小学6年生、同級生30人全員を殺した日本の歴史史上最凶最悪の少年殺人鬼が、異世界の12歳に乗り移り、異世界を駆ける!

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バーリ城攻略戦

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 攻撃しろーー! すすめーー!」
 バーリ城攻略戦が始まった。

 北門には相手の兵がそこまでいないのか、激しい戦闘にはなっていない。
 いや、そもそも激しくならないようにジャンが上手く軍を動かしているのだろう。

 城の壁から矢や石などが飛んではくるが、致命傷になるような怪我した兵はまだいない。
 ジャンの指示通りに戦闘は進んでいく。

 (そういえば、魔法とか飛んで来ないよね。まだ隠してるのか?)
 「ユウタは魔法をどんなモノだと思ってるんだよ……」

 (誰でも使える超便利な奇跡みたいなモノ)
 「ハハハ。そういえばユウタの居た世界は魔法がないって言ってたね。今度魔法の事を詳しく教えてあげるよ」
 (それは一度聞いてみたかったんだよな~。頼むわ)

 「とにかく今は目の前の戦いに集中するよ! いけーーーー!!」
 攻略戦初日は、特に何か進展する事もなく終わりを迎えた。

 陣地に戻れば、俺がその日の戦いで怪我した負傷者を治療し、戦いに備えた。
 それから数日、負傷者を出さないような戦い方を続けたので、敵も味方もほとんど被害が出なかった。

 しかし反対の南門では、激しい戦闘が初日から続いているらしく、負傷者の数も相当出ているという報告を聞いた。
 ドガル子爵が無理な戦い方を強制しているせいで、無駄な負傷者が続出しているとの事だった。

 「お呼びでしょうかジャン男爵」
 「待っていました、リリア隊長」
 ジャンはドガル子爵が寝静まった頃合いを図って、リリア隊長を自分のテントに呼んだ。

 「作戦について詳しく話し合いたいと聞いてきたんですが」
 「ドガル子爵がこの戦いをどの位の期間で攻め落とすおつもりなのか? 詳しいことを聞けなかったものですから、子爵の腹心であるリリア隊長なら詳しいことが分かるかと思いまして」

 「私は30日以内に攻め落とせと命令されています」
 「30日ですか!?」
 「はい」

 (この戦い方では一生攻略出来ないのに、30日って期間は長過ぎる。それに兵糧も持つわけがない……本来ならもう撤退してもおかしくない状況なのに)
 (え!? すでにそんな状況なの!?)

 (ドガル子爵は戦についてほとんど知識も経験もないんじゃないかな。見通しが甘すぎるんだ)

 「何か画期的な戦術を、使ったりする予定はあるんですか?」
 「今の所そのような事は聞いていません」

 「リリア隊長は今の戦い方で、バーリ城を攻略できるとお考えですか?」
 「ドガル子爵が考案しているのです。きっと攻略できると信じています」
 「……」

 (全く分からない)
 (俺には何がなんだか、さっぱり分からないんだけど)

 (今までの戦果からしてリリア隊長なら無謀だと分かりきっているはずなんだ。なのにドガル子爵を庇うかのような発言をしているのが分からない)

 「リリア隊長、私の魔法の特性をご存知でしょうか?」
 「回復魔法だと聞いています」

 「そうです。出来れば今から戦いで傷ついた子爵の兵を出来るだけ治療したいと思うんですが、どうでしょうか? やらせてもらえませんか?」

 (おいおいおい! それ俺にやらせるつもりだろ?)
 (頼むよユウタ)
 (疲れるから嫌なんだよ大量に魔法使うの)

 「それは本当ですか!?」
 「勿論です。我々は共に戦う者同士ですから、出来るだけ協力したいと思います。ただ魔力にも限りがありますし、全てを治せる訳でもありませんが」
 「ぜひお願いしますジャン男爵」
 リリアは深く頭を下げた。

 共にドガル子爵の陣地へとおもむき、端の方にあるテントの中に入った。
 「ゔ~~~」
 「痛いよ~~」

 テントの中は、負傷した兵士達が雑魚寝で敷き詰められていた。

 「ここは?」
 「酷い怪我をした人達が集められている場所です。長いか短いか……死を待っている者達です」

 「治療は一切していないんですか?」
 「……ドガル子爵の指示で、ここにいる者には治療を施さなくてもいいと」

 (中々の酷いやつだな)
 (見てみてどう? ユウタ治せるかな?)
 (全員は絶対無理だぜ。それに治せるか分からないよ?)
 (それでもやってほしい)
 (分かった分かった。やるからさっさとやろうぜ)

 「怪我の症状が悪い方から案内してもらえますか? 魔法を使っていきますから」
 「お願いしますジャン男爵」
 一人の兵士の前に案内される。

 見た目はまだ若く、手と足が潰れてしまっていた。
 息が荒く、すぐにでも息絶えそうだった。

 (頼んだぞユウタ)
 「分かった分かった。おいリリア! 治したらちょっとは俺の話聞けよな!」
 「……約束しましょう」

 「じゃあいくぞ」
 魔法を使って治療を始めた。

 回復魔法が特別なのかどうかは俺には分からない。
 だけど魔法を使うのはかなり疲れる。ゴールが定められていないのに全力疾走しているかのような感覚に似ている。

 どこまで走ればいいのか治るまで分からない。それまで全力疾走しないといけない。
 精神的にも肉体的にもかなり消耗する。

 一人目の治療が終わった。
 「言っとくけど血は戻らないからな。血肉になるもの食べさせないと死ぬからな! マジで無駄にするなよ!」

 「分かっています」
 「次案内しろ!」
 次々と負傷している兵士達に回復魔法をかけて回った。

 テントの中にいる半分位の人達の治療を終えた所で、俺は力尽きた。
 (ハァハァ! もう無理! 限界!)
 (流石だよユウタ。ありがとう)
 (もう返事するのも辛い)

 「もうこの辺が限界のようですリリア隊長」
 「ジャン男爵、心からお礼を申し上げます。ありがとうございます。それでジャン男爵、私に何をして欲しいのでしょうか?」
 「場所を変えましょうか」

 違うテントに入る。中にも周りにも人の気配はない。
 「ここなら問題ありません。私に出来る事なら出来るだけ要望を聞き入れましょう」

 「リリア隊長なら分かっているでしょう? この戦いは負け戦だって」
 「……」

 「ドガル子爵の部下が、ドガル子爵を批判するような事は言えないって感じですか?」
 「察していただけると助かります」
 
 「リリア隊長、お互いに出来るだけ早くこの戦いを終わらせたいと思っているはずです。ドガル子爵だって出来るなら早くしたいはずです。それが可能になる作戦があると言ったらリリア隊長は作戦に乗ってくれますか?」

 リリア隊長が周りをキョロキョロしてから小声で話し出した。
 「ドガル子爵は傲慢な人です。そのような作戦があったとしてもジャン男爵の作戦だと知ったらきっとやりません」

 「分かっています。なのでリリア隊長が元々考えていた作戦でなおかつ裏で動いていたという事にしませんか? それに目立つ手柄は全てドガル子爵に渡しましょう」

 「……一体何をどうするつもりなんですか?」

 「僕の部下がすでにバーリ城に侵入していて、火矢による合図を出せば、いつでも門を開けることが出来る準備が整っています。それで先に北門を開けます。そこで僕らは大暴れして敵の目を集中させますから、その間に南門を開け、ドガル軍は南門から侵入してバーリ城を攻略して下さい」

 「……それだとジャン男爵軍が一番苦しい戦いをする事になりますけどいいんですか? 攻略したとて、ジャン男爵は働きほどの褒美がもらえるか分かりませよ?」

 「ええ、全てドガル子爵に譲ります。それよりも早くこの攻略戦を終われせたいんです。長引かせる方が圧倒的に被害が大きくなりますから」

 「いいんですか?」
 「勿論です」
 「分かりました。ドガル子爵は私が説得しましょう」

 「頼みます。明日の夜に決行出来ればと考えています」
 「明日の夜ですね? 間に合わせましょう」
 「では僕はこの辺で失礼します」
 ジャンはテントを後にし自分の陣地へと戻ると、分隊長達を呼んで作戦を伝えた。

 「明日の夜は出来るだけ派手に暴れて注目させたいんだ」
 「分かりましたやりましょう」
 「俺もやってやりますよ」

 「オイラは何をするのだじょー?」
 「テディは皆のこと、僕らの事を守ってくれるかい?」
 「分かったよオイラは皆を守るじょー」

 翌日、昼間の戦いは今までのように流す。
 「ジャン様、ドガル子爵のリリア隊長から伝令が」
 「どうだって?」

 「説得に成功した。全ては手筈通りにお願いしますと」
 「よし分かった。夜が本番だから体力残しといてねジェイド」
 「承知いたしました。行くぞーーー!」

 そして夜になる。
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