偏愛-henai-

槊灼大地

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偏愛《竜side》

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ハルカさんは俺を見つめながら指を増やす。




「…あっ」



父のように、このまま最後までヤラれてしまう。



結局大人はそうなんだ。



無理やり自分の欲求を満たすんだ。




大丈夫、あともう少し我慢すれば全部終わる。
いつもみたいに我慢すれば。



そう考えて諦めた瞬間、ハルカさんは指を引き抜き、俺と目を合わせた。



「ごめん…俺酔ってた」



申し訳なさそうに謝る姿が、まるで子犬のように思えた。




縛られて犯されそうになってる立場なのに、こんなこと思う余裕があるなんて。




もしかしたら、ハルカさんは違うのかも―…




「最後までしていいですよ。でも紐は取って。こんなのレイプと変わらない。俺、逃げませんから…ハルカさんのこと嫌いになりたくない」



父とあなたが違う人種だと思いたいから。



俺がそう言うとハルカさんはきつく縛った紐をハサミで切って俺を自由にした。



そして俺を起こして、包み込むように抱きしめる。




「いや、しねぇから。ごめんな」


「…したくないんですか?」



父との経験しかない俺は、なぜハルカさんが中断したか理由を考えるも答えは見つからなかった。




ここまでしたなら、最後までしたいはずだよね?



紐は取ってくれた。
なら俺はこのままされてもいいのに。




「いいですよ。最後までしても」


「悪かった。大丈夫だから。ごめんな。ごめん。殴っていいよ俺のこと」




ハルカさんは、優しいんだ。
父とは違う。




「お前の『嫌なこと』を知れないだけでカッとなってさ。怖かったよな。ごめんな」





もう誰にも話したくなかった現実。




ハルカさんに話しても同じかもしれない。



だけど俺は、この人になら自分の今の状況を伝えてもいいと心の底で思い始めた。







「ねぇ、ハルカさん…大切な人がもうすぐ死ぬとしたら、ハルカさんはどうする?」



「え…?」





俺はハルカさんの背中に手を回して、ぎゅっと抱きしめながら言った。





俯いて、涙を見せないように。






「兄がもうすぐ死ぬんです。…俺は弱まる姿をただ見てるしか出来なくて…」




ひー兄がいなくなってしまったことを考えると、声も体も震える。




このまま話すのを止めればいいのに、なぜか今は聞いて欲しくて俺はそのまま話を続けた。




「ひー兄がいなくなったら、俺の生きてる意味はなくなるんです。だからそうなったら俺もすぐに死にたい…」



「…」



突然困るよね…



どうせ分かってるのに。



俺を絶望させるありふれた返答が返ってくることが予測されるのに。





聞くだけ無駄なのに―…









「その選択肢でお前が救われるなら、それでいいと俺は思う」







―…え?




思わず顔をあげてハルカさんの顔を見てしまった。



ハルカさんは少し切ない顔をして笑って言う。







「死ぬよりも生きてるほうが辛いやつもいる」





―…予想もしていなかった回答




「ハルカさん…」





それは、俺が一番求めている回答だった。






「ハルカさん……泣いて…いい?」



「あぁ」




死ぬことを肯定してくれたのはハルカさんだけ。




髪を撫で、背中をさするその手が優しく、温かくて。




唸るように俺は泣いた。











「落ち着いたか?」


「はい」


「いつでも話聞いてやるから」




そう言ってハルカさんは顔を見ずに俺の頭に顔を乗せる。




「なんかあったら俺のこと頼れ。半犯しした罰ってことで。遠慮すんなよ」




俺が強くなればいいだけです…
そう言いたいのに、ハルカさんに甘えたい自分がいる。





「ハルカさん明日朝早い?」


「あぁ。8時30分スタジオ入り」


「じゃあ朝、学校まで送ってって」


「お前俺の話し聞いてた?ちなみに俺、朝めちゃくちゃ弱い…」


「半犯しした罰でしょ?」


「ですよね―…7時にはここ出るぞ」




久しぶりにひー兄のことを考えずに素直に笑えた。




ハルカさんの胸の中がとても温かい。




「…ハルカさんの心臓の音、メトロノームみたい。このまま寝ていい?俺普段寝れてなくて…2時間睡眠とか普通だから…」


「おー、寝ろ寝ろ」


「…おやすみ」




そう言って俺はハルカさんの胸の中で、心臓の音を子守唄にして秒で寝た。













「おはよ、竜」




そう上から声がして、見上げるとハルカさんの顔が見えた。




昨日の出来事を思い返す。




そうだ、ハルカさんに抱きしめられながら寝たんだ―…



そして今の体勢が、寝た時と同じ格好であることを思い出した。



「―…え?は?うそ、ずっとこの体勢?ハルカさん体痛くない?」


「まぁ半犯しした罰っつーことで。ほーらいくぞ、もう7時だ」




ハルカさんは「いてて」と腰を叩きながらベッドを降りた。




俺起きなかったんだ。 



こんなにぐっすり寝たのいつぶりだろう。



気付くと、昨日飲んでいた人たちはみんないなくなっていた。



俺はハルカさんの車に乗ってMY学園へと向かった。




学園の駐車場に車を停めると、ひー兄の担任の山田先生とハルカさんのお兄さんの哀沢先生もちょうど駐車場から学校に向かって歩いているところだった。



「あ。マサくーんおはよ!兄貴も」


「え?ハルカちゃんじゃん!おっはよー!どうしたの?」


「竜を送りに」


「部外者は早く帰れよ」


「相変わらず兄貴冷たっ」



朝から3人で楽しそうに会話をしている姿を見て、俺も何だか楽しくなった。



「ねぇハルカさん、8時30分までにスタジオ入りなんでしょ?もう8時だよ?」


「やば!じゃ!また!竜もなんかあれば連絡くれよ!」




そんなハルカさんとの一件があってから、俺はハルカさんに連絡をすることが多くなった。


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