48 / 63
純愛Ⅳ《咲輝side》
4
しおりを挟む数日後、寮に戻ると緋禄は逢おうとしてくれなかった。
部屋の前で待機していても、『今は逢えない』と返事がくるばかりで。
仕方なく自分の部屋に戻ろうとしていると、寺伝とすれ違った。
「あ、前山久しぶり!帰国したんだ」
「寺伝、久しぶり。緋禄がなぜか逢おうとしてくれない。部屋も開けてくれないんだ。何か知らないか?」
「え…?…だってあいつ病院だろ?」
「病院…?」
「あ…まだ聞いてなかった?」
聞くと数日前から検査入院として病院にいるらしい。
すぐ電話をかけるも、緋禄には繋がらない。
俺はすぐに病院へと向かった。
「緋禄!」
「おー、咲輝」
「検査入院してたなんて、聞いてない」
「だって言ってないからな。大丈夫だよ。いつものことだから。すぐ帰るよ」
いつもの明るい緋禄だった。
少し話して、緋禄が「眠い」と言うので病室を後にした。
何か、嫌な予感がした。
もう二度と、この病室のドアを閉めたら逢えなくなってしまうようなそんな不安感。
「咲輝さん」
「竜」
帰ろうと歩いていると、偶然院内で竜に会った。
竜の様子が少しおかしい。
「緋禄、いつ退院するんだ?」
「咲輝さん…ひー兄から聞いてないんですか?」
「何を…?」
竜が驚いた顔で俺を見る。
嫌な予感がする。
予感だけであって欲しい。
「1年前に、ひー兄はもってあと1年だと言われました。さっき主治医には数値が悪化しているから…あと半年も持たないと…言われています」
「え…?」
二人の会話を聞いたときから、長くは無いだろうと予想はしていた。
でも勝手に10年…短くても5年ぐらいだと思い込んでいた。
あと半年もない?
そこまで短いと思っていなかった。
なんでそんな大事なこと言わないんだ。
偽りでも恋人同士なのに。
―…言えるはずない。
いつも他人を優先している緋禄なら。
俺に心配をかけるから。
そういう性格だ。
緋禄の笑顔が頭から離れない。
それと同時に別れを想像してしまう。
どんな気持ちでゲームを始めて俺と一緒にいたんだ?
もうすぐ死んでしまうと分かりながら。
一番苦しいのは緋禄なのに。
ゲームを始めて今までより緋禄を知れた。
だからこそすぐに理解できた。
ゲームオーバーの理由。
"泣いたらゲームオーバー"
お前が死んだとき、悲しんで欲しくないから。
俺に笑顔でいてほしいから。
そうだろう?
どうしてお前は、いつも他人を優先して自分のことを優先しないんだ。
…緋禄
俺にとってはもう緋禄はかけがえのない存在なんだ。
失いたくない。
まだ傍にいて欲しい。
こんなにも、
こんなにも、
俺の中で緋禄は大きな存在になっている。
俺は残された時間で何が出来るのかを考えた。
大切な緋禄に、何が出来るのかを―…
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説


好きなあいつの嫉妬がすごい
カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。
ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。
教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。
「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」
ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

【完結】I adore you
ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。
そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。
※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
旦那様と僕
三冬月マヨ
BL
旦那様と奉公人(の、つもり)の、のんびりとした話。
縁側で日向ぼっこしながらお茶を飲む感じで、のほほんとして頂けたら幸いです。
本編完結済。
『向日葵の庭で』は、残酷と云うか、覚悟が必要かな? と思いまして注意喚起の為『※』を付けています。

そんなの真実じゃない
イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———?
彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。
==============
人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる