89 / 99
囚愛Ⅳ《エリックside》
囚愛Ⅳ《エリックside》1
しおりを挟む雅様はもう戻ってこないのだ。
二度と会うことはできない。
そう思ってどれくらい泣き続けているだろうか。
そんな私の背中に体重がのし掛かる。
「やっぱり忘れ物を取りに来た」
耳元で囁かれた声を即座に愛しい人の声だと脳が理解した瞬間、私は持っていた指輪とネックレスを床に落とした。
そして私を抱きしめている腕を両手で強く握りしめて応えた。
「あなたは…何なんですか…またねと言ったり、もう会わないと手紙を残したり、戻ってきたり…私をからかっているんですか?」
その両手で涙を拭うかのように自分の顔につけた。
また会えて嬉しいのに、それなのに色んな感情が脳内を駆け巡って。
離れた方がいいはずなのに―…
「私は…あなたを愛してはいけない。雅彦様の死を受け入れてはいけない。生きていてはいけ―…」
「うるさいよ、少し黙って」
雅様は抱きしめていた手を放し、私の顔を掴んでキスをした。
「父さんだったら、エリックが生きていて、俺が生きていてよかったと言うはずだよ」
そして再び私を抱きしめて耳元で囁く。
「本当はこの3年、捨てられたんだと君を憎んで会ったら怒鳴ってやろうと思ってたんだ。でもダメだった。見た瞬間、それがすぐに愛で上書きされて―…この3年、エリックを想わなかった日は無い」
私は振り返って雅様を見つめた。
あぁ、本当に戻ってきてくれたんだ。
私の目の前に愛しい人がいると分かり、涙が加速する。
「あんな別れ方をしたのに私を想っていたなんて。…おかしな人だ」
雅様の愛を知っていてあんな別れ方をしたのに、あの左手の指輪の刻印が私の名前だったことが嬉しくて嬉しくてたまらない。
「俺はもうずっと…10年以上エリックを思っている。だから責任とって」
「どうしろと?」
「残りの人生、俺を愛して」
「…」
その条件は簡単なのに、私を悩ませる。
私と一緒にいたら、また雅様はフラッシュバックしてしまうかもしれない。
あの苦しみは本人にしか分からないだろうから。
自分の気持ちを優先したいが、どうすれば―…
雅様は黙る私に数秒間キスをして、口を放したあとにお互いの額をつけて言った。
「嫌ならもう生涯君には会わない。もう二度とエリックの前には現れない。俺の幸せはエリックの幸せだから。エリックはどうしたら幸せになれる?俺がいなくても幸せ?」
「ずるい人だ。私の気持ちを知っておきながら―…」
そう言って、今度は私から雅様にキスをする。
舌を絡める音と、口から漏れる吐息と、時計の秒針の音だけがする空間。
これだけで幸せだ―…
「いいのでしょうか?私があなたを求めて、幸せになっても…」
「父さんに囚われた者同士、傷を舐め合っていこう」
「―…はい」
深い、深いキスの後、私たちは愛を確める。
「エリック、名前を呼んで」
「…雅」
「愛してるよエリック。もう俺をひとりにしないで…」
もう二度と呼ばれることの無いと思っていた名前。
もう二度と触れることが無いと思っていた唇。
―…何があっても一生この方の傍に居たい
「私も…愛しています雅。私の…私の傍にいてください…」
「うん。離さないから、離れないで」
何度もキスをして、何度も抱き合って、朝になってお互いが隣にいることに幸せを感じた。
そして私は自分の父に報告をしたあと一度日本に行き、ソフィア様へ挨拶をすることにした。
「エリック…!元気だった?」
「はい、ご無沙汰しておりますソフィア様」
雅様が大学を辞めてダンサーになり、アメリカで共にへ暮らしたいと伝える。
そしていつか私と結婚をしたいということも報告をした。
「もちろん二人を応援するわ。雅を選んでくれてありがとうエリック」
「いいえソフィア様。私のほうこそ感謝しております」
テリーもアルベルトもソフィア様も私たちを祝福してくれた。
そして雅様は大学を辞め、22歳の5月アメリカへきた。
10
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説
明日、君は僕を愛さない
山田太郎
BL
昨日自分を振ったはずの男が帰ってきた。ちょうど一年分の記憶を失って。
山野純平と高遠英介は大学時代からのパートナーだが、大学卒業とともに二人の関係はぎこちなくすれ違っていくばかりだった。そんなある日、高遠に新しい恋人がいることを聞かされてーー。
【完結】キミの記憶が戻るまで
ゆあ
BL
付き合って2年、新店オープンの準備が終われば一緒に住もうって約束していた彼が、階段から転落したと連絡を受けた
慌てて戻って来て、病院に駆け付けたものの、彼から言われたのは「あの、どなた様ですか?」という他人行儀な言葉で…
しかも、彼の恋人は自分ではない知らない可愛い人だと言われてしまい…
※side-朝陽とside-琥太郎はどちらから読んで頂いても大丈夫です。
朝陽-1→琥太郎-1→朝陽-2
朝陽-1→2→3
など、お好きに読んでください。
おすすめは相互に読む方です
浮気性のクズ【完結】
REN
BL
クズで浮気性(本人は浮気と思ってない)の暁斗にブチ切れた律樹が浮気宣言するおはなしです。
暁斗(アキト/攻め)
大学2年
御曹司、子供の頃からワガママし放題のため倫理観とかそういうの全部母のお腹に置いてきた、女とSEXするのはただの性処理で愛してるのはリツキだけだから浮気と思ってないバカ。
律樹(リツキ/受け)
大学1年
一般人、暁斗に惚れて自分から告白して付き合いはじめたものの浮気性のクズだった、何度言ってもやめない彼についにブチ切れた。
綾斗(アヤト)
大学2年
暁斗の親友、一般人、律樹の浮気相手のフリをする、温厚で紳士。
3人は高校の時からの先輩後輩の間柄です。
綾斗と暁斗は幼なじみ、暁斗は無自覚ながらも本当は律樹のことが大好きという前提があります。
執筆済み、全7話、予約投稿済み
孤独な蝶は仮面を被る
緋影 ナヅキ
BL
とある街の山の中に建っている、小中高一貫である全寮制男子校、華織学園(かしきのがくえん)─通称:“王道学園”。
全学園生徒の憧れの的である生徒会役員は、全員容姿や頭脳が飛び抜けて良く、運動力や芸術力等の他の能力にも優れていた。また、とても個性豊かであったが、役員仲は比較的良好だった。
さて、そんな生徒会役員のうちの1人である、会計の水無月真琴。
彼は己の本質を隠しながらも、他のメンバーと各々仕事をこなし、極々平穏に、楽しく日々を過ごしていた。
あの日、例の不思議な転入生が来るまでは…
ーーーーーーーーー
作者は執筆初心者なので、おかしくなったりするかもしれませんが、温かく見守って(?)くれると嬉しいです。
学生のため、ストック残量状況によっては土曜更新が出来ないことがあるかもしれません。ご了承下さい。
所々シリアス&コメディ(?)風味有り
*表紙は、我が妹である あくす(Twitter名) に描いてもらった真琴です。かわいい
*多少内容を修正しました。2023/07/05
*お気に入り数200突破!!有難う御座います!2023/08/25
*エブリスタでも投稿し始めました。アルファポリス先行です。2023/03/20
こんな僕の想いの行き場は~裏切られた愛と敵対心の狭間~
ちろる
BL
椎名葵晴(しいな あおは)の元に、六年付き合ったけれど
女と浮気されて別れたノンケの元カレ、日高暖人(ひだか はると)が
三ヶ月経って突然やり直そうと家に押し掛けてきた。
しかし、葵晴にはもう好きな人がいて──。
ノンケな二人×マイノリティな主人公。
表紙画はミカスケ様のフリーイラストを
拝借させて頂いています。
僕を拾ってくれたのはイケメン社長さんでした
なの
BL
社長になって1年、父の葬儀でその少年に出会った。
「あんたのせいよ。あんたさえいなかったら、あの人は死なずに済んだのに…」
高校にも通わせてもらえず、実母の恋人にいいように身体を弄ばれていたことを知った。
そんな理不尽なことがあっていいのか、人は誰でも幸せになる権利があるのに…
その少年は昔、誰よりも可愛がってた犬に似ていた。
ついその犬を思い出してしまい、その少年を幸せにしたいと思うようになった。
かわいそうな人生を送ってきた少年とイケメン社長が出会い、恋に落ちるまで…
ハッピーエンドです。
R18の場面には※をつけます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる