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純愛FINAL《咲輝side》
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しおりを挟む8月に入って奇跡的に数値がよくなったから、1週間の外泊が許されたと緋禄から連絡がきた。
緋禄が毎日生きているだけで嬉しいのに、一緒に出掛けることが出来る日が来るなんて。
「ずっと前に父からペア宿泊券を貰っていて。もし体調が大丈夫なら一緒にいかないか?」
そう言うと、緋禄は笑顔で大きく頷く。
1週間のうち、5日間は家族と過ごすと言っていた。
そして外泊6日目、俺と一緒に海の見えるリゾートホテルに1泊することになった。
―当日―
緋禄の体調はとてもよさそうだった。
日差しが強いので体力を消耗しないためにも、日中は水族館で涼みながらゆっくりと綺麗な水槽を眺めた。
日が落ちてから、ホテルの近くの海へ向かった。
「咲輝ー!海気持ちいいぜー!」
波が押し寄せて、また引いて、その度に緋禄は子供みたいにはしゃぐ。
俺は写真を撮りながら、それを遠くからずっと眺めていた。
レンズ越しの緋禄が無邪気で、可愛くて、ずっとこのレンズの中に閉じ込めておけたらいいのにと思った。
ホテルでディナーを食べたあと、バルコニーにあるソファーに座りながら二人で海と星空を見上げる。
お互い会話は無く、繋がれている手の温もりを感じながらただただ時間が過ぎていった。
「緋禄…そろそろ冷えるから」
「うん」
緋禄の手を引き、部屋に戻った。
「紅茶でいいか?」
「うん」
緋禄はベッドに腰かけて俺の淹れる紅茶を待っていた。
しばらくして、緋禄が口を開く。
「なぁ、咲輝」
「ん?」
「俺さ…この外泊が終わって病院に戻ったら、誰にも会わないように面会謝絶にしようと思ってるんだ」
緋禄の発言に俺は驚いた。
湯を沸かすケトルの音だけが室内に響く。
もう、これで最後なのだろうか?
緋禄に逢えるのは―…
「誰かが見舞いに来る度、悲しそうな顔をさせちまうんだよ。それが嫌でさ。それを嫌と思う自分も嫌になる。原因は俺で、俺は弱る一方だから。だからもう誰にも逢わずに逝きたい」
「そうか…緋禄がそう決めたならそうするといい」
そう。
緋禄は誰よりも優しい。
優しいから、独りになってでも誰かを悲しませたくないんだ。
きっと揺るがない。
俺が、面会謝絶なんて止めてくれと言っても。
緋禄の決心は変わらない。
共に過ごした時間が長いから緋禄のことはよく分かる。
「……だから咲輝、俺が死んでも悲しむなよ」
そうか、
もう決めてしまったんだな。
独りきりで、逝くことを―…
「悲しむとは思うけど、いつか笑えるようになるよ」
俺が紅茶を用意して緋禄に近寄ると、緋禄は俯いて無言になった。
「緋禄?」
その顔を覗き込むと、緋禄の目からは涙が溢れていた。
あぁ、
ようやくこの時が来た。
緋禄の涙を見る日が。
俺はテーブルに紅茶を置いて、緋禄の髪を撫でながら言った。
「ゲームは終わりだな」
俺は微笑んだ。
今まで俺の前で泣いたことがない緋禄が、初めて涙を見せてくれた。
弱さを見せてくれた。
それが何より嬉しかった。
「あぁ、終わりだよ。俺のワガママに付き合ってくれてありがとう…」
緋禄は涙を拭って、俺に礼を言う。
「生きたいよ、咲輝ぃ…」
緋禄の涙は止まらない。
あぁ、緋禄
出来ることなら俺が代わりたい。
俺の命を差し出せたらどんなにいいか。
でもその願いだけは叶えられない。
無情にも、無力で。
「泣くな緋禄」
「生きたい…まだ、咲輝と過ごしたい。咲輝…咲輝…」
肩を震わせて泣きじゃくって。
こんなにも愛しい存在が、もうすぐ消えてしまうなんて。
「緋禄…」
大丈夫だよ緋禄。
俺はずっと言おうと思っていた言葉を、深呼吸してから緋禄の目を見つめて言った。
「恋人になろう。偽りじゃなくて、本当の恋人に」
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