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第三章

聖都と聖女

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 「それは……急ですねテレジア様」
 「次の機会でも構いませんよ?」

 (ユウタどうする? 行く、行ける?)
 (めんどくせぇー!)

 (よし行けるね!)
 (何でだよ!)

 「ルイス国王、明日に間に合わせます。お任せ下さい」
 「明日だぞ? それにもう夜だ! 次の機会でもいいんじゃないか?」

 「いえ、一日でも早く終わらせ、次に向かっていく事が大事かと!」
 「分かった。ジャンに全て任せよう。テレジア様もそれでよろしいですか?」
 「はい。それでしたらこちらをお持ち下さい」

 「これは?」
 「地図とディムス教のネックレスです。聖都の門番に見せたらすぐに中へと通してくれます」

 テレジアから詳細の地図とネックレスを受け取る。
 ミリア教総本山の場所や、アダムスが訪れるであろうお気に入りのレストランを教わった。
 
 地図だけでは分からない事は山程ある。
 出来るだけ早く聖都に到着し、確認したい。

 (ジャン、さっさと出発しよう。時間がない……)
 (分かった)

 「私はすぐに出発します! アウル軍の指揮はジェイドに、説明をお願いします!」
 「ああ、分かった。頼んだぞジャン」
 「お願い致します」
 テレジアは立ち上がり、正しくこちらを向いて深々と頭を下げた。

 バサッ――。
 「遅かったじゃない? 何だって?」
 「私の成果次第って感じですかね」

 「どういう意味?」
 眉を顰めたロベルタをよそに、ジャンは馬に乗る。

 「ルイス国王からきっと説明があります。私は出発しますから後は頼みます」
 「ちょ――。一体どこに――」
 背中でロベルタが何か言っているのが聞こえたが、ジャンは馬を走らせた。

 ただ単に聖都に向かえば良い訳ではない。
 見つからないように、かつ迅速に向かって行かなければ行けなかった。

 夜の道を、休憩せずに走り抜けていく。
 

 夜が終わり、東から昇ってきた朝日が目に染みる。
 身体が疲れているせいもあるからか、日差しがやけに眩しく感じる。

 目を細めながら全力で駆けていくと、視界に大きな城壁が見えてきた。
 目的地である聖都にやっと到着した。

 テレジアからもらったネックレスを門番に見せると、すんなりと中へ通してもらえた。
 ロア王国の王都とはまた違った雰囲気の都市。

 宗教を信仰する人が多い国だからか、テレジアのような格好の人が街で多く見かけ、外で店の準備している人々の首には、ジャンが今、首から下げているようなネックレスを皆がぶら下げていた。

 街の中央には噴水と、街の人々の憩いの場があり、朝早くから沢山の人が集まっていた。
 何をしているのか見ていると、神の言葉なのか聖女の言葉なのか分からないが、何か言葉を発しながら祈っていた。

 そして問題のミリア教総本山へとやってきた。

 「それにしても下品な建物だなぁ」
 (声がデカイってユウタ。周りには信者も居るんだから気をつけなよ)

 「なんで宗教の建物ってのは、見栄えとか気にすんのかな? 神の言葉とやらに従うことが重要なんだろ? そう言えばロア王国って宗教とかあんのか?」
 (あるよ! ミリア聖国みたいに沢山の人が信仰しているとかではないけどね)

 「こっちに来てから見かけた事無いな。ってふと感じてな」
 (ロア王国は人々の暮らしが豊か! だからだと思う。自然災害のせいで畑が不作だったりすると、神の怒りだとか言ってそういった所から信仰とか生まれたりするけど、そんな事を起きても対処出来たり支援出来る程豊かな国だからあまり根付かないんだと思う)

 「ふ~ん。難しいからよく分からん! 次はテレジアが言っていたレストランに行ってみるか」
 教会から近くにある大きな通りに構えた、高級感のある建物がそのレストランだった。
 俺は向かいの建物の屋根に登り、目的のレストランを観察していた。
 出入り口や造り、侵入経路などを確認する為に。

 「よっと! まだ時間があると思うし、腹ごしらえしとくか」
 初めての街で、その国にしかない料理を俺は探す。

 地平線にあった太陽も、今では大空の丁度てっぺん。昼時だった。
 通りには出店が並んで賑わっていた。

 食べ物の匂いに俺は誘われる。
 「おっちゃん! その串焼き一つちょうだい!」
 「はいよ! って兄ちゃんテレジア様の使いじゃねえか。支払いはいらねぇ! 一本持っていきな」 

 「なんで!?」
 「これこれ!」

 そういって屋台のおっちゃんがネックレスを見せてきた。
 テレジアからもらったネックレスとほぼ同じデザインのネックレス。
 俺が身につけている物の方が、少し豪華な装飾が施されていた。
 
 「おお……ありがとうなおっちゃん!」
 「テレジア様に宜しく伝えといてくれ」
 
 食べ歩きをしていると次の匂いに誘われる。
 そこでも同じような事が起きて、お金を支払わずに料理をもらった。

 (あの女、思っているより慕われているんだな)
 (そうだね)

 そんな女が、殺して欲しい頼んだアダムス聖女。
 どんな人物なのか、興味が湧いてきた。

 「それじゃあ行くとしますか!」
 総本山の教会近くにある建物の影から人が出て来るのを待つ。

 太陽が傾き西の彼方へと沈みかけ、赤みがかった空と深い蒼が入り混じった空。
 重苦しい足音と共に、派手な格好をした軍団が教会に現れた。

 ガシャンガシャン! ガシャンガシャン!
 一体何人居るんだ?
 八十? いや、百は超えているか……。

 全員が武器を持ち、甲冑を装備している。

 三メートルの高さはあるだろう教会のドアが開く。
 教会の中から現れたのは、とんでもない人間だった。

 (おいおい。あれ……人間? 人間だよな?)
 (あれがアダムスなのかな?)

 白い修道服に身を包み、綺麗なガラスの杖を持った人間が、椅子に座ったまま数人に担がれている。
 歩くことなく馬車の中へと入り、馬車が出発した。

 あれがアダムス……か?
 余裕で百キロを超えた巨体。いや、二百キロ近いんじゃないか?
 首があるのかないのか分からない程脂肪がまとわりつき、聖女とは思えない風貌だった。

 ただ首元にはキラキラ光る高級そうなネックレスと、何本かの指にも同じように光る指輪を嵌めていた。

 (さっきの……聖女って事は、さっきの女って事だよな? 豚の間違いじゃないのか?)
 (この際、男か女はどうでもいい。ただ……あんな姿なのは堕落の極み。聖女と言葉に似つかわしくない姿だよ)
 (だな。とにかく追うぞ)

 アダムスの馬車が向かった先は、やはり昼に見に行ったレストランだった。
 馬車が止まると再び椅子が用意され、アダムスは一歩も歩かずに周りの兵士達に神輿のように担がれてレストランの中へと入っていった。

 続々と兵士達もレストランの中へと入っていく。
 そして外にも兵士が残り、周りを警戒しているようだ。

 まさに厳重。ただ飯を食いに行くだけで仰々し過ぎる。
 ま、こんな状態だとしても俺には関係ないが!

 今日観察して見つけた、全く出入りがなかった入口のドアを壊して俺は侵入した。
 中は物置きのような、使われなくなった物が置かれ、開けた拍子にホコリが舞う部屋だった。

 部屋の中にある、この建物の廊下に通じているであろうドアに近づいて耳を澄ませてみると、先程の兵士達が歩く音が聞こえた。
 警備しているのか。何をしているのか、詳しくは分からない。

 (ジャンどう思う? 殺っちゃってもいいかな?)
 (あの人数が居るなら見つからないなんて不可能だし、騒ぎにしないならいいんじゃない)
 (面倒いから殺っちゃうわ!)
 仮面を被り、戦闘モードに入る。

 ガチャ! バンッ!
 盛大にドアを開ける。廊下に居る兵士全員が俺を見た。

 俺はダガーを抜き取り、近くにいる兵士から一撃で仕留めていく。
 仲間を呼ぶ前、声を上げる前に瞬殺していく。

 手前から兵士を殺していくと二階へと続き、そこにも兵士達が。
 そのままどんどん殺す。殺す。殺す。
 
 楽しい!!

 次々に倒していくと、長く続く廊下の一番奥にあるドアに到着した。
 この先か?

 (中から特殊な魔力を感じる。気を付けて!)

 俺はドアを開けた。
 「やっと料理が来たわね! 早くしなさい――」
 「あなたはだ~れ!?」

 明らかに刺客が部屋に入ってきたのに微動だにしない。いや、出来ないのか。
 「お前がアダムスか?」

 「そうよ」
 その返事を聞いた瞬間、即座に飛びかかって首元を狙う。

 ガキーーン!!
 見えないバリアのようなモノに、俺のダガーは止められた。
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