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第三章
決断と説得
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「はじめまして、私はジャンと言います」
「私を……殺しに来たのですか?」
「何故……そう思うんですか?」
ユラユラと動く、ろうそくの灯りだけが照らす薄暗い天幕内。
椅子に座った女性が、ジャンの方に体と顔を向けた。
限りなく白に近い修道服に身を包み、胸の前に祈りのポーズをしている。
暗くても分かる肌の白さと、肩付近で揃えられた金色の髪。
目を閉じたまま、こっちを向いている。
「あなたの声と魔力は、今まで感じた事がありません。今戦っているロア王国の者ではないかと、そう思っただけです」
「叫んだりして、味方を呼ばないんですね」
「まだ殺そうとは思っていない魔力を感じたので。私と話してみたい。いえ、話があるといった感じでしょうか?」
(なんだコイツ……人の心が読めるのか?)
「失礼ですけど、目が見えないのですか?」
「ええ、生まれた時からずっと」
「あなたに話があってここまで来ました」
「伺いましょう。良かったら椅子に座って下さい」
「いえ、結構です」
「分かりました……それで? お話というのは?」
「戦いをやめて、ロア王国に国を明け渡してくれませんか?」
突拍子もない発言に、テレジアは目を見開いた。
その眼球は真っ白。黒目の部分がなかった。
「はい分かりました。明け渡しますと言うとでも? それに私にそんな権限はありません」
「思っていません。しかしあなたが……テレジア様がそう望めば出来るはずです」
「私達の国王であるルイス国王は、ミリア聖国の国民を無下にはしません。むしろ手厚く迎え入れてくれるはずです。国民には今より良い生活を送らせる事が出来ますよ?」
「この戦争、仮にミリア聖国が我々ロア王国に勝ったとしても、ミリア聖国はきっとボロボロでしょう。国力が残るはずがありません! その先に待っているのは破滅でしょう。戦争によって人材が居なくなり、今抱えている食料難がさらに深刻になり、餓死や病気で次々と人が死んでいき、弱った所を他国に攻められてきっと滅亡します」
「我々が勝ったとしても、今住んでいるミリア聖国民は、大勢死にます。被害から復興させるまでに時間と労力、人手とお金。食料も必要ですから」
「……だから戦うのを諦めて国を明け渡せと言うのですか?」
「そういうのではありません。ルイス国王は平和、全世界の平和を望んでいます! 他国を侵略して自国の民だけが甘い汁を吸うという考えで戦争を仕掛けている訳ではありません」
「言葉だけなら素晴らしい考えですね。慈悲深い」
「国を明け渡してくれたなら、ロア王国が五年間の完全無税と食料の提供。宗教、信仰の自由。ミリア教聖女の命の安全。そしてテレジア様の命の安全を保証すると言ったらどうでしょうか?」
テレジアの眉がピクッと反応した。
「……私の命はどうなっても構いません。国民の命と生活が最優先です!」
ジャンはふふっと笑った。
「もし少しでもこの話に興味を持ったのでしたら、明日の夜、この場所に信頼出来る人だけを連れて訪れて下さい」
ジャンはそう言って紙を渡した。
まるで周りを見えているかのように自然に受け取るテレジア。
「私が訪れなかったら場合、どうなりますか?」
「その時は、残念ながら血みどろの戦争になるでしょう!」
とても爽やかに言葉を発するジャン。
俺の影響なのか、成長したからなのか、以前よりも残酷な発言などに抵抗が無くなっていた。
それは俺自身も同じ。
ジャンやその周りの影響で、地球に居た頃より精神が安定しているのが自分でも分かる。
それでも人を殺す快感、楽しさは変わらない。
「それでは明日、またお会いしましょう」
誰にも見つからないように外に出て、森の中へと姿を消していく。
次の日の夜、再びミリア聖国の本陣近くまで足を運んだ。
一人ではなく、数人を連れて。
ミリア聖国本陣近くにある深い森の中心地に、今は居る。
誰も居ない、誰も来ない場所で天幕を張り、ジャン達はテレジアが来るのを待っていた。
七日間の間に確認したから問題はない。
「ありがとうジャン! 君のおかげで安全にここまで来れたよ! それよりも私の居ない所で勝手に色々と話を進めてくれたみたいだね。戦場の最前線にまで国王を呼び寄せるなんて国王使いが荒いぞ」
ルイスは笑いながら、茶化すように言った。
「申し訳ありませんルイス国王。それでも説得する価値があると」
「分かっているさジャン。後は私に任せてくれ!」
「本当に来るかしら?」
「来ますよ」
暗い暗い森の奥の方からボワッとした灯りが三つ、チラチラと見え隠れしている。
その灯りは、こっちに向かって来ているようだった。
姿が見える位置まで来ると、テレジア本人と同じ格好をした女性が二人。
「はじめましテレジア様。私はロア王国国王、フレデリック・ロア・ルイスです」
テレジアと共に来た二人の女性は、ルイスと聞いてビクッと体が反応し、驚きの表情を見せた。
「国王自らが、わざわざこの戦場に足を運んだのですか?」
「ええ勿論です。テレジア様と言葉を交わしたいと思い、馳せ参じました」
「では、言葉を交わしましょうか」
「こちらにどうぞ」
ルイスは紳士にテレジアをリードし、天幕の中へと二人で入っていく。
中の声が聞こえないように、天幕に魔法が張られた。
天幕の外は、暗い森の中。
風が吹くと木々のさざめきだけが、耳に入って来る。
周りを警戒しても感じるのは、自然と動物の気配があるだけ。
ふと空を見ると、見事な満月が地上を照らしていた。
「長いわね……」
腕を組みながら仁王像のように立っているロベルタがボソッと呟いた。
バサッ――
天幕の入口が開き、ルイス国王がひょこっと顔を出す。
「ジャン。中に来てくれ」
「はい」
中へ入るとテーブルに向かい合って二人が座っている。
重苦しい雰囲気ではなく、どことなく穏やかな空気だった。
「ジャンを中に呼んだのは、テレジア様がジャンに頼みたい事があるそうなんだ」
「私で良ければ出来る限りの事はしましょう。どんな事でしょうか?」
「頼み……というのは、ミリア教の聖女アダムス様を殺して下さい!!」
「私を……殺しに来たのですか?」
「何故……そう思うんですか?」
ユラユラと動く、ろうそくの灯りだけが照らす薄暗い天幕内。
椅子に座った女性が、ジャンの方に体と顔を向けた。
限りなく白に近い修道服に身を包み、胸の前に祈りのポーズをしている。
暗くても分かる肌の白さと、肩付近で揃えられた金色の髪。
目を閉じたまま、こっちを向いている。
「あなたの声と魔力は、今まで感じた事がありません。今戦っているロア王国の者ではないかと、そう思っただけです」
「叫んだりして、味方を呼ばないんですね」
「まだ殺そうとは思っていない魔力を感じたので。私と話してみたい。いえ、話があるといった感じでしょうか?」
(なんだコイツ……人の心が読めるのか?)
「失礼ですけど、目が見えないのですか?」
「ええ、生まれた時からずっと」
「あなたに話があってここまで来ました」
「伺いましょう。良かったら椅子に座って下さい」
「いえ、結構です」
「分かりました……それで? お話というのは?」
「戦いをやめて、ロア王国に国を明け渡してくれませんか?」
突拍子もない発言に、テレジアは目を見開いた。
その眼球は真っ白。黒目の部分がなかった。
「はい分かりました。明け渡しますと言うとでも? それに私にそんな権限はありません」
「思っていません。しかしあなたが……テレジア様がそう望めば出来るはずです」
「私達の国王であるルイス国王は、ミリア聖国の国民を無下にはしません。むしろ手厚く迎え入れてくれるはずです。国民には今より良い生活を送らせる事が出来ますよ?」
「この戦争、仮にミリア聖国が我々ロア王国に勝ったとしても、ミリア聖国はきっとボロボロでしょう。国力が残るはずがありません! その先に待っているのは破滅でしょう。戦争によって人材が居なくなり、今抱えている食料難がさらに深刻になり、餓死や病気で次々と人が死んでいき、弱った所を他国に攻められてきっと滅亡します」
「我々が勝ったとしても、今住んでいるミリア聖国民は、大勢死にます。被害から復興させるまでに時間と労力、人手とお金。食料も必要ですから」
「……だから戦うのを諦めて国を明け渡せと言うのですか?」
「そういうのではありません。ルイス国王は平和、全世界の平和を望んでいます! 他国を侵略して自国の民だけが甘い汁を吸うという考えで戦争を仕掛けている訳ではありません」
「言葉だけなら素晴らしい考えですね。慈悲深い」
「国を明け渡してくれたなら、ロア王国が五年間の完全無税と食料の提供。宗教、信仰の自由。ミリア教聖女の命の安全。そしてテレジア様の命の安全を保証すると言ったらどうでしょうか?」
テレジアの眉がピクッと反応した。
「……私の命はどうなっても構いません。国民の命と生活が最優先です!」
ジャンはふふっと笑った。
「もし少しでもこの話に興味を持ったのでしたら、明日の夜、この場所に信頼出来る人だけを連れて訪れて下さい」
ジャンはそう言って紙を渡した。
まるで周りを見えているかのように自然に受け取るテレジア。
「私が訪れなかったら場合、どうなりますか?」
「その時は、残念ながら血みどろの戦争になるでしょう!」
とても爽やかに言葉を発するジャン。
俺の影響なのか、成長したからなのか、以前よりも残酷な発言などに抵抗が無くなっていた。
それは俺自身も同じ。
ジャンやその周りの影響で、地球に居た頃より精神が安定しているのが自分でも分かる。
それでも人を殺す快感、楽しさは変わらない。
「それでは明日、またお会いしましょう」
誰にも見つからないように外に出て、森の中へと姿を消していく。
次の日の夜、再びミリア聖国の本陣近くまで足を運んだ。
一人ではなく、数人を連れて。
ミリア聖国本陣近くにある深い森の中心地に、今は居る。
誰も居ない、誰も来ない場所で天幕を張り、ジャン達はテレジアが来るのを待っていた。
七日間の間に確認したから問題はない。
「ありがとうジャン! 君のおかげで安全にここまで来れたよ! それよりも私の居ない所で勝手に色々と話を進めてくれたみたいだね。戦場の最前線にまで国王を呼び寄せるなんて国王使いが荒いぞ」
ルイスは笑いながら、茶化すように言った。
「申し訳ありませんルイス国王。それでも説得する価値があると」
「分かっているさジャン。後は私に任せてくれ!」
「本当に来るかしら?」
「来ますよ」
暗い暗い森の奥の方からボワッとした灯りが三つ、チラチラと見え隠れしている。
その灯りは、こっちに向かって来ているようだった。
姿が見える位置まで来ると、テレジア本人と同じ格好をした女性が二人。
「はじめましテレジア様。私はロア王国国王、フレデリック・ロア・ルイスです」
テレジアと共に来た二人の女性は、ルイスと聞いてビクッと体が反応し、驚きの表情を見せた。
「国王自らが、わざわざこの戦場に足を運んだのですか?」
「ええ勿論です。テレジア様と言葉を交わしたいと思い、馳せ参じました」
「では、言葉を交わしましょうか」
「こちらにどうぞ」
ルイスは紳士にテレジアをリードし、天幕の中へと二人で入っていく。
中の声が聞こえないように、天幕に魔法が張られた。
天幕の外は、暗い森の中。
風が吹くと木々のさざめきだけが、耳に入って来る。
周りを警戒しても感じるのは、自然と動物の気配があるだけ。
ふと空を見ると、見事な満月が地上を照らしていた。
「長いわね……」
腕を組みながら仁王像のように立っているロベルタがボソッと呟いた。
バサッ――
天幕の入口が開き、ルイス国王がひょこっと顔を出す。
「ジャン。中に来てくれ」
「はい」
中へ入るとテーブルに向かい合って二人が座っている。
重苦しい雰囲気ではなく、どことなく穏やかな空気だった。
「ジャンを中に呼んだのは、テレジア様がジャンに頼みたい事があるそうなんだ」
「私で良ければ出来る限りの事はしましょう。どんな事でしょうか?」
「頼み……というのは、ミリア教の聖女アダムス様を殺して下さい!!」
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