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殿下、婚約破棄をする時は顔をしっかり確認してからお願いします!

婚約破棄のその後 (後編)

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現在、両陛下は隣国へ急遽訪問している。先日我が国のとある領地の鉱山から汚染物質が川に流れ隣国へ風評被害が出ていた。そのため外交問題となり、既に学園を卒業している第一王子と第二王子、その他重鎮達が今はその鉱山を封鎖し、国内の健康被害について調査をしたりと王族やそれに準ずる物達はその問題で日夜忙しくしていた。

本来であれば卒業式の前には両陛下は帰ってくる予定だったが、どうやら話し合いが長引いているようでまだ帰国されていなかった。

第三王子は大人達の目がない隙に自分の思い通りに事を運ぼうとしていたらしい。

私達は慎重に事を進めるべく、必要書類を用意し明日には登城しようと考えていた。

しかし、夜遅くにも関わらず、第三王子が我が家にやってきたのだ。ご丁寧にジェスパード伯爵令嬢を腕に絡ませ馬車から降りてきた。


「ソフィア!お前どこにいたんだ!?」

玄関ホールで大声を出すため家中に声が響いた。

その無礼な物言いに父が一歩前に出て私を守るように背に隠した。

「殿下、我が娘は本日体調が優れずパーティーの途中で帰宅してきました。

ところでこんな遅くにどういったご用件でしょうか?

我が娘を心配して見舞いに来て下さったのでしょうか?

それに、そちらのご令嬢とはどのようなご関係でしょうか?」


父の睨みに少し怯んだ殿下は「いや、あの…」とブツブツ言っていたが隣にいたジェスパード伯爵令嬢が殿下の腕を叩くと気を取り直したように「大事な話がある」と答えた。


「立ち話もなんですから」と母が上部だけの笑顔を作り応接室に案内した。




「それで、話とはなんですか?」

父の第一声を聞き、殿下は私を睨みながら「我々の婚約を破棄したいと考えている」と発した。

隣でジェスパード伯爵令嬢が私をニヤニヤした顔で見ていた。それを尻目に父は話を続けた。

「婚約解消ではなく破棄とは…そちらの不貞ということで慰謝料を貰えるということでしょうか?」

「なっ!何を言う!無礼な!彼女は真実の愛の相手だ!慰謝料はそちらが払うべきだろう!!」

「…何故?」

「ソフィアはフローリアを虐めていた!それを公にされたくなければ、そちらがフローリアに慰謝料を払うべきだ!それに俺だってこんな性格の悪い女と結婚するところだったんだ!俺とフローリアにそれぞれ慰謝料を払うべきだろ!」

「ソフィア、お前はジェスパード伯爵令嬢を虐めたのか」

「いいえ。実際に対面するのは初めてでございます。…殿下、ウダウダ言ってないで、自分の不貞を隠すために虐めただのくだらないことを言い出すのはおやめ下さい。婚約に関して特に未練はありませんので解消して下さって結構です」

「はっ?」

「殿下と私の間に恋だの愛だの今までありましたか?」

「えっ?」

「9歳の頃に私が殿下の誕生日プレゼントにあげたティーカップセットを覚えておりますか?殿下は青がお好きということで青いティーカップセットを色々探しました。今は珍しくありませんが、あの頃は青いティーカップセットは珍しいものでなかなか見つからずやっと見つけたものでした。このティーカップセットでいつまでも仲良くお茶が飲めたらいいと思いプレゼントしたのですが覚えていらっしゃいますか?」

「えっ………そんなカップでお茶をしたことはないが…」

「そうです。箱を開けて中身を確認した殿下は自分が思っていたオモチャじゃなかったため、その箱を床に投げ捨て割ってしまいました。ですから1度もあのティーセットでお茶を飲んだことはありません。あの時から私は殿下を嫌いになりました。ですから、私がジェスパード伯爵令嬢に嫉妬することなど絶対に有り得ないのです。他にもまだ理由はありますが聞きますか?」

「いや…いい」

気まずそうに目を逸らす殿下に私はまだまだ言ってやりたいことが山程あった。ただ、父が私に目配せをしてきたため、私は黙って父の言葉を待った。

「…それでは殿下、虐めはなかったということでよろしいでしょうか?」

ジェスパード伯爵令嬢が何か言いたそうに口を開いたが父はそれをかき消すように

「もし虐めがあったと言うのであれば、こちらも娘を信じておりますので色々と慎重に正確に調査をしたいと考えております。調査結果が出るまで数ヶ月かかると思いますが、その間は婚約についても一旦保留となるでしょう。また、調査の結果、虐めが嘘であった場合はお二人に慰謝料を請求したいと考えております。」

「…なっ!」

「あと、お二人の真実の愛がいつから始まったかによってこちらも頂く慰謝料の金額が変わりますので、そちらも慎重に調査していきたいと思います」

「へっ?」

殿下とジェスパード伯爵令嬢は顔を見合わせ、しばし考えたあと、ジェスパード伯爵令嬢が口を開いた。

「ローリエンス様、虐めについては私の勘違いのようですわ。申し訳ございませんでした。それに私達はずっと胸に秘めた想いはあったもののその気持ちをずっと伝えられずにおりました。ただ、今夜、卒業パーティーという熱に浮かされお互いの気持ちをついに伝えただけなんです。だから以前から逢瀬を重ねていたわけではありませんわ。ねぇ、殿下?」

「あぁ、そうだ!だから、我々が慰謝料を払う義務はなくなった。婚約は解消にしよう!」

それを聞き、父はすかさず書類を渡し殿下にサインをさせた。もう二度と何があっても再婚約はさせない旨も書類には書いてあった。殿下がどこまで読んでいたかは分からないけど。

こうして私の婚約は無事に解消された。


◆◆◆◆◆◆


それから私は王都の面倒ごとに付き合わされたくなかったため、少数の使用人を連れ視察の旅に出掛けた。付き合いのある領地やこれから付き合えそうな領地、さらに婿探しも兼ねて1年かけて旅をする予定だ。途中、父や母と合流し、父の後継者として私の顔見せも兼ねている。


旅をする中で、私の元婚約者の話は度々耳に入ってきた。

どうやら私と婚約解消をした次の日、教会で2人は婚約を結んだらしい。学園を卒業後は成人とみなされるため、2人だけでサインをし両家に話を通さないまま勝手に婚約を成立させてしまったようだ。

数日後、帰国した両陛下や兄達に元婚約者は怒られたらしい。
公爵家との婚約解消よりも、新たに婚約を結んだのが、あのジェスパード伯爵家だったのだ。それは怒るのも無理はない。


隣国との汚染物質問題になっている鉱山はジェスパード伯爵の所有する山だった。薄々は汚染物質に気付いていたが、見て見ぬフリをしていたらしい。そのため、隣国への損害賠償は全てジェスパード伯爵家が支払うことになった。家を売り、爵位を返還してもそのお金は足らず、国が一部建て替えて支払うことになった。

ジェスパード伯爵は前々から汚染物質について気付いていたため、もしバレた時用に罰を少しでも軽くするため娘を第三王子に近付け、王家との繋がりを理由に厳罰を逃れようとしていたらしい。

王家としては、第三王子が私との婚約解消を家族間でしていれば、まだ打つ手はあったものの、卒業パーティーという、多くの人の目の前で勝手に婚約破棄し、今は噂のジェスパード伯爵令嬢と婚約宣言までしてしまったため、今更それを無しにすることが出来ず頭を抱えることとなった。

ジェスパード伯爵は国で建て替えた借金返済のため、男性陣はダイヤモンドの採掘場、女性陣は繊維工場での労働を課されることとなった。その労働に婿に入る予定の第三王子も入れるか入れないかで揉めたらしいが、最終的には王子が婿入りする前の出来事のため、採掘場送りはなくなった。

ただ、これからジェスパード元伯爵令嬢と結婚し平民になることは決定事項のため王子はかなり抵抗したらしい。私との再婚約を言い出したらしいが、そこはお父様がしっかりと婚約破棄の契約書を見せて黙らせた。

両陛下も、自分の息子を平民にしたくないため、何とかしようとしたらしいが、卒業パーティーに出席していた子達の親から

「真実の愛とは素晴らしい!公爵家の婿という立場を捨て平民になるほどの愛だ!きっと、一生添い遂げるんでしょうね」

「卒業パーティーで高らかに新たな婚約を結ぶことを宣言する姿はそれは素敵だったようですね。まさか王家が一度口にしたことを反故にするようなことはありませんよね」

など、今まで第三王子のワガママに付き合ってきた近しい関係の貴族ほど、王家に嫌味のように真実の愛の素晴らしさを語っていたらしい。

お陰でジェスパード元伯爵令嬢との婚約を破棄しづらくなってしまい、殿下は毎日王宮で暴れていたらしい。

その後、父や他の貴族達の勧めで、王都の街はずれの一軒家で平民になるための生活の練習をしている。もちろん両陛下は反対しようとしたが「真実の愛」を盾に父達がなんとか言いくるめたらしい。

さすがにいきなり平民は厳しいだろうと、父達の温情で平民に平民の生活方法を教えてもらっている。

その度に王子は癇癪を起こしているが、平民の生活を教えてくれているのが木こりや狩人など屈強な男性のため、暴れてもすぐに力でねじ伏せられてしまうらしい。

また、半年後には元ジェスパード伯爵領に移り、そこでフローリア様と結婚する予定のため今からこの質素な生活に慣れないと生きて行くには厳しいだろうな、と思った。





まぁ、殿下は真実の愛を見つけ、愛のために生きると決めたんだから、その先は愛があるのだから何とか生きていけるだろう。

私もこれから、一緒に紅茶を楽しめる真実の愛の相手を見つけなきゃいけないから元婚約のことなんて気にしていられないわ!
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