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第二章

全ては突然に

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 誕生会から三ヶ月後、現国王の訃報がここ田舎のダラムにまで届いた。
 第一王子であるルイスが後を継ぎ、国王になった。

 世間では悲しみよりも、新たな新王ルイス誕生の喜びの方が大きいようだった。
 頭も良ければ顔も良い、民に慈しみまで持つ稀代の名君が誕生したと喜んでいる。

 ルイス国王は俺と同じ十五歳。
 一国を背負っていると思うと凄いプレッシャーだろうなと思う。
 それでも尚、大陸の統一を目指すって言うのだから、俺よりも頭がおかしいとさえ思えた。

 (それにしても暇だなぁ~。ルイスの野郎! 戦するんじゃないのかよ)
 「そんな簡単にポンポン戦争出来る訳ないだろ? お金も食料も人だって必要になるんだ」

 (分かるっちゃあ分かるけどよ~)
 
 ドタドタドタッ!
 廊下を走る音が、どんどん大きくこちらに向かってくる。

 バタンッ!
 一言もなく扉を勢いよく開けられると、そこにはベイルの姿が。

 「どうした!?」
 「ジャン様……大変です。緊急事態です!」
 汗を滲ませ、息を切らしながらベイルが言葉を発す。

 「何があった!?」
 ジャンが声を上げて椅子から立ち上がる。

 「ヘレナ様が突然訪問しに来て、今玄関の前にいらっしゃってます」
 「はっ!? ヘレナってあのヘレナか??」

 「はい……」
 「なぜ急に!?」
 「突然の事でして、私にも何が……」

 「分かった。とにかく出迎えよう」
 ジャンはすぐに部屋を出て、玄関ホールへと向かう。

 階段を降りると、人が何人も集まっていた。
 中心には一際目立つ女性の姿があった。
 
 「お待たせしました」
 ジャンは言う。
 その一際目立つ女性が、ドレスの裾を持ってお辞儀をする。

 「突然の訪問お許し下さいジャン子爵。お久しぶりです」
 「…………」

 (久しぶり? 誰だこいつ)
 「分かりませんか? 私はヘレナ・クリスタです」

 「!?!?」
 (嘘だ!!)

 驚愕だった。目の前に女性は一ミリもあの豚娘に似ていなかった。
 いや、似てる似ていないのレベルではない。別人だ!

 「双子の妹とかですか?」
 「ハハハ。ジャン様御冗談を! 私はあの豚娘のヘレナです」

 「あ、いや、いえ、以前とはあまりのも姿が違うもので」
 「ヘレナお嬢様は、努力を重ねたのですジャン様」
 隣にいた女性の執事がそう答える。

 (努力でこうなるものか!?)
 「と、とりあえず部屋に案内しますよ? ベイル!」
 「かしこまりました」

 部屋に入るとソファに座る。
 ベイルが紅茶を用意してくれ口をつける。

 「あぁ~。美味しいですわね」
 ジャンはカップを机に置くとヘレナに尋ねた。

 「本日はどういったご用件で来たんでしょうか?」
 紅茶を飲む姿さえ絵になっているヘレナに驚愕する。

 カップを置き、前かがみになって崩れた茶色い髪を耳にかけるヘレナ。
 「あの日、ジャン様に色々と言われて落ち込みましたが、だんだんと腹が立ってきて私を奮わせてくれたました。そのおかげで私はここまで変わる事が出来ました。本日は、本気で私と婚約して頂きたいと思ってここに参りました」

 ガチャン!
 ビックリしたジャンは膝を机にぶつけた。
 ヘレナは真剣な眼差して真っ直ぐこちらを見つめている。

 ヘレナが指示を出すと執事と兵士が部屋の外に出る。
 「二人だけでお話出来たらと」

 「ベイル」
 「はい」
 ベイルとメイドが部屋から出る。

 「美貌では振り向かないジャン様に婚約してもらうにはどうしたいいのか? と私はずっと考えていました。そして一つの答えを出したのです」

 「私と結婚する事でジャン様が得られる事が大きければ結婚してもらえるのでないかと」
 「つまりはどういった事なんでしょうか?」

 「この場所、ダラムに人を沢山呼ぶことが出来る施策を考えてきたのです」
 「ここにですか!?」
 「ええ勿論です」

 俺はそんな事出来ないだろ。と単純に思った。
 ダラムはいい所ではあるが、特に目立った物はない、ただの田舎だ。
 人を呼ぶ? どうやって?

 「少し外を歩きませんか?」
 言われるがままに屋敷の外に出て、歩き始めた。

 「そういえば以前は、この辺りで疲れたとか言って私は休んでましたね」
 「そうでしたか?」
 「ええ、そうですよ」
 特に話が盛上がる訳でもないし、会話が弾んだ訳でもない。

 しばらく歩くと、ヘレナが足を止め、山々に向けて指を差した。
 「ジャン様。温泉って知っていますか?」
 「温泉……?」

 (へぇ~。この世界にも温泉とかあるのか?)
 (ユウタ知っているの?)
 (え? 知ってるよ当然だろ!)

 「ロア王国ではほぼ知られていないものですが、簡潔に言うと、あそこにある山々からお湯が取れるのです。そのお湯を溜めた風呂の事を温泉というのです。ダラムではあちこちでこの温泉を作り出す事が出来るはずなのです! これを使えば、ダラムを新たな観光地として人々が訪れるようになり、人口も増えていくと私は考えました」

 「そんな簡単に上手くと思いますか?」
 (え~何でだよ! 温泉なんて王道の観光地じゃんか)

 「確かに最初は上手くいかないかもしれません。しかし、温泉というのには怪我の治療に効いたり、女性の肌をスベスベにしたりと様々な効能があると文献に書かれていました。一度満足させる事が出来れば、きっと人伝で噂が広がり、人気が出るようになると思っています」

 「待って下さい! 話が急展開過ぎるから整理させて下さい。ヘレナ嬢はそれを私に伝えてどうして欲しいと?」

 「クリスタ家がこの事業に全面的に協力します。ダラムが一定数以上の人口の増加、温泉事業で収入が増加し、活気づいた時には、私と婚約して頂けないでしょうか?」
 ヘレナが丁寧にお辞儀をする。

 (どうするんだ? この女本気だぜ!?)
 (アウル家にとってダラムにとっては良い事だよね? それにクリスタ家が協力してくれるって事はお金と人手もそんなに気にすることもないんだよね)

 (いいじゃんか!)

 「……」
 「今すぐに返事というのはやはり難しいですか? でしたらこの事業の成果をご覧になった後に返事を頂けませんか?」

 「分かりました。その時にはきちんとお答えします」
 「それだけ聞くことが出来れば私は満足です。そろそろ肌寒くなる時間です……屋敷に戻りましょうか」
 ヘレナは赤々とした夕陽をバックに屋敷へと歩き出した。

 屋敷に戻り、一緒に食事を取る。
 以前とは全く違って華麗に食事をするヘレナ。
 今日はおかわりをしなかった。

 ジャンの屋敷で一泊したヘレナ一同。
 次の日、朝早くに帰っていった。
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