところへ見送りに戻るとお母様は呆れた表情をしていた。

「……ルークったら、いい加減にしなさい。アーシアが嫁き遅れたら困るでしょ」

 お母様はお兄様に咎めるような目線を送ったけれどそれにルークお兄様は平然と答えていた。

「構いませんよ。別にアーシアはいつまでも、うちでいればいいじゃないですか」

 ――はい? それは何のお話か怖くて、私はルークお兄様を問い詰められませんが……。

 お父様もお兄様の言葉に勢いよく肯いて続けた。

「そうだとも! アーシアにはまだまだ早い。もうちょっと慎重に選ぶべきだ」

「まあ、あなたまで、そんなことを……」

 お母様は苦笑じみた口調で言いつつ扇で口元をお隠しになった。

 お父様。……あの、申し訳ないのですが、私は皆様の家族じゃないんです。三年後に判るんです。ごめんなさい。辛いなぁ。……くすん。

 そう思っても言える筈もなく、ますます私は身を縮めるしかなかった。両親達を見送って部屋に戻るとやり切った満足感と最後に物悲しさを感じていた。

    机に座ってステータス画面を確認すると。

 
  知力UP

  マナーUP

 [好感度]

  ジョーゼット・ローレン UP↑↑

  ユリアン・ライル UP↑↑

  ルーク・モードレット UP↑↑

  アベル王太子 UP↑↑

  ガブリエラ・ミーシャDOWN↓


    ……何これ、そもそも乙女ゲームに女性の好感度まであるのも不思議なんだけど。顔見知りになったら、出るのかしらね?    それもガブリエラちゃんのは下がってるじゃない。どうしてよ?    別にお兄様とかユリアンへの攻略は邪魔をした覚えはないんだけどね。
 
    ステータス画面を見ながら、こんなのがあるのか、ガブリエラちゃんに今度聞いてみようと考えた。



    でも、直ぐに夕食の時間となったので、食堂に行くと集まった皆と賑やかに今日の出来栄えを褒め合っている内に私も物悲しさなんかを忘れてしまった。

 お腹一杯になって、部屋に戻ると私は興奮状態が冷めやらぬまま、せっせとリアル・ユリアン人形を作成し始めた。出来上がったらもう寂しくないよ。放逐されても持っていくの。最初だから小さめのを作る予定だけどね。

    それで縫製レベルなどというのがステータスに現れていたけど気がついたのは後のお話。
しおりを挟む
感想 28

あなたにおすすめの小説

罠にはめられた公爵令嬢~今度は私が報復する番です

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
ファンタジー
【私と私の家族の命を奪ったのは一体誰?】 私には婚約中の王子がいた。 ある夜のこと、内密で王子から城に呼び出されると、彼は見知らぬ女性と共に私を待ち受けていた。 そして突然告げられた一方的な婚約破棄。しかし二人の婚約は政略的なものであり、とてもでは無いが受け入れられるものではなかった。そこで婚約破棄の件は持ち帰らせてもらうことにしたその帰り道。突然馬車が襲われ、逃げる途中で私は滝に落下してしまう。 次に目覚めた場所は粗末な小屋の中で、私を助けたという青年が側にいた。そして彼の話で私は驚愕の事実を知ることになる。 目覚めた世界は10年後であり、家族は反逆罪で全員処刑されていた。更に驚くべきことに蘇った身体は全く別人の女性であった。 名前も素性も分からないこの身体で、自分と家族の命を奪った相手に必ず報復することに私は決めた――。 ※他サイトでも投稿中

命がけの恋~13回目のデスループを回避する為、婚約者の『護衛騎士』を攻略する

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
<死のループから抜け出す為、今から貴方を攻略させて頂きます。> 全く気乗りがしないのに王子の婚約者候補として城に招かれた私。気づけば鐘の音色と共に、花畑の中で彼の『護衛騎士』に剣で胸を貫かれていた。薄れゆく意識の中・・これが12回目の死であることに気づきながら死んでいく私。けれど次の瞬間何故かベッドの中で目が覚めた。そして時間が戻っている事を知る。そこで今度は殺されない為に、私は彼を『攻略』することを心に決めた―。 ※「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。

悪役令嬢はモブ化した

F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。 しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す! 領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。 「……なんなのこれは。意味がわからないわ」 乙女ゲームのシナリオはこわい。 *注*誰にも前世の記憶はありません。 ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。 性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。 作者の趣味100%でダンジョンが出ました。

運命に勝てない当て馬令嬢の幕引き。

ぽんぽこ狸
恋愛
 気高き公爵家令嬢オリヴィアの護衛騎士であるテオは、ある日、主に天啓を受けたと打ち明けられた。  その内容は運命の女神の聖女として召喚されたマイという少女と、オリヴィアの婚約者であるカルステンをめぐって死闘を繰り広げ命を失うというものだったらしい。  だからこそ、オリヴィアはもう何も望まない。テオは立場を失うオリヴィアの事は忘れて、自らの道を歩むようにと言われてしまう。  しかし、そんなことは出来るはずもなく、テオも将来の王妃をめぐる運命の争いの中に巻き込まれていくのだった。  五万文字いかない程度のお話です。さくっと終わりますので読者様の暇つぶしになればと思います。

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

乙女ゲームの正しい進め方

みおな
恋愛
 乙女ゲームの世界に転生しました。 目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。  私はこの乙女ゲームが大好きでした。 心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。  だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。  彼らには幸せになってもらいたいですから。

神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!

カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。 前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。 全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!

侯爵令嬢の置き土産

ひろたひかる
恋愛
侯爵令嬢マリエは婚約者であるドナルドから婚約を解消すると告げられた。マリエは動揺しつつも了承し、「私は忘れません」と言い置いて去っていった。***婚約破棄ネタですが、悪役令嬢とか転生、乙女ゲーとかの要素は皆無です。***今のところ本編を一話、別視点で一話の二話の投稿を予定しています。さくっと終わります。 「小説家になろう」でも同一の内容で投稿しております。

処理中です...