小学6年生、同級生30人全員を殺した日本の歴史史上最凶最悪の少年殺人鬼が、異世界の12歳に乗り移り、異世界を駆ける!

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第二章

ベラトリア連合国との開戦

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 「では子爵、ここはお任せします」
 「分かりました」

 アウル軍は指示された位置に軍を配置する。
 広い平原にお互いの軍が相対した。

 「なあ、本当に一瞬で決着着くのか?」
 (辺境伯が言うからにはそうだと思うんだけどね……)

 ベラトリア連合国の全軍を目の当たりにして少し 狼狽うろたえていた。
 あまりにも兵の数が違うからだった。

 こんな状況にもかかわらず、アウグスト辺境伯は特に戦略はないと俺達に伝えていた。


 ――昨日の晩。

 「いよいよ全軍による決戦になります。ジャン子爵のおかげでこの戦における戦略の八割は達成しました。残りの二割は明日で決着が着きます。」

 「どういった作戦で明日は戦うのでしょうか?」
 一人の貴族がアウグスト辺境伯に質問を投げ掛けた。
 
 「はっきり言って作戦は特にありません!」
 「それはどういう……」

 「開戦すれば分かると思いますが、バーフェンは明日、自ら先頭を切って全軍を使って真正面からこの私を狙ってきます。十五万の大軍を使っての特攻です。私達のたかだか四万の兵では、まず止められません」

 「それはつまり…… 由々ゆゆしき事態なのではないでしょうか?」
 「視点を変えれば相手がする行動が分かっているという事です。対処出来ます」
 アウグスト辺境伯は気持ち悪い笑顔を浮かべた。

 「皆さん明日はよろしくお願いいたします!」


 「それにしてもいい天気だなぁ~」
 「余裕だなドクター!」

 「お前らも一回空見てみ?」
 俺が言うと皆が空を見上げた。

 「確かにいい天気ですね」
 「だろ? こんな時はゆっくりしたいもんだよ」

 「では主様、さっさと終わらせてダラムへ戻りましょう!」
 「そうだな。よしやるか」
 般若のお面を被り、開戦の合図を待つ。

 気持ちいい風が吹いた途端、ベラトリア連合国が全軍を使って凄い勢いで攻めてきた。
 地響きと、馬が鳴らす足音、そして人間達の雄叫びが聞こえてくる。

 「おいおい、本当に特攻してきたぞ!」
 槍のようにただ真っ直ぐ、辺境伯のいる場所へと向かっていた。

 「マジかよ! あいつら頭おかしいだろ! 辺境伯の所に行くぞ!」
 俺は兵をすぐに動かした。

 (全軍ぶっ込んで真っ直ぐ攻めてくるなんて俺でも馬鹿だと分かるぜ)
 (バーフェンはそれで攻めきれると思ってるんだよ)

 連合国軍が突撃している先頭には、白い馬に跨がり白い甲冑を纏った男が馬を走らせていた。

 辺境伯軍はその突撃を止めようとするが、一切止める事は出来ずに人間が紙屑のように飛ばされていた。

 「あの野郎! 何が対処出来るだ! 全く出来てねぇーじゃねえかよ!」
 連合国軍はどんどん奥へと進んでいく。

 辺境伯の元へ辿り着くと、連合国軍の兵士と辺境伯の兵士が円を作っていた。
 中央には大きなスペースがあり、アウグスト辺境伯と向かい合っているのは先頭を走っていた白い馬と甲冑を纏っていた男だった。

 「ガッハッハッハ!」
 その男が大きな声で笑う。

 「アウグストよ! ワシと一騎討ちをしようじゃないか! 総大将同士の一騎討ちだ! ワクワクするだろう!? 勝った方がこの戦の勝者だ! 簡単な話だろう!」

 「ケッケッケ!」
 呼応するように辺境伯が笑う。
 「相変わらずおかしな人ですねぇ~。バーフェン将軍」

 近くで見るバーフェン将軍は、まさに筋肉ダルマ!
 丸太のような腕の太さでグランドの土を ならす時に使うトンボの如き大きな槍斧をブンブンと振り回していた。

 「ヴァリックが先日やられた。どうせお前の仕業だろ? 死んじまったもんは仕方ねー。だけどこの瞬間に仇を討たせてもらう」
 大きな槍斧を掲げると、太陽の光を受け、刃が神々しく光る。

 「一騎討ちしようって、断る事が出来るんですか?」
 「出来る訳ないだろ!? それに今から逃げる事も出来ないだろ!」
 「将軍の仰る通りです」

 「一騎討ちって……辺境伯大丈夫なのか? 強いのか?」
 (そんな話は聞いた事はないよ)

 辺境伯は、か細い腕で腰にある柄に手を伸ばした。
 腰からこれまた細い やいば、レイピアのような剣を取り出した。
 
 「普通に一騎討ち受けるつもりなのか!?」
 (何か考えてがあるのかもしれない……)

 「ガッハッハ! なんじゃそれは! それでワシとやろうとしておるのか!?」
 そう言って兜を取り、上半身裸になるバーフェン。
 「へし折ってやる! 行くぞ覚悟しろ!」

 「「「「おっ! おっ! バーフェン!」」」」
 「「「「おっ! おっ! バーフェン」」」」
 連合国の兵士達が足踏みで音を鳴らし、声を張り上げる。

 その声に応えるようにバーフェンも雄叫びを上げる
 「おおおおおおおおおお!!」
 
 馬の前足を高々と上げ、バーフェンは勢いよく走り出す。
 辺境伯も同時に走り出した。

 円の中央で重なり合い激突する。
 バーフェンは片手で槍斧を薙ぎ払う。薙ぎ払った時に起こった風がこちらの方まで届く。

 俺はその瞬間を見逃さなかった。
 アウグスト辺境伯は、上体をぬるり反らして薙ぎ払いを避けた。
 避けた後、すぐさま体を捻り、その勢いを使ってバーフェンの手首辺りに剣を突き刺した。
 「なんじゃその攻撃は! 全く効かんぞ!」

 「「「「おっ! おっ! バーフェン!」」」」
 「「「「おっ! おっ! バーフェン!」」」」

 アウグスト辺境伯が真剣な顔つきになった。出会ってから初めて見る顔だった。
 「おりゃーーー!」

 バーフェンた再び馬を走らせ、向かって行く。
 突然、馬の足が取られてバーフェンが馬から落ちた。

 「今何が起きたんだ??」
 (辺境伯の魔法だよ。さっき馬がもつれた地面が 泥濘ぬかるんでる)

 すぐにバーフェンは立ち上がるが、辺境伯はその隙に馬上から攻撃を繰り出す。
 風を切るかのような鋭い突きをバーフェンに繰り出していく。
 
 シュピンシュピン!
 バーフェンの両肩と両力こぶの辺り四ヵ所に素早く刺す。

 「おいおい! まじかよ! やれるんじゃねぇ~か!?」
 (そんな簡単じゃないでしょ)

 「なんじゃいアウグスト! お主少しは出来るのか!」
 馬に乗るバーフェン。

 そして再び攻防が始まった。
 バーフェンは辺境伯の攻撃を避けようともしない。
 何度も攻撃を食らってはいるが血すら出ていなかった。

 それに比べてバーフェンが繰り出す攻撃は明らかに人を粉砕させる重さの攻撃だ。
 一度でも食らえば辺境伯は死んでしまうだろう。
 
 「「「「おっ! おっ! バーフェン!」」」」
 「「「「おっ! おっ! バーフェン!」」」」

 アウグスト辺境伯は個人では戦えないと完全に思っていた。部下を動かし、頭を使って戦うタイプの人間だと……。
 しかしそれは誤りだった。

 「くそ野郎が、辺境伯めちゃくちゃ強いじゃないかよ! 隠してやがったな」
 (強い……けどバーフェンにダメージがあるようには見えない。それに余程自分の腕にあるから一騎討ちで突っ込んできたんだ。このまま終わるわけがないよ)
 
 「「「「おっ! おっ! バーフェン!」」」」
 「「「「おっ! おっ! バーフェン!」」」」
 
 「「「「アウグスト! アウグスト!」」」」
 「「「「アウグスト! アウグスト!」」」」
 
 二人の攻防に煽られ、周りも盛り上がっていく。
 知らない俺達からしたらアウグスト辺境伯が押しているようには見える。

 辺境伯の方が先に、疲れが見えてきた。
 
 「うおぉぉぉぉぉ!」
 バーフェンが高く槍斧を振りかざす。

 しかし、突然金縛りにかかったかのようにビタッとバーフェンが止まる。
 槍斧を後ろに落とし、馬から崩れ落ちた。

 一体何が起きているのか全く分からない。
 その瞬間、周りの兵士達が一静まり返る。

 アウグスト辺境伯が馬からジャンプし、倒れて動けなくなっているバーフェンに向けて両手を使い、力一杯剣を突き刺そうとする。


 ガギンッ!!
 けたたましい金属音が聞こえた。
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