小学6年生、同級生30人全員を殺した日本の歴史史上最凶最悪の少年殺人鬼が、異世界の12歳に乗り移り、異世界を駆ける!

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アウグスト辺境伯の策略

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 「二人共やめなさい。ジャン子爵は斬りかかってきませんよ。少し昂ぶっているだけでしょう?」
 ジャンは向けていたダガーを下ろす。

 「二人だけでお話出来ますか?」
 「分かりました。私の部下は外に行かせましょう! 二人だけにして下さい」
 辺境伯がそう言うと、二人は剣をしまってテントの外へと出ていった。

 「それで? 私にどんなお話ですか?」
 アウグスト辺境伯は椅子に座ると瓶に入った酒を呷った。

 「一体どこからがあなたの作戦だったんですか?」

 「はて、なんの事でしょうか?」

 「……説明はしてくれないのですか? あなたの作戦のせいで私は! いや! アウル軍は全滅しかけました」

 「それはそれは大変でしたね。私もびっくりしたのです。まさかヴァリックが子爵のいる左翼行くなど想像すら出来ませんでした。しかし、ジャン子爵は生きてここまで戻ってきたではありませんか! 本当に素晴らしい!」

 (おいジャン! 一体なんの話をしてんだ!?)
 俺は会話の内容に全くついていけなかった。

 「ちゃんと作戦を伝えてくれたなら、私達の軍はこんな事にはならなかった!」
 ジャンが珍しく感情的になって声を荒らげた。

 「ジャン子爵、この戦の総大将は私です。子爵のあなたではなく辺境伯である私です。私の作戦で戦った結果、無事に勝利を収め、相手は引き返して行きました」

 「今回の戦闘で、一万を超えるベラトリアの兵士を殲滅する事が出来ました。子爵の被害はどの位ですか?」

 「まだはっきりとは……わかりません」
 「大体でいいのです」

 「千、位じゃないかと……」
 「私達の中央と右翼の被害は、合わせて三千程です。相手は倍以上の被害です! 子爵なら分かると思いますが、今回の戦の結果はどうでしょうか?」

 「……いい結果。そう言えると思います」
 「つまりはそういう事です」

 「一つだけ答えて下さい」
 「答えられるのであれば」

 「ベラトリア連合国では私の家、アウル家はどう思われてるんですか?」
 「ロア王国にいる三傑の一つって解釈です」

 「ふぅ~」
 ジャンは深いため息を吐きながら下を向く。

 「なるほど……分かりました。私はこれで失礼します」
 ジャンはテントを出ようとする。

 「ジャン子爵。子爵のおかげで戦が楽だったのは本当です! ありがとうございました。少しだけ忠告があります。あなたは年齢に似合わず聡いです。その聡さはあまり表に出さない方が子爵の為になると思います」
 後ろから聞こえた辺境伯の発言に、ジャンは特に反応しなかった。
 ジャンはその場を後にし、自分のテントへと向かった。

 自分のテントに入ったジャンは、椅子に座ると天を仰ぐ。
 (おいジャン! 俺には訳が分からない! 何がどうなってんだよ)
 「今からジェイドに説明するから」

 「誰かいるか!?」
 「ジャン様!? どうされました?」
 テントの外から一人の兵士が。

 「ジェイド呼んできてもらえるかな?」
 「分かりました」
  兵士が駆け出して呼びに行く。


 「ジャン様ジェイドです」
 「入っていいぞ」
 「失礼します」

 「ジャン様、お顔の怪我。まだ手当てしていないんですか?」
 「ああ、忘れていた。後でやるよ。それよりも呼んだのは話があるんだ」

 「なんでしょうか?」
 血が固まり左目が開かない状態で、ジャンは説明を始めた。

 「僕が考える今回の戦の全貌をジェイドだけに話す。他の分隊長には説明しなくていい……」
 「はい……」

 「今回の戦は、僕達三傑であるアウル家を囮に使った作戦だったんだ」
 「……それはどういう??」

 「まずベラトリア連合国では、僕の家は未だにホーク家やクロウ家と同じように三傑の力を保持した家だと思われてるって事。アウグスト辺境伯は最近の僕らの活躍を聞いて、自分より立場の低い子爵であるアウル家なら援軍に来てくれると踏んだんだ。そして実際に援軍に来た」

 「アウグスト辺境伯はベラトリア連合国に情報を流したんだよ。ロア王国の三傑であるアウル家が来ると……父親は最近の不慮の事故で亡くなり、まだ十三歳の子供がこの戦争にやってくると流したんだ」

 「……」
 (……)

 俺もジェイドも、ジャンが発する言葉に耳を傾ける。

 「アウグスト辺境伯のせいであまり戦果を上げる事が出来ていないベラトリア連合国ならきっと、三傑である僕の首を狙うとアウグスト辺境伯は読んだんだよ。辺境伯の思い通りに事は進み、実際に中央に陣取ったヴァリックは動き、僕のいる場所に来た。中央がガラ空きになった事でアウグスト辺境伯は楽に戦う事が出来たって事なんだよ」

 「ちょ、ちょっと待って下さいジャン様!」
 「どうしたジェイド」
 「今話している事は、本当の事なんですか?」

 「全てが本当かどうかは分からない。本人の口から聞いたわけでもない……僕の予測もかなり入っている。だけど概ねそんなに間違っていないと思う」
 「ではアウグスト辺境伯の作戦通りになっていなかったら、辺境伯はどうするつもりだったのでしょうか?」

 「多分普通に撤退しただけだと思う。ヴァリックが危険を冒してまで追ってこないって事まで作戦の中に入っているんだと思う」

 俺はただただ人を殺したい、倒したい。その為に強けりゃそれでいい。
 そんな考えとは遥かに違う。

 ジャンの考えている事、アウグスト辺境伯の考えている事は戦争の戦略そのものだった。

 「我々が全滅したかもしれないのに……辺境伯はそんな酷い作戦を我々に伝えずに実行したって事なんですか?」

 「最近の活躍を知って、全滅はしないと踏んだんだよ。仮に全滅したとしても、落ちた三傑の一つがなくなっただけ。子爵の家が一つ潰れただけって軽い認識だよロア王国ではね! 戦には勝ったんだ。辺境伯が責められることはないだろう」

 「しかしですね……なら何故最初の軍議でそういった作戦だと伝えてくれなかったのでしょうか? 話してくれれば我々ももっと対処出来たはずです!」

 「それは僕が、アウグスト辺境伯が思っている以上に賢いと判断されたからだ。全ての作戦を伝えないって判断されたんだよ」

 「なんの為にですか?」
 「相手にバレない為にだよ!」

 「完全にアウル家が連合国の罠にハマっていると、連合国側に思わせたかったんだろう」

 (結局の所、アウグスト辺境伯が俺達をハメたって事なのか?)
 (そういう事だよ……)

 「最終的な事実として、アウグスト辺境伯の作戦が見事ハマり、ロア王国の被害よりも相手には甚大な被害を与え、ベラトリア連合国は撤退したという戦の結果だよ」

 「なんと卑劣な……」

 「卑劣。辺境伯のせいで僕は怒りで震えそうだよ! だけど……中央政府、国王様からしてみたらこの戦は大勝利。特に何も問題はないんだよ!」
 ジャンはドンッ! と机を強く叩いた。

 シーンと静まり返ったテントの中とは裏腹に、外では大きな声と笑い声が聞こえてくる。
 ジャンは立ち上がり、外へと出ると皆が笑い、楽しい声で騒いでいた。

 「ドクター! ドクター! これおいちー!」
 テディが酒の入った瓶をジャンに見せ、口をつけて飲み干していく。

 「辺境伯の兵士が大量の食べ物と酒を持ってきたんですよドクター! こいつはいい酒ですぜ」
 赤くなった顔でエルガルドが近づいてきた。
 「ヒック! ヒック! ドクターも一杯どうですか?」
 「僕はまだ成人してないからねエルガルド。遠慮していおくよ」
 
 「そんな硬いことを言わずにドクター! 誰も責めたりしやせんぜ」
 「いや、遠慮していおくよ」
 ジャンはエルガルドの誘いを断る。

 焚き火のせいで明るく、そして騒がしい陣地の中で、奥の暗闇に佇む一人の人間が。
 ジャンとジェイドは近づき、ジャンが話しかける。

 「何しているんだ?」
 「主様!? あ、いえ」

 「グロッセ達を待っているのか?」
 「はい、まあ……そろそろ帰ってきてもいい頃だと」

 「じゃあ僕も帰ってくるまで一緒に待うよ」
 「主様!? 主様は休んでください! 疲れているでしょうから……」
 
 「いや、いいんだ。ジェイドも一緒に待ってくれるだろう?」
 「分かりました。お供します」
 「ジェイド殿まで……」

 しかし、待てども待てどもグロッセが帰ってくる事はなかった。
 山の頂上から綺麗に朝日が昇り、眩しい光がジャン達を照らしていた。
 後ろの方では食べて飲み騒いだ兵士達が、そこら中の地面に寝てイビキをかいていた。
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