23 / 63
純愛Ⅱ《咲輝side》-初夜編-
4
しおりを挟む―数日後―
「あ、咲輝くーん」
朝、美術室から教室に向う途中で誰かに声をかけられた。
「山田先生。おはようございます」
「やっと一つになれたみたいだね。嬉しい。結局ゴムつけたの?」
「…緋禄から聞いたんですか?」
「そうなんだよね。色々相談されて。口でさせてもらえないって悩んでたよ」
「そんなことまで先生に。すみません…」
廊下でこんな話しをするべきじゃないのに、山田先生が止まらない。
「どうして口でさせてあげないの?緋禄くん汚しちゃいそうで嫌?恥ずかしい?」
「恥ずかしいというか…」
俺は口でされたくないわけじゃない。
むしろ、してもらえたら嬉しい。
けれど、させない理由が俺にはあった。
「口でされたら余計に興奮して制御できなくて、緋禄をめちゃくちゃにしてしまいそうなので…」
緋禄を大切にしたい。
自分の欲望のためじゃなくて。
緋禄の体を優先したい。
「わーお!愛だね、愛。もう本当に君たち尊すぎて俺がキュン死にしちゃう。死んだら哀沢くんに怒られちゃうから死なないけど」
―昼休み―
緋禄と寺伝と3人で学食でランチ中。
俺の携帯に着信が入った。
「父からだ。悪い、先に食べててくれ」
「オッケー」
そう言って俺は席を外した。
『咲輝、元気か?』
「はい。個展おめでとうございます」
『ありがとう。今度祝賀パーティーがあるんだ。咲輝も出席しなさい』
「分かりました」
『ホテルで開催してそのまま泊まれるから、よければ緋禄くんも誘いなさい』
「はい」
父は過去に何回も個展を開催していて、いつの日だったか緋禄を連れていったことがあった。
そこで緋禄を気に入ってから、毎回祝賀パーティーに緋禄を連れてくるように言われる。
恋人ごっこを始めてから緋禄を連れていくのは初めてだな。
しかも最近は緋禄の体調が悪いときと祝賀会が重なっていて、父も緋禄に会えていなかったし。
今回は一緒に行けるといいんだが。
「二人とも、悪かった…大空?」
父からの電話を終えて戻ると、1学年下の大空がいた。
「前山先輩こんにちは!あの、口…」
「おーおーぞーら!!」
寺伝が大空の口を押さえて、制服を引っ張って二人でどこかに去っていった。
なんだ?
「口?」
「なんだろな?俺も分かんない」
寺伝と大空は仲が悪いと聞いていたが、見た感じそうでもなさそうだな。
席に座ると、緋禄が俺を見て問いかける。
「咲輝は、俺のこと大切なの?」
大切に決まってる。
俺はきっと、あの日園庭で寝ている緋禄に惹かれてしまったんだ。
人見知りである普段の俺なら、あの状況で絶対に声なんてかけない。
でも、話したくなった。
どんな声で、どんな表情で俺を見るのか知りたかった。
だから起こしたんだ。
「大切だよ」
もう、あの時から俺は緋禄を―…
「そっか。俺たちは俺たちのペースで頑張ろうな」
「?」
「由輝さん何だって?」
「あぁ、今度祝賀パーティーがあるから緋禄も連れておいでって」
「え、行く行く!やった。スーツ用意しなきゃ」
この笑顔をずっと隣で見ていたい。
あの時も今も。
出来ればこのゲームの終わりなんて来ないことを、俺は心の中で祈った。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説


好きなあいつの嫉妬がすごい
カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。
ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。
教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。
「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」
ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

【完結】I adore you
ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。
そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。
※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

そんなの真実じゃない
イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———?
彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。
==============
人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
旦那様と僕
三冬月マヨ
BL
旦那様と奉公人(の、つもり)の、のんびりとした話。
縁側で日向ぼっこしながらお茶を飲む感じで、のほほんとして頂けたら幸いです。
本編完結済。
『向日葵の庭で』は、残酷と云うか、覚悟が必要かな? と思いまして注意喚起の為『※』を付けています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる