4 / 63
純愛《緋禄side》
3
しおりを挟む2ヶ月前、母さんから俺はあと1年ぐらいしか生きられないと告げられた。
昔から体が弱くて、苦しい日も多くなってきた。
数値も安定していなかったし、なんとなくそうかなって予想はついていた。
自分の体だから、自分が一番知ってる。
母さんは「丈夫に産んであげられなくてごめん」って何度も俺に謝ってたけど、
俺はそんな言葉望んじゃいない。
人が自分のせいで泣いたり、悲しんだり、苦しんだり
一番、それが辛いから。
生まれたのは後悔してない。
皆に出逢えたことに感謝。
父さんのせいで精神病を患っていた母さんは、俺の体が弱いのも俺がもうすぐ亡くなるのも自分のせいだと思い、その数日後に命を経った。
母さん…守れなくて、弱くてごめん。
いつの日だったかまた数値が悪くなったので検査をするために1週間入院をした時、弟の竜が見舞いに来た。
「ひー兄」
「竜」
弟の竜とは1つ違いで同じ学校に通っている。
最近じゃインディーズバンドのJEESのボーカルとして活動もしている。
離婚して俺は母さん、竜は父さんに引き取られたから名字は違うけど血は繋がった本当の兄弟だ。
離れてからもよく連絡したり、遊んだりしていた。
「ひー兄…」
竜は昔から俺に依存していた。
だから俺が死んだらどうなってしまうんだろう。
「ねぇひー兄、元気になったらどこに行く?」
「竜…」
でも隠してもいいことなんて無い。
特に竜には時間が必要だ。
俺が死ぬことを受け入れてもらう時間が。
「俺のライブ見に来てよ!来年ツアーもやるし」
JEESもインディーズではトップクラスの人気で最近竜とまともに会話が出来ないぐらい忙しそうだ。
だから今、ちゃんと言っておかないと。
「竜…俺、長くないんだ」
竜の目つきが変わる。
「…そんなわけないじゃん!ひー兄は元気になるよ」
「自分のことは自分がよく分かる。最近体が重い。薬も量が増えた。なかなか効かない」
俺に依存している竜にはちゃんと分からせないと。
俺が死ぬ現実を受け入れてもらわないと。
この1年という短い期間内で。
「そんなわけないって言ってるじゃん!!」
白い部屋に竜の怒鳴り声が響いた。
竜が俺に怒鳴ったことなんてないから一瞬驚いた。
「あ、ごめ…」
そしてしばらく俺の顔を見つめて涙を溢した。
「何で…何でひー兄なの?どうして?死んでもいいやつなんて他にいるのに…母さんだってもういない…俺は一人になるの…?」
「俺は大丈夫だから。この体がお前じゃなくてよかったよ」
「ひー兄がいなくなるなら生きてる意味ない」
俺に近づいて、ベッドで泣きついて。
「そんなこと言うな」
「嫌だ。せっかくあの人から少し離れられて、ひー兄と同じ学校に行けたのに。短すぎるよ…長く生きられないなんて!」
竜は中学に上がった頃から父さんに犯されていた。
父さんは異常なまでに母さんを愛していたから、母さんに似ている竜を母さんの代わりにした。
竜は俺の勧めで高校に進学するのと同時に今の学校を受験した。
父さんは寮生活に反対したが自分も仕事が忙しく竜を一人にさせてしまうことと、爆発的にJEESの人気が出て音楽活動を辞められなくなった。
そして施設の整ったMY学園は最適だと判断され、毎日の連絡と長期休みには家に帰るという条件で今の学校に通わせてくれた。
だから長期休み以外は父さんから解放されて、俺にも学校で会えるようになったのに。
「嫌だ!嫌だ!嫌だ」
「俺が生きている間は思い出たくさん作ろう」
子供のように泣きじゃくって―…
お前にそんな顔をさせたくないんだよ。
「泣くなよ。俺はまだ生きてるだろ?」
「嫌だよ。嫌だ。嫌だ。嫌だ嫌だ!」
背中を擦り頭を撫でるのと比例して竜の涙は溢れ出す。
死ぬのは怖くない。
けど、こうして俺のせいで誰かが悲しむのが嫌なんだ。
「あぁそうか…会える方法があるじゃん」
ふと、顔をあげた竜は一点を見つめて話し出す。
「…竜?」
「ひー兄がいなくなっても、すぐに会える方法がさ」
ダメだこの目は。
「おい…変なこと考えるなよ?」
たぶん、後を追おうとしてる。
そんなこと絶対にして欲しくない。
竜は返事をせずにニコッと笑って立ち上がり、鼻歌を歌いながら窓の外を眺めていた。
竜は、俺がいなくなったらどうなってしまうんだろう…
それだけが不安だった。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説


好きなあいつの嫉妬がすごい
カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。
ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。
教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。
「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」
ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

【完結】I adore you
ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。
そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。
※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

そんなの真実じゃない
イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———?
彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。
==============
人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる