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第三章

思い通りにはいかない

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 「おらーー! お前らーー! 俺に付いて来いー!」
 刀を掲げながらゲルテ伯爵が、声を張り上げた。

 長い髪の毛は後ろで縛り、侍のような風貌に。
 それよりも性格が……別人のようになっている。

 「お前らおせーぞ! 突っ込むぞー!」
 「「「おおおおおお」」」

 「一体あいつは、どうしちまったんだ?」
 (分からない……)

 「へぇ~。珍しいな。妖刀の使い手とは」
 隣で並走しているシャオがボソッと呟いた。

 「妖刀って? どういう事だ?」

 「旦那知らないのか? 簡単に言えば呪われている刀って事だよ! 鍛冶職人なのか、使った使い手なのかは分からないが、思い入れが強すぎる故に生まれてしまう呪いの武器がある。それがあの刀だって事だよ。無理に使おうとすると武器を持った人間が死んだり、人格が変わってしまったり、無意識に周りの人間を殺してしまうような呪われている武器さ。その代わりとんでもない力が手に入るとも言われている」

 「なんでそんな事をシャオが知ってるんだ?」
 「昔、そういった武器の力で強くなろうとした時期があってちょっと詳しいんだ。あれは特に思い入れが強そうだ……よく扱えるなゲルテ伯爵」
 シャオはそう言って、瓢箪に入った酒を飲む。

 先頭を走っているゲルテ伯爵の刀から、邪悪な魔力が流れ始めたのが視えた。
 
 「殺す殺す殺す殺す殺す殺す! 殺す殺す殺す殺す殺す殺す!」
 そう言葉を紡ぐ度にゲルテ伯爵の周りに、黒い球体のような物が大量に出現していく。
 
 黒い球体が徐々に剣の形へと変形していく。
 その数は、何百、何千、いや万に届く程だ。

 「おいおい! 何だありゃ!」
 
 「ぶっころーす!!」
 ゲルテ伯爵が刀の切っ先を敵軍に向けると、黒い刀が凄いスピードで敵に向かっていく。

 その影のような刀がミリア聖国兵に突き刺さり、足に、腹に、顔に、身体に突き刺さり、血が吹き出す。

 「とつげきーー!」
 「「「おおおおおお」」」
 たった一振りで、ミリア聖国の敵が何千人と地面に倒れた。

 「なるほど……なるほど」
 ドッカーーーン!

 反対側では爆発音が鳴り響き、同時に熱風がこっちまで届いた。
 「俺達も続くぞ!」

 一人で飛び込んだゲルテ伯爵に続いて敵軍に突っ込み、乱戦状態となっていく。
 そして俺達は、敵を次々に殲滅していった。

 しばらくして周りを見渡すと、倒れているのはほとんどミリア聖国の兵だった。
 「なんだよ! 今回の戦いは余裕そうだな!」
 (だといいけどね……)

 晴れた空から太陽の光……いや違う。
 白い光が平原に降り注ぎ始め、天上からラッパのような音が聞こえる。
 
 なんの音だ?
 音が鳴り止むと、山の大きさ程の巨大な天使? 女神? 羽の生えた女性が空から姿を現す。

 「一体……何が起こってんだよ……」
 得体の知れない何かは、両手を口元に近づけて、息を吹きかけた。

 心地よい風と羽が平原を包み込んだ。
 すると、今まで倒れていたミリア聖国軍兵士が起き上がった。

 傷が戻り、手が生えた兵士達は、再び武器を持ち、俺達に向かってきた。

 「生き返るなんて聞いてないぞ旦那!」
 「俺だって知らねぇーよ!」
 息を吹き返した兵士達に包囲され、身動きが取れない状態に。

 (クソが! このままだとまずいな……)
 (一度退却した方がいいユウタ)

 「ボエボエボ~~~!」
 レオンから退却の合図は鳴った。

 「退却しろーー!!」
 「退却だーー!!」
 ゲルテ伯爵軍も含めて全力で退却を開始。
 しかし、そんな簡単にミリア聖国の兵士が道を譲ってくれる事はない。
 俺達の前に立ちはだかる。

 息を吹き返した兵士達で前後左右囲まれている。
 いくら余裕と言っても、こんな状態ではやられる。

 ひゅ~。
 暖かい季節にかかわらず、冬かと思う程の冷たい風が吹いた。

 快晴だった空が、この戦地である平原の上だけ曇ってきた。
 肌寒い……いや凍える程寒い。

 「えっ!? 雪!?」
 ここ一帯に雪がチラチラと降り始めた。

 「逃げろーー!」
 ゲルテ伯爵が突然大きな声を出して、一人で敵の中へと飛び込み退却していく。

 ガシャン!!!!
 目の前に巨大な氷の塊が降ってきた。

 ミリア聖国の兵が、一メートル、いや――。
 二メートルはある巨大な氷のつららが突き刺さって死んでいた。

 空からつららの雨が。
 「全員逃げろーーー! クソが! レオンの魔法だろ! 味方にも向けるんじゃねえよ!」
 全速力で俺達は逃げ出していく。

 「にっげろー! にっげろー!」
 テディは自分のゴーレムの手の平に乗っかり、味方を守りながら逃げていた。

 「主様ー! 何かあれば私を使って逃げて下さい!」
 「あ!? うるせーリリア! そんな事言ってる余裕があれば部下を守れ!」

 お互いに戦っている場合ではなくなり、ミリア聖国軍も退却していく。
 俺達は、どうにか生き延びる事が出来た。

 「ジェイドとシャオはいるか??」
 「ここに!」
 「はいよー」

 「ちょっと大将の所へ行ってくる……何かあればジェイドが指揮をとれ。シャオはジェイドを手伝ってやれ」
 「かしこまりました」
 「げっ!? なんで俺なんだよ!」

 俺はレオンの居る本陣へと向かう。
 本陣に到着すると、ロベルタはレオンの胸ぐらを掴み、大声を出していた。

 「二人共何やってるんだよ!」
 「無事でしたかジャン」

 「何のほほんとしてるのよ! レオンのせいで大勢が殺されかけたのよ!」
 「あぁ~。僕は生きていた……生きていた。死にたくない死にたくない」

 ロベルタの腕を俺は掴んだ。
 「落ち着けロベルタ。レオンが味方を殺そうと思って魔法を放つかよ! どう考えてもレオンのおかげで逃げて帰ってこれただろ!?」

 「だとしても――」
 「レオンが魔法を放ってくれなかったら今頃悲惨だったろうよ。下手したら全滅だってありえた……ロベルタだって分かってるだろ」

 「ミリア聖国にあんな魔法があるなら、なんで最初に言ってくれなかったのよ」
 「知っていたら言っていましたよ……そんな情報ありませんでしたし、聞いた事も無い。あんな魔法初めて見ました」

 ロベルタが掴んでいた手を離す。

 「全く知らなかったって事か! それは向こうも同じだろうけどな! だから攻め込んで来ないんだろ!?」
 「その通りです。それにミリア聖国は攻めよりも守りが強い国ですから、自分達の戦い方をよく分かっています」

 「これから俺達は、どう動いていけば? また突撃するのか?」
 「いえ、今日はこのまま静観しましょう! 無理に攻めなければ相手も無理に攻めて来ないでしょう。その間に作戦を考えておきます」

 「頼んだよ。俺は持ち場に戻るよ」
 その場を後にし、自軍の居る場所へと戻る。
 (ジャンは何かいい作戦思いついたか?)

 (ミリア聖国について知らない事が多すぎる……難しいよ)
 (あの奇妙な回復魔法みたいなやつは本当に厄介だよ。倒してもあの魔法で復活するなら、一万の兵で二万にも三万にもなり得るって事だからな)

 俺は話していた通り、兵を動かさず静観した。
 ミリア聖国軍もビタッと軍の動きが止まり、睨み合いが続き、そのまま今日が終わった。

 夜になり食事を済ませると、ジャンは軍議へと向かった。
 「失礼します」

 「待ってましたよジャン。こっちに来て下さい! 全員揃いましたね。では始めます」

 ロベルタがすぐに言葉を発した。
 「私達が勝てる作戦、思いついたんでしょうね?」

 「さあ、どうですかね?」
 「さあって……ちょっとレオン!?」

 「僕は戦争なんて反対なんだ。もうやめよう……戻ろうよ! 今日生きていたのは奇跡なんだ」
 
 「とっても面白そうな作戦なら思いつきました」
 そう言ってレオンは、ニヤリと笑った。 
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