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純愛Ⅲ《咲輝side》-ワイルドな夜編-
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しおりを挟む朝、ホテルの内線の音で目が覚める。
チェックアウトの時間が過ぎているとフロントから連絡がきて、時間を見ると10時10分だった。
寝ている緋禄を起こそうとした瞬間、色々なものが目に入った。
精液を拭き取って丸めてあるティッシュの残骸。
放出された精液を縛った使用済みのコンドームが4つ。
キスマークだらけの緋禄。
「おはよ、咲輝」
「緋禄…おはよう」
「どした?」
「―…いや、昨日の夜の記憶がなくて」
エレベーターに乗って、緋禄を部屋で押し倒してキスをしたのは覚えている。
そこからの記憶は断片的にしかなかった。
「これ、俺が…?」
「なんか変だったもんなー。酔ってたっぽいし、容赦なくてさ」
あぁ、やっぱり俺なのか。
「お前がボーイに渡されて飲んでたジュースは、俺のいとこが酒と媚薬を混ぜたものを緋禄に飲ませようとしてたんだ」
「え?」
「だから緋禄が飲む前に全部俺が飲んだから…あれをお前が飲んでたらもっと大変だったかもな」
あの場であれを捨てられなかったしな。
少量だろうと侮っていた。
「でも…体に負担かかったよな。悪かった」
「咲輝気にするなよ。…凄く興奮したし、よかったよ。毎回あれはさすがに体力もたなくて疲れるけど、たまにならいいよ」
普段1回イクだけでも疲れてしまう緋禄を、4回は抱いた。相当疲れたはずだ。でもその記憶が無い。
「いや、もう絶対にしない」
「そう?」
「せっかく緋禄を抱いてるのに、記憶を無くすなんて…」
初めて緋禄の喘ぎ声を聞いたときから、緋禄が感じている姿を見るのが楽しみで仕方ないのに。
「あ、記憶ないってことは俺が口でしたのも記憶ない?」
「そ、そんなことまでさせたのか!?」
いや、なんとなくそんな気はしていた。
きっと口でなんかされたら、俺は緋禄をめちゃくちゃにしてしまったに違いない。
普段から抑制していたのに。
「3回させてくれたよ。頭ガンガン捕まれたりもしたし」
「もういい、緋禄…何も言うな。俺が酷いことをしたのはよく分かった…悪い…覚えてないんだ」
あぁもう過去の俺を殴りたい。
緋禄の体よりも自分の欲望を優先させてしまうなんて。
「濃くて美味しかったよ、咲輝の」
「飲んっ―…!!」
もう言葉にならない。
罪悪感と背徳感が入り交じる。
「ゴム無くなって、咲輝がまだ硬かったから頑張ったんだぜ俺」
「はぁ…当分罪悪感でお前のこと抱けそうにない」
「なんでだよー!気にしなくていいって」
ため息しかでない。
俺が俺を許せない。
「本当にすまない。殴ってくれ」
「やだよ」
「俺の気が済まないんだ」
早くチェックアウトしなくてはいけないのに、あまりにもショックすぎて体が動かない。
いっそもう、殴って欲しい。
それでスッキリする。
「んー、じゃあ咲輝の幼少期の写真見たい!それでいいよ」
「それはすぐ父に言ってデータもらう。あとは何もないのか?」
「えー、ないよ」
「何でもいい」
そんなんじゃ俺の気が済まない。
もっとペナルティのようなものがないと。
「んー、じゃあさ。咲輝が初めて人物画描くことになったら、俺のことを一番最初に描いて?それでいいよ」
「…人物画を描く予定はない」
「描きたいって言ってたじゃん?俺の名前半分使ってもいいからさ。その第一号は俺にして。それでチャラ」
前山は人物は描かない。
前山は人物は撮らない。
昔からそう言われ続けてきた。
これからもその道しかないと思っているのに。
「その時が来たらな」
もしその時が来たら―…
必ず最初に緋禄を描くよ。
それだけは約束する。
「うん。あー、めちゃくちゃ筋肉痛ー!」
「悪い…」
「いや、いい運動になったから。今日はさぁ、この近くに動物園があるからそこに行きたい。前から行ってみたかったんだ」
「わかった」
すぐにホテルを後にして、動物園へと向かった。
普段はペットショップで動物を見るだけで嬉しそうな緋禄。
二人で動物園に来たのは初めてだったが、はしゃいでる緋禄の笑顔を保存したくて思わずカメラを向ける。
「あ、ゴリラでっかー。迫力すごっ。ゴリラといえば昨日の夜の咲輝も性欲ゴリラみたいだったけどな」
「―…悪かった」
その笑顔で俺の心臓を抉る。
また罪悪感が押し寄せる。
「あ、じょ、冗談だって!な、咲輝ー。うさぎでも見て癒されようぜ」
昨日の夜のこと、
断片的にある記憶…
それは俺が緋禄に好きだと言ったこと、
緋禄が俺に好きだと言ったこと、
それだけは覚えていた。
お互い、いつまで恋人ごっこを続けるのだろうか。
ゲームだということ以外、本当の恋人みたいなのに。
「咲輝」
その愛しい声で名前を呼んで、
俺を見て笑ってくれる。
日に日に愛しさが増す。
"ゲームオーバー"以外無いのだろうか。
このゲームの終わりは。
それなら俺はどうすればいいのだろうか。
緋禄を自分だけのものにするには、どうしたらいいのかをこの時はずっと考えていた。
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