上 下
7 / 49

七 見えない好感度

しおりを挟む
 入学して、この学園では最初のイベントとして園遊会というものが行われる。園遊会には保護者の方や来賓をお呼びして、一緒にお茶などを嗜むのだ。その傍らで生徒が楽器の演奏や詩の朗読などをする。

    出し物は生徒の発案によるもので、皆で趣向を凝らしている。いずれ自分で開くサロンの予行演習といったところ。

    だから、私達は放課後になると談話室に集まって、催し物を考えつつ、あれやこれや、きゃっきゃ、うふふとはしゃいでいた。何かを一緒にすることで連帯感が深めることを学園側は意図しているみたい。

 ――でも水面下では彼女達の熾烈な順位争いが繰り広げられていたのだ。ジョーゼットのお気入りの座を狙っているぅぅ。未来の王太子妃の取り巻きになることが出来ると王子様とお近づきになって、あわよくばという感じなんだろう。



「ええ、ジョーゼット様とアーシア様の朗読劇は絶対に外せませんわ!」

 ……なんですとお!?

 きゃっきゃ、うふふの話し合いの中でとんでもない発言が出た。私はぱくついていたスコーンを思わず吹き出すとこだった。

 危うく侯爵令嬢にはあるまじき姿を晒すところだったわ。……危ない。危ない。

 でも、嫌ぁぁ。もしや、それって、両親の前でするの?

     止めてぇ。そんな恥ずかしいことは出来無いぃ。

     脳内では遠山明日香の姿を思い出してしまい、不似合いな自分としか思えない。



 私は内心で無くなることを願いつつ無言のまま、肯くことをせずに微笑みを浮かべていた。

 ――皆様、察してくださいな……。

 すると何を勘違いしたのやらご令嬢のお一人が立ち上がる。その手は握り締められていた。

「そうですわ! そして、ジョーゼット様は麗しの妖精として、アーシア様はぜひとも薔薇の騎士様のお姿で!」


    それはこの世界では有名な悲恋物、こっちの世界でのロミオとジュリエットみたいなお話。

 ――ちょっと待って!   私は女性なんですよ?   騎士とやらになんてなれませんって、それに私は見てる方がいいんです。そういうのはお若い方々でどうぞっ。なんたって、本当なら私は二十歳は越してるの。この世界では嫁にいけない売れ残りな年齢だったのですよ。

 私のそんな切なる願いも虚しく、私は兄のルークの一張羅の一つを着こなして、悲恋物語の一幕をジョーゼットとすることになっていた。

 ――どうやらご令嬢方は悲劇がお好きらしい。それも悲恋物ね。まあ、高位のご令嬢方の大半は婚約者有りで政略結婚とかも普通だし、相手と結婚が決まるまで顔も知らないと言うのも珍しくない。だから、燃え上がるような恋に憧れを抱いているみたいね。

 ジョーゼットも王太子様とは幼少期からの婚約者でお二人は仲が良いみたいね。入学式の前日には、王太子様から彼女にそれは見事な真紅の薔薇の花束が届けられていた。それに嬉しそうに頬を染めるジョーゼットを眺めると私もほっこり嬉しくなった。将来の国王夫妻の仲がよろしいのは、なおよろしい。

 羨ましい。とか、思ってない、ないからねっ。でもいいなぁ。くすん。べ、別にユリアンと仲良くしたいとか思ってないからねっ。今度こそ、私も両想いの相手を見つけてみせる。でも、それは庶民になってからがいいかも。え? ユリアンからは? 勿論、私がここに入学したことも知らせてもない。今いる学校はお隣だから、いつかは知らせようかとは思っているけどねぇ。結構、授業とか忙しくて、なんたって自分は身の回りを手伝ってくれる侍女もいないから支度に時間がかかるの。

 無論、兄ルークにも私は手紙を出していない。それは怖くて。ははは。(虚無の笑い)

 お母様からの手紙にはルークお兄様はすでに王宮からの依頼のあった諸外国との外交を終えて、侯爵家にお戻りだそうですけど。私の居場所はもう知られている。でも、いつもなら外国からでもひっきりなしに手紙などをくれた兄からは今もこちらに何の連絡もない。

 私が寝込んだ時も大事な外交交渉をそっちのけで侯爵家に帰ろうとしたらしいのに。ひょっとしたら、彼もシスコンを卒業したのかも? そうよね。そろそろ兄ルークもお年頃、妹の世話を焼くより、外交中に彼のハートを打ち抜くご令嬢が現れたのかもしれない。

 ビバ! 未来のお義姉様! 歓迎いたしますよぉ。これで私も兄との不毛なやり取りをしなくていいかも。ううぅ。(むせび泣き)



 そんなドタバタな日々の中、一日の終わりに事実の机に座ってステータスを確認するのが日課になっていた。

「レベル、上がらないよね。他のもよく分から無いし」

 次の日ステータスオープンとか言ってみるとレベル1のあとにこんな数字が出てきたのだった。
 

 ステータス

 アーシア・モードレッド

 女性・ヒューマン型……

 レベル1
 
 知力53 気品55 マナー56 運動 30…… 


 運動が低いのはもともとみたいだけど知力が上がる授業を受けたら下がるの。そして、運動をすると知力が下がる。乗馬なんかは運動と気品やマナーが少し上がる。何かが上がれば何かが下がるという。

「効率の良い上げ方ないかなぁ」

 一つの授業は四十分程度、知識を詰め込むというよりは、実社会のことをロープレで体験ている感じ。例えば王宮でのデビューの際の心得とかマナーとかね。実際に王宮の女官の方がいらしてやり取りをしたりするの。

 一コマの授業を受けると約5程度数値が上がっている。でも下げるものがあるのであまり上がった感じがしない。最初はどうやら全て50だったみたい。

 確か『ゆるハー』はアドベンチャー形式なので選択肢しか無かったような気がするけど……。


 [好感度]

 ジョーゼット・ローレン……

 ユリアン・ライル……

    ルーク・モードレット……



 好感度の方は変わらず文字化けしたような記号が名前の横に並んでいるだけだった。話とかすると上がるのかな?

 園遊会の出し物のためにジョーゼットとはますます一緒に行動することになっていた。
しおりを挟む
感想 28

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

なんで私だけ我慢しなくちゃならないわけ?

ワールド
恋愛
私、フォン・クラインハートは、由緒正しき家柄に生まれ、常に家族の期待に応えるべく振る舞ってまいりましたわ。恋愛、趣味、さらには私の将来に至るまで、すべては家名と伝統のため。しかし、これ以上、我慢するのは終わりにしようと決意いたしましたわ。 だってなんで私だけ我慢しなくちゃいけないと思ったんですもの。 これからは好き勝手やらせてもらいますわ。

悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます

久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。 その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。 1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。 しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか? 自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと! 自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ? ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ! 他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

醜いと蔑まれている令嬢の侍女になりましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます

ちゃんゆ
恋愛
男爵家の三女に産まれた私。衝撃的な出来事などもなく、頭を打ったわけでもなく、池で溺れて死にかけたわけでもない。ごくごく自然に前世の記憶があった。 そして前世の私は… ゴットハンドと呼ばれるほどのエステティシャンだった。 とある侯爵家で出会った令嬢は、まるで前世のとあるホラー映画に出てくる貞◯のような風貌だった。 髪で顔を全て隠し、ゆらりと立つ姿は… 悲鳴を上げないと、逆に失礼では?というほどのホラーっぷり。 そしてこの髪の奥のお顔は…。。。 さぁ、お嬢様。 私のゴットハンドで世界を変えますよ? ********************** 『おデブな悪役令嬢の侍女に転生しましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます』の続編です。 続編ですが、これだけでも楽しんでいただけます。 前作も読んでいただけるともっと嬉しいです! 転生侍女シリーズ第二弾です。 短編全4話で、投稿予約済みです。 よろしくお願いします。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

不機嫌な悪役令嬢〜王子は最強の悪役令嬢を溺愛する?〜

晴行
恋愛
 乙女ゲームの貴族令嬢リリアーナに転生したわたしは、大きな屋敷の小さな部屋の中で窓のそばに腰掛けてため息ばかり。  見目麗しく深窓の令嬢なんて噂されるほどには容姿が優れているらしいけど、わたしは知っている。  これは主人公であるアリシアの物語。  わたしはその当て馬にされるだけの、悪役令嬢リリアーナでしかない。  窓の外を眺めて、次の転生は鳥になりたいと真剣に考えているの。 「つまらないわ」  わたしはいつも不機嫌。  どんなに努力しても運命が変えられないのなら、わたしがこの世界に転生した意味がない。  あーあ、もうやめた。  なにか他のことをしよう。お料理とか、お裁縫とか、魔法がある世界だからそれを勉強してもいいわ。  このお屋敷にはなんでも揃っていますし、わたしには才能がありますもの。  仕方がないので、ゲームのストーリーが始まるまで悪役令嬢らしく不機嫌に日々を過ごしましょう。  __それもカイル王子に裏切られて婚約を破棄され、大きな屋敷も貴族の称号もすべてを失い終わりなのだけど。  頑張ったことが全部無駄になるなんて、ほんとうにつまらないわ。  の、はずだったのだけれど。  アリシアが現れても、王子は彼女に興味がない様子。  ストーリーがなかなか始まらない。  これじゃ二人の仲を引き裂く悪役令嬢になれないわ。  カイル王子、間違ってます。わたしはアリシアではないですよ。いつもツンとしている?  それは当たり前です。貴方こそなぜわたしの家にやってくるのですか?  わたしの料理が食べたい? そんなのアリシアに作らせればいいでしょう?  毎日つくれ? ふざけるな。  ……カイル王子、そろそろ帰ってくれません?

コワモテの悪役令嬢に転生した ~ざまあ回避のため、今後は奉仕の精神で生きて参ります~

千堂みくま
恋愛
婚約を6回も断られ、侍女に八つ当たりしてからフテ寝した侯爵令嬢ルシーフェルは、不思議な夢で前世の自分が日本人だったと思い出す。ここ、ゲームの世界だ! しかもコワモテの悪役令嬢って最悪! 見た目の悪さゆえに性格が捻じ曲がったルシーはヒロインに嫌がらせをし、最後に処刑され侯爵家も没落してしまう運命で――よし、今から家族のためにいい子になろう。徳を積んで体から後光が溢れるまで、世のため人のために尽くす所存です! 目指すはざまあ回避。ヒロインと攻略対象は勝手に恋愛するがいい。私は知らん。しかしコワモテを改善しようとするうちに、現実は思わぬ方向へ進みだす。公爵家の次男と知り合いになったり、王太子にからまれたり。ルシーは果たして、平穏な学園生活を送れるのか!?――という、ほとんどギャグのお話です。

悪役令嬢はモブ化した

F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。 しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す! 領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。 「……なんなのこれは。意味がわからないわ」 乙女ゲームのシナリオはこわい。 *注*誰にも前世の記憶はありません。 ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。 性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。 作者の趣味100%でダンジョンが出ました。

処理中です...