玄愛-genai-

槊灼大地

文字の大きさ
上 下
7 / 50
玄愛《雅鷹side》

玄愛《雅鷹side》6

しおりを挟む

「ありがとう、またね」



「あぁ」





落ち着いてから哀沢くんの家を出ると、外は雪が降っていた。



気温は寒いけど、心は暖かかった。



抱いてもらえた。



感情は無かったけど。



哀沢くんは俺の中に刻まれた。



嬉しいはずなのに―…





哀沢くんを諦めなきゃいけない。




「無理そう…」



ボソッと呟き、自宅を目指した。



迎えを呼べば来てくれるけど、今は一人で歩きたい気分だった。




こんな弱い自分、知り合いに見られたくないから。




街はカップルばかりで、俺の居場所なんて無い気がした。




だめだ。




何を見ても涙が出る。




こんなにも好きで、


でも届かなくて、


想うことすら許されなくて、




この気持ちをどうしたらいいのか分からない。



どう消化していいのか分からない。



哀沢くんを好きにならない方法なんて分からない。



次、どんな顔をして会えばいいのかな?



そのとき俺は笑っていられるのかな?



こんなにも恋愛で自分が崩れるなんて。



嫌いと言われたわけでもない。



好きな人がいると言われたわけでもない。



ただ、好きになることを許されないだけ。



でもそれって、一番辛いことなんじゃないかな。






『俺は山田を大切だなんて思ったことは1度も無い』





大切だと思ってるのは俺だけ。



分かってたことなのに。



言われた言葉を思い出すと、涙がずっと止まらない。



友達だっていいじゃないか。



別に付き合えなくたって。




瞬間、




「危ない!」






雪でスリップしたバイクが歩道に乗り上げ、勢いよく俺にぶつかった。







何が起きたか分からない。



何処が痛いのかも分からない。



息が苦しい。






あぁ、やばいこれ俺の血?




俺の血液って希少なのに勿体ない。



こんな状況で血液のこと考えられるなんて余裕だな俺。





このまま死ぬのかな…




人が集まり、街がざわめく。




偶然にも俺の目線に、手を伸ばせば届く位置に携帯があった。




このまま死ぬのなら、




最期に哀沢くんの声を聞きたい。





俺は血に染まった手を伸ばし、携帯をとって哀沢くんに電話をした。




『どうした?』



今、幸せだよ。



最期に哀沢くんの声が聞けて。



ありがとう。



そう言いたいのに…



『山田?』




なんだよ俺、ダメじゃん。



口が動かないぐらいヤバイの?



『山田…切るぞ?』



動け、
動け、
動け、
 



最期に言っておきたい言葉があるのに…




呼吸をするだけで精一杯。







今までありがとう…
大好き…





そんな簡単な言葉も伝えられないなんて。




最後の力を振り絞れよ。俺のバカ。






街がざわめく。




雪が赤くなっていく。




意識が薄れていく。














人生退屈だった。




俺はいなければいいってずっと思ってた。





だけど今は、



哀沢くんがいるなら、生きてて良かったって思えるようになった。




俺は哀沢くんに生かされてる。




まだ一緒に居たかったな…






哀沢くん、



いつまでも哀沢くんが好きだよ。




俺を変えてくれてありがとう。



俺を満たしてくれてありがとう。





哀沢くん、大好き―…





俺は頬を伝う涙の温かさを感じながら目を閉じた。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

彼は罰ゲームでおれと付き合った

和泉奏
BL
「全部嘘だったなんて、知りたくなかった」

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

大嫌いだったアイツの子なんか絶対に身籠りません!

みづき
BL
国王の妾の子として、宮廷の片隅で母親とひっそりと暮らしていたユズハ。宮廷ではオメガの子だからと『下層の子』と蔑まれ、次期国王の子であるアサギからはしょっちゅういたずらをされていて、ユズハは大嫌いだった。 そんなある日、国王交代のタイミングで宮廷を追い出されたユズハ。娼館のスタッフとして働いていたが、十八歳になり、男娼となる。 初めての夜、客として現れたのは、幼い頃大嫌いだったアサギ、しかも「俺の子を孕め」なんて言ってきて――絶対に嫌! と思うユズハだが…… 架空の近未来世界を舞台にした、再会から始まるオメガバースです。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

お客様と商品

あかまロケ
BL
馬鹿で、不細工で、性格最悪…なオレが、衣食住提供と引き換えに体を売る相手は高校時代一度も面識の無かったエリートモテモテイケメン御曹司で。オレは商品で、相手はお客様。そう思って毎日せっせとお客様に尽くす涙ぐましい努力のオレの物語。(*ムーンライトノベルズ・pixivにも投稿してます。)

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

あなたの隣で初めての恋を知る

ななもりあや
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。 その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。 そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。 一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。 初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。 表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。

処理中です...