囚愛-shuai-

槊灼大地

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囚愛Ⅲ《雅side》

囚愛Ⅲ《雅side》10

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自分の部屋に戻って寝ようとすると、なかなか寝付けなかった。



明け方ようやく眠れて、起きた時には朝10時近くになっていた。



リビングでテリーとエリックが騒いでいる声が聞こえた。



俺は深呼吸をしてから遅めの挨拶をする。




「おはよー!」




あぁよかった。
ちゃんと声が出せた。





「“おはようございます雅様”」




俺はほっと息をついて、冷蔵庫から牛乳を取り出して飲み始めた。




エリックはコーヒーを淹れて、俺の対面に座った。




「エリック、二日酔い?」


「ええ。頭が痛いですし、酔いつぶれてからの記憶がありません」


「何も覚えてないの?」


「はい、全く覚えておりません」


「俺も何も覚えてないんだ」



俺は全部覚えてる。



エリックが俺を愛していることも、離れた理由も全て。



エリックが俺を愛してくれて本当に嬉しかった。




だけどさ、俺といると苦しめるんだよね―…







「今日はテリーと出掛けてくるね。買い忘れたものがあって。エリックは二日酔いだし休んでて」



「かしこまりました」








何も知らないテリーと一緒に街へ繰り出した。




「ねぇテリー、アルベルトに会いたいんだけど呼び出せる?」


「アルに?…連絡してみます」




今日は執事学校は休校で、ランチにアルベルトも合流できるという。



少し街を歩き、合流予定のレストランへ先に入る。




「テリー…帰国の時間ずらせるかな」


「え?」


「明日の夜中…帰りたいんだ」


「日本で何かありましたか?」



このまま事実を言わなければ、きっとテリーは帰りの飛行機のチケットを取ってくれない。



だから俺は話すことにした。



昨日のこと、エリックが離れた理由も、俺が未だにトラウマを克服できてなくて弱いことも、全部。




「苦しめる俺はエリックの傍にいれない。だからアルベルトと幸せになってほしい」



「雅様…しかし…」



あぁ、ヤバイ。
思い出しそうになる。
あの時のこと。



「《父さんの死を思い出すと声が出なくなる。その時は声も感情も無になる。弱い俺になる。震えが止まらない。呼吸が定まらない。大丈夫だと言われてもこの不安や苦悩は俺にしか分からない》」



気付くと俺は、幼少期を思い出してテリーに英語で説明をしていた。



「《雅様…》」


「《もう17年も経つのに、エリックが離れた理由で父さんの死を思い出して、小さな小さな雅くんになってしまった。カッコ悪いね、未だに克服できてない》」





声も出せない、弱い、一番大嫌いな俺。



そんな俺をエリックは優しく包んでくれた。




《明日もあなたの声が聞けますように》とおまじないのように心を軽くしてくれて。




もう何年もフラッシュバックしなかったのに、未だに克服できていない。




こんな自分になりたくない。
こんな弱い俺を見せたくない。
こんな俺にエリックを幸せにする資格ない。




あぁやっぱり俺、弱いんじゃん。



こんなの荷物でしかない。
こんな俺はエリックの傍にいれない。
エリックの重荷になりたくない。




「《チケットとれそう?あ…深夜2時便空いてるじゃん。取って。テリー》」



「《―…かしこまりました》」



「《ありがとう》」




そんな会話をしていると、アルベルトが合流してきた。



ウェイターを呼んで、料理を注文した。



「《二人とも、どうしたの急に?》」


「《あぁごめんね急に呼び出して。帰国日をずらそうと思って。明日の深夜の便で日本に帰る》」



俺がそう言うと、アルベルトは肘をついて手に顎を乗せて勝ち誇ったような顔で言う。



「《へぇ。それじゃあ僕は予定より早くエリックを一人占めできるね》」



「《その時間…エリックを連れ出してくれないかな。夜遅くまでやってる場所に》」



「《は?見送りは?…まさかエリックに言わないで帰国するつもり?》」



俺は何も言わずに頷いた。



「《俺はもうエリックに二度と会わないから…だからアルベルトにエリックを頼みたい》」


「《なんの冗談?》」



アルは眉間にシワを寄せて、不思議そうな顔で俺を見る。



理由…言わないわけにいかないか。



そう思って俺は全てをアルベルトに伝えた。



父さんの死、過去のトラウマ、エリックとのこと、俺の気持ちを全て。



料理が次々と運ばれてくるが、誰も手をつけようとはしない。



そして俺は続ける。



「《アルベルトならエリックを必ず幸せにしてくれると思ってるから。俺を忘れて幸せになって欲しい。ただそれだけ》」


「《いいの?僕は本気でエリックを僕のものにするよ?》」


「《アルになら安心して任せられるから。明日の夜、必ずエリックを連れ出してね。さぁ、食べよう!テーブルに料理が乗り切らないよ》」 




俺が冷めた料理を食べ始めると、二人もそれを見て食べ始めた。




皿にフォークが当たる音しか聞こえない中で、アルが手を止めて俺を見て話し始める。




「《エリックはこの3年間毎日君と同じネックレスを身につけていたよ。君をずっと想っていた。それでもいいの?本当に?》」



なぜ俺がペアネックレスを持っていることを知っているんだろうか。



あれはアメリカに到着して外して、ボディバッグの内側に閉まったはずなのに。




ボディバッグ…



買い物に行ったとき、ボディバッグの中からアルに財布を取って欲しいとお願いしたときに見つかったんだ。



そっか…エリックあのネックレスずっと身につけてくれたんだ…



「《嬉しい》」


「《じゃあ考え直し―…》」
「《でもさ、決めたから。やっぱりもう会えないよ。エリックには》」




こんな弱い俺がエリックを守れない。
こんな俺見せたくない。



「《エリックは酷く傷つくよ…?》」


「《そこまでしないと俺のこと忘れられないでしょ。アルが傍で癒してあげて。でもお願いが1つある。君たちの結婚式には俺を呼ばないで》」



幸せになって欲しいけど、きっとその隣に俺が居ない事実を目にしたら辛くて、悔しくて、悲しいから。



だから二人の幸せは、二人がいないところで祝福をさせて欲しい。



「《もちろん呼ぶよ。絶対に呼んで君を後悔させる》」


「《嫌なやつ。でも俺、世界中にある父さんの別荘で暮らしながらダンサーになる予定だから、その招待状が届くことはないかな》」




大学を辞めてダンスの道に進んで、色んな場所を転々としながら行方を眩まそうかと思ってる。



だから俺の居場所が知られることはないだろう。




「《雅…》」


「《よろしくね、アルベルト。君に出会えてよかった」




ランチを済ませ、アルと別れてから夕方家に戻った。







「お帰りなさい、雅様」


「ただいま、エリック」





あぁもうこの笑顔を見れるのも
エリックが俺の名前を呼ぶのも
この幸せで優しく愛しい環境も




全部、明日には終わってしまうのか。

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