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第三章
終わりと始まり
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「お久しぶりです。帝王ベルナーレ。約束通り再びここまでやってきました」
「久しぶりじゃの! まさか本当に来るとは思わなかったぞい!」
初めて会った時の事を正確に覚えている訳じゃないけど、その時よりも明らかに痩せている。そして具合が悪そうに時々咳をするベルナーレ。顔色も悪い。
「思ったよりも早く到着出来て良かったと思っています」
「そうかそうか。宴会の支度をせい! 宴をしようぞい!」
すぐに食事と酒が運ばれ、盛大な宴会を催してくれた。最高の食事に最高の酒を振る舞ってくれた。
帝王ベルナーレも一緒になって踊り狂う程酔って楽しだ。宴会は朝まで続いた。
最後まで酒に飲まれる事なく生き残って居たのは、ジャンにレオン。ロベルタとバルナ侯爵。アウグスト辺境伯にルイス国王と帝王ベルナーレ。
「さてと、最後の話をしようぞい! そのまま聞いてくれ」
先程まで酔っ払って踊っていた人とは思えない神妙な面持ちとトーンで語りだした。
「朕は約束通り国を明け渡そうと思うておる。朕がここで戦争してもいつかは負ける。その位分かっておるぞい。ただ……朕が明け渡すと決めても反対する馬鹿共がいる。そいつらを始末して欲しい。もし説得出来ても、後々は国の不利益に繋がる連中だぞい。今のうちに後顧の憂いは取り除いておいた方がいいぞい!」
「その始末して欲しいという人物は、一体誰なのでしょうか?」
ルイス国王が帝王ベルナーレに問う。
「朕の子供達だ。朕の子供はどうしようもない奴らしか生まれてこなかった……だから始末して欲しい。ルイス国王が望む国創りには絶対に必要ない人物達だぞい」
(自分の子供を侵略してきた国の奴らに殺させるのか? ベルナーレって何考えているのか全く分からないな!)
「本当に宜しいんですか?」
「ああ、頼むぞい!」
「分かりました。お任せ下さい! ジャン!」
「はっ」
「ジャンに任せていいか?」
「お任せ下さい」
重要な暗殺を任された。
帝王ベルナーレから子供達の居場所と特徴、護衛の数など細かい事を教えてもらう。それだけ情報を貰えれば楽勝。むしろ居場所さえ分かれば問題ない。
話が終わると、宴会はお開きになった。
早速その日の夜に暗殺をしに行く。
子供は全部で四人。男三人に女が一人。
男の三人達は、もれなく女と酒に溺れていた。沢山の女を侍らせ、酒を呑んで騒ぎ倒していた。俺が言うのも何だが、ろくでもない人間ってだけは分かる。国を任せられる逸材ではない。
さっさと三人を殺した後、ただ一人の女が住む場所へと向かう。
部屋を覗くと小さな男の子達が、裸でズラっと並べられて動けないように縛られていた。思うように動けない男の子達は、芋虫のようにクネクネと身体をうねらせている。
一体何をしようとしているのか?
一人だけ立っている女が、ムチの様なもので男の子の身体を叩く。
「ぎゃああああああああ」
悲鳴と共に、血が吹き出す。
ムチで一回叩いただけで、血が吹き出すか?
俺は思ったその疑問は、すぐに分かった。
しなるムチにカミソリの刃のような物が数え切れないほど付いていた。ムチを構える度にキラリと光る。
叩かれた男の子は悲鳴を上げ、ムチで叩く女は高笑いを上げていた。悲鳴と笑い声が木霊する。
そんな様子を見て、俺は時を止めた。
縛られていた男の子達の縄を開放し、女の首を斬ってその場を後にする。全ての暗殺を終えた俺は、そのままの足でルイス国王に報告した。
再びベルナーレの元を訪れたルイス国王とジャン達は、暗殺を完了した事を伝えると、ルイス国王はベルナーレからトドル帝国の全てを譲り受けた。
そう、つまりは長い戦いが終わった。ルイス国王が望んで手に入れた世界が実現したのだ。全員が意気揚々とロア王国に凱旋した。
国に戻ったジャン達に待っていたのは、英雄が帰って来たかのような国民からの祝福と喝采だった。
その日、国を上げての大宴会が始まり、ルイス国王が国民に向けて挨拶をした時だった。
「これから私が創る国に、上も下もない世界を創造する! 貴族と身分は無くなっていくだろう! ついでに私の発表はもう一つある。私は平民出身であるこのエリーゼと結婚する!」
ルイス国王は、エリーゼとの結婚発表を大々的に行った。
(おいおい、ルイス国王マジかよ! あいつと結婚するのかよ!)
「ルイス……」
ジャンは特に何も言わなかったが、俺はエリーゼの事は好きじゃない。むしろ嫌いだ。
あいつはまだ何かを隠している事があるように感じていた。
国民の熱気が冷めず、夜になっても騒いでいる中で、とある部屋を訪れていた。
「よお。お前がエリーゼだな! ちゃんと会うのは初めてだよな?」
「どちら様ですか?」
「そんな言葉使わなくていい。お前転生者なんだろ? 地球、日本人だろ?」
「へぇ~。私以外にも転生者が、それにジャン・アウルが転生者だとは思わなかった。だから物語が全然違う方向にいっていたのね」
「よく分からんが、お前はこの世界の何を知っているんだ?」
「何を? 全てを知っていると言ってもいいわ!」
「全てだって? 訳がわからねぇ!」
「まあそう思うわよね普通!」
エリーゼは椅子に座ると足を組んで話し始めた。
「この世界はね、私がハマっていたゲームの世界なのよ。転生して来た時は、ただ似ているだけかと思ったけど、世界観も出てくる人の名前も、行われていく戦も全ては私がやっていたゲーム通りだったの。だからゲームの世界だと確信したのよ」
ゲームの世界? 何言っているんだこいつ? でも確かに魔法の場所も秘密の通路もこいつだけは知っていた。
(ユウタ? エリーゼが何でも知っていると言うなら、聞いて欲しい事がある)
(んっ!? どんな事だ?)
(それは、――――)
「なあ、聞いていいか?」
「なに?」
「ロア王国は……ルイス国王は今後どうなっていくんだ? それとお前は今後どうするつもりなんだ?」
「教えてあげるわ。統一した後、ルイス国王は精神疾患によってどんどん妄想癖と幻覚、幻聴。その症状によって被害妄想が酷くなって部下達を殺しまくるようになっていく。『こいつらが私の暗殺、国の転覆を考えている』とか言ってね」
「この世界に精神病って概念がないから聖魔法よる治療を行うけど勿論効果はない。どんどん酷くなるルイス国王の暴走を止めるのがレオンとロベルタなのよ」
「ちょっと待てよ! ルイス国王は貴族を無くそうとしてるだろ? 法律を作ろうとも考えてる。そんな勝手に部下を殺すなんてなんて出来ないだろ?」
「戦争を終えたばかりで世界は安定していない。だから先に安定させる事を優先したのよ。ルイスはまだ若いし、優秀なレオンとロベルタも同い年だから時間はまだあるから。徐々に意識を変えていこうってね。だから国王として権力も権限もまだあるのよ」
「なるほどな……それで結局どうなるんだ?」
「内戦が起こるわ。そこで活躍して内戦を収めたレオンとロベルタが国を動かすようになり、レオンとロベルタは結婚。ルイス国王の意志を受け継いで法国家を創るようになって、貴族や王族もなくなって民主的な国になっていく。レオンとロベルタが創った国は三百年続いたとさ。その後はどうなったかは分からない」
「ルイス国王は最後どうなるんだ?」
「自殺するわ……レオンとロベルタの献身的な治療も虚しくね」
「そこまで知っていて、お前は何を目指しているんだ?」
「贅沢な暮らしをしながら人生を全うしたいだけ。あなたに会えた事は幸運だわ! 転生者がいるとは思えなかったからね。良かったら手を貸してくれな~い?」
「手を貸すって何をだ?」
「簡単に言えば私を女王にして欲しいのよ。そうすれば国は私の思いのままでしょう? あなたにも贅沢な生活を約束するわ。悪くないでしょう?」
(とんでもない事を言い始めたぞこいつ。ジャンどうする?)
(エリーゼ、ユウタと同じ世界から来たこんな女は危険過ぎる。そもそもルイス国王の病気だってこの女の仕業かもしれない)
(あ~めんどくせぇ! こいつ殺しちゃえばいいじゃん!)
(……)
「最後に一つ聞いてもいいかい?」
「なに?」
「キミは国民の事をどう思ってるんだい?」
「国民? 考えた事もないわよ! そうねぇ。今思うのは私の財布って事かしら? 税金で暮らしているし、税金を上げれば私はもっと優雅な生活が出来るしね!」
「そうかぁ……それだけ聞ければ十分だ!」
俺ではなく、ジャンが自らダガーを抜いて、目の前にいるエリーゼの喉元を斬った。
エリーゼはもだえながら溢れ出る血を両手で押さえるが、意味はない。じきに死ぬ。死ぬのを見届けたジャンは部屋を後にした。
次の日の朝――。
部屋に武器を持った兵士達が大群で押し寄せた。
「ジャン・アウル子爵、付いてきてもらいます! おっと逃げないで下さいよ? 逃げれば家族やあなたの部下が殺される事になりますよ?」
ジャンは素直に兵士達に付いて行く。
連れて行かれた場所にはルイス国王が待っていた。
「ジャン!? 何故だ!? 何故だ!?」
声を荒げたルイス国王がジャンを責め立てた。
「これを見ろ!」
ルイス国王は、ネックレスをジャンに見せ付けてきた。そのネックレスに魔力を流し込むと映像が流れ始めた。その映像にはジャンの姿が映っていた。どこから撮ったものなのか。
なるほど……部屋の映像と目線的にエリーゼのネックレスか。
映像にはエリーゼを殺すまでが全て映っていた。言い逃れは出来ない。
「エリーゼが言っていた。ジャンは時間を止める魔法を持っていると。だから先に言っておく。逃げたりしたら家族やジャンの部下を殺す。何で殺した?」
「ルイス国王に説明しても、絶対に理解してくれませんよ」
「分かった……お前を処刑に処す!!」
ルイス国王にそう言われたジャンは、武器を取られ手足を縛られ、地下にある牢屋にぶち込まれた。
(おいおい! 処刑って処刑かよ!)
「……」
どの位の時間が経ったか――。
ガチャ。ドアが開く音がし、上から足音がしてきた。
「やあジャン。元気ですか?」
「ジャンあんた一体何やってるのよ!?」
牢の前にレオンとロベルタがやってきた。
「まさかレオン様とロベルタ様に来てもらえるとは思いませんでした」
「もう止めましょうそういう口調は。ややこしいです」
「あんた本当にエリーゼを殺したの?」
「そうだよ。僕が殺した……」
「どうしてそんな――」
「二人共時間はある? 全部きちんと話すよ!」
ジャンは、レオンとロベルタに対して全てを打ち明けていった。俺の存在も話し、エリーゼが話していた内容や今後起こる事を全て話した。
「それを信じろと?」
「すぐに信じろなんて言わない。だけどそのうち僕が話していた事が本当だと分かるよきっと」
「逃げ出しなさいよ! ジャンなら簡単に逃げ出せるでしょ!」
「逃げ出したら家族や部下が殺される。それは出来ない」
「ルイス国王に今の事は話したんですか?」
「話したとしても信じてもらえる訳ないでしょう。証拠もない! 事実は結婚する相手だった女性が、ジャン・アウルに殺されたって事だけだよ」
「ジャンはこのまま受け入れるんですか?」
「レオンとロベルタに真実を伝える事が出来た。この国の行く末は二人に任せれば問題ないでしょう?」
「何やってるのよジャンは本当に!」
「僕もあの時なんでそうしてしまったのか説明出来ない。ただ彼女の発言と考えが許せなかった。今までの苦労と戦い、死んでいった仲間達の事を嘲笑われた気がして、気付いた時には殺していた」
「処刑は明日だそうです」
「レオン行くわよ! 時間がないわ!」
「ロベルタどうするつもりなんですか?」
「何でもいいからやめさせるのよ! 行くわよ!」
「ちょ、ちょっと待って下さい」
二人は地下から出ていき、ジャンだけになった。
「ごめんユウタ。僕のせいでこんな事に」
(あぁ? 別にいいよそんな事。殺せって言ったのは俺だしな!)
「そういえば今までユウタとゆっくり話した事なかったよね? 色々聞かせて欲しいな」
(なんだよ急に! 俺は何も話す事なんてないぜ?)
「別に何でもいいさ――そうだ。もっとユウタがいた世界の事を聞かせてよ!」
(え? まあいいけど)
俺はジャンに地球の話を聞かせた。どんな世界だったのか。どんな物に溢れていたのか。十二歳までの記憶しかないから簡単な事しか覚えてなかったが、それでもジャンは楽しそうに話を聞いていた。
「それで――」
ガチャと開き、兵士達がズラズラと現れた。
「ジャン子爵、時間です!」
「……」
ジャンは立ち上がり、歩き出す。
(クックック。クックック)
(クックック。クックック)
「ユウタどうしたんだ?」
(いや別に! 前の世界で死んだ時とあまりにも似ているから笑っちまっただけ)
「そうなんだ……」
(も~もたろうさん。ももたろうさん。お腰につけたきびだんご、ひとつ私にくださいな)
「前から気になっていたけど、その歌は一体何?」
(誰もが聞いた事がある歌だよ。ただ俺の一番古い記憶……泣いている俺の横で、いつもこの歌を歌ってくれていたからよく覚えてるんだ。歌うと何故か落ち着くんだよ)
「そうなんだ……」
(も~もたろうさん。ももたろうさん。お腰につけたきびだんご、ひとつ私にくださいな)
「も~もたろうさん。ももたろうさん。お腰につけたきびだんご、ひとつ私にくださいな」
(や~りましょう。やりましょう。これから鬼の征伐に、ついていくならやりましょう)
「や~りましょう。やりましょう。これから鬼の征伐に、ついていくならやりましょう」
(い~きましょう。いきましょう。あなたについてどこまでも、家来になっていきましょう)
「い~きましょう。いきましょう。あなたについてどこまでも、家来になっていきましょう」
(そ~りゃ進め。そりゃ進め。一度に攻めて攻めやぶり、つぶしてしまえ鬼ヶ島)
「そ~りゃ進め。そりゃ進め。一度に攻めて攻めやぶり、つぶしてしまえ鬼ヶ島」
(お~もしろい。おもしろい。残らず鬼を攻めふせて、ぶんどりものをエンヤラヤ)
「お~もしろい。おもしろい。残らず鬼を攻めふせて、ぶんどりものをエンヤラヤ」
(バーンバンザイ。バンバンザイ。おともの犬や猿キジは、いさんでくるまをエンヤラヤ)
「バーンバンザイ。バンバンザイ。おともの犬や猿キジは、いさんでくるまをエンヤラヤ」
城内を歩かされ、人気のない場所へない場所へと連れて行かれる。
歌い終わると目の前にギロチンの処刑台が。
ジャンの周りには兵士と、レオンとロベルタ、それとルイス国王が見に来ていた。
これだけ最後見に来てくれる人間が居るだけで十分だろ?
身体を押し付けられて、首を嵌められた。
(まだ逃げられるぞ? いいのか?)
「いい。僕一人の命でこの国と国民。部下や仲間達、それに家族も助かるなら安いものだよ」
(あ~あ。この世界でも人生の終わりはこんな感じなのかよ~)
「悪いねユウタ」
(まあいいさ。俺とジャンは一心同体なんだろ!?)
「ハハハ。そうだね一心同体だよ」
「やれ!!」
「それとありがとうユウ――」
END
あとがき
最後まで見ていただきありがとうございます。
この作品に関しては、漫画で言うところの打ち切りのような形を取らせてもらいました。自分自身の実力の無さに歯がゆさがありますが、次の作品を創っていきたいと思っています。
近々新作を載せていますので、興味があれば是非ご覧になって下さい。
「久しぶりじゃの! まさか本当に来るとは思わなかったぞい!」
初めて会った時の事を正確に覚えている訳じゃないけど、その時よりも明らかに痩せている。そして具合が悪そうに時々咳をするベルナーレ。顔色も悪い。
「思ったよりも早く到着出来て良かったと思っています」
「そうかそうか。宴会の支度をせい! 宴をしようぞい!」
すぐに食事と酒が運ばれ、盛大な宴会を催してくれた。最高の食事に最高の酒を振る舞ってくれた。
帝王ベルナーレも一緒になって踊り狂う程酔って楽しだ。宴会は朝まで続いた。
最後まで酒に飲まれる事なく生き残って居たのは、ジャンにレオン。ロベルタとバルナ侯爵。アウグスト辺境伯にルイス国王と帝王ベルナーレ。
「さてと、最後の話をしようぞい! そのまま聞いてくれ」
先程まで酔っ払って踊っていた人とは思えない神妙な面持ちとトーンで語りだした。
「朕は約束通り国を明け渡そうと思うておる。朕がここで戦争してもいつかは負ける。その位分かっておるぞい。ただ……朕が明け渡すと決めても反対する馬鹿共がいる。そいつらを始末して欲しい。もし説得出来ても、後々は国の不利益に繋がる連中だぞい。今のうちに後顧の憂いは取り除いておいた方がいいぞい!」
「その始末して欲しいという人物は、一体誰なのでしょうか?」
ルイス国王が帝王ベルナーレに問う。
「朕の子供達だ。朕の子供はどうしようもない奴らしか生まれてこなかった……だから始末して欲しい。ルイス国王が望む国創りには絶対に必要ない人物達だぞい」
(自分の子供を侵略してきた国の奴らに殺させるのか? ベルナーレって何考えているのか全く分からないな!)
「本当に宜しいんですか?」
「ああ、頼むぞい!」
「分かりました。お任せ下さい! ジャン!」
「はっ」
「ジャンに任せていいか?」
「お任せ下さい」
重要な暗殺を任された。
帝王ベルナーレから子供達の居場所と特徴、護衛の数など細かい事を教えてもらう。それだけ情報を貰えれば楽勝。むしろ居場所さえ分かれば問題ない。
話が終わると、宴会はお開きになった。
早速その日の夜に暗殺をしに行く。
子供は全部で四人。男三人に女が一人。
男の三人達は、もれなく女と酒に溺れていた。沢山の女を侍らせ、酒を呑んで騒ぎ倒していた。俺が言うのも何だが、ろくでもない人間ってだけは分かる。国を任せられる逸材ではない。
さっさと三人を殺した後、ただ一人の女が住む場所へと向かう。
部屋を覗くと小さな男の子達が、裸でズラっと並べられて動けないように縛られていた。思うように動けない男の子達は、芋虫のようにクネクネと身体をうねらせている。
一体何をしようとしているのか?
一人だけ立っている女が、ムチの様なもので男の子の身体を叩く。
「ぎゃああああああああ」
悲鳴と共に、血が吹き出す。
ムチで一回叩いただけで、血が吹き出すか?
俺は思ったその疑問は、すぐに分かった。
しなるムチにカミソリの刃のような物が数え切れないほど付いていた。ムチを構える度にキラリと光る。
叩かれた男の子は悲鳴を上げ、ムチで叩く女は高笑いを上げていた。悲鳴と笑い声が木霊する。
そんな様子を見て、俺は時を止めた。
縛られていた男の子達の縄を開放し、女の首を斬ってその場を後にする。全ての暗殺を終えた俺は、そのままの足でルイス国王に報告した。
再びベルナーレの元を訪れたルイス国王とジャン達は、暗殺を完了した事を伝えると、ルイス国王はベルナーレからトドル帝国の全てを譲り受けた。
そう、つまりは長い戦いが終わった。ルイス国王が望んで手に入れた世界が実現したのだ。全員が意気揚々とロア王国に凱旋した。
国に戻ったジャン達に待っていたのは、英雄が帰って来たかのような国民からの祝福と喝采だった。
その日、国を上げての大宴会が始まり、ルイス国王が国民に向けて挨拶をした時だった。
「これから私が創る国に、上も下もない世界を創造する! 貴族と身分は無くなっていくだろう! ついでに私の発表はもう一つある。私は平民出身であるこのエリーゼと結婚する!」
ルイス国王は、エリーゼとの結婚発表を大々的に行った。
(おいおい、ルイス国王マジかよ! あいつと結婚するのかよ!)
「ルイス……」
ジャンは特に何も言わなかったが、俺はエリーゼの事は好きじゃない。むしろ嫌いだ。
あいつはまだ何かを隠している事があるように感じていた。
国民の熱気が冷めず、夜になっても騒いでいる中で、とある部屋を訪れていた。
「よお。お前がエリーゼだな! ちゃんと会うのは初めてだよな?」
「どちら様ですか?」
「そんな言葉使わなくていい。お前転生者なんだろ? 地球、日本人だろ?」
「へぇ~。私以外にも転生者が、それにジャン・アウルが転生者だとは思わなかった。だから物語が全然違う方向にいっていたのね」
「よく分からんが、お前はこの世界の何を知っているんだ?」
「何を? 全てを知っていると言ってもいいわ!」
「全てだって? 訳がわからねぇ!」
「まあそう思うわよね普通!」
エリーゼは椅子に座ると足を組んで話し始めた。
「この世界はね、私がハマっていたゲームの世界なのよ。転生して来た時は、ただ似ているだけかと思ったけど、世界観も出てくる人の名前も、行われていく戦も全ては私がやっていたゲーム通りだったの。だからゲームの世界だと確信したのよ」
ゲームの世界? 何言っているんだこいつ? でも確かに魔法の場所も秘密の通路もこいつだけは知っていた。
(ユウタ? エリーゼが何でも知っていると言うなら、聞いて欲しい事がある)
(んっ!? どんな事だ?)
(それは、――――)
「なあ、聞いていいか?」
「なに?」
「ロア王国は……ルイス国王は今後どうなっていくんだ? それとお前は今後どうするつもりなんだ?」
「教えてあげるわ。統一した後、ルイス国王は精神疾患によってどんどん妄想癖と幻覚、幻聴。その症状によって被害妄想が酷くなって部下達を殺しまくるようになっていく。『こいつらが私の暗殺、国の転覆を考えている』とか言ってね」
「この世界に精神病って概念がないから聖魔法よる治療を行うけど勿論効果はない。どんどん酷くなるルイス国王の暴走を止めるのがレオンとロベルタなのよ」
「ちょっと待てよ! ルイス国王は貴族を無くそうとしてるだろ? 法律を作ろうとも考えてる。そんな勝手に部下を殺すなんてなんて出来ないだろ?」
「戦争を終えたばかりで世界は安定していない。だから先に安定させる事を優先したのよ。ルイスはまだ若いし、優秀なレオンとロベルタも同い年だから時間はまだあるから。徐々に意識を変えていこうってね。だから国王として権力も権限もまだあるのよ」
「なるほどな……それで結局どうなるんだ?」
「内戦が起こるわ。そこで活躍して内戦を収めたレオンとロベルタが国を動かすようになり、レオンとロベルタは結婚。ルイス国王の意志を受け継いで法国家を創るようになって、貴族や王族もなくなって民主的な国になっていく。レオンとロベルタが創った国は三百年続いたとさ。その後はどうなったかは分からない」
「ルイス国王は最後どうなるんだ?」
「自殺するわ……レオンとロベルタの献身的な治療も虚しくね」
「そこまで知っていて、お前は何を目指しているんだ?」
「贅沢な暮らしをしながら人生を全うしたいだけ。あなたに会えた事は幸運だわ! 転生者がいるとは思えなかったからね。良かったら手を貸してくれな~い?」
「手を貸すって何をだ?」
「簡単に言えば私を女王にして欲しいのよ。そうすれば国は私の思いのままでしょう? あなたにも贅沢な生活を約束するわ。悪くないでしょう?」
(とんでもない事を言い始めたぞこいつ。ジャンどうする?)
(エリーゼ、ユウタと同じ世界から来たこんな女は危険過ぎる。そもそもルイス国王の病気だってこの女の仕業かもしれない)
(あ~めんどくせぇ! こいつ殺しちゃえばいいじゃん!)
(……)
「最後に一つ聞いてもいいかい?」
「なに?」
「キミは国民の事をどう思ってるんだい?」
「国民? 考えた事もないわよ! そうねぇ。今思うのは私の財布って事かしら? 税金で暮らしているし、税金を上げれば私はもっと優雅な生活が出来るしね!」
「そうかぁ……それだけ聞ければ十分だ!」
俺ではなく、ジャンが自らダガーを抜いて、目の前にいるエリーゼの喉元を斬った。
エリーゼはもだえながら溢れ出る血を両手で押さえるが、意味はない。じきに死ぬ。死ぬのを見届けたジャンは部屋を後にした。
次の日の朝――。
部屋に武器を持った兵士達が大群で押し寄せた。
「ジャン・アウル子爵、付いてきてもらいます! おっと逃げないで下さいよ? 逃げれば家族やあなたの部下が殺される事になりますよ?」
ジャンは素直に兵士達に付いて行く。
連れて行かれた場所にはルイス国王が待っていた。
「ジャン!? 何故だ!? 何故だ!?」
声を荒げたルイス国王がジャンを責め立てた。
「これを見ろ!」
ルイス国王は、ネックレスをジャンに見せ付けてきた。そのネックレスに魔力を流し込むと映像が流れ始めた。その映像にはジャンの姿が映っていた。どこから撮ったものなのか。
なるほど……部屋の映像と目線的にエリーゼのネックレスか。
映像にはエリーゼを殺すまでが全て映っていた。言い逃れは出来ない。
「エリーゼが言っていた。ジャンは時間を止める魔法を持っていると。だから先に言っておく。逃げたりしたら家族やジャンの部下を殺す。何で殺した?」
「ルイス国王に説明しても、絶対に理解してくれませんよ」
「分かった……お前を処刑に処す!!」
ルイス国王にそう言われたジャンは、武器を取られ手足を縛られ、地下にある牢屋にぶち込まれた。
(おいおい! 処刑って処刑かよ!)
「……」
どの位の時間が経ったか――。
ガチャ。ドアが開く音がし、上から足音がしてきた。
「やあジャン。元気ですか?」
「ジャンあんた一体何やってるのよ!?」
牢の前にレオンとロベルタがやってきた。
「まさかレオン様とロベルタ様に来てもらえるとは思いませんでした」
「もう止めましょうそういう口調は。ややこしいです」
「あんた本当にエリーゼを殺したの?」
「そうだよ。僕が殺した……」
「どうしてそんな――」
「二人共時間はある? 全部きちんと話すよ!」
ジャンは、レオンとロベルタに対して全てを打ち明けていった。俺の存在も話し、エリーゼが話していた内容や今後起こる事を全て話した。
「それを信じろと?」
「すぐに信じろなんて言わない。だけどそのうち僕が話していた事が本当だと分かるよきっと」
「逃げ出しなさいよ! ジャンなら簡単に逃げ出せるでしょ!」
「逃げ出したら家族や部下が殺される。それは出来ない」
「ルイス国王に今の事は話したんですか?」
「話したとしても信じてもらえる訳ないでしょう。証拠もない! 事実は結婚する相手だった女性が、ジャン・アウルに殺されたって事だけだよ」
「ジャンはこのまま受け入れるんですか?」
「レオンとロベルタに真実を伝える事が出来た。この国の行く末は二人に任せれば問題ないでしょう?」
「何やってるのよジャンは本当に!」
「僕もあの時なんでそうしてしまったのか説明出来ない。ただ彼女の発言と考えが許せなかった。今までの苦労と戦い、死んでいった仲間達の事を嘲笑われた気がして、気付いた時には殺していた」
「処刑は明日だそうです」
「レオン行くわよ! 時間がないわ!」
「ロベルタどうするつもりなんですか?」
「何でもいいからやめさせるのよ! 行くわよ!」
「ちょ、ちょっと待って下さい」
二人は地下から出ていき、ジャンだけになった。
「ごめんユウタ。僕のせいでこんな事に」
(あぁ? 別にいいよそんな事。殺せって言ったのは俺だしな!)
「そういえば今までユウタとゆっくり話した事なかったよね? 色々聞かせて欲しいな」
(なんだよ急に! 俺は何も話す事なんてないぜ?)
「別に何でもいいさ――そうだ。もっとユウタがいた世界の事を聞かせてよ!」
(え? まあいいけど)
俺はジャンに地球の話を聞かせた。どんな世界だったのか。どんな物に溢れていたのか。十二歳までの記憶しかないから簡単な事しか覚えてなかったが、それでもジャンは楽しそうに話を聞いていた。
「それで――」
ガチャと開き、兵士達がズラズラと現れた。
「ジャン子爵、時間です!」
「……」
ジャンは立ち上がり、歩き出す。
(クックック。クックック)
(クックック。クックック)
「ユウタどうしたんだ?」
(いや別に! 前の世界で死んだ時とあまりにも似ているから笑っちまっただけ)
「そうなんだ……」
(も~もたろうさん。ももたろうさん。お腰につけたきびだんご、ひとつ私にくださいな)
「前から気になっていたけど、その歌は一体何?」
(誰もが聞いた事がある歌だよ。ただ俺の一番古い記憶……泣いている俺の横で、いつもこの歌を歌ってくれていたからよく覚えてるんだ。歌うと何故か落ち着くんだよ)
「そうなんだ……」
(も~もたろうさん。ももたろうさん。お腰につけたきびだんご、ひとつ私にくださいな)
「も~もたろうさん。ももたろうさん。お腰につけたきびだんご、ひとつ私にくださいな」
(や~りましょう。やりましょう。これから鬼の征伐に、ついていくならやりましょう)
「や~りましょう。やりましょう。これから鬼の征伐に、ついていくならやりましょう」
(い~きましょう。いきましょう。あなたについてどこまでも、家来になっていきましょう)
「い~きましょう。いきましょう。あなたについてどこまでも、家来になっていきましょう」
(そ~りゃ進め。そりゃ進め。一度に攻めて攻めやぶり、つぶしてしまえ鬼ヶ島)
「そ~りゃ進め。そりゃ進め。一度に攻めて攻めやぶり、つぶしてしまえ鬼ヶ島」
(お~もしろい。おもしろい。残らず鬼を攻めふせて、ぶんどりものをエンヤラヤ)
「お~もしろい。おもしろい。残らず鬼を攻めふせて、ぶんどりものをエンヤラヤ」
(バーンバンザイ。バンバンザイ。おともの犬や猿キジは、いさんでくるまをエンヤラヤ)
「バーンバンザイ。バンバンザイ。おともの犬や猿キジは、いさんでくるまをエンヤラヤ」
城内を歩かされ、人気のない場所へない場所へと連れて行かれる。
歌い終わると目の前にギロチンの処刑台が。
ジャンの周りには兵士と、レオンとロベルタ、それとルイス国王が見に来ていた。
これだけ最後見に来てくれる人間が居るだけで十分だろ?
身体を押し付けられて、首を嵌められた。
(まだ逃げられるぞ? いいのか?)
「いい。僕一人の命でこの国と国民。部下や仲間達、それに家族も助かるなら安いものだよ」
(あ~あ。この世界でも人生の終わりはこんな感じなのかよ~)
「悪いねユウタ」
(まあいいさ。俺とジャンは一心同体なんだろ!?)
「ハハハ。そうだね一心同体だよ」
「やれ!!」
「それとありがとうユウ――」
END
あとがき
最後まで見ていただきありがとうございます。
この作品に関しては、漫画で言うところの打ち切りのような形を取らせてもらいました。自分自身の実力の無さに歯がゆさがありますが、次の作品を創っていきたいと思っています。
近々新作を載せていますので、興味があれば是非ご覧になって下さい。
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