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第三章

避ける事が出来ない戦い

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 ――次の日。

 「さーてとそれじゃあ行きますか」
 全軍を並べ、士気の高い兵士達は、今にもアズーラ城へ攻勢に動き出しそうな雰囲気だ。

 「オラオラー! 声だせー!」

 「「「おおおおおおおおおお」」」
 「もっと!! もっと!!」

 「「「おおおおおおおおおお」」」

 「もっとだ!! もっと!!」
 「「「おおおおおおおおおお」」」

 「いい感じだな」

 「テディー! 頼むぞー!」
 「アイアイサー!」

 「ニョッキニョッキニョッキ! ニョッキニョッキニョッキ!」
 相変わらず意味の分からないダンスで、ゴーレムを三体生み出す。
 そのゴーレム達は、アズーラ城に向かって歩き出す。

 アズーラ城と俺達の軍との距離が、丁度中間ぐらいになった時、ゴーレムに異変が起きる。

 ドッカーン! ドッカーン! ドッカーン!
 ゴーレムが次の一歩。
 歩みを進めた瞬間、足元から大きな爆発が起こった。

 ドッドッドッドッドッドッドッドッドッ!
 アズーラ城から銃撃音が響き渡り、テディが生み出したゴーレムが破壊されていく。

 ドゴーン!
 城門前に待機されていた戦車と思われる物体が、砲撃した。

 「ドクター! 大変だじょー! オイラのゴーレムがあっという間に破壊されてるじょ!」
 地雷で足元が崩れ、明らかに銃器と思える攻撃と砲撃によって、胴体が破壊され崩れていく。
 その光景を間近で見ていたロア王国軍の雄叫びが、消えた。

 「ジャン様……あれは一体何ですか?」
 「あれはとんでもねぇ攻撃だぜ? 旦那」

 「とんでもねぇのは確かだな。もうちょっと確かめてくるわ」
 俺は馬から降りて、一人でアズーラ城へと歩みを進めていく。

 地面の死体を踏みつけ、前へと進む。
 無造作に倒れている死体の先頭へと辿り着く。恐らくこの先からデッドラインだろう。

 「主様! 危ないです!」
 「死ぬぞリリア! 来んな! 下がれ! 黙って見てろ!」

 俺は集中してデッドラインを越えていく。
 二歩進んだ瞬間、アズーラ城の屋上からキラリと、何かが光った。

 俺は、敵からの攻撃だと瞬時に察知して避ける。
 凄まじい破裂音と共に、俺の居た後ろの地面に何かがぶつかり、砂埃《すなぼこり》が舞った。
 同じようにアズーラ城のあちこちから同じような光が。
 
 すぐさま後ろへと戻る。

 俺の居た場所から、砂埃が舞う。
 やはりどう考えても現代兵器だ。

 しかし、何故テンダール魔法国が?
 ファルテラ王国の技術だろうに……。

 戦争映画に出てくるような兵器。
 地雷、機関銃、戦車にスナイパー。
 ここまで来ると、敵の兵士はきっと、銃を持っているだろう。

 なるほど、なるほど……そりゃあやられる訳だよ!

 (ユウタは、一連の攻撃で何か感じ取ったの?)
 「ああ、これは俺が居た世界の技術だよ。何でテンダール魔法国が持っているのか知らねぇけどな……」

 (それは……『科学』ってやつだよね。ユウタから見てこの戦い、どう思う?)
 「普通に戦ったら多分勝てないだろ。どれだけの技術があるのか知らないが、今見ただけも凄かっただろ? ただの歩兵軍と魔法軍位の差があるんじゃないのか?」

 「武術や魔法でどうにかなるレベルじゃない。戻るぞ」
 
 全軍に撤退の命令を下し、今日の戦いを終わらせた。

 隊長達とルーク、ゲルテ伯爵も呼んで軍議を開く。
 「さっきの攻撃見てたよね? 皆はどう思った?」

 「「「……」」」
 皆が一様に、口を閉ざした。
 ゴーレムが未知の攻撃によって、簡単に倒されたのを見たからか、表情が暗い。

 「ドクター! ドクター! オイラはどうだった? 凄い?」
 「凄かったぞテディ」

 「わーいわーい!」
 「ジャン君も見たでしょ今日の攻撃! 初めて見たよ! 
ありえないよぉ! 仲間……援軍が来るまで待った方がいいって。僕らだけで戦えないよ~! あああああああああああ!」
 
 「ルークに聞きたいんだが、魔法国に間者は送り込んでいるのか? 少しでも情報が欲しい」
 「何度も試みてはいるんですが、誰一人、帰って来ませんでした」

 「警戒心は、かなり強いみたいだね」
 「ジャン様、今後、どう戦うつもりなんでしょうか?」

 「まず皆に伝えておく事がある。今日の魔法国の攻撃は魔法ではないという事だ」
 「「「!?!?!?」」」

 「では主様! 一体何なのですか?」
 「『科学』と呼ばれる技術だよ。剣とか弓矢のような物と一緒で、誰にでも使える代物。効果と攻撃力は見た通り凄まじい。それに――」
 ジャンは、相手が持つ武器の可能性全てを皆に伝えた。

 「おいおい。それ本気で言ってるのか旦那」
 「本気だよ」
 「いやぁぁぁぁぁぁぁ! 僕達死んじゃうよぉぉぉぉぉぉぉ!」

 「主様。なんでそんな技術が、魔法国にあるんですか? 魔法ではないんですよね?」
 「これは憶測だけど、同盟を結んだんだと思う。もしくは技術提供、交換という感じでね。『科学』はフォルテラ王国が発展させてきた技術なんだ。だけど魔法には疎い。魔法国は魔法には詳しい、けれど間近で『科学』を見せられたら誰でも興味を持つに違いない。二つの国に友好関係がある事は、まず間違いない」

 「エルガルド。軍の食料、後どれ位もつ?」

 「三十日。節約して四十五日って所だドクター」
 「ルーク達は?」
 「同じ位かと……」

 「他で戦っている場所が、その日数で終わるとは想定しづらい。援軍が来るまで待つという戦略は取れない」

 「つまり、食料が続く日数以内でアズーラ城を落とし、食料を掻っ攫《かっさら》うつもりなんだな旦那」
 「そういう事だシャオ」
 
 (おいおい! 何かいい作戦あんのか?)
 (作戦なんて呼べるものじゃない。ユウタの影響かな……人が嫌がる事っていうのは、時に戦争で役に立つって事を知ったよ)

 「これから私達がやる事を伝える。決して戦略なんて呼べるものじゃない。だがアウル軍は、そもそもどんな軍だ? 綺麗な戦い方をするような奴らか? 違うだろ! ドロドロになりながら、地べたを這いずり回っても絶対に勝つ! 綺麗事なんていらない! そんな軍だろ!」

 「アウル軍だけが出来る方法で乗り越えるぞ!!」
 アウル軍にしか不可能な、醜くて臭い戦いが始まる。
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