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6.王都

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しばらくしてルードリッヒ様が

「これから報告のため一旦王都に帰りましょう。その後、騎士団を連れてこの海で聖女様の捜索をすることにします。陛下には、聖女様は王宮での対応に思うところがあり、このようなことをしたと報告させて頂きます。メイド達の聖女様への対応といい、仕送りの件も解決しなければなりませんからね。他にも余罪がありそうなのでこちらも調査を進めていこうと思います」

と言った。私達はただ黙って頷き、みんなで来た道を戻った。

王都に戻ると、数日前と雰囲気が違った。どうやら小さな魔物が現れたらしく、被害はそれほどなく倒せたらしいが、ここ何十年と魔物を見たことのない王都の人達は戦々恐々としていた。

私はそれよりも、姉が亡くなっていたことで、今度こそ王太子様達に言われのない罪で捕まるんじゃないかと思っていたが、ルードリッヒ様もそれを感じとったのか「私だけで説明してきます。妹殿やご家族に危害が及ばないよう上手く説明してくるのでゆっくり休んでいて下さい」と言われ、宿で待つこととなった。

久しぶりの休息に、馬達を労うように世話をしたあと、王都の街を散歩することにした。ダンおじさんは魔物のこともありついて来ようとしたが、「今は1人になりたくて…絶対に危険な所には行かないし、この近くを散歩してくるだけだから!」と言うと、何かを察したのかすんなりと了承してくれた。


王都の街を歩きながら考えることは姉のことばかりだった。
姉もこの街を散歩するようなことがあったのか。美味しいケーキを食べれたのか。


そうして、私は司祭様がいる教会の前に来た。白と金色の豪華な教会。中に入ると色とりどりのステンドグラス。思っていたより立派な教会だった。

「こんにちは」

私が入ってきたことに気付いたシスターが声を掛けてきた。

「あら、見ない顔ね」

年配のシスターが笑顔でそう言ってきたことに私は少し戸惑った。

私の村にも小さな教会がある。その教会には村人以外に時々、旅人や何か事情がありそうな人もやってくる場所だった。年配の神父様とその娘のシスターはいつもニコニコと温かく私達を受け入れてくれた。挨拶はするものの、こちらからは詮索するようなことは聞かない。ただ、「今日は天気が良い」とか「この季節だと少し行った先の花畑が綺麗だ」とかどうでもいいような話をして、相手に合わせて深入りはせず、温かく見守ってくれるような教会だった。

だけど、ここのシスターは私を詮索するような雰囲気を出していた。

「観光?それとも近くの街から聖女様に会いに来たのかしら?」

その言葉に

「聖女様は今、ここにいるんですか!?」

と思わず食い気味に聞いてしまった。

「いや、今はいらっしゃらないのよ。ただ、戻ってきた時に会えるように予約を始めたんです。こちらが値段表ね」

1枚の紙をシスターが出した。

「字は読めないかしら?」

私の装いから平民だと気付いたのか

「一応、願いによって値段が違って…」

そう言うと、各願いに対しての値段をシスターが読み上げた。ひと通り読み終わり、私は口を開く。

「この教会は新しいようですが、いつ頃出来たんですか?」

「あぁ、ここは2ヶ月前かしら?王太子様と聖女様のご結婚用に新しく建て直したのよ!それもこれも聖女様のお陰でね~」

「聖女様のお陰…?」

「そうそう。何でも聖女様が長年貯めていた貯金をこの再建に当ててくれたみたいなの。私達シスターも知らなかったから、この間、セレモニーパーティーで司祭様が王宮の偉い人と話しているのを聞いて驚いたのよね!聖女様って普段は私達シスターも気軽に会える存在じゃないから知らなかったけど、この教会のことを思ってくれてたのね、てみんなで感動しちゃった!でも、私気付いちゃったんだけど、きっとご自分の結婚式のために豪華な教会にしたかったんじゃないかな、て。まぁ、どっちにしろ働きやすい環境になったんだから聖女様には感謝しているのよね」

そう楽しそうに話すシスターに怒りが湧いてきた。姉が頑張って働いて貯めたお金はこれに使われていたのか………

きっと、今まで色んなことに姉は耐えてきたのだろう。たくさん働いてたくさん危険な目にもあって。12歳で辺境地を魔物から守った姉だって魔物が怖かったはずだ。それでも国のため、民のため、私達家族のために働いてきてくれたんだろう。

それなのに、今まで家族のためにと思って仕送りしてきたお金が全てこの教会に使われていると知った時、どんな気持ちだったろうか。

愛のない結婚でも我慢しようとしていた姉の心はきっと折れてしまったんじゃないか。この8年、もっと早く逃げても良かった。私達家族のために姉はずっと我慢してくれていたんじゃないか…そう思うと胸が苦しくなった。


ごめんね、お姉ちゃん。

ごめんね。






日が沈んだ頃、ルードリッヒ様が宿にやってきた。

「少し話は難航しましたが、妹殿やご家族には王宮と教会は今後一切関与しないよう契約書を作成させて頂きました」

「すごい!どうやって話を進めたんですか?」

「元々、聖女様と教会の契約書に聖女様には家族がいないと記載されていました。だから妹殿を責めることは出来ないと。それに先日の妹殿の聖なる力の件で、あの場を目撃していた王宮騎士は皆震えあがっていました。あれを見てしまったら誰も手を出そうとは思わないでしょうね。さらに今は魔物のことでそれどころではなくなってしまったため、この話はこれで終わりになりました。そういえば、あの時、天罰をくらったディランと言う騎士は意識を取り戻したそうです。音の割には大きな怪我もなく、今は普通に日常生活が送れているそうです」

「色々ありがとうございました!」

「それと、私達は明日、聖女様の捜索へ出立することが決まりました。妹殿はもう家に帰って下さって構いません。ただ、王家としましては、聖女様のことは、こちらのタイミングで発表させて欲しいとのことでした。変に噂を流さないように、と言う王命が下りましたので、家族としては色々思うところはあるでしょうが、国民を不安にさせないためにも、どうかご協力お願いします。それから、これは今回の捜索へのお礼です。仕送り分には足りないでしょうが」

そう言うと少し大きめな茶色の袋を差し出してきた。

中を見るとたくさんの金貨が入っていた。恐らく今回の口止め料なのだろう。平民の私達なら働かなくても一生このお金だけで暮らしていけるほどの量だった。

「王宮内で見たこと、話したことは他言無用でお願いします。それから、聖女様が見つかった場合はすぐにお知らせに向かいますので!」

「本当にありがとうございました。ルードリッヒ様だけが私の気持ちに寄り添って下さいました。姉の捜索が第一ではありますが、ルードリッヒ様達にお怪我がないようにお祈りしております!!本当にお世話になりました!!」

私は頭を深く、深く下げた。

どうか、あの荒れた海で誰も怪我をすることなく無事に帰れますように、と強く願った。




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