純愛-junai-

槊灼大地

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純愛Ⅳ《緋禄side》

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来年はやってこない。



俺には時間が無かった。




翌日の夕方、病院を抜け出した。




体が衰弱していることも、理解はしていた。



それでも俺には時間がないから。



この命が短くなってもいいから、咲輝に逢いたかったんだ。



携帯には病院からたくさんの着信が残っていた。



戻るから、



戻るからせめて今だけは自由にさせて―…





咲輝の誕生日には、指輪を贈りたい。




俺を忘れないように身に付けていて欲しいから。








「雨月っ!」




学園近くのバス停で、俺の荷物を持った寺伝に遭遇した。




「寺伝…」


「お前…検査入院だろ?何でここに…」


「やっぱり異常なかったって」


「嘘つくな。明らかに体力消耗してるじゃねぇか」



分かってる。



分かってるよ、迷惑かけてるって。



「帰るぞ病院に」



寺伝に腕を捕まれて、病院に連れてかれそうになった。



俺は精一杯の力で抵抗して、寺伝の腕を振りほどいた。



「なんだよ」



「嫌だ。帰らない」



「は?」



検査入院をしなきゃいけないのは分かってる。



寺伝だって、俺の体に異変があるって感付いてるんだろう。



病院に連れ戻すのに必死だ。






「明日…咲輝の誕生日なんだ。今日帰国してこの近くのホテルに泊まってる」




寺伝は分かってるんだろう。



咲輝が俺の特別だって。



だから一瞬黙ったんだ。




「…自分の体を大切にしろよ」



寺伝はまた俺の腕を捕んで、強い力で引っ張った。



「や…、放せよっ!」



寺伝は無言のまま、タクシー乗り場に俺を連れて行く。



嫌だ。



嫌だよ。




だってあの場所に戻ったら、




俺は抜け出せないから―…




お願いだから、咲輝に逢わせて。



「寺伝、頼むから…」



「雨月…」



涙が止まらなかった。



咲輝に逢えなくなることが嫌で、不安でたまらなくなった。




「俺は血を吐いたお前が心配なんだよ。お前の気持ちも分かるけど、前山の誕生日は来年もあるだろ」




普通の人ならそうかもしれない。



でも、




俺には時間がなくて、




一秒でも長く咲輝のそばに居たい。



普通の人なら咲輝の誕生日は来年もやってくる。



だけど俺には『来年』なんてやってこないから、





だからあの場所に戻りたくない。





「寺伝…」




出来ることなら誰にも知られたくないこと。




俺は、もう長くない。



でも言わないと、寺伝はこの状況を分かってくれない。



俺が何でこんなに必死に咲輝に逢いたいのかを。






「寺伝…俺、もうすぐ死ぬんだよ」






咲輝に逢う為には、この事実を寺伝に教えるしかなかった。




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