純愛-junai-

槊灼大地

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純愛FINAL《緋禄side》

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8月に入って奇跡的に数値が少しだけよくなったから、1週間の外泊が許された。



たぶん、外に出れるのはこれが最後だろう。




それを咲輝に告げると、とても喜んでいた。



「ずっと前に父からペア宿泊券を貰っていて。もし体調が大丈夫なら一緒にいかないか?」



咲輝と一緒に、海の見えるリゾートホテルに1泊することになった。







―当日―




俺の体調は今まで以上に良かった。



天候にも恵まれて、咲輝と最期のデートをする。



日差しが強いので体力を消耗しないためにも、日中は水族館で涼みながらゆっくりと綺麗な水槽を眺めた。



日が落ちてから、ホテルの近くの海に行った。



「咲輝ー!海気持ちいいぜー!」



波が押し寄せて、また引いて、その度に俺は子供みたいにはしゃぐ。



遠くから咲輝がそれをずっと笑顔で眺めている。




その笑顔で、溶けてしまいそうだ。




ホテルでディナーを食べたあと、バルコニーにあるソファーに座りながら二人で星空を見上げた。



お互い会話は無く、繋がれている手の温もりを感じながら目の前にある波の音と夜空を堪能して、ただただ時間が過ぎていく。



「緋禄…そろそろ冷えるから」


「うん」


咲輝に手を引かれて、部屋に戻った。



「紅茶でいいか?」


「うん」


自分が用意するから座っててとジェスチャーする咲輝。まるで紳士みたいだ。



俺はベッドに腰かけて咲輝の淹れる紅茶を待った。



「なぁ、咲輝」


「ん?」


「俺さ…この外泊が終わって病院に戻ったら、誰にも会わないように面会謝絶にしようと思ってるんだ」



俺の発言に咲輝は少し驚いた表情をしてこっちを見た。



湯を沸かすケトルの音だけが室内に響く。



「誰かが見舞いに来る度、悲しそうな顔をさせちまうんだよ。それが嫌でさ。それを嫌と思う自分も嫌になる。原因は俺で、俺は弱る一方だから。だからもう誰にも逢わずに逝きたい」


「そうか…緋禄がそう決めたならそうするといい」


「……だから咲輝、俺が死んでも悲しむなよ」



俺の死で、泣いたり、悲しまれたりするのは苦しい。



皆には笑ってて欲しいんだ。



特に、大切な人を悲しめる原因にはなりたくないから。



だから悲しまないで、



だから笑ってて、




「悲しむとは思うけど、いつか笑えるようになるよ」



悲しんで欲しくない。



悲しませたくない。



笑ってくれなきゃ、安心して逝けない―…




「緋禄?」



紅茶を持ってきた咲輝が俺の顔を覗き込む。



気付くと俺は泣いていた。



どこか痛いわけじゃなくて、苦しいわけでもないのに。



咲輝の前で泣いたら、



このゲームは終わってしまうのに。



俺からこのゲームを終わらせるなんて有り得ないのに。




分かってても涙が止まらない。



咲輝はテーブルに紅茶を置いて、俺の髪を撫でながら言った。







「ゲームは終わりだな」






咲輝が微笑んだ。




そうだ、ゲームは終わり。



泣いてしまったから終わりだよ。



ゲームオーバー。



これでいいんだ、俺達は。



もう俺は死んでしまうんだから、これでいい。



普通の親友のまま、残された時間を過ごせればいい。




あとはリセットして、終わり。




「あぁ、終わりだよ。俺のワガママに付き合ってくれてありがとう…」




俺は涙を拭って、咲輝に礼を言った。



たくさんの思い出をありがとう。



咲輝の温もりを感じられて幸せだった。



だから、もう終わりでいいんだ。





―…終わりでいいのに








「生きたいよ、咲輝ぃ…」






涙が止まらない。



出来ることなら、ずっとずっと咲輝といたい。



もっと思い出を増やしたい。




好きだよ咲輝。



好きだから、



好き過ぎて苦しい。




「泣くな緋禄」



「生きたい…まだ、咲輝と過ごしたい。咲輝…咲輝…」



こんなことを言って。
咲輝を困らせるだけなのに。
咲輝は俺とのゲームから解放されたのに。



でも止まらない。



俺の涙も、想いも、止まってくれない。



いつかこうなるって分かってたのに。




「緋禄…」



それなのに、大好きな咲輝を困らせてしまう。



涙が止まらない俺を、咲輝が優しく抱き締めて耳元で囁いた。





「恋人になろう。偽りじゃなくて、本当の恋人に」



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