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玄愛《炯side》
玄愛《炯side》5
しおりを挟む春休みが終わって新学期になっても学校には行けなかった。
俺が雅彦と仲良かったのを家族は知っていたから、1週間学校を休むことができた。
もう流せる涙は流したのに、気付くと雅彦を思い出してしまう自分がいた。
その度に、また不安と悲しみに襲われる。
学校を休んで7日目、山田が俺の様子を見に来た。
「哀沢くん、久しぶり」
「あぁ」
今の俺は笑えない。
何も応えられない。
俺の顔を見て山田は座っている俺の背後に来て、背中を合わせて座り込んだ。
しばらく沈黙が続く。
時計の秒針だけが部屋に響く。
「哀沢くんさぁ、甘党でしょ?」
沈黙を破ったのは山田だった。
「いま、うちにパティシエ来てて何か作らせるから今度うちにおいでよ」
どうでもいい会話だった。
本当はもっと聞かれるのかと思った。
なぜこんなに休んでいるのか、いつもの山田みたいに明るく接してくるものだと思っていた。
「……何も聞かないのか?」
「聞いて欲しいの?」
「いや…」
休んでいる理由を聞かれても、事実を言えない。
言ってしまえばまた思い出してしまう。
もう忘れなきゃいけない。
だから思い出を振り返ることはしたくなかった。
「聞かないでって顔してたから聞かないよ。俺って意外とそういう空気読めるタイプなんだよね。大人たちの顔色ばかり気にしてきたから」
少しでも思い出してしまえば、また忘れるのに時間がかかるから。
「哀沢くんが話したいなら話してくれていいし、話したくないなら話さなくていい。一人でいると辛いなら一緒にいるし、一人になりたいなら離れるし」
山田は俺の性格を理解しているんだ。
だから顔を見ないように背後にいる。
俺の態度次第ではすぐに帰れるように。
「悩みってさ、2種類しかないの知ってる?時間が解決する悩みと、時間が経つと悪化する悩み」
山田は自分のカバンから何かを取り出し、背後から俺の好きなメーカーのチョコレートを差し出した。
そして続ける。
「もし前者だったらさ、一人でいるより誰かといたほうが気が紛れると思うから。その時は俺を頼ってね」
その瞬間、俺の背中に乗っていた山田の体重が消えた。
「とりあえず今日は帰るね」
山田は立ち上がり、カバンを持って俺の部屋から出ていこうとした。
「山田……」
「ん?」
「明日パフェ食いに行ってもいいか?」
「哀沢くんパフェが好きなんだ」
「…生クリーム大量のやつで」
「オッケー。すんごい甘いのにしてもらうね。じゃあ明日ね」
久しぶりに見た山田の笑顔に少しだけ癒された。
このまま一人でいたら結局思い出を風化するのに時間がかかっていただろう。
次の日から普通に学校にいけるようになったのは山田のおかげだったとおもう。
俺の悩みは時間が解決するものだったから。
山田と話してると、意外と早く忘れることが出来た。
それから約1年後の中学の卒業式の日に山田に告白をされた。
俺はもう、誰も好きにならないって決めてたから山田の告白は断った。
冷たすぎる言葉で突き放した。
それは山田が雅彦を好きだった俺に被って見えたからなのかもしれない。
だから、俺を好きにならないように強く忠告した。
あいつの『愛してる』が未だに俺を苦しめてたからだ。
言葉なんて邪魔になる。
1年経っても、あの頃の記憶は消えない。
こんな感情、知らなければよかった。
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