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2.8年間

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それから8年の月日が流れた。

その間、姉から1度も連絡はなく、何故か仕送りもなかった。
私達から連絡してみようにも平民が気軽に王宮に連絡が取れるわけもなく、領主様経由で手紙を出してもらっても音沙汰がなかった。

こんな田舎では王都の話など聞こえてくるはずもなく、姉が元気にやっているのか、それだけがただ、ただ、心配だった。領主様も心配していたらしく、年に1度、王都に行く用事の時に姉の噂を聞いては私達に教えてくれた。

姉がこの村を出て

1年経った頃、聖女様が王都にしっかりとした結界を張ってくれて、また魔物が入ってこない生活を送れて助かっている、と聞いた。

2年経った頃、大量の魔物が現れた辺境地で聖女様が魔物を倒し、強固な結界を張ったと聞いた。

3年経った頃、聖女様が辺境地からの帰り、各地を巡り結界を無償で張ったことで各領地の貴族や領民達から感謝されており、王宮の評判も上がったと聞いた。

4年経った頃、姉が14歳の年。王太子様と婚約したことを知った。3歳年上で17歳の王太子様は、素行が悪く評判も良くなかったため、少しでも聖女人気で自分の株を上げようと婚約を望んだようだった。私達家族は反対の気持ちでいっぱいだったが、どうすることも出来ず複雑な気持ちでそれから過ごすこととなった。

5年経った頃、聖女様が王都で流行り病を治して、たくさんの人を助けていると聞いた。

6年経った頃、最近、地方に聖女様が行くことはなく、王都を出たがらずにいると聞いた。さらに、聖女様はお金がある上位貴族の病しか今は治していないらしい。

7年経った頃、聖女様は仕事をしたがらず、王宮に毎日のように、ドレスの仕立て屋や宝石商を呼んでいるらしい。そして、聖女様の代わりに王太子様と一緒に慈悲活動を積極的に行っている男爵令嬢がいると聞いた。聖女様は仕事を全てこの男爵令嬢に任せっきりで自分は遊んでいるらしい。

毎年、領主様と話しながら、私達は信じられない気持ちでいた。もちろん領主様も「ヴィアがそんな子だとは思えないんだけど…」と、姉とはそんなに関わりはなかったものの村人達から聞く話と違うことに違和感を感じているようだ。

私達も、王都で過ごすうちに姉の性格が変わってしまったのか?とも考えたが、年々、今までの噂と明らかに違う行動をとる姉に、何かあったのではないかと不安になっていった。

さらに、あのお別れの日を思えば、姉はきっと1人で大変な思いをしているはずだ。男爵令嬢と一緒に出歩いて噂になっている時点で、あの王太子様が絶対に姉を幸せにしていないことが明確だった。姉は元気なのか、虐げられていないか、それだけが家族の気掛かりだった。

だから、今年、王太子様と結婚する年に、結婚式に呼ばれなくても私達家族は何としてでも王都に行き、姉の元気な姿を一目でいいから見たいと思っていた。そのために、この8年間お金を貯めてきたのだ。

それなのに、姉が行方不明と聞いて目の前が真っ暗になった。


◆◆◆◆◆◆


ルードリッヒ様が言うには、結婚式を3月後と控えた1ヶ月前、ある日、王都の結界と共に忽然と姉は姿を消したらしい。

前日まで普通に過ごしていたようだが、次の日の朝、いつものようにお祈りをするための聖堂に姉が現れず、部屋に行っても姿はなく、その後どこを探しても見つからず、ついに実家まで探しに来たとのことだった。

「…姉には護衛などついていなかったのですか?」

思わず呟いた私にルードリッヒ様は「お付きの騎士とメイドはいたそうですが、目を放した隙にいなくなっていたようです」と説明してくれた。

「あの、もし良ければ私を王宮に…姉の住んでいた部屋に連れて行ってはくれませんか?」

「バリー!貴方何を言っているの!?」

顔面蒼白になる母を横目に

「王宮なら私が行く!バリーまで王宮にやるわけには行かない!」

そう父が怒った。

「バリー、だったらお母さんが行くから貴方はお家にいなさい!」

そう言われても私の心は決まっている。

「お母さんはそんな状態じゃ王都まで持たないでしょ?それにお父さんだってこの間、畑仕事で腰を痛めたじゃない?その腰で長時間馬に乗るなんて無理だわ!だったら私が行くのが1番よ!それに、もし、お姉ちゃんが実家に帰ってきて誰もいなかったら寂しがるわ!だからお母さん達は家にいて。それに私は聖女じゃないんだから、王宮で捕まることはないわ。何より、8年前に姉は死んだと思えと言われたのよ?今更、家族だからって罰を与えてこようとしても家族じゃないって言えばいいし、それだけのことよ!」

ルードリッヒ様に向き直し

「お願いします!私達も姉が心配なんです!何か手掛かりを見つけることが出来るかもしれないので、私を王宮に連れて行ってくれませんか!?」

必死に頼み込む私を見て、ルードリッヒ様は少し考えたあと、「では、妹殿、一緒に王宮に行きましょう!」と頷いてくれた。

両親はとても心配していたが、この村で1番速い馬を持つご近所さんに馬を借りに行ってくれた。それから用心棒にと、この村で1番力の強いダンおじさんが付いてきてくれることになった。

そうして、私達4人は馬に跨り王都に向けて出発した。

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