玄愛-genai-

槊灼大地

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玄愛《炯side》

玄愛《炯side》6

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それから高2の春になり、雅彦のことはもう忘れかけていた。



―…そう思っていたのに



「哀沢、校門でお前を探してる金髪で長髪の外人がいるんだけど…知り合い?」



部活が終わり、先に帰ったはずの部員が戻ってきて、俺に話しかけた。



金髪の外人と言われて思い当たる人物は一人しかいなかった。




いや、まさか―…







「エリック…?」


「ヒカリ…!?」



やはりエリックだった。



2年ぶりに会ったエリックは成長した俺の姿を見て少し戸惑っていた。




「ヒカリ…まだ、…英語は、話せ…ますか?」



辿々しい日本語でエリックが俺に話しかける。



「《大丈夫。話せるよ》」


「《よかった。私はまだ日本語が充分に学べていなくて…大きくなりましたね、ヒカリ。車の中に入ってください》」



停めてある車に乗り込み、お互いに後部座席に座って会話を始めた。



「《雅彦様の遺品を整理していたら、ヒカリへの贈り物を発見しました》」



エリックはそう言って、包装してある箱を俺に差し出した。



「《雅彦様がスイスで亡くなってから色々あり、これを発見するのに時間がかかってしまいました。ヒカリ達がアメリカに来たら渡そうと思ったのですが会えず、連絡先も分からず、ずっと渡せずにいたのです…》」



アメリカの祖父母が亡くなってから、家族がいなくなった俺の母親はもうアメリカに行く理由が無いと言って、1年半前からあの家は空き家になっていた。



「《1年半前の夏に祖母も亡くなって、もうアメリカに行く理由が無くなったんだ》」



「《そうでしたか…。雅彦様の奥様が日本に移住したいとのことで1年前に私たちは日本に来ました。これはチャンスだと思い、この1年間必死にヒカリを探しました》」



雅彦は生前、落ち着いたら日本に移住したいと言っていた。



俺たち夫婦は自由なんだって言ってたくせに、旦那が移住したがっていた日本に来るなんて愛されてたんだなあの男は…と一瞬思った。



「《ようやくヒカリを見つけられた。雅彦様が亡くなって2年…遅くなりすみません》」



エリックはうつむいて、声を震わせて続けた。



「《私があの時休暇を取っていなければ…一緒にスイスに行っていれば雅彦様を守れたかもしれない》」



雅彦が死んだのは自分のせいだと思っているのか。



あのエリックがこんな顔を見せるなんて―…



この2年間、ずっと自分の行動を責めて悔やんでしまっていたんだろう。



誰にも言えずに、ひとりで。



「《ごめんなさい、ヒカリ…》」


「《…エリック。自分を責めないで。エリックが生きていて良かった。雅彦もそう言うと思う》」



泣くエリックにたいした励ましの言葉もかけられず、背中をさすることしか出来なかった。



「《ありがとう、ヒカリ…何かあれば連絡をください。私は奥様の付き添いとして今後は日本にいます》」


「《わざわざ探してくれてありがとう》」


「《いいえ。会えてよかった。家までお送りします》」





帰宅して、自分の部屋で雅彦からのプレゼントを開けた。



そこにはバスケットシューズと、雅彦からの手紙が同封されていた。













ヒカリへ
バスケは上手くなったかな?
ヒカリに似合うかなと思ってバスケットシューズを買ったよ。
これを履いてどんどんシュートを決めてくれ。
これは俺のパワーが込められているから、ヒカリは最強の選手になるだろうね。
知ってるかい?俺のパワーは最強なんだ。
バスケだけじゃなくて友達とも仲良くするんだよ。
最近よく話してくれる山田くんの話をまた聞かせて欲しいな。
ヒカリがどんな学生生活を送っているのかとても興味があるよ。
友達もパワーになるから、それにヒカリが気付くといいんだけど。
また楽しい報告を待ってる。
成長したヒカリに早く会えますように。










あぁ、この字―…




懐かしいサイン。



文字を見ただけで思い出してしまう。











「《…遅ぇよ》」





あの頃26cmだった足は、今じゃ28cmになっていた。

身長も15cm伸びた。







忘れたと思ってた。


吹っ切れたと思ってた。



最悪だよ。
全然まだ愛してる。




渡すのが遅くなると思って少しだけ大きめの27cmにしたんだろ?



あの時、山田から新品を貰ったことを伝えていたから。



気が利くもんなあんたは。



でももう履けない。


履きたいのに、履けないぐらいに時が経ってしまった。



あぁもう…忘れていたのに。



「俺を忘れるな」とでも言っているのか?



こんな文字ひとつで俺の胸が張り裂ける。



忘れることができたと思い込んでいた2年間が無かったかのように、抑え込んでいた感情が溢れ出る。





愛してる。






それだけは2年経った今でも鮮明に覚えている。



俺の中の雅彦の記憶は14のまま止まってる。



楽しかった日々だけがずっと残ってる。



あぁもう本当にいないのか。





会いたい。
話したい。
抱きしめたい。





最後に覚えている言葉は「愛してるよヒカリ」



その愛は子供に対する愛と似ているのだろうと思っていたけど、俺は本気だった。



もっと雅彦との思い出を作りたかった。



こんな贈り物を今さら渡されても、もうどうしようもない。



会えないという事実が突き刺さる。




俺は悲しいはずなのに、不思議と涙が出なかった。




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