玄愛-genai-

槊灼大地

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玄愛《炯side》

玄愛《炯side》7

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翌日休まず学校に行き、俺が机に座って本を読んでると山田が来た。



「おはよう哀沢くん」



「…おはよう」



俺はいつものように顔を上げて挨拶をした。



「…」



山田は俺の顔を見て、どこかへ電話をかけ始めた。



「もしもし。ごめん。迎えに来て。今すぐ。今日は家に帰る」



専属の運転手に連絡をしているようだった。



電話を切ると、山田は俺の腕を掴み俺の荷物を持って無言で教室を出た。



「おい、山田っ」



靴も履き替えず、シューズのまま俺の手を引く。



山田は校門前に待機している自分の車に近付き、運転手が後部座席のドアを開けた。




「山田!」



山田は俺を無理矢理車に乗せて、自分も乗ってドアを閉めた。



「いいから黙って乗って。車出して。うちまで」


「かしこまりました」




しばらく無言のまま車のエンジン音だけが響く。



30分ぐらい車を走らせると、山田の家に着いた。




そのまま山田の部屋に入り、ソファーに座ることなく山田が口を開く。




「そんな顔、アヤちゃんと愁ちゃんに見せられる?」


「―…どういう意味だよ」


「何かあったんでしょ?」




俺は山田の言葉に反論することが出来なかった。



山田は少し怒りながら俺を見つめて続ける。




「今にも泣き出しそうなのに、泣けない、泣いちゃいけない、そんな顔してるよ。そんな顔を見せたら2人が心配する」




山田は俺の心を揺さぶる。



制御していたのに。




俺は涙が出なかったわけじゃない。




泣いてしまえば雅彦が死んだ事実が突き刺さるから。



だから無意識に泣かないように制御してたんだ。



「それを隠すために無理して笑うの?ていうか笑える?それすら出来ないような顔に見えるけど?」
 


本当は今でも辛くて、泣き出したいくらいなのに。



自分でも感情がおかしくなっているのが分かる。



泣きたいのに、泣けない。



どうすればいいのか分からない。



「俺は昔、泣きたいのに泣いちゃいけない環境にいたから。自分の感情押し殺すのに慣れてるけど」



山田が俺をソファーに座らせる。



そしてしゃがんで俺の顔を覗き込んだ。



「哀沢くんはダメだよ。そんなこと覚えなくていい。ちゃんと泣かないとだめだよ。大丈夫だから。気の済むまで泣いていいんだよ」


「別に俺は…」



否定しようとした瞬間、山田が俺を抱き締めた。



まるで泣いてる子供をあやすかのように優しく包み込む。




「哀沢くん…俺の胸で泣くと、子供はすぐ泣き止むんだよ。よしよし、いっぱい泣いていいんだよ」




まるで雅彦のような台詞を言う山田。




…保護者かよ。




「―…っ!」




気付くと俺は山田の前で声を出して泣いていた。



山田は俺が泣いてる間、無言で俺の背中をさすり、頭を撫でて抱きしめていた。



雅彦とは体格が全く違ったが、心地よさは同じだった。



だから気の済むまで泣いた。




なぁ、雅彦
俺を愛してるんだろ?




じゃあなんで死んだんだよ?





死んだら何もねぇじゃねぇか。



残るのは記憶だけ。



行き場の無いあんたに対する俺の気持ちだけ。




なぁ、





俺を愛してるって言ったよな?



もう1回言えよ。



頼むから言ってくれよ。






―…どうして死んだんだよ













どのくらい時間が経ったか分からないぐらい泣いて、しばらくすると山田が沈黙を破った。



「哀沢くん、パフェ食べよっか?生クリーム大量のやつ」


「………………食う」



山田は俺の頭を撫でて、部屋を出て、またすぐ戻ってきた。



「アソートケーキもお願いしてきたよー!哀沢くんケーキ好きだもんね」



山田は俺が泣いた理由を聞くことなく、まるでこの件が無かったかのように接してくれた。




また山田に救われた。


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