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第三章

困っている人達を助けると言うこと

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 「ここが……その場所です」
 案内された建物の中へと入る。

 「いてぇ~よ、いてぇ~よ~」
 「うぅ~~」
 その場所の床には、沢山の人が寝そべっていた。

 多少怪我している者、腕が無い者、足が無い者、目をやられている者、命があと寸前の者まで様々な人が横になっていた。

 「これは酷い……」
 ルイス国王ポツリと呟く。

 「全員が助からない事は分かっております。薬でも難しいでしょう。ですが出来るだけ処置して頂けないでしょうか?」

 「村長の期待に出来るだけ応えましょう。ジャン頼んだよ」
 「チッ! 分かったよ」
 「これから見たことは出来たら秘密にして頂きたい」
 「それは……どういう……」

 俺は重症な人間から回復魔法を使い始めた。
 みるみる内に怪我が治っていく。

 「順番に怪我人連れてきて!」
 腕も生え、目が戻り、足が元通りになっていく。

 「おおお! 俺の足が!」
 「俺の腕が!!」
 「おおおおおおお!」

 うめき声だったのが、元気な雄叫びへと変貌していく。

 「これは……奇跡か……」

 「キッツーー!!」
 (これで最後だから頑張って!)
 
 「終わったーー!」
 俺はそのまま倒れ込むように座り込む。
 額から流れるような汗をかき、息が上がっていた。

 「「「「ありがとうございます!!!」」」」
 怪我を治された人達全員が、俺に向かって膝をついて感謝の言葉を述べた。
 「村長に頼まれた依頼で、報酬を貰っている。感謝される事はない! それに……」
 ほとんど治す事が出来たが、助ける事が出来なかった人間もいた。

 「本当にありがとうございます……」
 村長のモンペールが、俺の手を取って涙を流す。

 「ここにいる皆さんに約束して欲しい事があります。今使った魔法については口外しないと約束して下さい。我々は穏便に旅を続けていきたいので、余計な事に巻き込まれたくありません。ですので今見た事は忘れて下さい」
 レオンが、その場に全員にそう発言した。

 「「「はい!」」」
 
 「ところで村長、一つ提案があるんですが、どうですか?」
 「一体なんでしょうか?」

 「今の魔法のように、私達は商人ですが戦う術を持ち合わせています。困っているという動物退治引き受けたいと思っているのですが」

 「それは願ってもいない事です。ですが、この村から差し出せるものなどもうありません」
 「ミリア聖国の地図とか持っていませんか?」

 「ありますが……」
 「その地図を譲ってもらえませんか? 報酬は地図でいかがでしょうか?」

 「そんなものでいいのですか?」
 「ええ、私達にとっては貴重な情報なんです」

 「分かりました。お譲りしましょう」
 「では交渉成立という事で!」
 ルイス国王が話をまとめ、討伐する事になった。

 三人は一旦宿屋に戻る。
 「ルイス。目立つような行動は避けるべきかと」
 「地図が貰えるんだしいいだろ!?」

 「出来るだけ何も起きず、起こさずでトドル帝国を目指すべきかと」
 「レオンが言いたい事は分かる。正しいよ……でも! これは国王だからとか王族だからとかではなく、一人の人間として困っている人を放っておく事が出来なかった」

 「はぁ……ルイス。行く先々で困っている人が居たら助けるのか!? そんな事をしていたらいつになっても到着しない。それにそのせいで私達が怪我とか負ってしまう可能性だってある! 分かっているのか!?」

 (ルイス国王ってこんな奴だったんだな)
 (昔から人一倍優しい人だったのは確かだよ)

 「それでも私が手の届く範囲であるなら、今後も助けたいと思っている!」
 「はぁ~。仕方ありませんねぇ」
 ルイス国王がニカッと笑う。

 「ただし、ジャンが本当に危ないと判断した時だけは諦めて」
 「分かったよ」

 「えっ!? 僕の判断で!?」
 「私はルイスの戦闘能力は高く評価しているんでね。誰よりも実戦経験も豊富だし」
 「そういう事だな」

 「……任せて」
 「よし! そろそろ日が暮れる頃だ。出発するぞ」
 動物達を討伐しに、村のすぐ側にある森へと向かった三人。

 「奇妙な程、静かだな……」
 森は風によって揺れる木々と葉の音しかしない。

 「ゴォォォォアアァァァァァ!!」
 右方向から突然熊が現れて、ジャン達に襲いかかった。

 パキパキパキパキパキッ!
 レオンが魔法を使い、熊を凍り付かせた。

 同時に左からはイノシシが数頭。正面からは野犬が飛び出してきた。
 ルイス国王と俺が対処した。

 (今、魔力の気配が……)
 (魔力???)
 ジャンが地面に手を付いて集中する。

 「何やっているんだ?」
 「ごめん、ちょっと集中させて」
 数十秒経過して立ち上がる。

 (場所が分かった)
 (場所が分かったってどういう事だ?)
 (これには首謀者が居るって事だよ。つまりは魔法を使って動物達を操っている奴らが居る)
 (へぇ~。分かった案内してくれ!)

 「二人共付いて来い! 犯人が分かったぞ」
 「おい! 犯人ってどういう――。ちょっと待てよジャン」
 俺は森の中をジャンの指示に従って駆けていく。
 向かっている間に、二人に説明をした。

 「村が襲われていたのは、人間の仕業だったという事なのか?」
 「そういう事! その犯人がこの中に居るみたいだ」
 到着した場所は、奥深くまで続いていそうな洞窟だった。

 「この中に居るって言うのか?」
 「そうだね。じゃあ早速行こうか!」
 「ちょっと待てって――」
 レオンに腕を引かれた。

 「何も準備もしないで相手のアジトに突入するんですか? 危ないだろ?」
 「大丈夫だよ。俺はこういうのには慣れてる! そんなに心配なら二人はここで待っててもいいぞ。俺が一人でやっつけて来るから」

 「一人でって……」
 「まあいいや! 俺は行くから」
 俺は二人を置いて洞窟の中へと入っていく。

 中は想像しているより暗かった。
 しかし、奥へ進んでいくと壁には松明の火がかけられ、ドアが見えてきた。

 音を立てないようにドアへ近づいていくと、ドアの向こうから声が聞こえる。

 (結構な人数が居そうだね)
 「ああ、楽しみだ!」

 俺はそっとドアを開ける。
 開けた場所に見るからに荒くれ者と言える男共が沢山居た。

 「おらーー!!」
 大声を出すと全員がこっちを向いた。

 「お前らを殺しに来た! 全員かかってこい! クックック! クックック!」
 荒くれ者達は、武器を手にして俺に向かって来た。

 「も~もたろうさん。ももたろうさん。お腰につけたきびだんご、ひとつ私にくださいな」
 「や~りましょう。やりましょう。これから鬼の征伐に、ついていくならやりましょう」
 「い~きましょう。いきましょう。あなたについてどこまでも、家来になっていきましょう」
 「そ~りゃ進め。そりゃ進め。一度に攻めて攻めやぶり、つぶしてしまえ鬼ヶ島」
 「お~もしろい。おもしろい。残らず鬼を攻めふせて、ぶんどりものをエンヤラヤ」
 「バーンバンザイ。バンバンザイ。おともの犬や猿キジは、いさんでくるまをエンヤラヤ」

 荒くれ共の首が、体の一部が宙を舞い、血しぶきが舞う。
 「クックック! あ~気持ちいい!」

 (全員殺しちゃってどうするんだよ……一人位残して聞き出して欲しかったのに)
 「完全に忘れてたよ。まあ全滅させたから問題ないだろ!」

 洞窟のさらに奥から、ポワッとした白い光が徐々にこちらに近づいて来る。
 光の正体は、黒いローブを深く被った人間だった。

 「これはお前がやったのか?」
 「ああ、その通りだ!」
 相手が魔法を使う素振りを見せたので、俺は距離を詰める。
 発動する前に相手の手首を斬り落とし、右足のアキレス腱を斬った。

 「うあぁぁぁぁぁぁぁ」
 叫び声を上げながら倒れ込み、手首を抑えた。
 ローブがひらりと崩れて顔が露わになる。

 「へぇ~。女だとは思わなかったな……悪いけど俺は女でも容赦しない!」
 その女は再び俺に魔法を放とうとしてきたので、もう片方の手首を斬り飛ばした。
 「ぐあああああああ!」

 「お前がボスか?」
 俺の質問に女は何も答えない。

 「ぎゃあああああああああ」
 太モモにダガーを差し込んだ。
 
 「まだ仲間いんのか?」
 「ぐあぁぁぁぁぁぁぁ」
 差し込んだダガーを前後にギコギコと動かすと、動かす度に女は悲鳴を上げた。

 「仲間は……もう……居ません」
 「なるほど。なるほど」

 (こいつもう殺していいよな?)
 (この人が言うように、もう仲間は居ないだろうから別に構わないとは思うけど……)

 「じゃあな!」
 俺は女の首を刎ねた。

 洞窟から出ると、レオンとルイス国王が駆け寄ってきた。
 「心配したぞジャン……大丈夫か??」
 「平気だよルイス。雑魚しか居なかったから。あとコレ!」
 
 俺は女の首を二人の前に投げた。
 「この人は??」
 「洞窟に居たボスだよ。なんの組織か聞く前に殺してしまったけどね」

 「一応村長に証拠として持っていこう」
 レオンが大きな布を取り出して女の首を包んだ。

 「ジャンお疲れ……それじゃあ村に帰ろうか」
 ルイス国王は村に向かって歩き出す。
 

 村長の元へと戻った三人は、村長に女の首を見せた。
 「こ、こやつは……」
 「村長、この人物に見覚えが?」

 「一度だけ手配書で見た盗賊の女ボスに似ているので、本人ではないかと……」
 「この女は魔法使いで、動物に魔法をかけて操り、この村を襲っていました。戦力が無くなってきた頃合いをみて、村ごと襲うつもりだったのではないかと……」

 「襲われるギリギリに、あなた方に助けられたという事だったのですね」
 「ええ、そうだと思います」
 ジャンは村長にそう説明をした。

 「盗賊の一味を皆殺しにしてきました。ですので脅威は去ったと思います」
 「それは……本当にありがとうございます!」
 村長とその周りの人達がジャン達に頭を下げる。

 「これは正当な依頼ですから頭を下げる必要なんてありませんよ」
 「それでもお礼を言わせて下さい! ありがとうございます! こちらが報酬の地図です」
 村長がテーブルの上に地図を広げた。

 ジャン達が持っている地図よりも詳細が書かれている地図だった。
 この旅を終えたとしても、今後の戦争で大いに役に立つだろう。
 
 「では報酬を頂きます」
 ルイスが地図を丸めて手に持った。

 「それでは、我々はこのまま村を出発させて頂きます」
 「もう出発されるのですか?」

 「もう日も昇りましたから」
 「分かりました! 本当にありがとうございました。この御恩と御三方を決して忘れません」
 
 三人は準備を整えると馬車に乗り、村から出発する。
 
 「「「ありがとうーーーー!!」」」
 「また来いよーー!!」
 「じゃあなーー!!」
 

 「人を助けるって悪くないだろ?」
 「まあ、そうですねルイス」
 「それは……そうだよ」

 朝早いというのに、大勢の人達に感謝されながら三人は見送られた。
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