囚愛-shuai-

槊灼大地

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囚愛Ⅲ《テリーSS》《アルベルトside》

囚愛Ⅲ《アルベルトside》1

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「“こいつの顔、ゴーストみたいだ”」
「“気持ち悪い”」
「“こんなやつが執事になれないよ”」




執事学校に入学以来、そう言われてきた。


ずっと、この顔が嫌いで。
前髪で目を隠して過ごして。




こんな僕は、執事になんてなれないと自分でも思ってた。






「“そんなことを言うやつこそ、執事にはなれないんじゃないか?”」


「“エ、エリック―…”」



窓際で参考書を読んでいた10歳の少年。



SSクラスに飛び級してきた、エリック・ブラウンだった。



ブラウン家は執事一家としても有名で、その一族の中でもエリックは特に優秀で、みんなの憧れで誰も口答えしなかった。




「“アルベルト・クラウゼ、君の顔は火事で母上を守ったからなんだろう?”」


「“どうして知ってるの?”」


「“学長から聞いたんだ。その傷がどんな理由でさえ、君を傷つけていい理由にはならないけどな”」



優しく僕の髪の毛をかきあげて、汚い火傷の後を残した僕の顔を綺麗な目で覗き込むエリック。



「“顔を見せて、アルベルト。あぁ…やっぱり、君は強くて綺麗な顔をしているよ。何も隠すことはない。英雄の証じゃないか”」




こんなの、




「“君は優秀な執事になる。火の中に飛び込む勇気があるんだから。ここにいる誰よりも勇敢だ”」




好きになるなというほうが無理だ。



そのときからずっと、エリックが好きだった。



執事学校時代、エリックに恋人が切れることはなくて。
付き合っては別れてを繰り返していた。



「“どうして長く付き合わないんだい?”」


「“さぁ。make loveがないとダメなんだろうな。友達は楽でいいな。アル。お前とは絶対に恋人になりたくない。ずっとこのまま親友でいよう”」


「“―…うん”」




執事学校を卒業して落ち着いたら、エリックに告白しようと決めていたのに。



あの三科雅彦の執事に任命されて、休暇さえとれなかったエリックに告白なんて出来るはずもなく。



そして気付いた時にはどこかへ行ってしまった。



どの国にいるのかも分からない。




―…僕の恋は終わったんだ











エリックが執事学校を卒業して、22年が経った。



僕はアラブの富豪の執事を20年していたが、主が亡くなったのをキッカケに執事学校の講師として働き始めた。



すると、L.A.校の学長から呼び出しが入った。



「《アルベルト。君は確かエリック・ブラウンと同期だったね?》」


「《はい…エリックがどうかしましたか?》」


「《エリック・ブラウンが4月からこの執事学校で働くことになった。入学希望者が増えるだろう》」





これはもう、運命じゃないか。



エリックを好きになって30年が経とうとして、奇跡的な再会だなんて。





「“4月からよろしくね”」


「“こちらこそ”」






絶対にエリックを僕のものにしたい。






「“エリックってネックレス身に付けるんだね”」


「“…あぁ”」





特別な誰かから貰ったのだろうか?



恋人はいないと言っていた。



エリックに再会して3年、僕はエリックに自分の気持ちを伝えることにした。




「“―…エリック…僕じゃダメかな?君ともっと一緒にいたい。初めて会ったときからずっと好きだった…結婚して欲しい”」



「“冗談だろう?…お前のことは友人であり同僚としか思っていない”」



「“君が振り向いてくれるまでずっと待ってる。執事学校のときから何年も君を忘れられずにいた。もし奇跡が起きて再会出来た時はプロポーズしようと決めていたんだ”」




エリックは驚いていたが、言えた。
何年も何年も言えなかったことが言えた。
あとは時間をかけてエリックの気持ちを僕に向けるだけだ。




それなのに、僕は…




「“帰る!軽蔑した!もう私に二度と話しかけるな”」



酔いつぶれてエリックにあんなことを!


あああああ…記憶がある。
耐えられない。
エリックに嫌われるなんて耐えられない。





僕は二日酔いで頭がガンガンする中、エリックの家に向かった。



インターフォンを何度も鳴らし、許しを請う。




「“エリック!昨日はごめん…あんなことするつもりじゃなかったんだ!本当に酔った僕を呪いたい…”」



僕は泣いていた。
だってエリックに絶交されたらもう耐えられない。
生きている意味さえなくなる。




「“君に嫌われたくない。君に嫌われたら僕はもう生きていけない。お願いだから謝らせて。君の気が済むまで謝り続けるから”」



ようやくドアを開けて貰えた…と、思ったら開けてくれたのは背の高いガタイのいい男。




「“―…アルベルト?”」


「“え?”」


「“テリーだよ。テリー・ドイル”」


「“え!テリー!?”」



まさかの執事学校の同級生がいた。



なんでテリーが?
エリックと付き合ってたの?
いやでもテリーは女しか興味ないし。
ソフィア・フローレスの執事じゃなかったっけ?




「“ソフィア様のご子息が出場するダンス大会がこの近くで開催されるから、今日から1ヶ月だけ世話になるんだ”」


「“そうなんだ”」



懐かしいなぁテリー。



執事学校時代はよく、テリー、エリック、僕で一緒にいたんだよなぁ。



―…エリック?




「“エリックに謝らなきゃ!!!”」




僕はテリーとの久しぶりの再会よりも、エリックに謝罪するためにエリックの元へ向かった。




エリックは何とか許してくれた。



そしてそこで僕は雅に出会った。


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