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殿下、婚約破棄をする時は顔をしっかり確認してからお願いします!
婚約破棄宣言 (前編)
しおりを挟む「ソフィア・ローリエンス!貴様との婚約を破棄する!!」
その宣言に誰もが息を呑んだ。
◆◆◆◆◆◆
今日は王立学園の卒業パーティー。明日になれば領地へ帰る者や婚姻などで隣国へ行く者達もいるため、いつもより友との時間を皆が楽しんでいた。そんな中、我が国の第三王子がそんなことを高らかに宣言するものだから、誰もが息を呑み第三王子の次の言葉に耳を傾けた。
「私は真実の愛に目覚めた!こちらにいる、フローリア・ジェスパード伯爵令嬢と婚約することをここで誓う!」
そういうと王子の後ろから1人の女性が現れた。上目遣いで王子を見上げ不安げに首を傾ける仕草は男心をくすぐる。「大丈夫、心配ないよ」そう王子が優しく囁き伯爵令嬢を自分の隣に引き寄せた。その姿に開場中が一気にざわめいた。
「ローリエンス公爵令嬢と婚約破棄って、第三王子は何を考えているのかしら!?」
「あのジェスパード伯爵家の令嬢と婚約って正気なのか!?」
「両陛下はこのことをご存知なのかしら?」
色々な追憶が飛び交う中、なかなか王子達の前に現れない公爵令嬢に痺れをきらしたのか第三王子はより一層大きな声で「ソフィア!!話を聞いているのか!?今すぐこっちに来い!」と叫んだ。
周りはその声を聞いてさらに眉をひそめた。
しかし王子はそれには気付かず壇上からソフィアのいる方に声をかけ続けた。
自然と周りもそちらに目線をやると、壇上から見て左奥にビュッフェ形式で料理の並ぶテーブルがあった。
その中に金髪ストレートの髪をハーフアップにしている女性が王子に背を向ける形でどの料理を取るか悩んでいるようだった。
「おい!ソフィア!」
ついに王子自ら怒鳴りながら公爵令嬢へと近づいて行った。周りで見ていた人達がさすがに公爵令嬢に教えようと彼女に近付き固まった。
「聞いてるのか!?ソフィア!」
ついに王子が公爵令嬢の後ろまで来てその肩を掴み振り向かせた。
「キャッ!」
「おい!!…えっ!?」
「………いきなり何のご用でしょうか?」
その顔に誰もが驚いた。眉間にシワを寄せた彼女は公爵令嬢ではなかったからだ。
「お前は誰だ?」
彼女からするといきなり肩を掴まれ謝罪もなく誰かと問われ少し不服そうではあるが、相手が第三王子だとさすがにすぐに気付いたため感情を無にした様子で「………マクライアス伯爵家のジュリアと申します」と綺麗なカーテシーをしながら挨拶をした。
「…マクライアス…伯爵…令嬢…?」
第三王子は一瞬何が起こったか分からずにいたがすぐに人違いをしたことに気付き周りを見回しながら
「ソフィアはどこだ!?」
と叫び続けた。
◆◆◆◆◆◆
時を戻して王子が婚約破棄宣言をする少し前、本物のソフィアはテラスにいた。
少し人に酔ってしまったため、テラスで風に当たっていた。1人、夜空を見上げていると少し感傷的な気分になる。ソフィアは王子と婚約した8歳の頃を思い出していた。
元々王位継承は第一王子に決まっており、第三王子は婿入り先を探していた。そこに同い年の公爵令嬢がいれば親は何不自由ない暮らしを与えるために公爵家への婿入り話を勧めるのも無理はない。
ただ、我が家にとっては厄介な話だった。初めは王家と繋がれることを喜んでいた両親も、殿下の勉強嫌いに加え、散財を繰り返して遊び呆ける姿を見て段々に我が公爵家に相応しくないと思うようになっていった。
公爵家に婿入りするために公爵領だけでなく近隣の領や取引先の領を覚えてもらうにも、甘やかされて育ってきたせいかそういった基本的なことすら覚えようとはしなかった。
お金がそれなりにある我が領で遊んで暮らすのが目的なのが明白だった。
両陛下は第一王子のスペアとして第二王子にも第一王子と同じように厳しく教育をしていたが、その反動か末っ子の第三王子を甘やかして育てていた。
そのため、両陛下も遊んで暮らせるくらいお金がある我が領に目をつけたのだ。
それでも最初は第三王子と仲良くなろうと努力はしてみたが、とにかくワガママだった。自分が気に入らないとすぐ癇癪を起こし、欲しい物があるとすぐにお金を積んで手に入れていた。そんな王子を冷めた目でずっと見てきたせいか、1度も恋心が芽生えることがなく今日まで来てしまった。
学園を卒業したあと、すぐに結婚式の準備が始まり半年後には結婚を控えている。
果たして私は殿下と上手くやっていけるのか、最近はそればかりが心配だった。
さらに殿下は最近、ジェスパード伯爵令嬢と密かに仲良くしていることを知っている。たまたま2人がいるところを見てしまってから気になり何度が隠れて2人を見ていた。すぐに両親にも相談し、王家にどう抗議し、あわよくば婚約解消をするか一家で様子を見ているところだった。
どうしたものかと考えていると会場から「ソフィア・ローリエンス!貴様との婚約を破棄する!!」と声が聞こえた。
慌ててテラスから会場に戻ると王子から見て左奥の料理が並ぶテーブルの方に向かって叫んでいた。
最初は何故右側のテラスにいる私ではなく向こう側に向かって叫んでいるのか分からなかったが、よく見るとそこにはマクライアス伯爵令嬢が立っていた。
私達はこの3年間よく後ろ姿を間違われていた。
髪を巻くヘアースタイルが流行っている中、直毛の私はどうしても髪を巻いてもすぐに解けてしまうためいつも金髪のストレートの髪をハーフアップにしていた。マクライアス伯爵令嬢も直毛で髪が上手く巻けず、私と同じ髪型をしていた。
普段は周りにいる友達のお陰か間違われずにいたが、1人でいる時などお互いによく間違えられていた。
そんなこともあって、今、殿下がマクライアス伯爵令嬢と私を間違えていることに納得した。
そして、私が咄嗟に思ったのは『巻き込まれたくない!』と言うことだった。真実の愛か何だか知らないけど、それならそれできちんと手順を踏めばいいことをわざわざ私を陥れようとしているその根性が許せなかった。
とにかく周りが私に気づかぬうちに急いでテラスから庭に出て外から回って正面玄関に走った。そこにいた係の人に我が家の馬車を呼んでもらい追っ手が来る前に馬車に滑り込んだ。急いで家に帰るよう指示したため、帰りは馬車が大きく揺れお尻が痛くなった。
家に着き、そこから両親に事の顛末を話し、今にも殴り込みにいきそうな父を止めながら今後の方針について話し合った。とにかく国王陛下達が帰ってくるまでがポイントなのだ。
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